2023年10月、プレミアム・スモール・コンパクト・セグメントにおける唯一のSAC（スポーツ・アクティビティ・クーペ）の新型モデル「New BMW X2」「New BMW iX2」がジャパンモビリティショーで発表された。独創的なデザインを特徴とする両車は、リアルとデジタルをつないでいくことで自動車がもたらす体験をアップデートしようとしている。
TEXT BY Shunta Ishigami
AIは現実と非現実を融解させる
2023年は「AI」の年だったと言っても過言ではないだろう。昨年リリースされたOpenAIの大規模言語モデル「GPT-3.5」を使ったチャットボット「ChatGPT」をはじめとする生成AIツールが市民権を獲得し、いまやAIは限られた専門家だけでなく多くの人々が日常的に使えるものになっている。
こうした生成AIの普及は、現実と非現実の境界を曖昧にしていくものでもある。画像や映像、音声を自由自在に生み出せるようになったことでディープフェイクのような問題が深刻化するのはもちろんのこと、私たちは今後自分の見ている世界が現実なのかそうでないのか判断できなくなっていくかもしれない。あるいは、メタバースのような仮想空間の拡大を考えてみてもいいだろう。とくにデジタルツインのように現実世界の高精度なモデリングが一般化すれば、私たちは現実世界を歩くように仮想空間の中を歩けるようになるはずだ。
かように、私たちの世界は現実と非現実の境目を見出すことが難しくなりつつある。これまで非現実だと思っていた世界はより現実味を帯びていき、現実の世界にあると思っていたものが非現実の存在だったことが明らかになっていく。もっとも、放っておけば単に両者が一体化するわけではない。常にそこには、境界を超えていく存在がある。
BMWは、自動車こそが現実と非現実をつなぐ存在だと考えているのかもしれない。新型スポーツ・アクティビティ・クーペ（SAC）「New BMW X2」「New BMW iX2」の発表と合わせて同社が公開したスペシャルムービーは、まさにそんな世界を描いてるからだ。
主人公としてムービーに登場するのは、リル・ミケーラ。真っ赤なiX2を運転していた彼女が時空の裂け目のような光の中へ飛び込むと、仮想空間の中を走っていたはずがiX2はいつの間にか草原の中を駆けている。現実世界を訪れたミケーラは、美しい自然や愛し合う人々に心を惹かれるが、彼女は非現実的な存在なのでそれらに触れることはできない。ミケーラはどこか寂しげな表情を浮かべる。
しかし、iX2に乗って現実世界を走り回るなかで、ミケーラの身体は徐々に現実のものとなっていく。ミケーラを乗せたiX2は、再び最初の草原に戻ってくる。降り出した雨。彼女がクルマから降りると、これまで体をすり抜けていた雨粒が手のひらの上に乗っていることに気づく——。「MAKE IT REAL」というコピーとともに終わるこのムービーは、iX2がAI時代における自動車の価値を再定義していることを明らかにしている。大自然から大都会まで縦横無尽に走り抜けるiX2は、多様な美や感動を具現化してくれる存在なのだ。
雄弁なデザインと快適なパフォーマンス
10月に発表された「New BMW X2」は、2018年に誕生した同名のSACの第２世代にあたるものであり、完全電動式バージョンとして「New BMW iX2」も追加されている。デザインのアップデートによりシルエットはよりクーペらしさが増しているほか、これまでラグジュアリーモデルにつけられていた「BMWキドニー・グリル・アイコニック・グロー」が搭載されており、親しみやすさだけでなく高級感を演出している。
先行モデルよりさらに広々とした車内スペースに目を向けると、ここでもデザインのみならずさまざまな工夫が施されていることに気づくだろう。BMWカーブドディスプレイはインテリジェント・パーソナル・アシスタントと組み合わさることでタッチパネルと音声による快適な操作を保証しているし、新しく開発されたというシートは快適なだけでなく優れた安定性を実現しているという。
ドライビング・ダイナミクスに目を向ければ、通常の高効率ガソリン・エンジンだけでなく走行性能の高い上位モデル「M35i」を選択することも可能だ。本格的なサーキット走行で培われた技術を取り入れることでつくられたこのエンジンは、ダイナミックな走りを提供してくれるだろう。
