The View from Here

西村ケントに聞く、無心に没頭する力——連載「そこから何が見えますか」07

「音楽を聴く時とアレンジする時、演奏する時以外では、もう全然集中できないです。だからこそ、音楽を通して完全に集中する時間が、僕にとってはたまらないんです」

Interview by Sumiko Sato
movie by Shingo Wakagi
edit by Yuka Uchida

西村ケントさんを初めて知ったのは、数年前、誰かに教えられてチェックしたYouTube動画だった。そこではまだ14歳の少年が、何やらすごいギターを弾いていた。2003年大阪生まれ。今年やっと20歳になったばかり。YouTubeチャンネルの総視聴回数4,500万回以上、チャンネル登録者は30万人を超えた。世界中のコアなギターファンが「Kent Nishimura」を知っているようなのだ。そのテクニックとアレンジのセンスに驚嘆のコメントが次々と寄せられ、様々な国のプロのギタリストやギター製作者から手放しの賛辞と、応援したい、サポートしたい、一緒にライブがやりたいなどのオファーが絶えない。周囲には静かな熱狂がある。ケントさんのギターから伝わってくるもの、決して派手なテクニックを強調するような弾き方には見えないのにこころを揺らす、その演奏の正体に少しだけ近づきたいと思った。

インタビューの日、ケントさんは新しいギターを背負って登場した。自らデザインした初めてのギターだという。インタビュー場所となった馴染みのライブハウスで、ケントさんはそのギターの響きを試すように3曲を披露してくれた。それはその場に居合わせたスタッフと私にとって、思わぬ幸運な、幸福な時間となった。

 

——感動してしまいました。

西村 いまの曲はこのギターで初めて弾きました。

——そのギターはいつ届いたんですか?

西村 ちょうど1週間くらい前です。まだまだ慣れてない感じです。

——自分でデザインされた、と伺いました。

西村 そうですね。手書きのラフなスケッチを渡したんですけど、それをメーカーの方にきれいな形に仕上げていただいて。

——私はおそらくこれまでケントさんと話した人間の中で、もう断トツにギターのことを知らないと思うんです。ほんとうに素人です。きょうはそういう素人にもケントさんを知ってもらえるような話ができたらな、と思っています。それで、そのギターですが、どういうところが他のギターと違うんですか? とはいえ、あまり深いことを説明されてもわからないと思うんですが……

西村 僕みたいなフィンガースタイルに適しているのが、こういうボディシェイプのギターだと思っていて。カッタウェイ(ネックの付け根部分)のところがすごくえぐれているんで、ハイポジションが弾きやすいんです。あと、ちゃんと低音域も出るように、お尻のところがちょっと大きい。だからこういうボディシェイプのギターは、割とソロギター向きです。

——ギターをいちから自分のデザインで作るのは初めてだそうですね。感触はいかがですか?

西村 そうですね、すごくいい感じです。普通だと、作って、いったん音を出して、ここもうちょっとああやってほしい、こうやってほしいというふうに改良を加えていくと思うんですけど、このギターは一発目でいい音が鳴ったんです。このあと、ピックアップとかいろいろ付けていって、それでどんな音になるのか楽しみです。

思い浮かぶまで待つ

——話を少し戻しますが、読者には「フィンガースタイルって何?」という人も多いと思うんです。どういった演奏スタイルなのか、少し話していただけますか?

西村 そうですよね。まずそこからの説明ですね。どこから話そうかな。大きく2つに分けて、ピックを持つフラット・ピッキング・スタイルと、ピックを持たずに指で弾くフィンガースタイルがあります。チェット・アトキンスの名前とか出したいんですけど、チェット・アトキンスっていってもわからないかな……。カントリーギターの神様なんです。カントリーとかブルーグラスとか、元々あったトラディショナルな「指弾き」が、フィンガーピッキングっていわれていました。

