工業的な計器やレトロな装置のように見えるオブジェが並ぶ展示会場。これらはいったい何? 作家の小林椋に話を聞いた。
TEXT BY Mari Matsubara
PHOTO BY Kohei Omachi

展覧会場風景
滑らかな曲面をもつFRP(繊維強化プラスチック)のカバーに覆われた機械(のようなもの)たち。ボタンやつまみが並んでいたり、スイッチが付いていたり、メーターやカウンター、プラグやUSBの差し込み口が見えたり。最初にタネを明かせば、これらは用途不明の機械や装置を解体して内部構造を取り出し、その基盤などを物理的に可能な範囲で並べ替えるなどして形を変え、その形に合わせたFRPの容器を手作業で製作し移し替えたものだ。だから、いま目の前にあるのは機械のように見えるが機械ではない。そしてそのフォルムはもともとの機械の形状となんら関係はない。さらには中の機械はまだ通電も可能であり(動かないけれど)、完全に死んだわけではないという——なんだか禅問答のようで面白い!

《U魚(秤り巻き敷き)》脚だけは後から小林が製作して付けた。

《U魚(訛りのある仕掛け)》sold out 中の機械は米の水分量を測る計器だったと思われる(ゲージに“籾”などの文字があり)が、外観はすっかり変わっている。

《U魚(飛びかう湖面に挟まる予告)》歩き出しそうな雰囲気を醸し出しているが。

《U魚(短い曲の粉)》sold out FRPの滑らかな曲面に驚かされる。これを手作業で……。
——どうしてこのような作品を製作することに?
小林 あまりこれを前面に押し出したくはないのですが、機械に対する偏愛がまずあって。子供の頃から道端に捨てられている電化製品などを拾ってくるのが好きでした。父親も収集癖があり、よく大学構内のゴミ捨て場に一緒に連れられて行きました。そこにはいろんな学部から出た様々な機材や装置が山積みになっていて。当時は大学も経済的に余裕があったのか、設備の入れ替えが早くて、まだ動くものでもどんどん捨てられるんです。そういうのを、当時は管理体制も甘いから、誰でも拾って持ち帰ることができました。大学生や教員たちも拾いに来ていたし、ハイエースにごっそり積み込んで秋葉原のジャンク店に売りさばくような業者もいましたね。とにかく実験機器なのか、医療機材なのか、用途が全然分からないけれど、壊れてはいないものが多く、持ち帰っては通電して遊んだりしていました。
——その収集癖はその後も続いたのですか?
小林 そうですね、リサイクルショップやネットオークションで「用途不明品」として売りに出された機械を見たりするのが好きで、ポツポツと買っていました。この機械を使って何かできないかな?と考えて、一回バラバラに解体して、内部の基盤やボタン、スイッチなどを取り出し、それを自作の箱に移し替えた作品を去年から作り始めました。最初は自分でも創作のモチベーションがよく分からないまま数個作ったのですが、個人的なフェティッシュが強すぎると思って、発表するのをためらっていました。
——それがなぜ、今回こうして展示することに?
小林 今まで作品自体が動くキネティックアートを製作し発表していたのですが、音や光が出たり、作品の一部が左右に揺れたりといった「動き」や「変化」の部分ばかりに鑑賞者の目が行きやすいように感じたのです。それは当たり前の反応ではあるのですが、作品は一つ一つ形を削って樹脂で型をとり、色を塗ってと、ほぼ9割がた造形作業によって作られているのに、その造形の部分にあまり触れられていないなと。なので今回は「動き」を作品の要素から取り除いて、造形にフォーカスした展覧会をと思いました。
——具体的にはどうやって作るのですか?
小林 回収した機械や装置の内部構造をいったんバラして、どのくらい配線を伸ばせるかとか、基盤の位置をどのくらい変えられるかなどによって全体のボリューム感が決まり、それに合わせて造形を考えます。形はなんでもいいわけではなく、内部の要素の距離的な制約と、自分が作りたい造形の折衷でフォルムが決まっていきます。作品の表面に出ているボタンやスイッチやメーターなどは、元の装置にあったものをそのまま使っています。機械を入れる「容器」の部分は、発泡スチロールを削り出してその上にFRPを貼り、固まったら発泡スチロールを抜いて、あとはひたすら紙やすりなどで研磨していく。真っ当に彫刻的な作業なんです。それが苦ではないから作れるのですが。

左/《U魚(綴り縮み)》の基盤がもともと入っていた外側ケースの内部に電球を仕込んだもの。非売品。右/《U魚(綴り縮み)》部分。元は直方体のスチールケースに入っていた基盤が、こんな形の彫刻に。脚は後から小林が製作して取り付けたが、つまみやダイヤルは全てもともとあったもの。

