「六本木アートナイト」の多種多様なプログラムの中で、一つの国や地域のアートに注目するのが「RAN Focus」。第3回目となる今年はフランスにフォーカスする。キュレーションを手がけたジョゼ=マニュエル・ゴンザルヴェスさんに話を聞いた。
TEXT BY Mari Matsubara
2009年から始まった「六本木アートナイト」。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館などの施設と、六本木エリアの街角や路上を舞台にさまざまな形態のアート作品が繰り広げられる一夜限りの祭典だ。コロナ禍以降、ここ数年は中止されていたオールナイト開催が今年は復活し、深夜そして翌朝に至るまで見どころは盛りだくさん。その中の「RAN Focus」をご存じだろうか?
ある一つの国や地域に特化してアートを紹介する取り組みだが、第3回目の今年のターゲットはフランス。そもそも「六本木アートナイト」の創設は、パリで開催されている「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)」という一夜限りのアートイベントをモデルとしたことがきっかけだったのだ。「RAN Focus」のキュレーションを手がけたジョゼ=マニュエル・ゴンザルヴェスにその辺りから話を聞こう。
——まず「六本木アートナイト」のきっかけとなったパリの「ニュイ・ブランシュ」とはどんなイベントなのか、簡単に説明していただけますか?

ジョゼ=マニュエル・ゴンザルヴェス|José-Manuel Gonçalvès 1962年ポルトガル、ヴィラ・フランカ・デ・シーラ生まれ。2010年から25年までパリ19区の公営複合アートスペース「サンキャトル・パリ」の支配人兼アーティスティック・ディレクターを務める。2014年、2015年の「ニュイ・ブランシュ・パリ」芸術監督を歴任。現在パリ市が進める新地下鉄網「グランド・パリ・エクスプレス」の新駅に設置するパブリックアートプロジェクトの芸術監督も務める。
“起きたまま夢をみる”アートの一夜
ゴンザルヴェス 「ニュイ・ブランシュ」は2002年からパリで始まった現代アートの祭典で、毎年10月最初の土曜から日曜にかけて行われます。現代アートの展示やコンサート、文化的なイベントがパリ中のさまざまな場所で行われます。「ニュイ・ブランシュ」のコンセプトは「起きたまま、夢を見ること」。いつもは家にいる時間帯に街へ繰り出し、あちこち歩き回って芸術作品に出会うのです。
ゲストキュレーターによるオフィシャルプログラムが約50ぐらい、そのほか非公式の公募によるプログラムが200〜250ほどあり、合わせて250万人もの人々が鑑賞します。だいたい夜の10時に始まり、少なくとも深夜3時まで、中には翌朝7時ぐらいまで続く催しもあります。
——「ニュイ・ブランシュ」を少しコンパクトに、六本木という凝縮したエリアで展開される「六本木アートナイト」ですが、今年の「RAN Focus」はフランスに注目します。フランスから招聘する7組のアーティストはどのように選ばれたのでしょうか?
ゴンザルヴェス 私が以前ディレクターを務めていたパリ19区のアートスペース「サンキャトル・パリ」のチームと一緒に、日本側のスタッフと1年半ぐらい前から毎週1回オンライン会議をして、資料映像などを見せながらアーティストの提案をしてきました。インスタレーション、ダンス、パフォーマンスなどさまざまな作品形態やタッチを持つアーティストをピックアップしつつ、作品が屋外で展示可能かどうか、観客とインタラクティブにつながることができるか、指定された場所に収まるかどうか、などの点で選びました。
さらにフランスの現代アートの今日性を象徴するアーティストを選びたいと思いました。必ずしも超有名アーティストばかりではなく、とはいえ無名ではなく徐々に評価を得ていて、海外にも発信している新しいジェネレーションのアーティストたちを選んだつもりです。「RAN Focus」の7組の作品をご覧になれば、フランス現代アートにおけるさまざまなジャンルの最も新しいパノラマを俯瞰できると思います。
フランス現代アートの今日性を象徴するプログラムが来日
——7組のうち、いくつか目玉となる展示を紹介していただけますか?
ゴンザルヴェス まずご紹介したいのがシャルル・ペティヨン。白い風船を使ったインスタレーションで有名な作家です。一見すると単純なようですが、実は技術的に複雑な構造になっています。子どもの遊び道具である「風船」をつなぎ合わせて大型の彫刻的な作品を制作し、その場を夢のような空間へと変えてしまいます。こちらは六本木ヒルズのアリーナで展示される予定です。ふだん買い物の途中やオフィスへ向かうときに通りがかる見慣れた風景が、彼の作品によって全く違ったものに見えることでしょう。

