SMARTBOT, SMARTWORK

"スマートボット"で未来の職場はストレスフリーになる!?

SlackやLINEといったチャットツールの活用が、ビジネスシーンにおいて急速に普及しつつある。それに加えて、天気予報や預金残高の通知といった自動機能を追加する「ボット」の開発も盛んだ。なかでも人工知能(AI)を使う「スマートボット」は、私たちの職場、そして生き方を大きく変える可能性を持つという。第一人者であるLaboratik代表の三浦豊史に話を訊いた。

TEXT & PHOTO by SHIN ASAW a.k.a. ASSAwSSIN

チャットツールが企業の勝敗を分ける

——職場でのチャット利用は、いよいよ普及期に入りましたね。

三浦 そうですね。ビジネス向けのSlack、あるいはLINEやFacebook messengerなどを活用しながら仕事をするのは、もう当たり前。特に、社外のお客さんとのやりとりとか。メールは見てたり見てなかったりという人でも、Facebookは見ていることが多い。

——確かに、メールの重要性が下がってきているという感覚があります。

三浦 フォーマルなもの、という位置付けが使いづらさに繋がっているのでしょうね。チャットの方が、もっとカジュアルに扱える。だから仕事を“速く”できるのが魅力だと思います。遠隔地でミーティングを行うにしても、かつてはSkypeの独壇場でしたが、最近では画面の共有機能に強いappear.inやzoomといったチャットツールに勢いがあります。

——公の場で、声を出しづらい状況でもバンバン打てるのがいいですね。

三浦 モバイルと相性がいいんです。長文のメールを開けたらスクロールしなきゃいけませんし、すべてに目を通す必要があるけれど、チャットは短いやりとりだから小さい画面でさっと確認できる。今の時代に合っていると思います。

特にSlackは、仕事が速くなるし、とても便利だと思います。もともとエンジニアやデザイナーといった、モノを作る人たちに愛されたツール。私たちテック系のスタートアップでは、本来一カ月かかるところを一週間で作るというスピード感が求められますので、チャットツールは必要不可欠です。

——ノマドワーカー、コワーキングスペース、在宅といったリモートワークのトレンドも、チャットツールと相性がいい。

三浦 もちろんです。企業にも個人にもメリットがたくさんある。社員がオフィスに来なくていいとなれば、交通費なりオフィスの光熱費なりが削減できる。個人からすれば、通勤しなくていいから時間の節約になるし、自由度も高くなる。「同じ場所にいなくても仕事が普通にできる」というのは、ごく当たり前になってきています。

うちの会社のメンバーも、ほんとバラバラで(笑)。一人は福岡在住、もう一人は来年海外に移住する。国内、国外、物理的に遠くても仕事をしている会社の典型です。

——何をする会社として発足したんですか?

三浦 最初は世界中のクリエイターをつなげて、仕事を発注できる場を作ろうと思っていたんです。そのとき、遠く離れた人間同士で、プロジェクトの進捗具合を確認したい。どんなツールが便利かを考えているうちに、Slackを使って、ピープルアナリティクスをやろう、ということになりました。

ピープルアナリティクスの威力

金融とテクノロジーを掛け合わせた”Fin Tech”、教育系の”Ed Tech”に続き、人事系の “HR Tech(ヒューマンリソース・テクノロジー)”が、投資家の間で注目を集めている。なかでも、職場における組織マネジメントを改善する「ピープルアナリティクス」は台風の目だ。

三浦 MITのアレックス・ペントランド教授の研究によれば、パフォーマンスの悪いチームは、対話がこの図の「悪いチーム」のように偏っていて、コミュニケーションのバランスを改善することで業績が上がります。Googleの社内でも、まったく同じことが証明されていました。ということは、チャットツール上での発言を解析することで、組織の良し悪しが見えてくるわけです。

——この2人の風通しが悪いから、オフィスのレイアウトを改善しましょう……といった手を打てるわけですね?