《U魚(眩む夜の瓜)》プラグは別の機器と接続するためのものだったか。
用途不明の機械を“廃棄”や“再利用”ではない場所に保護する
——そうして出来上がる作品は、依然として「なんだか分からないもの」ですね?
小林 造形的に過去にレファレンスがないものを作りたいとは思っています。人間なので、過去に見たものの影響から完全に自由にはなれないけれど、「何か分からないが、何かのように見える」というのがいいと思う。ふだん目にするプロダクトは、まず機能があり、その機能から要請された形やデザインに仕上げられていますよね。けれども、僕の作品はプロダクトのような機能があるわけではありません。機能を持っているように思わせる形をしている。一見すると、何か目的を持っているように見えるけれど、その目的は不明瞭なまま。デザインがあるように見えるが、そこになんの意図もない、という形を目指しています。
——なんだかマルセル・デュシャンを思い起こさせます。
小林 ある意味、僕の作品もコンセプチュアルではあると思います。人間活動において「役に立つ」ということに、重点が置かれ過ぎているように思うのです。ゆえに「役に立たない」ということをいかに作品として成り立たせるか。これを隙間産業的にやっていこうと(笑)

左/《U魚(すり潰しの隠し所として)》部分。sold out 極小のカウンターと、それを動かす極小のボタンが付いている。「間違って触れないよう、あえて小さく作っているのかもしれません」 右/《U魚(めぐり固め、並びすべり》部分。上下に重なる二つの基盤を解体し、左右に並べたそうだ。

《U魚(円い石の角)》

《U魚(その器用な茂みの歩みを遮る容器》人体を思わせる有機的な造形に、無機的なスイッチやランプなどがついている。
——今回展示された作品群を見た時、何も予備知識がなくとも、完璧なFRPに覆われた美しい造形として惹かれます。いわゆる廃品アートとは性格が異なるように感じるのですが、小林さんはどんな思いがあってこれらの作品を作ったのですか?
小林 機械は何らかの目的のために機能する道具です。たとえば研究室の中で、ある一つの実験が複数の機械を通して行われるとき、それはいくつかの機器や人とのネットワークの中で機能しますよね。ところがそのうちの一つの機械だけがネットワークから外れてしまえば、その機械自体はまだ作動するとしても単体では機能しなくなってしまいます。また「用途不明の装置」として中古市場に出品されても、それをわざわざ買う人は限りなく少ないわけで、そういう意味ではこれらの機械は、道具のネットワークから逸脱した周縁部にいるものたちと言えます。
——それを小林さんはわざわざ回収する。
小林 そう。でも配線を元通りに繋げてやると、通電すれば機械としてはまだ動く。人間とのコミュニケーションのインターフェースが遮断し、人間の役には立たないだけで、機械はまだ生きているんです。そういう機械を人間のネットワークから保護し、“廃棄”や“再利用”ではない場所にとどめておく、みたいな。そのために彫刻があるんじゃないかと思っています。だからある意味、この彫刻の中身がもともと何であったかは重要ではなく、ただし機械が生きていることは大事です。

小林椋|Muku Kobayashi 1992年東京都生まれ。2017年多摩美術大学大学院 美術研究科修士課程 情報デザイン領域修了。2019年京都市立芸術大学大学院 美術研究科修士課程彫刻専攻修了。近年の展覧会に「Everyday Enchantment 日常の再魔術化」(CHANEL NEXUS HALL、2024)、「且ん凡ん目ん、あと皿」(GASBON METABOLISM、2025)等。
——本当に機械が好きなんですね……。最後に展覧会タイトル「U魚」について、聞かせてください。
小林 Uはそのアルファベットの字形が“うつわ”のようですよね。その隣に魚がある。魚でも植物でも良かったのですが、別のうつわに移し替えるというイメージを視覚的に表したタイトルです。意味ではなく、その文字のフォルムがテーマを示唆する。あと、“ウーウオ”と読む語感もいいなと思って。
——ひとつひとつの作品名もすごく変わっています。まるで詩のようですね。
小林 発音した時の音の響きや、文字のビジュアル的な印象などから考えたもので、その名前自体に意味はありません。言葉って、そこに文脈がなくても並べてしまえば文章らしきものになる。それが言葉の面白さだと思っていて。それはスイッチやつまみが並んでいて機械らしく見えるけれど機械ではないという今回の作品群にも通底しています。作品名も言ってみれば「言葉の空間」なので、そこにどういうオブジェ(言葉)を置けるだろうか、などと考えます。
小林椋 個展「U魚」

会期=開催中〜6月28日(日)
会場=CALM & PUNK GALLERY(港区西麻布1-15-15)
開廊時間=13:00〜19:00(開廊時間以外はアポイントメント制にてオープン可)
休廊日=日・月・火(最終日曜は開廊)









SHARE