modern ikebana for new year

現代華道家・大薗彩芳さんが教える、新年に挑戦したいアーティスティックな「いけばな」

コロナ禍をきっかけに部屋に、花を飾る人が増えている。新年はワンランクアップして、日本の伝統「いけばな」の世界に触れてみよう。 いけばな三大流派のひとつである草月流の師範であり、六本木ヒルズ勤務のビジネスマンでもある男性華道家・大薗彩芳さんに、いけばなとは何かという基礎知識から、自宅で楽しむときのコツを聞いた。

IKEBANA BY SAIHOU OZONO
PHOTO BY AYA KAWACHI
EDIT BY MIHO MATSUDA

そもそも「いけばな」とは?

六本木ヒルズ勤務のビジネスマンと、華道家の二刀流を実践している大薗彩芳さん。自身のアトリエにて。

「まず、世の中には花や木を使った表現方法やビジネスがたくさんあります。花屋、フラワーアーティスト、庭師などなど。そのどれにも当てはまらない存在が『華道家/いけばな作家』です。いけばなとは約500年の歴史を持つ日本の伝統文化のひとつで、供花から発展し、現在では自然素材を用いた鑑賞芸術として世界中に広がりを見せています」

「いけばなの流派は300以上あると言われていますが、その中で最も歴史のある『池坊』と、『小原流』『草月流』を加えて3大流派と呼ばれています。私が属する草月流は、自由度が非常に高く、現代アートとの親和性も高いとされています」

「いけばな」と「フラワーアレンジメント」とは何がちがうの?

生花や木、枝と異素材を組み合わせた大薗彩芳さんの作品。

それでは、フラワーアレンジメントと、日本伝統のいけばなはの違いはなんだろう。

「まず発祥地が、いけばなは日本、フラワーアレンジメントは西洋という違いがあります。また、フラワーアレンジメントは空間を埋める足し算文化だと言われています。それは、花を固定し吸水させる吸水スポンジを隠す意味もあります。丸、四角など形を作り、美しさや可愛らしさを演出します。一方で、いけばなは、剣山や枝を使ったり花留めという考え方で花を固定し、引き算で空間を拡げていきます。また、あえて花器の中央ではない位置に生けてアシンメトリーやアンバランスを取ることで空間を拡げ、実際には存在しない風景を感性で感じ取る無形の文化だとも思います。メッセージ性やテーマ性、心情等あらゆるものを表現できるので、美しくない可愛らしくない作品も存在します。文化や考え方が異なるだけですので、どちらが良い悪いではないですし、私は将来的にミックスを目指しています」

「花留め」をみつけよう

「日本には『守破離(しゅはり)』という言葉がありますが、伝統の継承・革新・文化の発展を意味しています。いけばなには、花器に対する花の長さ、角度の『花型』という考えがあり、それを踏まえた上で、現代のライフスタイルや、メッセージ、表現したいものによって崩していきます」

いけばな/華道を極めるなら、何年も稽古を重ね、基本となる花型を覚え、そこから自分の表現方法を模索するのが王道ルートだが、まず、自宅でいけばなのエッセンスを取り入れて生けてみるなら、いくつかのポイントがある。

今回使用した「花留め」は、家庭にあるフォーク。組んだフォークがないとこの位置に松は固定されない。

「自宅でお花を楽しむ方なら一度は経験したことがあると思うのですが、花束を購入してそのまま花瓶に挿すと、花瓶の口径と花の量が合わず片方に傾いてしまったり、固定するために花を多く詰め込む必要があったりということが起こり、茎が傷つき花が早めに傷んでしまうことも。そこで、いけばなでは花を固定するために剣山を使います。フラワーアレンジメントなら吸水スポンジですね。でも、それがなくても『花留め』を見つければ、好きな位置にお花を固定することができます」

花留めとは、枝や蔓、ネット、紙、ワイヤーなどを使って、茎と複数点の接点を作り、花を留めることができるもの。花留めに使用するものによって、花以外のものでもメッセージやテーマを表現することができて、花を飾る楽しみが増えるのだそう。

「花留めによって、花をイメージする位置に固定できるため、表現する空間を拡げることができるんです」

日用品を使って表現した「お正月」

大薗さんが今回、HILLS LIFE DAILYのために生けてくれた作品がこちら。「モダンお正月」をイメージした『年賀』と、寅年にちなんで「虎」をテーマにした『大賀(Tiger)』。どちらも家庭の中にあるものを使いながら、アーティスティックな作品に仕上がった。

モダンなお正月をイメージした『年賀』 。流行中のキャンプ用品を使ってキャンプ用のコップとフォークに松と南天を組み合わせた。松は年末の「松の市」が開催されるほど、お正月の風物詩。枝ぶりが上向きのものが縁起が良いとされている。南天は「難を転じて福となす」に通じることから縁起物とされている。


2022年の干支をイメージした作品「大賀(Tiger)」。自転車の空気入れ、革靴、空き箱、スマホ(!)に、白マム(菊)と蝋梅、そこに金色の水引を添えた。蜜蝋のような色とツヤのある蝋梅は新春の花。ほのかな甘い香りも魅力だ。

「今日の作品は、日用品を使って新年を表現しました。『年賀』は流行のキャンプをモチーフに、フォークを組み合わせて花留めにしました。そこに南天と紅白の水引を加えることで、寿ぎ(ことほぎ)の雰囲気を演出することができます。『大賀(Tiger)』は、家の中にある黒や黄の日用品を使いました。このように、ご家族やお子様と一緒に、家の中で色探しを楽しみながら作品を作ってみてはいかがでしょうか」

日本の伝統・いけばなのエッセンスで、アーティスティックな新年をお迎えください。

大薗彩芳|SAIHOU OZONO
現代華道家。いけばな草月流師範。自身の見た目を冠した「HIGEDEBU FLOWERS(ヒゲデブフラワーズ)」を主宰し、見た目からは想像もつかない繊細さや若い感性を武器に、日本伝統のいけばな文化に新しい息吹を吹き込んでいる。二度の個展開催やパリでの作品展示、いけばな大賞審査員特別賞受賞、SHIBUYA TSUTAYAとのコラボレーション、「仮面ライダーゼロワン」の劇中花制作・指導など、伝統的ないけばなから現代アートの領域まで活躍の幅を広げている。