We are all crew on Spaceship Earth

「僕たちはみんな宇宙船地球号の乗組員なんだ」——トム・サックス×藤原ヒロシ|対談第2弾!

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音楽やファッションの分野のみならず常に日本のカルチャーシーンを牽引し続けている藤原ヒロシ。ニューヨークを拠点にアイロニーとユーモアが共存する作品を発表し続けているトム・サックス。コロナ禍を経て久しぶりに会ったふたりの、アートとカルチャーと世界情勢を巡る大人な話。

PHOTO BY manami takahashi
coordination & translation by Yoshiko Kogi
interpretation by Kanoko Tamura
text & edit by Kazumi Yamamoto

TS 前回対談したのいつだったかな?

HF 2017年だから6年前だね。トムが参加していた森美術館での展覧会のとき。

TS そうか。『宇宙と芸術展』。とても良い展示だった。

HF あのトークの後、確か展覧会の為にハンブルクに行くって言ってたよね。中止になったの? ちょうどコロナの世界流行が始まった頃だよね。

TS そう、コロナでハンブルグでの展覧会は一年以上延期になった。でも遅れて始まった分、会期が4カ月から6カ月に延長されてむしろ良かった。今回は伊勢丹新宿店で2度目の個展を開催することで来日したんだ。素晴らしい仕上がりだった。ヒロシも見てくれたかな?〈東京スタデオ〉という僕の日本でのサポートチームがとてもいい仕事をしてくれたんだ。

新宿伊勢丹で10月23日まで開催していた『トム・サックス:店舗体験』展。新作の絵画、彫刻、大型音響システムから器、家具、アパレルまで展示販売。photo by Shiga Shunsuke

HF 〈東京スタデオ〉? 彼らは東京にいるわけではないよね?

TS いや、東京を拠点としているんだ。

HF へぇそうなんだ。

TS そう、アートの施工チームで、木工も金属も扱うことが出来る。彼らはさまざまなアーティストたちと仕事をしているんだ。

HF じゃあ、家具の作品とかはみんな東京で作ったの?

TS いや、家具はノースカロライナで、アート作品はニューヨークで作った。でも、すべての壁、いくつかの家具の展示、ディテールを詰める細やかな作業、グラフィック、インスタレーション、ウィンドウ、ウィンドウ・ディスプレイはすべて〈東京スタデオ〉によるものだ。例えば、新宿三丁目の交差点に設置された合板の窓とビデオ・ディスプレイ、直射日光が当たっても画面が見えやすい巨大なLEDスクリーンとかね。とにかく、この展覧会は絵画や彫刻、家具や服に至るまで、構成するすべてがアートであることを証明するものなんだ。

新宿伊勢丹本館1階のウインドーディスプレイ11面をジャック。動画の面もあり、ウインドーだけでも見ていて楽しい。photo by Shiga Shunsuke

HF 今回のショーで意識したことは何?

TS 透明性、物とのつながりを深めること、古いものを現代に生かすこと。そういった哲学が僕たちの行動すべてに息づいていることを知ってほしい。この価値観は日本にはとても馴染みやすいと思う。僕にとって「芸術の価値はあらゆるところに存在する」ということを意味するから、どのように作られたかの証拠……切り口や構造、ネジ、接着剤、金継ぎ、修復を見せることが僕にとって意味がある。僕の目標でもある「物とのつながり」という感覚はアメリカにいるときより日本で感じるほうがずっと生き生きしていることに気づいた。日本人は資源に対する敬意があるからね。

HF 展覧会のタイトルが「Retail Experience(店舗体験)」って面白いね。

TS 消費主義は僕たちの宗教だと思う。僕もその熱心な信者だよ(笑) みんなは、僕が消費主義について批判的に語るのを聞いてきたと思うけど、それは自分が参加者でない限り、批判的になることはできないから。だから、僕もその一員であることをはっきりさせておきたい。参加者であることによってのみ、真に批判的であることができるし、それを真に理解することができる。もし地球上のあらゆるものが日本製で、他のどこの物よりも優れていて、伊勢丹が日本で最も優れた百貨店だったとしたら、伊勢丹は消費主義のノートルダム寺院だと言えるかもしれない。 「店舗体験」とはそういう意味なんだよ。

