近年、少子高齢化、テクノロジーと倫理の問題、気候変動など環境変化に伴う新たな課題が生じる一方で、貧困・格差、ジェンダー問題など、これまで見過ごされてきた潜在的な課題の顕在化が進んでいる。また、価値観の多様化に伴い、こうした課題の解決策も一通りではなく多層化しており、複雑に絡み合う課題に向き合うためには、企業、行政機関、NPO/NGO、個人など、クロスセクターの連携と共創が求められている。2025年4月より虎ノ門ヒルズ「グラスロック」にて始動した「Glass Rock〜Social Action Community〜」(以下、Glass Rock)は、多様なセクターや個人がつながり、共創を通じて社会課題の解決に取り組む会員制拠点。実際にどのような活動が行われているのか、共創コーディネーターを務める小菅隆太さんに聞いた。
TEXT BY Kazuko Takahashi
PHOTO BY Mie Morimoto
越境経験をベースに、ビジネス×パブリック×ソーシャルの架け橋に
——小菅さんの多彩なご経歴についてご紹介ください。
小菅 私は自動車販社やDeNAなどに在籍後、独立して広報コンサルタントとして活動し、その一環として地域課題をデザインの力で解決することをコンセプトに掲げるNPO法人の理事を務めました。

DeNAでは、ECを広めるべく全国46都道府県を2年かけて回り地域を越境。広報コンサルタントとしては医療機関、船会社、自治体、NPOなど業界を越境。NPOでは社会や地域の様々な課題を越境。経産省や特許庁などでは官民を越境して活動しました。
このとき警視庁や某自動車メーカーとの共創プロジェクトを経験し、国の規制や行政の立場も理解する必要があると実感しました。折しも経済産業省次世代モビリティ政策室が週に一日だけ登庁する「週一官僚」を公募していて、「小菅さんのような人を募集している」と友人から勧めてもらいまして、1,338名の応募の中から運良く採用の2名に選ばれました。ここでは空飛ぶクルマの社会受容性を地方自治体とともに高めていく活動に携わりました。
さらに、社会課題に取り組む起業家や個人が知的財産を活用して事業を行えるよう専門家がサポートする特許庁の「I-OPENプロジェクト」や、中小企業が労働生産性向上や賃上げ促進のために先端設備を導入する取り組みを支援する中小企業庁の「100億円宣言プロジェクト」など、官民共創の場にコミュニティマネージャーとして参画しました。
現在はこうした経験をベースに、ビジネス(民間企業)×パブリック(公共機関)×ソーシャル(NPO/NGO)という3つのセクターをつなぐトライセクターとして活動しています。
——どのような経緯でGlass Rockの共創コーディネーターに?
小菅 Glass Rockのオープン前年の2024年に、I-OPENプロジェクトの視察に来られた森ビルの方から「Glass Rockで共創を通じて社会課題解決に取り組むコミュニティを作りたい。オブザーバーとして会議に参加してくれませんか?」とお誘いいただいたのがきっかけです。この会議で、施設を作るだけでなくビジネス、パブリック、ソーシャルを横断する仕組みや人のつながりが必要ではないかという話になり、共創コーディネーターとして参画することになりました。
——小菅さんはビジネスセクター、パブリックセクター、ソーシャルセクターのいわば橋渡し役と言えます。具体的にどのようなアプローチをされているのでしょう。
小菅 セクターを横断した合意形成においては、中立的な立場で議論を促進し、目的達成を支援するファシリテーターの存在が欠かせません。解決したい本質的な課題は何か、解決に向けてどんな手段があるのかを明確化するために、ほかのセクターに対する要望も含めて発言を促すのがファシリテーターの役割で、私は官民さまざまなプロジェクトでその役割を担ってきました。