三浦 はい。うちの製品は「A;(エー)」といって、Slackに組み込む自動処理機能、いわゆるボットの一種。AIを使うので、スマートボットという呼び方をしています。「A;」を使えば、誰かが4名全員に流すメッセージと、特定の一人に向けたメッセージを自動で仕分けして、相互の発言量を視覚化できる。

5人のメンバーがいるチームの会話量を視覚化したグラフ。内側のリングが5人の発言量を表し、外側のリングは、それぞれの発言相手の内訳となっている。

三浦 また、発言の中身をAIで解析して、感情の傾向を明らかにします。次の図では緑がポジティビティで、赤がネガティビティ。「ありがとう」とか「コレ凄いいいよね」といった会話が交わされている時はポジティブ。「ごめんなさい」とか「遅れます」「期日に間に合いません」みたいな文脈はネガティヴ。残りはニュートラルな部分。そういった傾向をはじき出して、チームの状態を機械的に判断する。

「A;」は、発言の内容をAIによって解析し、「グループ内の感情の傾向」をポジティブとネガティブに大別してくれる機能を有している。

——AIの正答率ってどれぐらいなんですか?

三浦 8割ぐらいの精度はあると感じています。たとえばネガティビティは、うちの社内でも、プロダクトのリニューアル直前に凄く上がる。社員全員を合わせた傾向もさることながら、特にエンジニアの傾向が急上昇しちゃう(笑)。なので、彼の仕事量を調整するように気を配ったり……。それは、このデータでわかったことなんです。あとは、1日の業務の終わりがだいたい18時とか19時なのですが、そのあたりに僕が「あれどうなってる?」「これどうなってる?」とか聞き始めると、ネガティビティがガッと上がるんですよ(笑)。

——なるほど(笑)。スマートボットがどれぐらいイイ線いってるか、自社の雰囲気でわかっちゃうわけですね。

三浦 そうなんですよ。僕が土曜日にSlackで何か問いかけると、メンバーのネガティビティが上がったり……。そういったデータを参照しながら、コミュニケーションをとるタイミングに気をつける。そういうことができるようになります。

——察しと思いやりの、日本人的なツールに感じられます。

三浦 リモートワークが盛んになってきた結果、まったく会ったことのない人とオンラインだけの関係で仕事をする状況も増えている。たとえば我々の「A;」をいち速く導入した企業であるKaizen Platformさんでは、ひとりの管理者が遠隔地の作業者を30人ぐらい抱え、Slackだけでやりとりをしている。向こうはお子さんを抱えて忙しいお母さんかもしれないし、夜型の若者かもしれない。それぞれスタイルが違うから、なるべく合わせてミーティングを設定したり、話しかけるタイミングを考えたい。そうしたときに、このA;が活躍します。

——すばらしい。さらにこんな機能が欲しいとか、あんなこともできたらいいな、といった声はありますか?

三浦 要望はいろいろと伺っています。ちょっと日本的な話なんですけど、今は「A;」の解析結果をメンバーの誰でも見ることができる。それを、ごく一部の人間だけに見られるように、たとえば部長だけが見られるようにしてほしいとか、権限設定の機能がほしいとか。コミュニケーションの状況をみんなに知られたくないという、そんな声も聞きます。

——いかにもピラミッド型の発想ですね。でもコミュニケーションって一方向なものではないし、全員で共有した方が、いい結果につながるという気もします。

三浦 おっしゃるとおりです。その方が速い。今の時代は、良いところ悪いところをいかに速く明らかにして、悪かったら即改善するというサイクル、そのスピード感が企業の勝敗を分ける。むしろデータドリブンな人事なり組織なりが作られないと、ダメなんじゃないか、とも感じます。