トム・サックス 1966年ニューヨーク生まれ。アーティスト。ロンドンの建築学校、バーモント州ベニントン大学を経て、建築家フランク・ゲーリーの事務所で家具製作に携わる。90年代よりブランドロゴやキャラクターといった現代の資本主義社会のアイコンを用いた彫刻作品を発表。近年では宇宙や茶道をテーマにした作品も手がけている。現在、ニューヨークを拠点に活動。

経験にも「美しさ」がある

HF でも君は人々に「いつまでも物を持ち続け、そして片付けること」を望む。

TS 永遠に続くものなんてないと思うんだ。僕たちはどんどん白髪が増えている。僕たちの人生はこの先あと何年あるだろう。そして僕たちもそのうち消えていく。僕にとって重要な考え方は、可能な限り、自分の人生よりも大きなアイデアや価値観に取り組むということなんだ。僕たちの人生は、運が良ければ80年。でも、僕が作ったものは僕よりも長持ちするかもしれないし、僕が所有したり、大切にしたりしているものの中には、僕の歳よりも古いものもある。比喩と重要性はもちろん世界的なもので、僕たちはみんな一緒に宇宙船地球号に乗っていて、誰も乗客ではない。僕たちは皆、乗組員なんだ。

HF そういえば、この前ニュースで金継ぎのことをやっていた。金継ぎが海外で受け入れられているっていう話。「物の価値観」という意味では、とてもわかりやすい。トムも金継ぎの作品作っているよね。

TS そう! 金継ぎはそれを見事に体現しているよ。壊れたものを、最も貴重な素材である金で修復する。それを祝福し「さあ、これは修復されたんだ!」と声高に主張するんだ。修復を祝うんだよ。

HF オリジナルの壺と金継ぎの壺、どちらが価値があると思う?

TS 僕にとっては、どちらも同じ。でも傷がついたというトラウマを乗り越えたからこそ、より価値があるとも言える。

HF でも、箱のまま、パッケージのまま、オリジナルの状態を保ちたいという人もいるよね。

TS 2つの見方があると思う。つまり、「美しさ」はギリシャ神話の美青年、アドニスのような完璧な若さという考え方もあると思う。でも、自分にも白髪が増えてきた今、美しさは若さに限ったものではないと主張したい。若さには美しさがあるが、経験にも美しさがある。それは、広告の価値観とは相反するものかもしれない。だって、老いについて不安を感じさせることができれば、クリームを売りやすくなるからね。皮肉に聞こえるかもしれないけど、皆は僕が言っていることがよく分かっているはず。

HF 面白いなと思うのは、例えばカップを割ったりすると、金継ぎではなく、オリジナルの状態に戻そうとする人もいるよね。一方で、金継ぎを見せようとする人もいる。

TS 君が言う通りだ。僕はどちらも真実だと思うし、どちらも真実であり得るということを受け入れることが重要だと思う。完璧であることが最善であるならば、修復されることも最善であると受け入れることができると思う。金継ぎでも何でも、僕たちは常に完璧な形を作ることを目指そうとするけれど、年齢を重ねるのと同じように、シワは出てくるものだよね。地球も同じだ。核廃棄物やゴミでこの星を汚してしまったかもしれない。でも、僕たちはできる限り掃除をし、この星で生き、記憶し、前へ進み、できる限りのことをする。とにかく、過去のことは過去のこととして、ポジティブに前に進んでいかなければならないんだ。

アートにはシニカルな面があるべき

HF ところで、最近のアートについて聞きたいんだけど、君の作品《Chanel Guilloyine(シャネル・ギロチン)》のように、僕はいつも、アートには世界を皮肉ったり、一種の笑いに変える側面があるべきだと思ってる。少し前まではそれが可能だった。でも最近は、たとえアートの世界でも、周囲の反応なんかあってそういうことをするのが難しいように思う。どう思う?