よくよく掘っていくと、行政側は「企業は地域が抱える課題の解決に対して継続的に取り組んでくれるのか?」「行政の補助金目当てではないのか?」と考えがちで、企業側は「企業のイノベーションを発展させるための政策に行政は本気で取り組んでくれるのか?」「担当の行政官が異動した途端、振り出しに戻るのではないか?」など、当事者同士だと話すのに躊躇してしまうような“本音”が山のように出てくるのです。
「人・モノ・金・情報」という4つの経営資源の観点から言うと、お金中心でプロジェクトを進めるよりも、出向という形で行政から民間に、もしくは民間から行政に人を送った方がスムーズにプロジェクトが進むこともあります。また、情報については行政サイドには守秘義務があり、民間サイドには守りたい知財があるわけですが、可能な限り情報資源を共有していくことで、突破できることもあります。
つまり、社会課題の解決を目指す現場それぞれの本音を引き出し、セクター間のハブとなって立場が異なる人たちの共創を円滑かつスピーディーに進めていくアプローチが必要で、Glass Rockでもそうしたアプローチを大切にしながら新たな社会的価値の創出に貢献したいと考えています。
Glass Rockにおけるもう1人の共創コーディネーターの橋本直樹さんは経産省出身で、産学官連携による政策やビジネスに多く携わってこられた方です。ともに経験や人脈を活かしながら社会課題の解決に向けた共創を促していきます。
私は自分のことを“誰でも自由に利用できるオープンソース”と呼んでいるんです。Glass Rockでは、会議の招待はウェルカムですし、呼ばれれば質問も提案もします。「この話は、あの取り組みのあの人につながるかもしれない」ということも多いので、会員の皆様のお悩みにどんどん首を突っ込むようにしています。
社会課題の解決に向けた官民の情熱が集まる場所
——Glass Rockはクロスセクター(越境的)な出会いの場として機能しています。その利点や特長について、あらためて教えてください。
小菅 第1に、地の利が良いこと。中央省庁が集中する霞ヶ関に隣接し、上場企業を中心に多くの会社が拠点を構え、地方からの人の出入りが多いエリアでもあります。虎ノ門ヒルズ駅直結の施設ですから、官僚の方々が登庁や帰宅のついでに気軽に立ち寄ることができ、極端な話、登庁の10分前までGlass Rockにいても仕事に間に合う近さです。

第2に、ここに集まる人たちが社会課題の解決という同じ情熱を共有していること。つい先日も、地方創生の伴走支援を行っている中央省庁の方々と、地域の課題を抱える自治体の職員の方々がたまたま同じ時間にGlass Rockの視察にいらして、自然と名刺交換が始まり、お互いに課題やアイデアを交換するやり取りが生まれていました。
第3に、偶然の対話が生まれる空間であること。施設内は壁や仕切りがなく、隣の席では貧困の話、後ろの席では水資源の話、一つ向こうの席では認知症の話といった具合に、多様な対話がなされています。機密性の高い話ができるクローズドの部屋もありますが、オープンな空間にあえて身を置くことで人や情報との出会いが生まれやすくなり、そのチャンスを待っている空気感もあります。それはオープンから1年かけて醸成されてきたGlass Rockならではの風土だと感じています。
——国や地方自治体の行政官との恒常的な出会いの場はこれまであまりなかったのでは?
小菅 中央省庁で働いてみて実感したことですが、国民の目線に立ってさまざまな政策に取り組む官僚たちが、異なるジャンルの人たちと気軽に出会えてフランクな会話を交わせる場所ってなかなかないんです。
そこで、週一官僚時代に有志の官僚と美大生の共創プロジェクトをセッティングしたことがあります。政策やコミュニケーションなど官僚が抱えるさまざまな課題に美大生が学生視点・デザイン視点でアイデアを出していく試みで、それぞれのバイアスを取り去ることも一つの目的でした。
最初のヒアリングでは、美大生にとって官僚は「裏で国を動かしている奴ら」、官僚にとって美大生は「生態不明」(笑)。双方ともに冗談みたいなイメージを持っていましたが、同じ場所に集まって議論を重ねていく中でバイアスが取れ、お互いにヒントを得たり、課題に共通点があることが分かったりと、「違和感を超えた先にある無限の可能性」みたいなものを確認し合うことができました。Glass Rockはそのような未知なる化学反応が期待できる場所だと思います。
——今年5月、Glass Rockの新たな取り組みとして「Social Innovation Sprint」が始動しました。
小菅 Social Innovation Sprintは、社会課題を起点に「政策」と「ビジネス」をかけ合わせて事業構想を立ち上げる、全5回のワークショップ型プログラムです。セクターを超えた共創を通じて新市場の創造やルールメイキングをする構想力を身につけ、それにとどまらず社会実装を目指していきます。先日開催した体験イベントでは、中央省庁、地方自治体、上場企業、スタートアップなど、各セクターの参加者が同じテーブルに集まって活発に議論する様子が見られました。Social Innovation Sprintから生まれたアイデアを逃さず高めていくことがGlass Rockのさらなる価値につながると思いますので、オープンソースとしてできる限り貢献していきたいです。