——フラットな働き方にしないと、「A;」の恩恵は受けられない。古い体制にそぐわないツールかもしれませんね。

三浦 スマートボットを導入する以前に、そもそもチャットツールを活用できるかどうか。大企業だと、まだメールですよね。ところがメルカリなどの最先端な職場では、全社でSlackを使っている。オープンでフラットな組織ができているし、メールよりSlackの方が速いということをわかっている。組織の文化によって、使いこなせるかどうかは違ってくると思います。

スマートボット「A;」は、IT系ベンチャーなど新しい企業ほど導入に積極的だが、最近では古参の大企業による問い合わせも増えたという。現在はSlackにのみ対応しているが、そのほかのチャットツール向けにも開発が進んでいる

——企業風土そのものが問題なんですね。古い体質の会社は駆逐されていく。これを上手く使いこなす組織だけが、地方の学生や主婦の自由時間を活用できて、凄まじい生産性を得られるのかもしれない。

三浦 その可能性はあると思いますね。

組織は解体され、セルフマネジメントの時代へ

——かつてメールが仕事の手続きを大きく変えたました。今度はスマホとSlack、スマートボットが組織そのものを作り変えてしまうかもしれない、ということですね。

三浦 ええ。変えないと生き残れない。

——逆に、いわゆるクラウドソーシングはこれらのツールと相性がいい。しかし雇用する側にとっては「人材の質の確保」が、される側にとっては「賃金への不満」といった課題が残りそうです。きっちり社員を囲った方が、守秘義務を固く守らせることもできるだろうし、育成や福利厚生を手厚くしてあげられるわけですから。

三浦 確かに、ある程度責任を持てる優秀な人を雇う、というのが前提にはなるでしょうね。けれど一旦雇ったら、後はもう、任せる。これからの組織の在り方って、キーワードは“セルフマネジメント”だと思うんですよ。組織における個人の自律化。完全に統率するのは、もう無理だと判断する。むしろセルフマネジメントがうまくできるように、一定のマネジメントだけ機能するカタチで、仕組みを整える。

——そういえば私も、まるっと任されて、今日取材にきてます(笑)。

三浦 そうでしょう(笑)? とりあえず優秀なヤツを入れて、あとは好きなようにやらせる。それだけ。別にあれやれ、これやれ、ってイチイチ言わなくても、わかってやってくれる。下手なマネジメントはいらない。上司が偉そうに指示を出したりとかしなくていいんですよ別に、っていう。

——大きく任せた方が、たくさん給料を払ってあげられる可能性もありますよね。

三浦 それもあるし、任せられた方は自由に仕事ができて楽しい。満足度が高い。お互いがいいと思うんですよね。

——どのぐらい任せられるか、任せようと思い切れるか。他人をどれぐらい信じられるか、という話ですね。信じられないから拘束する……「9時から5時までここに座ってろ」となってしまう。

三浦 ただし、さすがにノーマネジメントは機能しないと思うので、一定のマネジメントが効くという状況を作ることは大きいと思っています。そこに有用なプロダクトを提供することが、私たちのチャレンジです。

——スマートボットの助けを借りると、マネジメントの規模も変わりそうです。1人で30人を管理するという事例のお話もありましたが、たとえば100人とかだと、人間だけでは難しい。

三浦 無理ですよね。だからボットに任せる。これからはそういう選択ができる。

——とはいいつつ、労働集約的な産業は、人材を一カ所に集めざるをえない。将来的にはAIなりロボットが代替すればいいのかもしれませんが、今の大企業は、人も設備も丸っと抱えながら走っています。

三浦 ええ。実は大企業からご相談をいただくことが多いんですよ。いわゆる働き方改革が深刻な社会課題、とてつもなく大きなテーマになっている。けれど古くて大きいものを変えるって、なかなかできない。難しい。しなきゃいけないのに、解がない。ピンチだと思います。どうにかして古いものを削ぎ落とし、ゼロに近づけて、新しくしていけるか。大企業こそ、会社の存亡がかかっている。

——できれば大胆に、チャットツールやスマートボットを取り入れたいのでしょうね。

三浦 ポジティブな効果も期待できます。会社員と会社の心の結びつき、忠誠心とか満足度といったエンゲージメントが高ければ高いほど、業績が上がるという研究結果が存在します。満足度を上げるように改善して、売上アップを実現した会社の事例もあるんです。これまでは「会社が賃金を払うんだから君たちはいうとおり働きなさい」というのが当たり前だった。これからは、いかにやる気を上げさせるかが大事になると思います。

性悪説から性善説へ

——スマートボットが進歩すると、社会はどうなりますか?

