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森からの贈り物。美味なる季節のジビエ料理5選

いよいよ今年も、北国を中心とする狩猟が本格的にスタート。ハンターたちから届く、この時季まさに旬を迎えているジビエ——中でもクセがなく食べやすい、鹿を使った絶品料理をご紹介します。

EDIT BY TM EVOLUTION.INC

❶ ジビエは哲学。その旨さと奥深さを堪能させる、ELEZOが開いた入門ビストロ——ELEZO GATE

「蝦夷鹿のテリーヌ」¥1,200は、とても素朴な味わい。肉のそのものに臭みがないから、スパイスや味付けも必要最低限なのだ。ジビエのシャルキュトリにも引き算の料理哲学を応用するELEZOならではの一品。

「蝦夷鹿100% ELEZOバーグ」¥3,300。肩甲骨まわり、腕まわりの部位を選んで使用。この部位はステーキで食べるとやや硬めだが、ミンチにすると味が濃く、肉同士の結着も優れ、つなぎが要らない。ゆえに、100%の肉肉しさが楽しめるのだ。ソースも鹿の出汁からとったデミグラスソース。

「蝦夷鹿のステーキ」¥3,900。この日は、“腿肉のヒレ”とも呼ばれる「シキンボ」を使用。鹿肉らしい濃厚な味わいと、程良い咀嚼感が楽しめる。肉に脂がのり、ポテンシャルが高まっているこの時期に、是非楽しみたいメイン料理だ。

眼の前で繰り広げられる豪快な手捌きに目は釘付け。そして、なぜこのように調理をしているのか、シェフは丁寧に教えてくれる。

トレードマークの大きな暖簾をくぐると、中央の調理台を中心にして半円状のカウンターが12席。まるでシェフズテーブルのようである。そう、このテーブル席は、ジビエの奥深さをシェフから直に教えてもらえる貴重な場所だ。ELEZOとは、2005年に北海道十勝にて創立されたジビエを専門とする組織。十勝に生息する野生動物を狩猟し、いただいた命に感謝するべく、余すところなく使い切ることを信条とする。狩猟方法はライフルに限り、一発で仕留めるそうだ。

そのジビエを最適な状態で加工し、有名レストランに卸してきたELEZOだが、現在は事業領域を拡大。ジビエを使ったシャルキュトリの製造や、ジビエを提供するオーベルジュの運営と、ジビエを軸にして多彩な展開を見せている。その一環として誕生した『ELEZO GATE』は、ELEZOの哲学をテーブルの上で実食して学べるレストランだ。ビストロのようなカジュアルな雰囲気ながら、提供される料理はELEZOの真髄であり、ジビエを専門的に扱ってきたノウハウがここでは存分に披露される。例えば、この店で提供されるシャルキュトリは、ほぼ無添加。作り置きせず、新鮮なうちに提供されるから、驚くほどに素直な味わいなのだ。臭みがないから、スパイスも必要最低限に留まる。ジビエがこんなにも素朴な旨味を備えているとは、感動的だ。

鹿肉のステーキを焼く時も、ELEZO独自の理論がある。肉は常温に戻さず、冷蔵庫から取り出して、すぐにグリル台へ。強火で肉の表面を焼き固め、肉汁をまずは閉じ込める。そしてオーブンによる火入れも240℃と、かなりの高温度帯だ。筋繊維にアクションをかけ、タンパク質が凝固しないギリギリまで温度を上げては、休ませることを繰り返す。特に鹿肉は赤身肉で、加熱調理中にヘナヘナとしてしまう。ところが筋繊維に対してアクションをかけると、適度な張りが保たれ、イキイキとした肉質となる。これがELEZOが行き着いたステーキの調理法なのである。

ジビエは個体差があり、鉄分も多く、特殊な扱いが要求される。料理人の知識と腕はもちろん、店に持ち込まれる間の仕事も、またさらに大切。その専門的なノウハウを国内で牽引するELEZOの貴重な仕事を、こんなにも間近で見て食べて楽しむことができるとは、実に素晴らしいことなのだ。


ELEZO GATE(エレゾゲート)
住所=東京都港区虎ノ門1−17−1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー3F 虎ノ門横丁
電話=080-7505-2929
営業時間=11:30〜14:00(L.O.13:30)/17:30〜23:30(L.O.フード22:00、ドリンク22:30)
定休日=日曜
※各種電子マネー、交通系IC、各種クレジットカード利用可
 
