ARCH PARTNERS TALK #16

金融を超えた新しい事業、サービス、ソリューションを創出── Blue Lab 宗國修治 × WiL 小松原威

大企業の事業改革や新規事業創出をミッションとして虎ノ門ヒルズにて始動したインキュベーションセンター「ARCH(アーチ)」。企画運営は虎ノ門ヒルズエリアにおいてグローバルビジネスセンターの形成を目指す森ビルが行い、米国シリコンバレーを本拠地とするWiLがベンチャーキャピタルの知見をもって参画している。WiLの小松原威氏が、Blue Lab代表取締役社長の宗國修治氏を迎え、同社の取り組みに迫った。

TEXT BY Kazuko Takahashi
PHOTO BY Koutarou Washizaki

日本の産業振興を目指して理系から銀行へ

小松原 Blue Labは、みずほ銀行とWiLの合弁会社として2017年に設立されました。宗國さんは2020年4月から社長を務めておられ、みずほリサーチ&テクノロジーズの技術・事業開発本部長を兼任されています。まず、Blue Labについて、簡単に概要をご紹介いただけますか?

宗國修治|Shuji Munekuni Blue Lab代表取締役社長 1991年早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程修了。同年日本興業銀行入行。99年スタンフォード大学経営工学及び統計学修士課程修了。2007年みずほ第一フィナンシャルテクノロジー金融工学第一部長。12年みずほコーポレート銀行産業調査部次長。16年みずほフィナンシャルグループポートフォリオマネジメント部長。18年みずほ情報総研事業戦略部長。20年同常務執行役員兼事業戦略部長。Blue Lab代表取締役社長就任。21年みずほリサーチ&テクノロジーズ技術・事業開発本部長。

宗國 Blue Labの最大のミッションは、イノベーションを生む、そしてそのためのインキュベーションを行うことです。みずほグループの主軸である金融という領域にとらわれず、あらゆる産業や業種に視野を拡げ、AI、ブロックチェーン、ビッグデータ分析、IT技術などのテクノロジーを駆使して、社会の課題、人々のニーズに応える、次世代のビジネスモデルの創造を目指しています。

小松原 宗國さんは、みずほ銀行の前身行の一つである日本興業銀行のご出身ですが、宗國さんのように理系出身の方が入行するケースは珍しかったのではないでしょうか。

宗國 多くはなかったですが、特別珍しいというわけでもなかったです。私の場合、大学院生の時に産業調査部の方と話す機会があり、我が国の産業振興を目指して政府や企業に様々な政策提言を行う産業調査部の取り組みに共感して入行を決めました。

小松原 入行後の配属先は?

宗國 国際業務部という海外部門の本部セクションです。

小松原 意外な気がしますが……。

宗國 私は、小学3年生から高校を卒業するまでロサンゼルスで育った帰国子女でして、英語力を求められての配属だったと思います。

小松原 なるほど。それなら全く意外ではないです(笑)。国際業務にはどのくらい?

宗國 3年です。その後、フィナンシャルエンジニアリング部という金融工学専門部署に配属されました。

小松原 今度は理系の分野ですね。

宗國 はい。90年代当時、欧米ではデリバティブズに代表される複雑な金融商品の開発に「ロケットサイエンティスト」と呼ばれる科学者たちの数学的な知識が活用され始めていました。私は理系ですが、その分野の専門知識はありませんでしたので、一からの勉強でした。数理技術を用いた金融商品の理論時価評価とリスク管理、特にValue-at-Riskと呼ばれるリスク指標を計算するモデルの開発に従事しました。

小松原 1997年からスタンフォード大学へ留学されていますが、金融工学のセクションにいた頃ですか?

宗國 そうです。業務を通じて数理技術を徹底的に学びなおしたいという気持ちと、今後必要になるであろうと考えていた、最適化技術、統計分析技術を習得したいと考えるようになりました。上司が強く推してくれたこともあって、2年間の留学がかないました。

小松原 スタンフォード大での2年間はいかがでしたか?