個の熱量を余さず発掘し、新たな気づきをもたらす
——小菅さんは「日本愛妻家協会」の事務局長代理というユニークな肩書きをお持ちです。
小菅 日本愛妻家協会は、妻を大切にする人が増えると世界はもっと豊かで平和になるという理想を掲げ、愛妻家の“聖地”である群馬県吾妻郡嬬恋村にて「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」というイベント、略してキャベチューを開催しています。嬬恋村の地名は、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)がこの地で妻の弟橘姫(オトタチバナヒメ)の訃報を聞いて「吾が妻恋し……」と嘆いたことに由来し、それが愛妻家の聖地とされるゆえんです。キャベチューはキャベツの産地である嬬恋村を盛り上げるねらいもありました。
日本愛妻家協会を知ったきっかけは、私自身が夫婦の危機に直面したことでした。家族を連れて嬬恋村に赴き、キャベチューの壇上で妻への愛と改心の気持ちを叫びました。かれこれ20年前のことです。「愛妻家」は自称するものではなく妻が認めるもので、この20年の間に妻から「マシになった」と言ってもらえるようになり夫婦仲はだいぶ良くなりました(笑)
私は日本愛妻家協会の活動が日本の少子化や子育て問題の解決や、地域の活性化に寄与すると大真面目に考えており、今は事務局長代理として、主体的に関わっています。この発想はGlass Rockでも活きるはずで、なぜなら社会課題の解決に向けた最大の原動力は、個の熱量を起点とした「自分ごと化」だと信じるからです。ですから社会課題の解決につながる個の熱量を余さず発掘し、新たな気づきをもたらすこともGlass Rockにおける私の大事な役割だと考えています。
——警視庁や某自動車メーカーとの共創プロジェクトや、週一官僚として空飛ぶクルマの社会受容性を高めていく活動など、まさに「クロスセクター」をつなぎ続けたご経験をGlass Rockにおいてどのように活かしていきたいですか?
小菅 いずれの活動も関係者間のコミュニケーションを促すことによって信頼に基づく良好な関係を構築し、誰も見たことのない新しい技術の社会受容性を高めることが私の務めでした。走行や飛行の実用化を目指すうえでは、一般生活者の理解や新たなルール作りが必要です。実用化されれば、都市交通の混雑緩和や移動の利便性向上などが期待できます。その検証においては、乗り物に対するニーズはあるのか、安全なものなのか、メリット・デメリットは何か、実用化によって地域社会がどう変わるのか、といったことについて、国や地方自治体、開発企業、アカデミア、地域のリーダーや住民たちが同じ場所に集まって徹底的に話し合う機会を作りました。このときも最初は「安全性を信じてもらえないのでは?」「地域住民に怒られるのでは?」「企業は儲けたいだけなのでは?」といったバイアスが各セクターにありましたが、意見を交わす中で前向きなアイデアが生まれ、「その乗り物を利用してみたい」という機運が醸成されていきました。

