workshop at home

お家の中で、自分の感覚を探しながら、あたらしい「伝え方」を発明してみよう!——和田夏実(インタープリター/通訳者・解釈者)【おうちでワークショップ】02

「手話」を第一言語とする両親のもとで育ち、「インタープリター/通訳者・解釈者」として活動する和田夏実さんによるワークショップは、身のまわりでできる、あたらしい「感覚」とその「伝え方」をさがす冒険です。自宅ですごす子どもたちのために、さまざまな分野の専門家が研究や活動、考え方のおもしろさを伝えてくれるシリーズ企画【おうちでワークショップ】の第2回。

workshop by Natsumi Wada
illustration (top) by fancomi

和田夏実さんからのミッションです——

Mission/001
メッセージを、3時間後の自分と出会うように置いてみよう

「自分に出会う」にはどんな方法があるでしょう? 道でだれかに出会う、たまたま何かをみつける、ふと目にとまる。そんなふうに何かが飛び込んでくるような感覚を、自分に届けてみよう。声を録音して3時間後に再生するようにしておいたり、いつもついみてしまう窓にメッセージを貼り付けておいてもいいかもしれない。3時間後の自分を想像して、その先にそっと置いてみよう。

Mission/002
家の中から「やさしい」を探して、それを残してみよう(「やさしい」の他に「切ない」や「強い」「面白い」なども、探してみよう)

やさしいは目に見えない。けれども、やさしいの跡はあるかもしれない。自分で作ってみてもいいかもしれない。自分にとってやさしいってなんだろう。家族のやさしいはどこにあるんだろう。写真に撮ることはできるかな? お腹の中にも残っているかも。色んなやさしいをみつけて、残す方法を考えてみよう。

Mission/003
昨日みた夢を誰も知らないコトバで説明してみよう

自分の頭の中にしかまだないことを、自分だけのことばであらわしてみよう。コップはコップ、鏡は鏡、世界の色んなものにはすでに名前がついているけれど、君の夢はまだ誰もみたことのないもので、どんな方法であらわすこともできる。しっくりとくる伝え方を、探してみよう。

私たちの「感覚」も「伝える」も
まだまだ未知で、
果てなき可能性に満ちている

 

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1/3和田さんの作品から 「 Signed 2017
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2/3和田さんの作品から 「Qualia 2018, w/ LOUD AIR
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3/3和田さんの作品から 「LINKAGE 2019, MAGNET

私は、手話や触手話(手と手を触れながら会話する方法)のインタープリターをしています。

インタープリター(通訳者・解釈者)とは、誰かと誰かもしくは何かのあいだに立って、それぞれの言葉や感覚、表現を届ける役割のことをいいます。通訳するために誰かの言葉を受けとることは、その頭の中を巡り、その人にしかない感覚を探しに行く冒険のようだ、といつも思います。今この瞬間、君だけが得たその感覚に近づき、そして、あらわす方法から一緒に、考えてつくってみる。手話と日本語の間で、イメージと言葉を結ぶこと、触る会話を通して、手をともに動かすことから、その身体の記憶を探していくこと。

感覚や動きを言葉だけでなく、他の方法で伝えあったらどうだろう?

Signed(1つ目の画像)は、約3000人もの人から「眠る」というジェスチャーを集めるプロジェクトです。眠る/日本語、sleep/英語、schlafen/ドイツ語、dormir(フランス語)のように、世界中で「眠る」をあらわす言葉は違いますが、眠るのジェスチャーはどうでしょう? 眠る動きは、みんな一緒で同じ動きになるかもしれません。「食べる」の動きは全然違うものになりそうです。

Qualia(2つ目の画像)は、60人の携帯のカメラロールから「セクシー」だと思うものを集めたカードです。誰かが街中で「あ、良い」と思ってつい撮ってしまった写真、わかる!と思うものは見つかるでしょうか。

LINKAGE(3つ目の画像)は、指と指でつながるゲーム。みんなの圧力や触り心地を感じながら、バランスをとるゲームです。やさしい押す、強い押す、相手の柔らかさを感じてみよう。

言語に、その文化や歴史の中でしか生まれ得ない表現がたくさんあるように、ひとりひとりの中にもその人にしか生まれ得ないものがあります。それをじっくり探しながら、音、イメージ、触り心地、温度、それぞれを紙やペンだけでなく、あらわし方や届け方もつくってみたら、どんなことが起こるでしょうか。

動物と温度を伝えあう会話をしたり、言語を超えて相手の柔らかさを知ったり。日々の中に名付けられないものの方が遥かに多いように、そして五感と呼ばれる感覚が5つではなくまだ数多くあるように、私たちの「伝える」はまだまだ未知で、果てなき可能性に満ちています。お家の中で、自分の感覚を探しながら、伝えるを発明してみてはいかがでしょうか。
 

profile

和田夏実|Natsumi Wada
インタープリター / クリエーティブリサーチャー。1993年生まれ。ろう者の両親のもと、手話を第一言語として育つ。視覚身体言語の研究、さまざまな身体性の方々との協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。2016年手話通訳士資格取得。