CLEAN MEAT SAVES THE FUTURE?

未来のお肉「クリーンミート」が人類(の食卓)を救う!

私たちは「肉が大好き」だ。しかし食肉が地球環境をどれほど圧迫しているか、考えつつ食べることはほとんどない。CO2の21倍という強力な温暖化効果を持つメタンガスは、排出量の約40%を畜産業が占めている。水と飼料の大量消費も問題で、豆を直接食べる行為に比べてエネルギー効率の悪さは数十倍。それでも、どうしても肉が食べたいというならば、来たるべきクリーンミート(培養肉)が大胆な解決策となるだろう。

TEXT & PHOTO by SHIN ASAW a.k.a. ASSAwSSIN

とある試食会からすべては始まった

食肉の需要は、途上国の人口増や生活水準の向上によって年々増え続けている。その一方で、牧草地を活用した放牧は、気候変動の影響を受けやすく、生産量が大きく変動する可能性を常に孕んでいる。全世界への食肉の安定供給、さらには持続可能な社会の実現に向けて、いま、大きな期待を集めているのが「細胞農業」だという。

日本でクリーンミートを牽引するインテグリカルチャー株式会社の森竜太郎と福本景太に、詳しい話を聞いた。


——いつ頃から食べられるようになったのでしょうか?

 2013年に、オランダのマーストリヒト大学で試食会が開かれました。牛の細胞を培養して、ハンバーグみたいな形にして提供したのが最初です。参加者からはポジティブな反応があったみたいですね。でも、いろいろなものを混ぜているから、味はかなりコントロールされていたし、作り方もものすごく手間がかかっていました。まず直径10㎝の培養皿の上で細胞を増やして、薄い膜を作る。それを何十枚、何百枚と重ねてギュッとした感じです。でも、それだとコストが莫大。100gあたりで3000万円、なんていう金額になりますから。

——お高い、なんてものじゃないですね(笑)!

 でも、画期的ではあったんです。そもそもそれ以前は、誰も挑戦すらしませんでしたから。しかし、来たるべき宇宙生活と地球上の食糧難の可能性を見据えて、セルゲイ・ブリン(Googleの共同創業者)がマーストリヒト大学の研究に資金援助を行ったんです。月面や火星で畜産業を営むのは、かなり非現実的ですからね。

——宇宙でも肉が食べたい! 食べられるならニセモノでもいい! という……。

 一方で、地球上でもいまの畜産業には多くの課題があるんです。まず途上国の人口爆発が原因で、需要の増加に供給が追いついていない。それに畜産はエネルギー効率がきわめて悪く、大豆にくらべて水や土地を10倍以上浪費するんです。加えて牛が大量に出すメタンガスは温暖化の一因ともいわれています。

——疫病や、さらには「殺して食べる」というプロセスに問題がある、という視点もありますよね。しかし100gで3000万円だと、我々の口には入りそうにないですね……。

福本 そこで私たちの会社は、10万分の1というレベルの劇的なコストダウンを目指しているんです。

「細胞農業」の高いポテンシャル

——培養肉のコストで問題になるのは電力ですか? それとも時間がかかりすぎることでしょうか?

福本 培養成分が極めて高価なことが、ネックになります。その成分をなくしてしまうために、我々は身体の中を模倣するCulNet(=カルチャー・ネットワーク)システムという装置を開発しています。

Integriculture’s CulNet System ©インテグリカルチャー株式会社

福本 シャーレの上で培養する際、細胞を元気にするために「成長因子」と呼ばれる添加物を加えます。しかし人間は、そうした因子を補給することなく成長できるわけです。なぜなら、体内では細胞同士が相互に成長因子を出しあい、お互いの成長を促しあうネットワークを形成しているからです。そういった連鎖を装置の中で実現する。自然を模倣した環境を、作りあげるわけです。

——肉ができあがるには、原料として何が必要ですか?

福本 電力と、少しの細胞、そしてアミノ酸やビタミンといった、私たちが食事で摂るものを加えます。それ以外は必要ありません。遺伝子組み換えとか、そういったこともしません。この容器へ最低限必要なものを入れれば、自然に食肉になる、というのが私たちの技術です。

 これで100g数千万円の培養肉が、数百円のレベルにまで抑えることが可能になると考えています。つまり、スーパーで買うレベルで勝負できるようになるわけです。

筒型の容器で培養される試料。体内を模倣するには2次元的なシャーレではなく、より立体的な培養における知見の集積が必要となる。

持続可能な社会には「クリーンミート」が必要!?

——現状、どれぐらいの段階にあるんですか?

 まずPOC(概念実証)のレベルはラボスケールで達成しました。基幹技術と周辺技術についての関連特許も取得済みです。ごく少量ですが、試食会もやりました。数年以内には市場へ投入したいですね。ぜひとも味で勝負したい!

——味で勝負とは、なかなか大胆ですね。

 私たちが肉を食べる理由って、やっぱり味だと思うんです。これまで大豆肉というのはありましたが、やっぱり風味や食感が違う。植物のタンパク質を合成して肉もどきを作る研究もありますが、どこか肉になりきっていない。そういう意味で、培養食肉には大きなアドバンテージがあると考えています。

——最初はどんな商品になるんでしょうか?

福本 段階を踏んでいくわけですが、ステーキのような赤身、つまり筋肉細胞を作るには高度な生体組織工学が必要になります。一方で、私たちの技術は他社と違って細胞を選ばない。肉に限らず革製品なども再現できる。たとえばフォアグラみたいな、内臓から攻める構想もあります。実際、鶏の肝臓を培養して食べてみました。

試食会の料理。中央の白っぽい、ハーブの上に乗せられているものが培養食肉。となりに添えたズッキーニにくらべて量は少ないが、これを数人で分けて食べた。© インテグリカルチャー株式会社

——食べてみたんですね!

福本 はい。少しだけ(笑)。確かにフォアグラのようなクリーミーな食感はありました。肝臓には筋肉みたいに筋がないので、培養したものをかき集めても風味は再現できそうです。

——フォアグラ、つまり高級品から始まって、いずれコストが下がっていく……?

 その可能性も十分にありますね。実際、北米ではミレニアル世代の70%ぐらいが、少々割高でも環境に優しいものにお金を払うという傾向があります。僕らは“クリーンミート”のことを“Shojinmeat(精進ミート)”と呼んでいますが、「地球環境のために何か貢献したい」という価値観にあわせた選択枝を、いち早く提供したいと考えているんです。

——絶滅に瀕した動物の肉や革製品……自然愛護という観点からも大切なテクノロジーですね。それに、貴重なものだから高く売れそうです。

 恐竜の細胞とか(笑)。もしも手に入るなら、いろんな可能性が広がりますよね!

profile

森竜太郎|Ryutaro Mori
インテグリカルチャー株式会社 事業ディレクター。2013年、UCLA、開発経済及び国際開発学科を卒業。フリーランサーとして、ベンチャー企業や大学のマーケティング及び事業開発を支援。 マーケティングの側面からスタートアップの現場を多数経験。先端技術を通じて持続可能な発展に貢献することを目的に、マーケティング及び事業開発を行う。

profile

福本景太|Keita Fukumoto
インテグリカルチャー株式会社CTO。広島大学農学部卒、理化学研究所脳科学研究センターを経てインテグリカルチャーの設立に参画。日本学術振興会特別研究員を歴任。神経・肝臓・筋肉細胞など、高度に分化した細胞の培養に精通し、三次元培養や還流培養など、食糧生産スケールでの培養技術を活用した製品の開発を主導する。