Tony Oursler @ TOKYO NODE

稀代のマルチメディア幻視者が語る、創作の根底に潜むもの——トニー・アウスラー|インタビュー

マルチメディア・アートの巨匠、トニー・アウスラー。日本では初となる注目の大規模個展「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」が7月3日(金)よりTOKYO NODEでスタート。NYの自宅スタジオに本人を訪ね、話を聞きました。

PHOTO & MOVIE BY NICHOLAS CALCOTT
INTERVIEW BY DAVID G. IMBER
TEXT BY MIKA YOSHIDA

ここはロウワー・イーストサイドの、さらに東。歴史ある家屋が連なる中に、緑の小さな公園がいくつも現れる。行き交うのは地元の住民ばかりで、旅行者の姿は見当たらない。マンハッタンにいるのをつい忘れそうなほど穏やかな住宅街に、トニー・アウスラーのスタジオが佇んでいた。

錬金術師の写真や呪術的なオブジェが飾り棚に。「ガラクタもね(笑)。全てからインスピレーションを得ます」

古いドアの奥には長い歳月を感じさせる木の階段が続く。出迎えてくれたアウスラーによると、この建物はかつてシナゴーグ、つまりユダヤ教の会堂だったとか。おびただしい数のオブジェやコレクション、制作途中の作品や道具があふれながらもスタジオが柔らかな空気に満ちているのは、今も神聖さが宿っているからだろうか。

アウスラーはTOKYO NODEで催される個展の最終段階に取りかかっていた。

「TOKYO NODEのスペースはゲシュタルト、すなわち個々の要素の総和以上のまとまりをもつ形態です。宙に浮く場所というのも私の作風にマッチしますね。またTOKYO NODEへと向かう独特な動線を意識した展示になっています。足を進めるにつれ、いわば「白昼夢」が次々と展開するようになっています。天井の高さも今回、大いに活かしました」

トニー・アウスラー|Tony Oursler 1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア・インスティテュート・オブ・ザ・アーツ 学士課程卒業。1970年代後半から活動を開始し、MoMAやパリのポンピドゥー・センターなど、世界34カ国以上の数々の美術館で約250件もの個展を開催、400件以上のグループ展に参加している。近年の個展には、スイスのフォト・エリゼでの「Tony Oursler: Anomalous」(2022年)、台湾・高雄市立美術館での「Tony Oursler: Black Box」(2021年)などがある。作品を所蔵する美術館にはシカゴ現在美術館、MoMA、ロンドンのテート、ポンピドゥー・センターなど多数。日本国内では東京都現代美術館、大阪の国立国際美術館、金沢21世紀美術館などにも。

これまで何度も日本を訪れたアウスラー。カルアーツ(カリフォルニア芸術大学)時代には、日本の版画や舞台芸術としての歌舞伎も学んでいる。科学の道を志した時期もあるという彼だが、そもそもの出発点は絵画だった。

「アーティストたるもの美術史を網羅すべき、というティーンならではの青臭い思い込みに駆られ、スーパーリアリズムから点描画法などあらゆる形式に挑んだものです。立体造形などもやりました。最もしっくり来たのはダダイズムやシュールレアリズム、そしてポップアート。ちょっと古いですが(笑)。1960年代のウィーン・アクショニズムや、同時期に日本で発生したパフォーマンス・アートにも惹かれましたね」

NY近郊の町、ナイアックで育った彼は根っからのTVっ子を自認する。

「私の世代は皆そうですがTVやラジオ、電話や映画といったテクノロジーを介して世にあふれるポップカルチャーを吸収して育ちました。と同時に、絵画とその歴史にも深い関心を抱いていました。

生まれて初めてビデオカメラを手にしたのは1976年、カルアーツでのこと。新たに誕生したばかりのテクノロジーがまだ流動的な時期のマジカルな一瞬。そこに強く惹かれるようになりました」

そして小型プロジェクターの登場が、彼に革命をもたらした。映像を物理世界に投影できる! 小さな人形やダミー(模型)の上に浮かび上がる細かな映像は、まるでメディアそのものが解放されたかのような、不思議な感覚を抱かせた。

魔法使いの「笏」? 意外なモノとモノとを組み合わせ、アウスラーは誰も見たことのない世界を作り出す。

パソコン作業中の手元に注目してほしい。マウスはラインでつながった時代物!