TS いい質問だね。とても難しい質問だ。そう、今はより難しくなっていることは確か。でも、やはり重要なのは、偉大な芸術作品は、見る人によって異なる意味を持たなければならないということ。

HF 僕も本当にそう思う。

TS そのために常に戦わなければならないし、ある意味、自分のコミュニティで自分の信じることをしなければならない。他はどうでもいいんだ。

HF でもそれを実行するのは難しい。

TS 難しいね。これは現代の問題のひとつ。しかし、だからこそ、僕たちが自分自身を理解し、他人を尊重するように注意すること、そして、僕たちがどのように何かを尊重し、どのようにそれを問題視しているかを同時に示す方法を見つけることが非常に重要だと思う。《シャネル・ギロチン》は消費主義への批判と見る人もいれば、消費主義への賛美と見る人もいる。僕にとっては、その両方。〈シャネル〉が好きなのは、エレガントで美しいから。最高級のものだから。でも、若さのみに美を優先させる価値観には賛同できない。それはとても破壊的で不誠実だ。同時にこのブランドを評価することもできる。どちらもあり得ると思う。それは一番難しいことで、私たちの考えは矛盾しているからね。世界的に過激な価値観が広まっているのは、過激主義がどちらか片方の立場を選ぶことを好むからで、中立的な政治はあらゆる立場を理解する助けになるからね。

HF それでも君はこの先も今の取り組み(make fun of)を続けることが出来ると思う?

TS 僕は「make fun of(=何かを茶化す)」という言葉には抵抗があるんだ。君が言いたいのはそういう意味ではないかもしれないけど、僕にとって、自分の仕事の性質上、ここは何があっても全力を尽くさなければならない場所だと思っている。例えば、クリス・ロックやデイヴ・シャペルのようなスタンダップ・コメディアンは、戦場の最前線にいて、この戦いに対処する最も優れた能力を備えている。同時に、最も危険にさらされている人たちでもある。でもそれが彼らの仕事なんだ。

HF 君にはそういうことを続けていってほしい。

TS うん、止められないよ! ところでヒロシは元気にしてた?

HF おかげさまで。コロナが始まってからずっと旅をしていなかった。今はようやく海外に出られるようになった。そういえば数カ月前にはポートランドへ行って街が変わっていて本当に衝撃を受けた。ポートランドはファッショナブルな街のひとつで、自転車に乗ったり、バイクに乗ったり、クールなスニーカーを履いたりしている人が多いと思っていたんだけど、今はジャンキーの街になってる。ニューヨークはどう? 雰囲気は同じ? それとも変わった?

TS 変わったね。世界的だと思うんだけど、ニューヨークは特に個人がビジネスを継続することが難しくなってきている。コロナ禍の間に僕たちはたくさんの中小企業を失って、国際的なブランドに取って代わられてしまった。これはポートランドと同じ現象だと思う。ポートランドには小さくても素敵な図書館や金物屋が多く集まっていたのに、姿を消しつつある。先日ソウルに行ったんだけど、そこには素晴らしいものづくりのコミュニティがあったんだ。でも開発に囲まれていて、3年後には状況は変わってしまうだろうね。

HF 多分、消えてしまうね。

TS 今年の初めにバンコクにも行ったんだけど、バンコクの人たちはまだものを修理したり、物づくりをすることを続けているからまだ時間があるかな。作り手が大都市にいるのはとても難しい。物を大切にする文化がある東京でさえそう。物作りを継続させるために必要な材料や道具を揃える手助けをしてくれる場所を見つける方が難しい。東京に長く住んでいて、物を大切にする人たちのネットワークを持っているヒロシは羨ましいね。僕のスタジオのあるソーホーエリアでは、僕が最後の修理工であり、金物と木の職人だと思う。30年前にソーホーに引っ越してきたときは、まわりはどこも金物屋と木工屋だらけだったんだ。たった30年という短い期間で、ものづくりの中心地からサービス業の中心地、消費者の中心地へと変貌を遂げてしまった。必死になんとかやっている人たちの状況を、さらにコロナが苦しくしてしまった。

HF だから、街はちょっと退屈になってきたんだ。

藤原氏の私物、〈ドラえもん〉にトムがサイン。「Made in JAPAN」がポイント。

対談後も愛用しているという「HIROSHI’S BAG」

藤原氏のキーボードには「拾ったらここに連絡して」とのメッセージ。

ヒロシは日本の文化的リーダー「Maven」だ

TS そうだね。以前会ったときジャマイカの話をしたよね。ジャマイカにはもう行った?