——なるほど。

西村 それが1980年代半ばにマイケル・ヘッジスがギターを叩いたり、オープンチューニングを使ったり、革新的なギター・スタイルで『エアリアル・バンダリーズ』という傑作アルバムを発表したんです。その影響が次第に音楽シーンに広がって、2006年にスタートしたYouTubeの楽曲拡散の影響もあり、世界中に多様なスタイルのギタリストが登場しました。それらがフィンガースタイルと広く呼ばれるようにようになったと思います。でもどうなのかな、定義とかあるのかな。ちょっと僕もよくわかってない部分があります……。フィンガースタイルとフィンガーピッキングはもう全部一緒くたになってる感じです。

——初めからそのスタイルで弾いていたんですか。

西村 ではないですね。ギターを持ってすぐの頃は、音楽雑誌に載ってるコード表を見ながら、Cっていう音はこんな音が鳴るんだ、みたいな感じでやってました。ソロギターとか、フィンガースタイルとかわかんなかったんで。ただコード表を見て弾いて。で、ある程度コードを覚えてから、弾き語りみたいなものをちょっとやってました。

——そこまでは普通の人と同じですね!

西村 そうですね。でも1年ぐらいでもう飽きちゃって、それでちょっと迷走して、フィンガースタイルというのをやろうって切り替わって、いまに至るという感じです。

 

——そもそもなぜギターを弾き始めたんですか。

西村 ギターを始めたのは5歳の頃なので、物心つく前であんまり覚えてないんです。両親が洋楽も邦楽も聴いていて。あと、アコースティックギターが家にあったんです。すごい安いやつですけど。それも含め、音楽が周りにある環境だったので、自分も自分用のギターがほしいっていうことを言ったみたいです。

——お父さんかお母さんが、ギターを弾いていらしたんですか。

西村 特に。

——家にあっただけ?

西村 あっただけですね。

——じゃあ、勧められて、英才教育を受けたわけではないんですね。

西村 ではないです。まったくほったらかしで。

——どうしてハマったんでしょうね。

西村 わかんないですね。

——いつごろ「これだな」と思ったんですか?

西村 いつごろなのかな。いまのフィンガースタイルとかは、7歳ぐらいからですね。これやな、っていう。ギターを始めたのは5歳のクリスマスだったんで、ほぼ6歳。そこから1年後ですね。

——そしてファーストアルバムが12歳のとき。そこにはカバーもあったり、オリジナル曲もありますが、だんだんバンドの演奏を全てカバーすることに重心を置いていった。それはどういう考えからだったんでしょうか。

西村 もともと海外のソロギターの、かなり難易度の高い曲ばかりをコピーしていたんです。100%コピーするっていう感じで。本人とまったくおんなじ演奏がしたいと思って、それに夢中だったんです。もう夢中でコピーばっかりやってたんですけど、それもなんか飽きてきて。自分でアレンジもしてみたいなっていうふうになっていって、という感じです。

——アレンジをする時に、原曲の全てのパートをギターで弾くということをやっているわけですよね。

西村 ギターは6弦なので、厳密に言えば全部の音は再現できないんです。でも、たった6弦でも重厚感があるように聞こえる音使いってあるんです。それを模索しながらやっていると、自分のやり方が見つかっていった、っていう感じです。

——曲はどうやって探しているんですか。

西村 基本、YouTubeです。YouTubeで見つけて、これはアレンジしたら面白そうかな、みたいな、それぐらいの理由しかないんですよね。

——ケントさんが選ぶ曲は80年代とか70年代とか、私の世代にも刺さるような曲が多いと思っていたんですが、誰かにこの曲いいよって薦められているわけではないんですね。

西村 まず曲を聴いて、単純に心地よく感じるか感じないか、ですね。若手のミュージシャンでも好きな方はいっぱいいるんですけど、70年代のヨットロックみたいな曲のほうが好みに合うんです。ジャズも好きで聴くんですけど。実際に演奏する曲は70年代のAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)のほうが多いです。

 

——これなら弾けるな、ということは、弾く前にイメージできるんですか。

西村 まず曲を聴いて、チューニングが先に浮かぶ感じです。チューニングが浮かぶと、同時に曲のアレンジのイメージというか、完成形が大体浮かんでくる。ギターを弾く前の段階で出てくるので、頭の中でザーッと出てきたものを、そのまま落とし込むんです。チューニングが思い浮かばなかったら、もうアレンジしない。

