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FRATELLI PARADISO 中安シェフの決め手は飛騨高山の地野菜——ニッポンの美味しいを再発見! #2 

食材は“美味しい”だけでなく、どのように作られているかが重要といわれる時代。オーストラリアで、感度の高い人々に支持されるダイニング「フラテリパラディソ」のヘッドシェフを務めた中安俊之シェフは、現在住んでいる飛騨高山では野菜作りに関わっている。シェフ自慢の野菜を盛り込んだシンプルなカプレーゼを食べれば素材の大切さが見えてくる。

TEXT BY Jun Okamoto
PHOTO BY Takahiro Imashimizu
INTERIOR PHOTO: FRATELLI PARADISO

残暑に涼をもたらす野菜が主役の「モッツァレラ カラフルトマト ビーツ バジル」1,800 円(税抜)
シンプルなカプレーゼはイタリアの定番。通常はモツァレラ、トマト、バジルの組み合わせだが、そこにこの店らしいアイデアで、ごく薄切りのビーツをプラスした。ビーツのシャリッとした瑞々しい食感が小気味よい。トマトやビーツは、中安シェフと繋がりのある飛騨高山の農家が作る有機野菜を使用。同じトマトやビーツでも、色やサイズ、香り、味わいが異なる数種類の品種を使うことで、シンプルながらもより食材の存在感をくっきりと表現している。

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トマト 原産は南米の高原地帯。高温多湿を嫌うので、旬は真夏ではなく春から初夏と秋から初冬。つまりこれから秋にかけて美味しくなる。
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ビーツ 地中海沿岸地方原産のアカザ科の根菜。砂糖の原料になる甜菜と同類でショ糖を多く含んでおり独特の甘味がある。旬は夏と晩秋の2回。

料理を通して食材の背景や生産者の思いまでも伝えていきたい

2年前に飛騨高山でオーベルジュをスタートさせた中安シェフ。そこで使う野菜は、地元農家に声をかけて、自分が使いたいものを育ててもらっているという。生産者の数は徐々に増えて、今では20軒ほどの農家と付き合いがある。

フラテリパラディソ ジャパンの中安俊之エグゼクティブシェフ イタリア修行中、フラテリパラディソのオーナーシェフと出会って意気投合。シドニーに呼ばれてヘッドシェフとして約9年間務める。2015年に帰国して飛騨高山「オーベルジュ飛騨の森」をオープン。2017年、フラテリパラディソのジャパン・エグゼクティブ・シェフに就任。

中安さんが扱いたいと思っているのは、「エアルーム野菜」と呼ばれる、50年以上は人為的に交配されていないもので、栽培地の特性を活かした伝統品種だ。シドニーのフラテリパラディソではそうした野菜だけを使った「エアルームサラダ」というメニューがあった。表参道ヒルズの店で出す「モッツァレラ カラフルトマト ビーツ バジル」にも飛騨高山からとどくエアルーム野菜が使われている。

「僕は東京出身ですが、飛騨高山に住んで食材の現場のことがよく分かるようになりました。農家さんとも頻繁にあって食事をしたり、野菜の話をしたり、とてもいい関係なんです」

「ボッタルガ プレッツェル」1,700 円(税抜)はシグネチャーディッシュのひとつ。自家製の燻製オイルとイタリアのからすみ、ボッタルガを使ってごく軽いクリームに。シードを散らしたプレッツェルと。

「アマトリチャーナ」1,600 円(税抜)。手打ちパスタをグアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)のラグーソースで和えて、塩味の効いたペコリーノをたっぷりと。

フラテリパラディソでは、料理を通して常にプロダクトを紹介してきた。「それが日本でもできたらいい」と中安シェフ。日本には四季があり、季節の野菜があるのが魅力という。人の手を介して大切に作られるもの。それがフラテリパラディソと中安シェフが料理を通して伝えたいことなのだ。

東京店のシェフを務める風戸美香さんとはシドニー時代からの気心の知れた友人。

店内の空間は2つのコンセプトで分けられている。ワインセラーに囲まれたカウンターはワインバー(写真上)、奥はモダンなインテリアが心地いいダイニング(写真TOP)。

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フラテリパラディソ|FRATELLI PARADISO
2001年シドニーのポッツポイントに開店したフラテリパラディソは、かの地の食カルチャーを変えたといわれるほどの影響力を持つ。この人気店が今年5月に表参道ヒルズにオープン。素材重視のイタリアンは、飛騨高山の生産者が育てた有機野菜がたっぷり。毎日仕込む姿が眺められる手打ちパスタやパンも魅力だ。大きなセラーに入ったナチュラルワインは約150種類。