THE ESSENCE OF JAPANESE CUISINE

小石原はるか、新生・ふくぼくで和の真髄に触れる

フードライター小石原はるかさんが、六本木ヒルズ内の気になるレストランを訪れる連載企画。第三回目となる今回は、今年リニューアルした〈ふくぼく〉へ。店主・坂本政昭さんが目利きしたこだわりの食材の数々をじっくり堪能しました。

PHOTO BY MISA NAKAGAKI
TEXT BY HARUKA_KOISHIHARA
EDIT BY RCKT/ROCKET COMPANY*

一品一品、たしかな技が光る。正統派の美味しさ

神楽坂で創業するや、名物「澄まし麺」でたちまち名を馳せ、2018年には六本木ヒルズに移転した〈澄まし処 お料理 ふくぼく〉。今年2月にリニューアルし、ランチ・ディナーとも上質なコースメニューをゆっくりと味わえるお店に生まれかわりました。

店名の「ふくぼく」とは中国の思想家・荘子の言葉である「彫琢復朴」から取ったもの。この言葉には「技術や工夫を磨いた先にある、普通で飾らない“朴”こそが本物である」という教えが込められているそう。磨かれた技から生まれる正統の品々、いただきます。

飲食店が軒を連ねるフロアの一角、大きな暖簾が目印。店内も美しい和の設えが出迎えます。

自慢の鮑からはじまる「粋コース」をはじめ、ランチもディナーもコース仕立ての日本料理が楽しめます。

食材は、季節やその時々の仕入れ状況に応じて変化。こちらは今が旬の鱧。

ごまかしのきかないシンプルな味付けと、食材の旨み

カウンターとテーブル席からなる店内はスキッと明るく、凛とした空気が漂っています。和紙を使いつつモダンな印象のパーティションは、日本を代表する建築家・隈研吾さんがデザインされたそう。

新たに店主として腕を振るう坂本政明さんは、『ミシュランガイド東京』で三つ星を獲得し続けている神楽坂〈石かわ〉石川秀樹さんの薫陶を受けた人物。全国の生産者との交流を絶やさずに、旬の鮮魚や野菜、肉いずれも、圧倒的に高品質な素材を仕入れています。上質な素材と坂本さんの技との出会いから、〈ふくぼく〉のお料理は生まれるのですね。

この道30年以上。日本料理の名店〈石かわ〉でも経験を積まれた店主・坂本さん。

肉厚な活鮑の酒蒸しは存在感たっぷり。この日は、山口・萩の信頼を置く仕入元から届いた一級品を。肝を茹でて裏ごしにしたソースは、肝の良いところだけを引き立てるべく、わずかに隠し味をひそませている。

大分や長崎から、その日の朝に揚がった鱧を直送。丁寧に骨切りした鱧は、鮮度が良く身が締まっているからこそ、美しく花開く。具材に合わせて風味の強弱を調節するという出汁の塩梅もぴたりと決まっている。

1200日という長期肥育でじっくりと旨味と香りとを蓄えた「湯布院牛」。きめ細やかでみずみずしい肉質を損なわぬよう、低温調理を施してから、色合いが鮮やかになるように一度冷やし、最後に表面を炙って仕上げる。

澄んだかけ汁は、カツオ、昆布、イリコの出汁を塩だけで味付けという潔さ。麺は、茹で時間わずか45秒という特別な麺を使用している。途中で、天日乾燥の地海苔やさらし長ネギ、山椒醤、黒胡椒などで“味変”を。

また食べたい。そう思える、飽きのこない美味しさが理想

この日ご用意いただいたのは、ディナータイムの「粋コース」19,800円。坂本さんの自信作である「鮑酒蒸し 肝ソース」がまず登場。鮑の立派さとソースの巧みさに圧倒されてのスタートです。続いてのお椀は、お店のコンセプトである“澄まし”を具現化したかのような1品。日本料理の華ともいわれる「椀刺し」は、店の格を表すもの。それだけに、出汁の加減は椀種に合わせて微調整をしているそう。こちらのお椀は、大分産の走りの鱧をやわらかな旨味で支えています。

どのお料理も、素材が持つどんな魅力にフォーカスするかを意識し、また食べ疲れたり飽きることのない、澄んだ味わいに仕上げることを心がけています

と坂本さん。その言葉どおり、コースの終盤で登場する希少な「湯布院牛」のフィレ肉は、肉料理ではあるけれど穏やかで深い味わいが印象的。そして大トリで選べるのが、名物「澄まし麺」。製麺所に特注した麺を、塩分をやや控えめにして出汁の存在感を高めたスープとともにいただきます。澄み切ったビジュアル通りの味わいは、味覚を浄化するかのよう。すっと背筋が伸びる逸品です。半分くらいいただいたら、薬味や自家製調味料でアレンジすれば2度、3度おいしく、心も満足!

食事を終えて

すっきりとクリアな味わいのお料理だけで構成されたコースだから、お腹がしっかりと満たされても、食後感はあくまで心地よく。お料理に合わせて厳選されたワインや日本酒も充実していて、食の経験値の高い大人のお客様にこそ、喜ばれる一軒です。——小石原

最後に店主・坂本さんと。そのひたむきな姿勢は、料理からも伝わってくるようでした。

澄まし処 お料理 ふくぼく
住所=東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ウェストウォーク 5F 電話=03-5413-2989 営業時間=ランチ11:00~15:00(L.O.フード13:30 / ドリンク14:00、ディナー17:30~23:00(L.O.フード21:30 / ドリンク22:00) ※ディナーは「旬コース(8品)」「粋コース(10品)」「ふくぼくコース(10品)」¥13,200(税込)〜。別途サービス料10%を頂戴致します。

profile

小石原はるか|Haruka_Koishihara
フードライター。1972年東京都生まれ。エンゲル係数が妙に高い家に育ち、レストラン通いをこよなく愛するように。マニアックな気質と比較的丈夫な胃袋で、これまで様々な食の世界にハマる。『BRUTUS』『東京カレンダー』など多くの雑誌やメディアで、食にまつわる記事の執筆やディレクションを担当。著書に『レストランをめぐる冒険』(小学館)、『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)、『東京最高のレストラン』(共著・ぴあ刊)など。

※2022年6月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。
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