でも、それでもどうしても弾きたい曲っていうのはあるんで、そういうのは取りあえず熟成させよう、と。いいアイデア、いいチューニングが思い浮かばない限りは完全に放置。いわゆる「降りてくる」っていう状態までは、変にアレンジしようとしない。そこは完全に割り切っています。

——ある時、こうしたら弾けるかもしれない、と思いつくわけですね。

西村 そうですね。いいチューニングが思いつくと、自動的にできる感じですね。

——いくつものパートを一人で弾くわけですが、これとこれを同時にはできなかった、というようなことはないんですか。

西村 そういうのはいっぱいありますね。

——そういうときは音数を調整していくんですか?

西村 そうですね。まずどの音を省こうか考えるんですよ。それで大体3パターンとか4パターンとかで作ってみて、微妙やなっていうやつは消去していく。

——この音を生かしたほうが、この曲は生きるな、と。

西村 そうですね。

——たくさん練習するんですか。

西村 僕は別に練習とは思ってないんですけど、そのアレンジが練習になっているかもしれないですね。

——毎日、何時間ぐらいギターを持っているんですか。

西村 持っている時間は長いです。持ちながら音楽を聴いたりするんで。実際、弾いている時間はよくわかんないですけど、ずっと音楽に触れてる感じです。

自分のために続ける

——始めの頃、押尾コータローさんをコピーしていたと伺いました。

西村 そうですね。最初はずっと押尾さんの曲だけコピーしていました。家に長渕剛さんのトリビュートアルバムがあったんです。いろんなミュージシャンがゲスト参加していて、その中に押尾さんがアレンジした「乾杯」が入っていて。その曲はギター始める前からちょくちょく車の中で聴いてたんです。

——お父さんは長渕剛ファン!

西村 そうですね。

——スティーヴ・ガッド、お好きですよね。

西村 大好きですね。

——私も好きなんです。

西村 そうですか! 僕はライブ3回見に行ってて。

——私も以前、六本木のジャズクラブとかに行きました。いいですよね。

西村 いいですね。

——私には語る語彙がないので、どういいかは上手く言えないんですけれど、なんだか生理的にとても好きなんです。スティーリー・ダンとかもそうですが、裏でちょっと叩いていても気がつくんですよね。

西村 そうですよね。ちょっと泥臭さもあるんですけど。あとパターンも独特ですよね。1回聴いただけで、スティーヴ・ガッドのテクニックっていうのがわかるというか。まず、いわゆる普通のファンクドラマーが好むドラムのセッティングじゃないっていうのがあると思いますね。スネアの音も、タイトではないんですよね。どちらかというとちょっと余韻が残るというか、スネアワイヤーなんか、シュッていう高音域がちょっと強いような感じ。それがスティーヴ・ガッドっぽい。

——普段、弾きたい曲以外ではどんな曲を聴いているんですか?

西村 キース・ジャレットとかパット・メセニー、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、ギタリストのテッド・グリーン、あとハービー・ハンコックとかですかね。アカペラグループのアクセントも好きで聴いています。ソロギターの音楽はあまり聴かないですね。

 

——YouTubeに動画をアップしようと思ったきっかけは?

西村 CDの音源に合わせてアップしたのが初期に何本かあるんですけど。そこからだいぶ期間が空いてから、オーディオインターフェースっていうマイクや楽器をパソコンに繋ぐ機材を買って、ちゃんとパソコンに音源を取り込んで、音作りとかも全部パソコンでできるようにして、これならYouTubeに動画上げてもええんちゃうかってなって、それで始めました。ちょっと記録用みたいな気持ちで動画投稿を始めたっていうのがありますね。

——コメントがいっぱい付いて、びっくりしませんでしたか?

