ファッションだけでなく、コスメやステーショナリーなど幅広いデザインを手がけ、ライフスタイルブランドとしても人気の〈ポール & ジョー〉。〈マークス〉とのステーショナリーコレクションが10周年を迎え、創設者兼クリエイティブディレクターのソフィー・アジアグが来日。デザイナーとしての原点や創作のインスピレーション、そしてこれから挑戦したいことまで、ソフィーのものづくりへの思いを聞きました。
PHOTO BY WAKANA BABA
EDIT & TEXT AKANE MAEKAWA

〈ポール & ジョー〉のクリエイティブディレクターのソフィー・アジアグ。
——〈ポール & ジョー〉は昨年30周年を迎えましたが、服づくりに加え〈マークス〉とステーショナリーコレクションを手がけるなど、幅広い分野で活躍をされています。ソフィーさんのデザインの原点となったものとは何でしょうか。
SH 私の原点には母がいます。家族は「Le Garage」というシャツブランドを経営していたのですが、母は自らデザインも手がける素晴らしいクリエイターでした。働く女性であり、母であり、妻である。さまざまな顔を持ちながら、忙しい日々でも常に笑顔を絶やさない人でした。そんな母の影響もあり、デザインの道へ自然と向かったような気がします。
デザイナーとして最初に経験を積んだのは、アズディン・アライアのもとでした。1987年頃のことです。当時はまだアトリエがなく、パリ7区にある彼の自宅アパートが仕事場。そこで、多くのことを直接学びました。その頃は今のようにデザイナー自身が立ち上げたブランドもそれほど多くなく、コレクションの発表も年に2回というペースでした。ひとつのコレクションにじっくりと集中できる環境を経験できたことは、よかったと思います。今はまた、その頃のように発表のペースを落とす動きも出て生きているようですね。
——1995年に〈ポール & ジョー〉を立ち上げた際、メンズウェアからスタートしていますが、当時のファッションシーンの中で、どのような服をつくりたいと考えていたのでしょうか。
SH 当時は、メンズのブランドやスタイルも限定したものが多かったように思います。〈ヨウジヤマモト〉や〈コム デ ギャルソン〉、〈ニコル〉、〈KANSAI YAMAMOTO〉など、パリでは日本人のデザイナーも活躍し人気でした。個人的にはそれぞれ大好きなブランドですが、ダークカラーを基調としたミニマルでゆったりとしたデザインがメインでした。
ポップで遊び心があるデザインは、当時のメンズウェアにはそれほど多くなく、そんなメンズウェアをつくりたかったのです。その服を女性も着られたら素敵ですよね。女性が、ボーイフレンドや夫の服をこっそり借りて着たり、お互いに服を貸し借りできたりする、そんな感覚の服が好きなんです。

ソフィーが着用するのは〈ポール & ジョー〉の最新コレクションのシャツ。花の刺繍は、日々の暮らしで出合う植物や庭などから着想されたデザイン。
——〈ポール & ジョー〉のコレクションには、花や植物、猫などのプリント柄や、フェミニンさとマニッシュさをミックスしたデザインなど、ひと目でそのブランドとわかる個性があります。デザインを考えるうえで大切にしていることはどんなことでしょうか?
SH デザインするうえでこだわっているのは、ストーリーづくりです。どのコレクションにも、一貫したストーリーを持たせています。観た映画や読んだ本、訪れた展覧会など、さまざまな体験が着想源となっています。また、パリに住んでいれば、遠くまで行かなくても日常の中にもさまざまな発見があります。
私の住むサン=ジェルマン・デ・プレはインスピレーションの宝庫ですよ。建物の扉が開いていると、奥に美しい中庭がちらりと見えたり。街を散歩するだけで、素敵な風景や小さな発見に出合えます。好奇心が旺盛な私は、建物の壁や掛けられた布など、街で目にするちょっとしたものからも刺激を受けます。気になったものは、いつも写真を撮っておきます。そうした日々の出会いが、デザインの着想源となっていきます。
——ファッションを起点に、コスメやステーショナリーなどデザインの幅を広げていますが、暮らしそのものをデザインしたいと考えるようになったきっかけはありますか?
SH ステーショナリーのデザインに関しては、〈マークス〉から声をかけていただいたのがきっかけでした。日本には、日常に溶け込むデザイン性の高いライフスタイルプロダクトが多くありますが、実はヨーロッパには、そうしたものがそれほど多くありません。
私は手紙を書くということが好きです。そのためには、きれいな便箋や封筒が必要ですし、もちろんペンも大切。10代の頃から、便箋やカード、ノートが大好きで、お気に入りのものを入れるボックスを持っていたほどです。以前から〈マークス〉のパリ店を知っていたので、ステーショナリーラインを一緒につくることになり、とても嬉しかったです。
私がデザインやアイデアを提供し、〈マークス〉がプロダクトとして形にしてくれるのですが、〈マークス〉の細部へのこだわりは素晴らしくて。ここまで繊細で美しいものをつくるのは、フランスでは難しかったのではないかと思います。
プレゼントに手紙を添えると、みんな「なんて素敵な便箋!」と驚いてくれるほどですから。今は、スマートフォンやメールでのやり取りで済ませてしまう人が多いですよね。だからこそ、ちょっとしたメッセージを添えるカードなどが大切になってくるのではないでしょうか。