もちろん、ハードウェアだけでなくソフトウェアの面でも多くの革新が起きている。ドライバー支援システムについては、カメラ画像や超音波センサ、レーダーセンサを使って収集したデータを用い、自動走行および自動駐車を可能にするほか、ステアリング・アシストやレーン・コントロール・アシストといった機能も用意されている。
さらにX2にはBMWモデルとして初となるBMWオペレーティング・システム9.0も搭載され、運転席側に機能アイコンの並ぶホーム画面が設計されている。「QuickSelect」機能によりいちいち細かなメニューを切り替えることなく目的の機能に直接アクセスできるため、操作性も大幅に向上していると言えそうだ。
「つながり」が自動車を進化させる
こうした機能やスペックを考えてみても、「New BMW X2」や「New BMW iX2」はさまざまな形で「つながり」を生み出すものだと言えそうだ。まずひとつは、ワイヤレスチャージング機能を有していること。センターコンソールに一体成形されたワイヤレスチャージングドックはスマートフォンを置くだけで車内での充電が可能となっている。もちろんケーブルはいらないためより手軽な充電が可能だ。
そして次に、フロントウインドー上に投影される運転情報も、自動車と情報をつないでいくものと言えるだろう。現在の車速やナビゲーションシステムによるルート案内の矢印表示、チェックコントロール、前車接近警告機能など、多くの情報がウインドー上に表示されることで、ドライバーは視線を大きく移動せず前方に集中しながら運転できるようになっている。
加えて、「BMWデジタル・プレミアム」と呼ばれるサービスもつながりを生むものだ。データ通信機能を備えたSIMカードを搭載することでアプリやストリーミングサービスの利用を可能にするこのサービスは、車内により豊かな体験をもたらすだろう。マップ機能の拡張のような運転を支援するものから、動画鑑賞やゲーム、ポッドキャストといったさまざまなコンテンツを利用可能にするもの、あなたの好みや気分に応じてドライビングをカスタマイズする機能を設けるなど、さまざまなデジタルツールをX2やiX2という自動車と接続するものにもなっている。
かねてから指摘されているように、自動運転のようなテクノロジーが普及すればするほど、ドライブの時間は従来より自由なものとなっていく。それは、自動車というモビリティが音楽や映画、ゲームといったカルチャーやエンターテインメントとつながっていくことを意味してもいるだろう。
BMWは以前から「BMWコネクテッド・ドライブ」と題したサービスも提供しており、常にソフトウェアを最新の状態へアップデートできるとともにアプリやデジタルキー、Alexaの導入など多様な機能を利用できるようになっている。さらに「BMWコネクテッド・ドライブ・アップグレード」を使えば、一人ひとりが自身のニーズに合わせて自由に機能を追加できるようになっているという。
「自動車」といえばハードウェアが想起されることが多いことも事実だが、MaaS（Mobility as a Service）という言葉が広まっていることからもわかるとおり、その体験を考える上でソフトウェアやデジタルサービスを無視することはできなくなっている。
X2とiX2は、そのエクステリアとインテリア、さらには性能によって現実空間のドライブに新鮮な感動を与えると同時に、さまざまな形でデジタルなつながりをもたらすことによって、自動車がもたらす体験を拡張していくだろう。X2とiX2は完成を迎えて止まったプロダクトではなく、これからも常に更新されつづけるものとなるはずだ。
スペシャルムービーのなかで、真っ赤なiX2は、仮想空間を生きていたリル・ミケーラに現実の美しさを教えてくれた。私たちもまた、デジタルとリアルをつなぐX2とiX2を通じて、新たな世界に触れることになるだろう。
※ 掲載した画像は欧州仕様のため、日本仕様とは異なる場合があります。
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