西村 まったく想像してなかったです。曲も別に、流行りのジャスティン・ビーバーとかじゃないんで、全然再生もされへんやろうな、うまくいってチャンネル登録が5,000〜1万ぐらいいけばいいなって思ってました。でも、想像していたのとまったく違う結果だった。

——どんどん広がりましたね。しかもコメントしているのは海外の人が多いですね。

西村 狙っていたわけではないですが、海外の人にもちゃんと受け入れられてるっていうのはうれしかったですね。

——ギタリストや、コピーした原曲の方からもコメントが付いています。

西村 そうなんですよね。最近クリストファー・クロスの「Ride Like The Wind」をアレンジして動画をアップしたんですが、本人がシェアしてくれたんです! あれはうれしかった。

——いまいちばん気に入ってる自分の演奏はどの曲ですか?

西村 新しいアレンジは常に好きなんですけど、マイケル・ジャクソンの「Man In The Mirror」とか、スティーリー・ダンの「Pretzel Logic」とかが気に入っています。チューニングの特性をうまく生かせてる感じがするので。

 

——いまの自分から、最初の頃のYouTubeで弾いている自分を見ると、どんなふうに感じるんですか?

西村 あんまり聞きたくないですね。全然弾けてないやん、みたいなのはありますね、やっぱり。

——どういうところが? テクニックですか。

西村 音使いが確立されてないというか、自分の好みみたいなものもまだはっきりわかってないというか。そこはいまなら絶対そう弾けへんな、みたいな。一つ一つツッコミを入れてしまうような感じですね。

——最近、敢えて以前やっていた曲を弾いたりもしていますね。

西村 そうですね。ちょっとずついまの感覚で弾けるように常にアレンジしていってます。

——私はYouTubeをずっと拝見していて、実はライブをやっていらっしゃるのを知らなくて。ライブと1人で演奏しているのとは違いますか?

西村 違いますね。やっぱりお客さんを前にして弾くと緊張感が全然違います。それも含めて楽しいっていうのはあるんですけど。初めはライブの面白さがよくわからないというか、こんなに緊張してまで弾いて心地いいんか?みたいな気持ちがあったんですけど、最近は爆音で、自分の気に入った音で、お客さんに聴いていただけるのを楽しめてます。

——ライブハウスでやると、ステージから、こちらが思ってる以上にお客さんの様子がわかるって、あるミュージシャンの方がおっしゃってました。ライブはもっとやりたいですか?

西村 そうですね。食い入るように見る人とか、ぼーっと聴く人とか、体を揺らしながら聴く人とか、ほんとに皆さん反応が違うんで、面白いなと。まだまだ行ったことのない地域がたくさんあるので、ちょっと秘境のようなところでもやってみたい。会場によってお客さんの雰囲気が全然違うっていうのも面白いところですね。

——世界ツアー、どうですか。小さめの箱で世界を回ったら面白そうじゃないですか。どこに行っても必ずコアなオーディエンスがいそうな感じがします。

西村 やってみたいですね。

——ギターは聴いてもらうことを前提にやっているんでしょうか。

西村 聴いてもらうことが前提ではやってはないですね。単純に自分がただ好きでやっている感じ。

——ギター以外のものに惹かれた時期はないんですか。

西村 ありますね。折り紙にハマってた時期があったんですよ。小学校の低学年の時にやっていて、かなり芸術的なものをいろいろ作ってました。1枚の折り紙でハリネズミとか、すごく複雑なやつがあるんですけど、そういうのを折ってみたり、すごく小さく折ったパーツを大量に組み合わせてヘビを作ったりとか。

——凝り性ですね。それも自分から急に? どこかで見たんですか。

西村 確かきっかけはYouTubeじゃなかったかな。YouTubeで折り方を見て、それをずっとやってましたね。

——何歳ぐらいのとき? 作品は残ってないんですか。

西村 小学校の2年、3年ぐらい。もっと前かな。正確には覚えてないんですけど。もう全部捨てました。捨てたか誰かにあげたか……

——もうやらないんですか。

西村 やらないですね。折り紙をやめた理由も、ギターだけ弾いていたいって思ったからなので。

——その後はギター一筋になった。どうしてギターだったんでしょうね。

西村 何でですかね。家にギターしかなかったからっていうのはあるかもしれないですね。触ってると次第に上達してきて、上達したことが実感できると、それがモチベーションになって、もっと新しいことに挑戦したくなる、みたいなことがずっと続いていまに至っている感じです。

