WHAT IS “ROBOREN” ?

ロボットを「レンタルする」という革命

人間と同じ空間で、人間と同じように、人間の隣りで働く「次世代ロボット」が次々と登場している。しかし、ロボットに不慣れな業種の人間からすれば、まだまだ導入のハードルが高い。そこで現れたのがお試しサービスとして活用できるロボットの「レンタル業者」だ。事業を展開するオリックス・レンテックの戸川英明に話を訊いた。

TEXT & PHOTO BY SHIN ASAW A.K.A. ASSAWSSIN

次世代ロボットは人間と共存する

——次世代ロボット(柵のない現場で、人間と隣り合って働けるようなロボット)が勢いづいていますね。

戸川 もともと産業⽤のロボットは「⼈間ができないレベル(速さや精度)で作業をさせる」、あるいは「⼯場全体を⾃動化する」というコンセプトで成⻑してきました。ところが昨今、労働⼈⼝の減少に対する課題解決という社会的な要請の⾼まりから⽅向性が変わり、ロボットに難しいことをさせるのではなく、人の代わりに簡単なことをさせるための次世代ロボットが登場しました。特に“人協調ロボット”と呼ばれるタイプには人間を感知するセンサーが⼊っており、人にぶつかると⽌まります。速さやパワーは控えめですが、安全で周りに柵がいりません。こういったロボットが⼈材不⾜を補い、生産性を向上させるという点で注⽬を集めています。

人協調ロボットの分野で大成功をおさめている「URシリーズ」(ユニバーサルロボット社製)。「ティーチング・ペンダント」と呼ばれるタブレット型のコントローラーを使えば、「1日で誰でも使えるようになる」という。オリックス・レンテックの「Roboren」で一番人気。

——労働人口の減少は、日本が直面する喫緊の課題です。

戸川 働き⼿がいなくなるという流れは止められません。その課題解決としてこのようなロボットの利活用が注目されている一方、導入するにはさまざまなハードルが存在します。どのような作業がロボットでできるのか、またどのロボットが最適なのか、どう判断すればよいのか解らないという課題がみえてきました。そこで、導入する前に試しに使って検討できる環境を提供すれば、お客さまのロボット導入の支援につながると思いました。

——そこで「Roboren(ロボットをレンタルする)」というサービスを始めたわけですね。

戸川 やらせたいことをロボットがこなせるかどうかは、使ってみなければわかりません。1日ぐらいで判断することも難しい。しかし、購入するには数百万円と高額です。だから「お試しで、半年間レンタルしてみたらどうですか」と、“6カ月お試しレンタルパック”というメニューを作りました。これが大好評で、2年間で引き合いが700件、そのうち300件ほどご成約をいただいています。

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1/35分で使えるという噂の「Yumi」(ABB社製)。Roborenでは2番人気。レンタルをきっかけに「飲食店の厨房でぎょうざを製造している」というから驚きだ。ユーザーフレンドリーな設計思想もさることながら、双腕タイプのルックスが強い個性を感じさせる。
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2/3Roborenでは3番人気の国産ロボット「CRシリーズ」(ファナック社製)。動作する様⼦がこれほど間近に⾒られるのは、柵が必要ないからだ。
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3/3自動車部品の大手デンソーを産業用ロボットで支えてきたデンソーウェーブ社の軽量小型ロボット「COBOTTA」は、重量がたったの4kg。持ち運べる作業アームのコンセプトが新規市場を開拓できるか、注目が集まっている。

——機種毎にレンタルの費用は異なりますが、月額10〜20万円前後が多いですね。とても人件費っぽい設定に感じられます。

戸川 半年間で、いろんな検討を進めていただきます。⼈件費より安いかどうかも判断がつく。「使えるな」となれば、レンタルの延長、購⼊することも可能です。もちろん使えなければ返却も可能です。