宗國 教授陣のレベルの高さ、授業の面白さ、学生たちの勉強熱心さ、ハングリーさ、とにかくすべてが刺激的で、すばらしい日々でした。世界にはずば抜けて優秀な人たちがあふれているのだと思い知らされましたね。

小松原 優秀な人たちが、めちゃめちゃ努力しているんですよね。

宗國 そうなんです。競うように努力して、成功を手にしようとチャレンジしている。自分も自然とそういう気持ちになり、できるだけ多くのことを吸収して帰ろうと思っていました。

数理コンサルティングサービスを開発

小松原 スタンフォード大の修士課程を修了されて帰国された1999年は、みずほの3行統合が発表された年にあたります。帰国後の配属先は?

宗國 留学前に在籍した部署の流れをくむ金融工学の専門子会社です。私にとって幸いだったのは、スタンフォード大で学んできたことを活かし、自分がやりたいと考えていた新しいソリューションビジネスを自ら企画し、立ち上げ、実践する機会をいただけたということです。具体的には、事業会社に対して、数理技術や統計学的手法を用いて、事業収益の最大化、事業リスクの最小化、事業ポートフォリオ分析などを提供する数理コンサルティングサービスです。

小松原 まさしくそれを目的とした新規ビジネスと言えるのではないでしょうか。

宗國 まぁ、そうとも言えるかもしれません。この数理コンサルティングビジネスに併走してくれたのが、産業調査部でした。産業調査部が持つ業界知見、企業の抱える課題に関する情報等と、数理技術を重ね合わせることによって新しいビジネスをテイクオフさせることができました。とてもやりがいのある仕事で、十数年従事しました。その後、縁あって産業調査部に異動となりました。

小松原 満を持して、産業調査部に。

宗國 産業調査部での担当は、資源・エネルギーの分野でした。折しもその前年に東日本大震災があり、日本の産業の根幹であるエネルギーの基本的政策が問われていました。世界的にも再生可能エネルギーへのシフトが、かなりのスピードで進展し始めたタイミングでした。非常にやりがいのある仕事で、多くの経験と勉強をさせていただきました。

小松原 宗國さんの多彩なキャリアは、すべてBlue Labの活動につながっていますよね。

宗國 産業調査部に4年在籍した後、〈みずほ〉全体のクレジットポートフォリオのマネジメントを2年間やらせていただきました。その時点までの自分の経験や技術知見を活かして新規事業の創出に携われないかと思っていましたので、社会課題、SDGsをテーマに事業開発を担う現在のセクションへの異動はラッキーでした。

医療・ヘルスケア領域や地域の課題解決に注力

小松原 Blue Labの取り組みとしてまず挙げられるのが、みずほ銀行のキャッシュレスサービス「J-Coin Pay」の開発・管理・運営だと思います。2019年3月に銀行初のサービスとしてローンチされました。

宗國 J-Coin Payは、Blue Labの第一号案件でありましたが、新規事業創出のフェーズから抜けて、現在はみずほ銀行の業務になっています。我々は、J-Coin Payで構築したキャッシュレス決済プラットフォームを活用し、これまで積み重ねてきたお客さまとの関係を増幅するようなサービスや、新たな関係性を構築するようなサービスの拡充を進めています。取り組みの一つが、「ハウスコイン」です。お客さまのサービスに金融機関の決済プラットフォームを埋め込むBaaS(Banking as a Service)の一種で、事業者に自社ポイントを付与したり、自治体が住民に給付金を支給したり、デジタル地域通貨を発行したりできる、特定の経済圏内で決済可能なチャージ型コインサービスです。

小松原 例えばヤマト運輸の独自スマホ決済「にゃんpay」がそうですよね。

宗國 その通りです。他にも複数の企業や自治体がハウスコインの導入ないし導入検討を進めています。

小松原 今後の注力分野についても聞かせてください。

宗國 人々のQOLの向上やウェルビーイングに貢献する医療・ヘルスケア領域のビジネスに注力しています。健康経営企業や自治体へのデジタルヘルスサービスの提供や、取引先企業に向けた医療・ヘルスケア関連のDX支援、医療関連業界への金融・決済機能の提供、ヘルスケアデータを活用したデータビジネスなどです。高齢者が健康であり続けることを応援するサービスや、認知症を取り巻く課題の解決を目指すサービスなど、高齢化社会への取り組みも進めています。

小松原 銀行の枠組みを超えた活動ですね。

宗國 そうですね。ただ、お客さまそれぞれの課題と向き合い、専門性を持って最適なソリューションを提供するという意味では、ベクトルは同じだと思っています。

小松原 新たなトピックとしては、どんな取り組みがありますか?