——ギターのどこに惹かれたんでしょう。ケントさんにとってギターの魅力って何ですか。

西村 僕は、ギターってすごくいろんな音が鳴る楽器だなと思ってて。それこそパーカッションの音やったりとか、チューニングを思いっきり落としてベースっぽい音も鳴らせたりとか、スラップでベンッてやったりとか。あと最近気がついたんですけど、5~6弦を人差し指の腹の辺で弾くと、ちょっとウッドベースっぽい音になるな、とか。割といろんな楽器の音が鳴る、表現の幅はかなり広い楽器だと思います。

——まだ探求し尽くしていない。

西村 そうですね。ちょくちょく研究っていうか、最近のギタリストはどんなことやってるんかなってYouTubeで見たりするんですけど、まだこのテクニックは誰も使ってないな、というものも結構あったりして。なので、まだまだ発展途上。未開拓な弾き方や表現方法があると思いますね。

——古い楽器なのに不思議ですね。

西村 そうですね。

——いまも上達してるなっていう感じが持てている。

西村 ありますね。それこそ1週間程前に海外の友達が来ていたんですけど、彼もかなりギターが弾けるので一緒にソロとか回してたら、なんかソロ弾けるぞって。それまで全然ソロとか弾けなかったんですけど、弾けてるやん!って気がついたり。そういうちょっとした成長みたいなのは日々感じています。

あるコード進行を決めて、例えばワン・シックス・ツー・ファイブとかっていう、よくあるコード進行なんですけど、その中でどれだけいろんなコードを使えるかなみたいなのを、その場で即興で弾きながらやってて。それで、このコード、前は自然に出てこなかったのに、急にちゃんとした使い方できてるとかっていうのに気づいたり。だんだんストックが増えてきてるっていう、そういうのですね。

——まだまだ先に行けるイメージがありますね。

西村 そうですね。

 

——大きなエフェクターボードもお持ちですよね。

西村 そうですね。僕のエフェクターボードはかなり大きいですけど、すごい派手な音が鳴るのかっていったら、全然そうでもなくて。エフェクターに頼ってるって言われるんですけど、全然そんなことない。一つ一つの音を分けて入れてるんで、すごい大変なことになってるんですけど、音自体はすっごいナチュラルなんですよ。

いろんなエフェクターでロックな感じで音作りしてるわけじゃなくて、それぞれナチュラルな、自然な音がまず土台にあって、それにオクターバーっていう、1オクターブ、2オクターブ下の音が鳴るエフェクターを追加して、ナチュラルな音に低音を加えるみたいな感じ。あとリバーブとか、シャーっていう残響音とかも、ナチュラルな音にそれをちょっと乗っけるみたいな感じなんで。

——YouTubeは続けていくのでしょうね。他の人とセッションしている動画が1本だけありましたが、ボーカルも入っていてびっくりしました。これからもっと他の人と一緒にやってみようと考えているんですか?

西村 あのセッションをした方からは一緒にやりませんかってオファーをいただいて。それでやってみて、意外と反応がよかったというか、もっと他のミュージシャンとセッションするとこが見てみたいって方が割といらっしゃって。これからそういうこともちょっとずつやっていこうかなっていうのはありますね。でもできればフィンガースタイルではなく、他の楽器の方とのコラボに興味があります。

集中することの快感

——5年後とか10年後とかに、どんなふうになっているか、イメージはお持ちですか? こんなことができてたらいいな、とか。

西村 特になくて、それが。でも常に音楽を探究するモチベーションがあるんで、1週間前と比べてだいぶ見える景色が違うみたいなことも多々あるので。そういうのに身を任せて、っていう感じです。アーティストとしてこの先こんなことがやりたいみたいな明確なビジョンはないんですけど、高速なビバップのフレーズが弾けるようになったりしたら、ひょっとしたらジャズギターでバンド組んで全国回ろうかみたいなことになるかもしれないですし。その辺、ちょっとわかんないですね。

——いい意味で成り行きで。

西村 そうですね。成り行きに任せるっていうのはありますね。

——西村さんにとって音楽とは?

