FOOD THINKERS 03

THE MOON 増谷シェフの国産食材を使ったモダンフレンチ——ニッポンの美味しいを再発見! #3

シェフが食材に込める思いからスペシャリテを読み解く「FOOD THINKERS」。今回はシーズンが開幕したばかりの冬の味覚、ブリが登場 。日本の旬を華麗なフレンチに仕立てる増谷シェフによる、この冬初のブリを使ったスペシャルなメニューをご紹介 。

TEXT BY Jun Okamoto
PHOTO BY Takahiro Imashimizu
INTERIOR PHOTO BY THE MOON

「ブリ、つぶ貝、アオリイカ、カレーオイルのパウダー仕上げ」 冬に向けて脂がのるブリと旬を迎えた根セロリが冬の始まりを予感させる。ひと塩した生のブリ、つぶ貝、表面を炙ったアオリイカに根セロリやマイクロセルフィーユの爽やかな香り、カレーの風味を添えて(1万円のコースより)。

ブリ 寒くなるに連れて美味しくなる冬の味覚。真冬に北陸周辺で水揚げされる最も脂がのったものは「寒ブリ」と呼ばれて珍重される。

つぶ貝 つぶ貝の中でも比較的大きく、寒い海で獲れるのがマツブ。独特な磯の香りとコリコリとした食感が特徴。今回は北海道釧路産。

根セロリ フランス名は「セロリラブ」。セロリの変種で肥大した根茎はセロリより繊細な味わい。まだ国産のものは数少ないがこちらは北海道産

日本らしい食材を使うことで新しい料理の方向性が見えてくる

フランス修行時代は現地の食材を使うのは当たり前、帰国してもそうしなければならないという思いが強かったという増谷シェフ。やがて日本で料理を作るうちに「徐々にですが、スタイルや技法はフレンチでも、身近にある素晴らしい日本の食材を使えばいいと思えるようになったんです」と話す。

選り抜きの国産食材を駆使する増谷シェフが、冬の皿に選んだのはシーズンが始まったばかりのブリ。走りの時期は北海道からスタートし、寒さとともに南下するブリは北陸周辺でピークを迎える。「今が走りですが、これから脂がのってくると劇的に味わいが変わっていきます」。そこがブリの魅力と増谷シェフはいう。

ひと塩した生のブリに、冬が旬の根セロリの香りと甘み、カラマンシービネガーで和えたエシャロットの酸味、パウダー状にしたカレーオイルという、幾重にも味覚と香りを重ねた皿は繊細にして複雑性を合わせ持つ。日本特有のブリのような食材を使うことで、増谷シェフは自身の料理の方向性を探りたいと考えているのだ。そのスタイルは意欲的で、現代のフレンチのスタイルへと着地させながらも、日本の旬を意識して楽しむことを忘れない。

増谷武士|Takeshi Masutani THE SUN & THE MOON EXECUTIVE CHEF/総料理長。フランスではミシュラン3つ星「レストラン オーベルジ ュ・ド・レリダン」(在籍時は2つ星)や「プチ・ニース」といった名店で修行。帰国後は在日フランス大使館の副料理長などを経て現職に。レストランメニューの他、併設するミュージアムとの個性的なコラボレーションメニューでも豊かなアイデアを披露。

THE SUN & THE MOON  森タワー52階にある素晴らしく眺めのいいレストランは10月にリニューアルしたばかり。増谷シェフが手掛けるのは、旬の野菜や食材を盛り込んだモダンフレンチ。アフタヌーンティーも楽しめるオールデイラウンジやカフェも併設している。