宗國 地域の活性化に力を入れていて、スマートシティ・スマートアイランドを目指す多数の自治体との共創を進めています。そのモデルケースとして、〈みずほ〉と八丈島は包括連携協定を結び、スマートアイランド化を目指しています。人口減少・高齢化の問題、集中豪雨などによる土砂災害、コロナ禍による観光客数・観光消費の減少など、多くの社会課題を抱えていますが、こうした様々な課題の解決に向け、防災・減災、観光DX、行政のDX推進、データの利活用、地域コミュニケーションの活性化など、地域社会インフラの高度化に取り組んでいます。

小松原 Blue Labの一連の活動は、宗國さんが技術・事業開発本部長を兼任されている、みずほリサーチ&テクノロジーズとの連携も不可欠ではないでしょうか。

宗國 おっしゃる通りです。みずほリサーチ&テクノロジーズ(RT)は、経済、金融、環境、社会保障など、様々な領域において我が国の課題や進むべき方向性を示すことができる専門家が、また新規事業開発に欠かせない、AI等の各種数理技術のエンジニアも多数在籍しています。さらには、事業を形にするには必ずIT実装力が必要ですが、そこも当社の強みです。RTが持つエキスパティーズを組み合わせることが他にはない強みになると考えています。RTだけではなく、みずほグループのリソースを最大限生かしながら、また、様々な企業・スタートアップの知見・技術と共創させていただきながら、お客さまや社会に貢献できるサービスを創出していきたいと思っています。

新規事業創出は“思い”を大切に

小松原 宗國さんが個人的に興味を持っている分野はありますか?

宗國 エネルギー分野に深く関わっていたこともあり、地球温暖化などのサステナ分野に興味を持っています。この美しい地球を次の世代、そのまた次の世代に残していくためには今、何をしなければならないか、人々の日々の自然な行動が無理なく行動変容していくような仕組みづくりができないかと思いを巡らせています。

小松原 すばらしい構想ですね。私はWiLの一員として以前から宗國さんとおつき合いしていますが、社会課題の解決に対する思いという宗國さんの考え方にとても共感しています。「自分がやりたい。やらせてほしい」という情熱が物事を前に進めるのだと。

宗國 新しいことへのチャレンジは困難がつきもので、解決に向けての強い思いがないと、継続は難しい。ですからチームを率いる上でも、「自分がやりたい。やらせてほしい」という個々人の思いに耳を傾けるようにしています。

小松原 最後にARCHの印象について聞かせてください。

宗國 空間というものは、目に見えない影響を人に与えています。そういう意味で、ARCHはすばらしい空間だと思います。自然とコミュニケーションが生まれ、共創が活性化していく空間ですよね。セミナーや他企業とのワークショップなどの企画・運営は秀逸で学ぶことも多いです。具体的に形になるのはこれからなのですが、ARCHの入居企業とのコラボレーションが生まれているプロジェクトも複数あります。

小松原 どのようなサービスに展開していくのか楽しみです。Blue Labの今後の活動にますます期待しています。

宗國 ありがとうございます。期待していてください。

 

profile

小松原威|Takeshi Komatsubara
2005年に慶應義塾大学法学部卒業後、日立製作所、海外放浪を経て2008年SAPジャパンに入社。営業として主に製造業を担当。2015年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに日本人として初めて赴任。デザイン思考を使った日本企業の組織/風土改革・イノベーション創出を支援。2018年にWiLに参画しLP Relation担当パートナーとして、大企業の変革・イノベーション創出支援、また海外投資先の日本進出支援を行う。

ARCHは、世界で初めて、大企業の事業改革や新規事業創出をミッションとする組織に特化して構想されたインキュベーションセンターです。豊富なリソースやネットワークを持つ大企業ならではの可能性と課題にフォーカスし、ハードとソフトの両面から、事業創出をサポート。国際新都心・グローバルビジネスセンターとして開発が進む虎ノ門ヒルズから、様々な産業分野の多様なプレーヤーが交差する架け橋として、日本ならではのイノベーション創出モデルを提案します。場所 東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー4階