1人で悶々と悩んできたことを人に打ち明けたら、まったく予想していなかった答えが返ってきて、悩む必要なんてなかったと気づかされることってありますよね。私は事業もまったく一緒だと思っているんです。ですから、組織の中で頭を抱えている人には、まずこう問いたいです。「あなたが課題だと思っていることは、本当に課題ですか?」と。もちろん秘匿情報を守ったうえで、立場を超えた出会いや何気ない対話を通じて見つかるものがたくさんあると、私自身がたくさん体験してきました。Glass Rockの会員の皆様にもそれを体験してほしいと思っています。
多様なセクターや個人が集う「虎ノ門珈琲部」の雰囲気を届けていきたい
——現在、Glass Rockにはどのような会員が集まっていますか?
小菅 会員は、様々な社会課題解決の最前線にいるNPO法人や企業、アカデミアからなる「共創パートナー」と、社会課題を起点に新規事業創出を目指す「法人パートナー」、社会課題の現場を抱える地方自治体からなる「パブリックパートナー」、そして個人のメンバーから成ります。個人メンバーは、Glass Rockの趣旨に賛同し、コミュニティ活動に参加していただける方々で、下は16歳から上は69歳の方まで集まっていただいています。中央省庁の方々をはじめ、出張の機会をとらえて遠方から立ち寄ってくださる地方自治体の方もいます。入会を検討されている方々の視察はウェルカムで、中には「上にかけ合って出張費をもらって視察に来ました」といった方もいます。熱量を持った皆様とともにさらに魅力的な場所にしていきたいと思っています。
——Glass Rockの地下1階メンバーズラウンジのキッチンスペースにて、毎月第2週目の火曜日に共創コーディネーター主宰の「虎ノ門珈琲部」が開かれています。
小菅 活動の起こりは2024年、私がお世話になった経産省の方の海外赴任に際し、多忙な官僚たちが集まりやすい朝にコーヒーを飲みながらの送別会を開いたことがきっかけでした。虎ノ門珈琲部は、登庁や出社前の朝8時から小一時間、行政マンやビジネスマンがゆるやかに集い、対話を楽しむ部活動で、セクターを越境した質の高い雑談の場として活用していただいています。Glass Rockの会員の皆様、共創パートナー、パブリックパートナーの方々をはじめ、紹介が紹介を呼び、大企業やスタートアップのビジネスマン、霞ヶ関の行政官、出張中の地方行政官など、これまでに200人近くの方々にご参加いただいています。参加者が海外出張して「ロンドン珈琲部」「パリ珈琲部」といった形で継続している例もあり、活動は海外にも広がっています。
——パブリックセクターのキーパーソンを迎え、その活動をよく知る小菅さん自らがナビゲーターを務める対談企画がHILLS LIFEで間もなくスタートします。連載に向けて抱負を聞かせてください。
小菅 社会課題の解決に情熱を傾け、立場を超えた共創に意欲的な方々をご紹介していきます。かしこまった対談ではなく、情熱を共有しながら楽しく雑談できる虎ノ門珈琲部の雰囲気をそのままお届けできたらと思っています。どうぞご期待ください。
小菅隆太|Ryuta Kosuge
Glass Rock共創コーディネーター、株式会社Grau 代表取締役/元経済産業省次世代モビリティ政策室週一官僚のキャリアを持ち、ソーシャル、ビジネス、パブリックのトライセクターをつなぎ、新しい共創モデルの創造に寄与する越境型コミュニティマネージャー。イベントプロデュース、ディレクションといった企画設計から、MC 、ファシリテーター、モデレーター、広報PR まで、社会や地域の課題に寄り添うプロジェクトのコミュニティを活性化するプロフェッショナル。活動家として、地方創生、子育て、夫婦関係、脱炭素といった領域での情報発信も多数。
Glass Rock〜Social Action Community〜

Glass Rockは、クロスセクターの連携と共創により社会課題の解決を目指す会員制拠点です。コミュニティ運営の専門家が支える「つながる」場、実践的な学びや対話を生み出す「まなぶ」仕掛け、そしてギャラリーやスタジオなどから「ひろげる」発信機能を有します。これらの「場」と「仕掛け」を通じてクロスセクターの連携と共創を促進し、「社会課題解決」に向けたイノベーションの創出と持続可能な社会の実現に貢献します。
住所=東京都港区虎ノ門1-22−1 グラスロック 4F/B1F
問い合せ









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