西村 周りのことを一切忘れて、めちゃくちゃ没頭できるのが僕にとっての音楽なんですね。それこそ、先ほども言いましたけど、折り紙にハマってた時期も、YouTubeで折り方をまずじっくり見て、それで折って、折って……みたいな。周りのこと、存在とかも完全に見えなくなるぐらい、すごい集中してやってたんですよ。それとおんなじようなことですね。

——集中するのが快感なんですね。

西村 そうですね。でも音楽を聴く時とアレンジする時、演奏する時以外では、もう全然集中できないです。だからこそ、音楽を通して完全に集中する時間が、僕にとってはたまらないんです。

——その場所を獲得したというか、そういうものを発見できて、よかったですね。とても早くにそこが見つかったところが、特別なのかなっていう感じがします。よかった。私たちにとってよかったですね、西村さんにそれを見つけていただいて。

西村 そうですね。それだけ集中できるのが、僕はいま、音楽だけなんで。だからよかったなと思って。

——もしそこで集中ができなくなる時が来たら、何か違うことをするかもしれないですね。

西村 そうですね、別の何か。でも多分、音楽関連の何か、他の楽器を触ったりだとかっていう感じですかね。

——強いて言えば、音楽以外で何か興味があることとか、こういうことをやっている時間もある、みたいなことはありますか。

西村 ないですね。

——ない!?

西村 ないですね。

——阪神タイガース優勝とか、関係ない?(インタビュー当日に阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝)

西村 まったくわかんないです。

——そっか!

西村 ギター以外で好きなことありますかって聞かれたら、音楽聴くことですって毎回言うんです。同世代だと、家に帰ったらずっとゲームしてるみたいな、その感覚ですね。10時間連続でゲームやったとか、そういう人はちらほらいるじゃないですか。そういう感じですよね。

——高校時代の友達と会ったりしますか。

西村 もう全然会わないです。

——さっきマネージャーの方から聞いたんですが、「街のどこにでもいるようなお兄ちゃんが、ギター持たしたらすごい」というのを狙ってるそうですね。

西村 狙ってるというか、結果的にそういうふうになったという感じで。あんまり着飾るようなことに興味がないので。だからあんまりアーティストっぽくはないと思います。

——自然にそういう二十歳になっていた。

西村 そうですね。

 

——ステージに立った時の心持ちは、以前とは変わってきていますか?

西村 いまでもステージに立つ前は緊張するんですけど、取りあえず、緊張していてもすごい集中モードに入る瞬間があるんで、それを大切にしてます。ただ、家で何も考えずに演奏してる状態が、いちばん演奏としてのクオリティーが高いと思ってるので、それをステージの上で再現したいというのはあります。難しいですが。

もちろんお客さんを前にしているので、100%家の状態に持っていくっていうのは難しいんですけど。僕もお客さんの反応も見つつ、家で練習したものを100%そのまま演奏するわけじゃなくて、ちょくちょく弾き方とか変えたり、次のフレーズどうしようかなみたいなことを考えたりする。会場によって、ちょっとここ強めに弾こうかなとか、そういうのがあったりしますね。

——ちょっと盛り上げてみようかとか。

西村 そうです。

——いままでやったいちばんキャパの大きいホールは何人ぐらいですか。

西村 香港でやったのがいちばん大きかったですかね。キャパ1,200でしたっけ。

——どんな感じでしたか? 

西村 違いましたね、やっぱり。音の反響の仕方が、日本国内で普段やってるライブとは全然違って。まだ慣れてないなっていう感じで、ありますね。

——もっと大きいところでやってみたくなりませんか。

西村 そうですね。そういう環境にも徐々に慣れていきたいなとは感じてます。

旅する気分になれる曲

——これから新しくやろうという曲は、頭の中に何曲くらいあるんですか。

西村 結構ありますね、数えてないですけど。同時並行でいろいろアレンジしていて。スティーリー・ダンの曲も、多分4~5曲同時並行でやってます。

——スティーリー・ダンの「Aja」はライブでは披露していないそうですが、今後演奏する予定はないんですか?