実は彼の祖父はミステリー作家にして、超常現象の嘘を暴くエキスパート。アウスラーの作品が描き出す「あちらとこちらのはざま」の根源はここにある。祖父はシャーロック・ホームズで有名な作家アーサー・コナン・ドイルの盟友で、ドイルも傾倒する心霊界を巡り共に議論を交わしていた。また、人の弱みに付け込んで詐欺を働く「エセ霊媒師」達のトリックを、天才マジシャンのフーディーニと一緒に暴いて回ったというから面白い。TOKYO NODEで展示される作品のひとつ『計り知れないもの』はこのトリック暴きがテーマとなっている。

《計り知れないもの》2015-2016年 Courtesy : Tony Oursler Studio

「カトリックで育ちましたが、自分は日本的な精神の持ち主だと思います。万物に魂を見出しますし、人生は善きものとして享受する。ただカトリックの特長として面白いのが、「魔法」にきわめて近いものの見方に基づき、世界が展開することです。水がワインに? キリストが水の上を歩く? それらを真剣に信じ込むのが前提という思考の枠組みを設定することで、物事は成り立つ。この精神的な枠組みがあったからこそ、定められたルールにまずは身を委ねるシュルレアリスムやコンセプチュアル・アートをすんなり呑みこめました」

大学時代からの親友マイク・ケリーとのコラボレーションが有名だが、アウスラーはアート界以外のクリエイターとのコラボに積極的だ。特にミュージシャン。ベックやキム・ゴードンと共同制作した作品で彼の名を知った人も多いだろう。

「アート界は象牙の塔。外の世界に向かわねば、と常に思います。あと映像に役者は使わない主義なんです」

ヒルズライフ用にと世界初公開してくれた、デヴィッド・ボウイとの2ショット。作品制作時に撮ったお宝写真だ。

「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」では、デヴィッド・ボウイと共同制作していた《空(くう)》(2000)が世界初公開される。

「デイヴとの交流が始まったのは1996年頃だったでしょうか。スタジオにやってきて、それからまもなくマジソンスクエアガーデンでの50歳バースデイコンサートでの舞台美術でコラボレーションを始めました。《空(くう)》を制作したのはその2年後です」

場所は有名なレコーディング・スタジオ「ファンシティ」。ボウイの顔が卵型の枠にはめこまれ、演技が撮影されて楕円形の3D彫刻へと投影される。顔だけが卵の形に浮き上がり、言葉やサウンド、色彩が重ねられていく。この作品でギターを担当したのはレッグ・ブロワー。彼女は今も健在だが、音楽を手がけた夫のグレン・ブランカは残念ながら2018年に他界した。その2年前にボウイもこの世を去っている。

「エッグヘッド」撮影用の枠。「これまで数々の人々がここに顔を入れ、パフォーマンスしてきたんですよ」

「グレンは病のことを一切口外しませんでした。ショックでしたね……。この作品の公開を彼は強く望んでいました。生前、奥さんのレッグから場所まで提案されましたが、もっとふさわしい空間があるのではと私がためらっていたんです。でもまさか亡くなるなんて。私は、いずれ美術館で大規模な個展をやる際に出展しようと心に決めました。TOKYO NODEは美術館のカテゴリーには入りませんが、この作品にとってまさに理想の空間です。ようやく良い形で発表できる、それも日本のこの場所で。感無量というよりありません」

ボウイのミュージックビデオ”Where Are We Now?”の舞台は、アウスラーのこのスタジオ。言い出したのはボウイその人だ。

 

David Bowie「Where Are We Now?(Official Video)」

「私のアートはそれ自体「不完全」であり、人が体験して初めて完結します。一律に固定した鑑賞体験を提供するのではなく、別次元の状態へと導く役割を果たします。何もオカルトなどではなく、そもそもアートとはそういうものです。ダダやシュルレアリスムに通じるものがありますし、今の時代にこうしたテクノロジカルなアートを打ち出すというのも面白いのではないでしょうか。

私の映像は、観る人々の心に人生や意味についての様々な物事を想起させます。展示から展示へと歩き、メタテキストを体験する中で、観る人が「詩」を完成させるのです。一人一人、自分の内側で生み出される自分だけの体験を味わって頂きたいですね」


会期:7月3日(金)〜9月27日(日)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C(⻁ノ⾨ヒルズ ステーションタワー45F)
開館時間:10:00〜19:00(金、土は20:00まで)入場は閉館30分前まで
※会期、開館日、開館時間などは変更の可能性あり(最新情報は公式ウェブサイトで発表)