——まさに業界の革命児ですね。

戸川 新しいタイプのロボットである次世代ロボットが、新しいユーザーに受け⼊れてもらえるよう、最適な環境の提供を目指しているだけ。ほんの⼀歩進んだだけで、まだまだこれからです。
 
実は問い合わせの約7割が、ロボットを使ったことのないお客さまからのものなんです。導⼊したくても、誰にどう相談していいかわからないお客さまが多く、メーカーよりも敷居が低いこともあり、気軽にご相談をいただいています。
 
そのような方々に安心してロボットをご利用いただけるよう、自社社員であるロボットエンジニアが、レンタル期間中のロボットに関するご質問にお答えする体制を整えています。また、複数メーカーの次世代ロボットを一堂に会したショールーム「Tokyo Robot Lab.」や、自動搬送ロボットを中心としたショールーム「Tokyo Robot Lab.2」を東京都町⽥市の東京技術センターの敷地内に作り、ロボットを見て触って体感できる環境を作りました。

オリックス・レンテックが東京・町田に構えるショールーム「Tokyo Robot Lab.」。各社の次世代ロボットがずらりと並ぶ。電子機器メーカーをはじめ自動車・電力・重工などさまざまな業界の企業が熱⼼に⽇参し、予約が2カ月先まで埋まっているという盛況ぶりだ。

——東京だけにショールームを構えるのは、機会損失という印象もありますが。

戸川 だったらこちらから会いに⾏こう、ということで2017年11月から12月にかけて、4トントラックに架装を施し、複数メーカーのロボットを10数台載せた移動ショールームカーによる”RoboRen全国キャラバン”を始めました。第一弾として、九州・中国・近畿エリアを巡回したのですが、その後も⾃治体や経産省とも連携をとって、中⼩企業を集めて、全部で20回ロボットを展示しました。

——いくらネットが発達したといっても、ロボットの導入を決めるには、触ってみないと無理でしょうね。

戸川 触らないとわからないですよ。ましてや使ったことのないお客さまは、もの凄く難しいものだと考えている。そういう意味で「RoboRen全国キャラバン」はとても喜ばれました。そして、いろんな声に耳を傾けるうちに、全国の中小企業を相手に真剣にやろうとしているプレイヤーがほとんどいないということもわかりました。でも、そういうところにニーズが先行しますし、中小企業の導入が早く進まないと、日本は大変なことになります。

上場企業が中小企業を救う

——本当に強いニーズがある、という手応えをお持ちでしょう。

戸川 事業をやっていくうちに、少しでも中小企業がロボットを導入する手助けになればと考えるようになりました。

最初は上場企業を相手にソリューションを提供しようと思っていた。でも上場企業はサービスを案内していけば、自力でやり通す力があるんです。ところが中小企業でそうはいかない。彼らが導入しやすいように、ロボット導入の先例を作り、道筋をつけるのが日本の上場企業の役割といえるかもしれません。

——ロボット導入を検討するために新たな人材を雇うという選択も、中小企業には難しいでしょうしね。

戸川 社会が抱える深刻な課題と、それに対するスピードの遅さを痛感しています。特に地方では待ったなしの状況です。都市部より、大企業より、まず地方の工場で人が足りなくなる方が圧倒的に早い。企業と国、自治体、大学がしっかり連携して、導入のハードルを下げる努力を継続することが大切だと思っています。

profile

戸川英明|Hideaki Togawa
岡山県生まれ。1993年オリックス株式会社 情報機器部に配属。2015年オリックス・レンテック株式会社に出向、 同年、新規事業開発部 部長として3Dプリンタ事業、2016年にロボット事業を立ち上げるなど新規事業に従事。

profile

吾奏 伸|SHIN ASAW a.k.a. ASSAwSSIN
映像演出家。CGアニメと実写の両方を手がける映像工房タワムレ主宰。京都大学大学院(物理工学)を修了後、家電メーカーのエンジニアを経て現職。理系の感覚を活かした執筆など、映像以外にも活躍の場を広げている。