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY KIPPEI MITSUYA

❷ 徳島県の山中、「命」として対峙した鹿肉をいただく——「グランド ハイアット 東京」フレンチ キッチン/フィオレンティーナ

「グランド ハイアット 東京」の『フレンチ キッチン』で味わえるジビエメニューは、徳島県から直送される鹿肉を使った「阿波地美栄(あわじびえ) 日本鹿腿肉の低温調理 渭東ねぎ 柿のチャツネ 赤ワインソース」¥6,600(サービス料15%別)。提供はディナー18:00〜21:30、11月30日まで。猟師の家形智史(やがた さとし)さんが「生け捕り」する鹿肉が使われ、野生本来の肉の旨味を味わえる。肉の断面の深みのある赤色は「家形レッド」とも言える、家形さんが狩猟した鹿だからこそ出る特別な色合いだ。

同じく「グランド ハイアット 東京」にあるイタリアン カフェ『フィオレンティーナ』で提供される徳島県産ジビエメニュー。右上から時計回りに「阿波地美栄 鹿肉ソーセージと天恵菇(てんけいこ)のピッツァ」¥2,750、「阿波地美栄 鹿肉のラグーと天恵菇 自家製ガルガネッリ」¥2,530、「すだちぶりのカルパッチョ すだちのビネグレット」¥2,310(3品ともサービス料15%別)。天恵菇とは直径7センチ以上の大きな傘を持ち、肉厚の食感を楽しめる椎茸で、阿讃山脈の近くで栽培されているものを仕入れている。提供はランチ11:00 ~ 14:30(土・日・祝〜15:00)、ディナー18:00 ~ 21:00。

徳島県・牟岐(むぎ)町で猟師兼サーフボード職人として活動する家形智史さん。『フレンチ キッチン』で11月30日まで提供されるジビエ鹿肉の特別メニューは、家形さんが狩猟した鹿肉が使われる(仕入れ状況により提供できない場合も有り)。家形さんは「命」と向き合うことを大切にし、罠にかかった鹿やイノシシを一旦生け捕りにして、落ち着かせる。『フレンチ キッチン』では家形さんと、その様子を追う写真家の大杉隼平さんによるトークイベントも行われ、家形さんから猟に対する思いが語られた。

六本木ヒルズにある「グランド ハイアット 東京」では、日本各地の豊かで美味しい食材をレストランメニューに取り入れ、その魅力を広めると共に生産者をサポートする「グランド グルメ トリップ」を企画している。11月は徳島県とコラボする「グランド グルメ トリップ〜徳島〜」を開催中だ。

徳島県は海や川、山の幸に恵まれ、京都の料亭など関西エリアの料理店も好んで徳島産食材を使っている。「関西の台所」とも言われるほどだ。ジビエに関しては「徳島の豊かな自然が育んだ食材」を安心して美味しく食べてもらおうと、県が「阿波地美栄(あわじびえ)」というブランド名でガイドラインを作り、普及に努めている。

その「阿波地美栄」を捕獲する猟師の中でも家形智史さんは異色の存在だ。「ただ狩猟するだけではなく、『命』として愛情ももって接したい」と話し、まずは生け捕りにする猟法にこだわる。そこには生き物に対する尊敬の念がある。またそれは、そのジビエを本来の旨味そのままに、美味しく食べていただきたいという思いにもつながっている。

そんな家形さんが獲った鹿肉をいただけるのが『フレンチ キッチン』だ。11月30日までの期間限定で、猟の状況にもよるが、低温調理されてもっちりとした食感と凝縮された野生の旨味を味わえる「阿波地美栄 日本鹿腿肉の低温調理 渭東ねぎ 柿のチャツネ 赤ワインソース」が提供される。料理長の有本豊さんは家形さんの猟の現場へ出かけ、そこで感じたこと、得たことを皿の上で表現している。肉に添えられる柿のチャツネは山の柿から着想され、渭東ねぎで罠を表現しているそうだ。また、イタリアン カフェ『フィオレンティーナ』でも阿波地美栄を使ったメニューが楽しめる。是非、徳島の山の味わいを楽しんでみてほしい。


フレンチ キッチン
住所=東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京2F
電話=03-4333-8781
営業時間=ブレックファスト6:30〜10:30/ランチ11:30~14:30(土・日・祝~15:00)/アフタヌーン14:30(土・日・祝 15:00)~17:00/ディナー18:00~21:30/バー11:00~21:30
定休日=無休
※各種クレジットカード利用可


フィオレンティーナ
住所=東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京1F
電話=03-4333-8780
営業時間=ブレックファスト9:00~10:30/ランチ11:00~14:30(土・日・祝~15:00)/アフタヌーン14:30~18:00(土・日・祝15:00~)/ディナー18:00~21:00
定休日=無休
※各種クレジットカード利用可
 
TEXT BY TAKESHI KONISHI

※2023年11月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。