FOOD THINKERS 04

伝統の発酵食「酸菜火鍋」に予約殺到の秘密とは?——ニッポンの美味しいを再発見! #4

50余年の歴史を誇る名店で毎冬登場する名物が「酸菜火鍋」。白菜を発酵させた中国の漬物、酸菜を調味料に使う鍋は、旬を迎えた白菜の旨みを丸ごといただく冬の福音だ。

TEXT BY Jun Okamoto
PHOTO BY Takahiro Imashimizu

秘密その1 味わいがクセになる自家製の白菜漬け

酸菜火鍋 発酵した白菜漬けの酸味がこの鍋の味を決定づける。じっくり炊いて脂を落とした豚バラ肉は煮込むほどにトロトロに。凍らせて水分を抜いた豆腐は牡蠣や蟹の出汁がしみて味わい深い。前菜、酸菜火鍋、デザート付き。一人前8,000円(注文は4人前より、1月〜3月限定)

秘密その2 その時、一番いいものを厳選した食材

白菜 旬は霜が降りる晩秋から冬で、寒くなるほどに甘みが増す。原種は地中海沿岸原産といわれるが、現在の形に進化したのは中国北部だ。

牡蠣 1月〜3月に丸々と太って栄養を蓄える真牡蠣の中でも 広島産の大きいものを厳選。ミルキーで濃厚な牡蠣は煮 込んでも柔らかい。

豚バラ肉 肉の肌理が細かく健康的に育てられた国産の豚バラ肉。赤身はクセがなく脂に甘みがある。いいものを吟味するため産地は特定していない。

馬家に代々伝わる美食のレシピを
健康な国産の食材で極める

家ごとにおかかえ料理人を持っていた、かつての中国上流階級。そこに伝わるのは、レストランのような派手さはなくとも、滋味にあふれた素晴らしいレシピ。今でこそそうした料理に注目が集まっているが、50年以上前から馬家の味を日本に紹介してきた華都飯店は稀有な名店だ。

「家庭料理ですから、食べて体に負担かがないことが第一です。そこで植物性の油だけを使っています」と教えてくれたのは料理長の花井さん。油は使う量もできるだけ控え、化学調味料もいっさい不使用。食材は、国産の中からその時期にいいものを吟味している。「作物は季節や天候によって良し悪しが変わるものですから、特定の産地よりも品質そのものを重視します」という。

この店でことに有名なのが冬限定の「酸菜火鍋」。これは旬の白菜を発酵させた酸菜を使った中国東北部の料理だ。具は冬の味覚である牡蠣や蟹、コトコトと長時間火にかけて脂を落とした豚バラ肉など。食べ疲れない優しい味が身上の華都飯店では、繊細な日本の食材を通して、素朴ながらも、仕込みの手間を厭わなかった古き佳き時代の心をうかがい知ることができる。

花井秀典|Hidenori Hanai 華都飯店 料理長調理師学校を卒業後、華都飯店の厨房に入る。以来30年余にわたって、華都飯店の味を支えてきた。料理人としてのモットーは「お客様に喜んでもらうこと」。素材に真摯に向き合い、丁寧に調理する。馬家に伝わる料理はもちろん、北京料理や四川料理から現代的なテイストまで幅広く手掛けている。

華都飯店
1965年創業。中国文化の根底に流れる医食同源の思想に裏打ちされた伝統料理が今なお残る名門中華だ。料理研究家・馬遅伯昌さんの家に伝わるおもてなし料理をベースに、北京料理や四 川料理など、古典から現代風のアレンジまで、メニューの幅広さが魅力。