HF まだなんだ。

TS ジャマイカはとてもエキサイティングでオーセンティックだけど、サービスが良くないって話をしたよね。でもそういうことは文化的な優先事項じゃない。優先されるのはファッション、食べ物、スポーツ、言語、音楽、その他多くのこと。でも、そこに……ホスピタリティを期待して行っちゃいけない。そういうことではないんだ。あそこには人々の中に反骨精神やスピリットがありすぎる。だからこそクールな国なんだ。

HF でも、日本ではたくさんのホスピタリティがあって、彼らはホスピタリティのサービスをするつもりはない。それが日本だと思う。ホスピタリティってそもそも何なのか、誰も知らない。

TS ホスピタリティは茶道の基本。

HF 確かに。トムは茶道を実際にするんだよね。ある種のインスピレーションを受けるのかな。

TS もてなしは文化の一部。日本文化の柱だよね。そしてこのホスピタリティは、茶道の心得の1つ。もちろん西洋人の目には、最初はもてなしとは思えないかもしれない。僕の経験では、訪問者として、謙虚さと敬意とオープンさをもってそのような歓迎を受けると、心が広がるような気がする。例えばこの和菓子にしてもトヨタ車にしても、日本では品質を優先し、最高のものを作るということに感心させられる。その真剣さと謙虚さこそが「もてなし」であり真の卓越性を生み出すんだと思う。

HF そういう雰囲気や感覚は他のどこの国でも感じる? それとも日本だけ?

TS ホスピタリティに関しては日本は究極の国だと思う。でも、インスピレーションという意味では、他の文化圏でも感じることがある。僕たちはジャマイカについて話したよね。ジャマイカには文化的リーダーのエリートがいるんだ。食べ物や音楽には素晴らしい伝統が受け継がれていて、それは言語とストリートに起因すると僕は信じてる。ヒロシのことはもう何年も前から知っているけど、君は日本の文化的リーダーだよね。いつもあらゆることに興味を持ち、エキスパートとして知られているようにね。ニューヨークではそういう人のことを“maven”と言うんだよ。“maven”という言葉、聞いたことある?

HF いや、ないな。スペルは?

TS M -A -V -E -N. 調べてみて。いい言葉だよ。ヒロシはMavenだ。Mavenは、専門家や目利きのような人のことで、直接関わっているわけではないけれど、何かについてアドバイスしたり教えたりすることができる。僕にもメイブン的なところがある。ヒロシもたくさんやっていると思う。君の考え方や公言が情報となり文化となる。

ふたりの顔写真がプリントされたどら焼きにトムはおおはしゃぎ。

HF 次の来日予定は?

TS 来年の春か秋には熊野古道に行くつもりなんだ。

HF そうなんだ。伊勢市街の方が君には面白いかもしれない。伊勢には日本の起源で日本最大の神社がある。

TS そうだ! 伊勢神宮は僕のリストに入っているよ。

HF 毎月1日、伊勢神宮は朝4時に開門する。その前に暗闇の中、朝3時くらいから街中のレストランや骨董屋が開店するんだ。それは本当に面白いよ。骨董品屋だけでなくて街全体が起き出すよう。まだ真っ暗の中で赤い光が灯って、まるでジブリ映画の世界みたいだよ。

TS なんと、魔法のようだ! ぜひ連れてってほしい。

HF OK!

 

藤原ヒロシ|Hiroshi Fujiwara
1964年三重県生まれ。DJ、音楽プロデューサー、ファッションクリエイター。fragment design名義でファッションをはじめさまざまなジャンルのクリエイティブ・ディレクションを行い、ストリートカルチャーに多大な影響を与えている。