西村 「Aja」も、新しいアレンジにしたいっていうのはあるんですよね。昔のバージョンの、テンションノートの使い方とかは、ちょっとまだ甘いなって思うものがあったりするんで。ドラムが入った後のパートとかも、ちょっとうねりが少ない。当時の演奏を聞くと、ちょっとまだ甘いなと思ったりするんで。そこも改良していきたいですね。「Aja」はかなり転調が多いので、チューニング選びがまた難しいんですよね。昔のやつはドロップDっていう、通常のミラレソシミのチューニングから6弦だけレの1音を下げるチューニングなんですけど、もうちょっとちゃんとした、あの曲に合ったチューニングを見つけたいと思ってるんですけど、まだ降ってこないですね。

——きっと降ってきますね!

西村 そうですね。

——公演の予定が決まってきていますね。新しいハコも。

西村 そうですね。12月1日の神戸は初めてやるところですね。ぎりぎりにすごいいいアレンジができたら、それも披露しようかな。あと、来年4月からのカナダツアーが決まりました。ドン・ロスというカナダ出身のアコギ界を代表するギタリストと一緒にまわります。彼が以前、僕の「Aja」を聴いて、わざわざメールをくれて。その時はまだ14歳でしたが、18歳になったら一緒に演奏しようと言ってくれていたんです。コロナ禍でなかなか実現しませんでしたが、ようやく形になりそうで、楽しみです。

——作曲はどうですか? オリジナルをもっと作るとか。

西村 やります。「早よ作らんかい」って言ってくれる方が結構いらっしゃるんで。

作りたいんですよ。即興で、何も考えずにいいメロディーが出てくるまでひたすら弾くみたいなことはやってるんですけど、それを形にするってなると、ちょっと難しい。いろんな音楽を聴いてるんで、自分の中でハードルがすごく上がってるんですよね。自分が気に入る曲のレベルがかなりハードルが高いんで、うまくまとめられたらいいんですけど、まとめる作業がすごく難しいんですよね。ちゃんと起承転結にしたいというのがあるんで。メロディのモチーフはなるべくシンプルだけど、それに乗せるコードはいろいろ転調するみたいな、そういう曲を作ってみたいと思いますね。すごい難しいんですけどね。

——完成すれば、いままでにないものになりそうです。

西村 僕が大好きなキース・ジャレットとかパット・メセニーは、モチーフは長いものもあれば短いものもあるんですけど、短いモチーフでも転調し続けるんですよ。モチーフの形は一緒なのに、乗せるコードのキーをちょっとずつ変えたりというのを、すっごい自然にやるんです。大きな芯が通ってるのに、景色が変わっていくような感じがあって、そういうのが僕はすごい好きで。聴いていて旅してる気分になるというか。そういう曲を作ってみたいですね。聴いていて、過去の体験と結び付けてしまうというか。自分の好きな曲を聴くと、昔の思い出がよみがえってくるみたいなこと、あるじゃないですか。僕にとっては、そういうのがいい曲かなと。そういう曲を作っていきたい。

——キース・ジャレット、パット・メセニーときいて、少しイメージできました。旅するような曲。できるといいですね。

西村 そうですね。

——とっても楽しみです。どうか続けていってください。ありがとうございました。

西村ケント 2024 ソロ・コンサート

日程
2月10日(土)大阪公演
  12日(月・祝)名古屋公演
  23日(金・祝)横浜公演
  24日(土)東京・吉祥寺公演
  25日(日)東京・新宿公演 

profile

佐藤澄子|Sumiko Sato
1962年東京生まれ、名古屋在住。クリエーティブディレクター、コピーライター、翻訳家。自ら立ち上げた翻訳出版の版元、2ndLapから『スマック シリアからのレシピと物語』発売中。訳書にソナーリ・デラニヤガラ『波』(新潮クレスト・ブックス)がある。