三浦 個人の自律化が進んで、組織運営も改善も自律的になると思います。これまでは外部のコンサルタント会社に相談したり、数千万円もコストをかける必要があった。けれどデータを集めて、今後どうすべきかはテクノロジーで判断できる。そんな時代になっていくし、なるべきだと思います。

——AIを使うと、複雑でわかりにくいものが最適化されるというイメージがあります。たとえば、まずは社内で人事や就労環境の最適化が進む。すると、もしかしたら社外を含めたフィールドにも世の中すべてのリソースに対し、適材適所が実現されていく。

三浦 そんな気がしますね。最近、会社と会社の境界がなくなってきていると思うんです。社内も社外も関係なく最適化が進むっていうのは、間違いなく来ると思います。

——経営者のトップダウン的な判断より、むしろ全員の、セルフマネジメントによる集合が、自然に結合や分離を繰り返す……それが未来の姿でしょうか?

三浦 その流れって、不可逆だと思いますよ。議論の余地がないというか。アメリカではフリーランスの人口って30%程度なんですが、2020年にはおよそ50%になるといわれている。日本にも同じ傾向があります。会社に所属しないプロフェッショナルが増えている。帰属に関係なく、スキルのある個人と仕事をする。そういう時代になっていく。そうなると、マネジメントを誰もやらないので、AIなどのテクノロジー任せになっていく。それがごく当たり前になっていくのではないかなぁ、って思いますけどね。

——いわゆるパラレルキャリアですね。10年後の名刺には、表に名前と肩書だけ書いてあって、裏返しにするといっぱい会社のロゴが入っているのかもしれない。

三浦 結局、日本の労働人口ってどんどん減ってるわけじゃないですか。誰かが2~3社やらないと、追いつかない。それに、これまでの人事って属人的な感じでしたけど、もっとテクノロジーを使うべきだと思います。その方が中立的で、公正な判断が期待できる。Google社員時代の原体験に基づいてるんですけど、一方的に上司が判断するとか、人事の誰かが決めるんじゃなくて、データを分析しながら全員で答えを探る。そういう時代になっていくと思います。

——これまでの組織運営にありがちな無駄や失敗、不正がなくなるわけですね。セルフマネジメント、なかなか凄い概念ですね。

三浦 たとえば地球の裏側、ブラジルにいる人とも仕事ができる。アメリカにいようがヨーロッパにいようが、優秀な人とか、考え方が合う人がいれば、即一緒に働ける。それってものすごくプラスだと思うんですよね。

——信じる、というのが大事。

三浦 性善説ですよね。任せるほうがポテンシャルを発揮できると僕は思っているので。締め付けるのではなく、ある程度やらせる、任せる。僕のチームでも明らかに、任せた方がパフォーマンスはいい。「A;」を使えば、それがわかってくる。僕らも世の中もそっちへ行くべきだし、行きたいですね。

profile

三浦豊史|Toyofumi Miura
Laboratik株式会社 CEO デザイナー。2004年にニューヨーク市立大学芸術学部卒業後、現地のクリエイティブエージェンシーR/GA New Yorkでデザイナーとして勤務。07年に帰国後は、GoogleにてインダストリーマネージャーとしてAdWordsやYouTubeの広告営業・コンサルに携わる。15年に同社退社後Laboratik Inc創業。早稲田大学大学院商学研究科(MBA)卒業。

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