シャルル・ペティヨン《和(WA)》
ゴンザルヴェス ダンス系では、レイラ・カという若い振付家と彼女のダンスカンパニーによる群舞《Bluff(ブラフ)》があります。こちらも六本木ヒルズ・アリーナで開催されます。「サンキャトル・パリ」ではレイラ・カを以前から支援しており、5年前は無名でしたが、ここ数年評価を得て今やメガ・スターに成長しました。パリ・オリンピア劇場で好評を博し、その後3年間世界ツアーを続けた代表作『Maldonne(マルドンヌ)』の短縮版が《Bluff》です。
ステージ上の4人の女性ダンサーが踊りを通じて女性の連帯や野心、欲望を表現し、男性優位の社会的抑圧を跳ね除けて自由な人生を獲得するといった女性性を感じさせるものです。ダンサーたちのテクニックのすごさはもちろんのこと、美学的な面も大変魅力のある作品です。ポップな音楽ショー的側面と、ピナ・バウシュ的な詩情と、その中間といったらいいでしょうか。今回は15分ぐらいのバージョンを2回上演します。

レイラ・カ《Bluff(ブラフ)》 Photo: Duy-Laurent Tran
ゴンザルヴェス 今や世界的スターと言ってもいいヨアン・ブルジョワの作品もぜひ観てほしいです。フランス発祥の「ヌーヴォー・シルク(現代サーカス)」というジャンルがありますが、彼もその系譜に連なるダンサー、振付家です。バレエでありながらアスレチック的要素もある新しい振付は2000年代からトレンドとして顕著ですが、彼の場合は特に重力から解放された空中での振付に特徴があります。
今回上演される2つのプログラムのうち《オープニング(Opening)》という作品では、階段とトランポリンを使います。階段を上り下りするダンサーが重力によって倒れ、トランポリンの反発力によって起き上がるなど、信じられないような身体の動きを繰り返します。それは人生において障壁にぶつかり、倒されてバランスを失ってもなお立ち直ろうとする私たちの日常のメタファーでもあるのです。
ゴンザルヴェス ヨアン・ブルジョワによるもう一つの作品《パサージュ(Passage)》は、回転し続ける舞台の上に、それ自体も旋回するドアが設置されたプラットフォームでダンサーが踊ります。開いたり閉じたりする鏡張りのドアをすり抜け、ポールダンスのように宙に身体を浮かせたりします。身体的なバランスの極限を見せながら、美しく純粋な光景を見せてくれるパフォーマンスです。

ヨアン・ブルジョワ・アートカンパニー《パサージュ(Passage)》 ©Pascale Cholette
ゴンザルヴェス 3つの映像作品を上演する予定のクレマン・コジトールにも触れたいと思います。その一つ《レ・ザンド・ギャラント(Les Indes Galantes)》は、1735年に作曲された同名のオペラ・パレエを翻案したもので、1990年代にロサンゼルスで発祥したラップ的なダンス「クランプ」のダンサーが参加しています。バロック音楽に合わせて150人のヒップホップ・ダンサーが踊るという画期的な作品です。新しい世代が伝統をベースにしながら独自の芸術作品に仕立てるというアプローチを、伝統文化と最先端カルチャーが混じり合う日本で紹介できることがとても楽しみです。

クレマン・コジトール《Les Indes Galantes》《Morgestraich》《Elegies》 作品: Les Indes Galantes
——他のアーティストの作品も見逃せないものばかりのようですね。今回、フランスで勢いのある現代アートを六本木で紹介することについて、どんな期待を込めますか?
ゴンザルヴェス 私自身、東京には何度も来ており、大好きなこの街でRAN Focusの7組の作品を披露できることを嬉しく思います。「六本木アートナイト」は、クリエイティブな祭典でありながら、大人も子供も、日頃アートに縁遠い人も、誰もが楽しめる大衆的な側面も重要だと思っています。日中から夕方、そして深夜、翌朝まで、好きな時間帯に街を歩いて作品に出会い、笑顔が溢れるようなイベントになればいいなと願っています。
六本木エリアにはいくつか美術館やギャラリーもあり、すでにアートが溢れる街ですが、公園や交差点、路上など普段は通り過ぎるだけの場所でもアートに出会えます。来場者それぞれがその場所を自由に解釈する機会でもあるのです。ひとりひとりが、普段とは違った視点で街を見つめることになる。すると、いつもは見えなかったものが見えてくるかもしれませんね。そんなイベントになることを私自身も楽しみにしています。
Q. 新たな気づきや共感を得ることができましたか?









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