〈マークス〉とのステーショナリーコレクション10周年を記念した〈MARK’STYLE 麻布台ヒルズ〉のコーナーにて。手にしたのは、記念アイテムとして登場したお気に入りの「ジプシー&ヌネット」のおすわりぬいぐるみ。
——ステーショナリーにも多く登場しているアイコニックな「ジプシー&ヌネット」も、ソフィーさんの日常から生まれたデザインなのですよね。
SH ジプシーとヌネットは、私が実際に飼っている猫たちです。撮影のために、子猫を連れてきてもらったところ、あまりにかわいかったので、撮影後に引き取りました。白いペルシャ猫がジプシーで、まだ生後2カ月半の時でした。一匹だけでは寂しいと思い、その後ヌネットも飼い始めました。二匹は私にたくさんのインスピレーションを与えてくれました。ジプシーとヌネットを初めてデザインに取り入れたのは、コスメ製品でした。今ではバッグのテキスタイルや、今回の10周年コレクションにも登場しています。
——10周年のコレクションは、とてもポップなデザインですね。
SH 〈マークス〉とのコラボレーション10周年を祝うデザインなので、パーティをイメージしています。ジプシーとヌネットはもちろん、シャンパンのモチーフも取り入れて。アニバーサリーのための特別モチーフのほか、今年のプレタポルテコレクションで発表したモチーフも登場しています。
——ソフィーさんにとって、日常に美しさや遊び心を取り入れることには、どんな意味がありますか。
SH 「持っているだけでうれしくなる」という感覚は、人にとってとても大切なことだと思っています。人々の日常に美しさや遊び心をもたらすことが、私の仕事の醍醐味でもあります。そのためには、オリジナリティのあるものをつくること。そして、そこにはいつも詩的で、少しロマンティックなタッチを添えたいと思っています。30年以上つくり続けてきたのは、どこにでもあるデザインではなく、〈ポール & ジョー〉らしい個性を持つ服です。でも同時に、日常で実際に着られる服であることが、私にとっての絶対条件でもあります。
——〈ポール & ジョー〉で、今後、挑戦してみたいアイデアはありますか?
SH タオルやシーツなど、暮らしにまつわるアイテムを手がけてみたいです。ヨーロッパでは展開したこともあり、とても評判が良かったです。〈マークス〉とはテーブルウェアを数点つくったことがありますが、よりトータルなコレクションとしてつくってみたいです。
それから、10室だけの小さなホテルもいいですね。部屋ごとにデザインを変え、パジャマも、コスメも、スリッパも、ソックスも、ギフトのラッピングペーパーも、すべて〈ポール & ジョー〉で統一されたホテル。今は高級ホテルでさえ、細やかな気遣いが失われていると感じます。高級なものを提供していても、心のこもったサービスに欠けていると感じます。だからこそ、カスタマイズできるサービスもいいかもしれません。
〈ポール & ジョー〉はコスメやライフスタイルプロダクトをすでに展開しているので、そんなホテルをつくれるのではないかと思います。テーブルや照明も展開してよいかもしれません。予約が1年待ちになるような、わずか10室の小さなホテルで〈ポール & ジョー〉に囲まれた1日を過ごす。そんなアイデアです。

日々の生活の中に、遊び心や美しさを届けたいと語るソフィー。インタビュー中も、これからやりたいライフスタイルデザインへのアイデアは尽きない。
——お話を聞いているだけでワクワクしてきます。最後に、〈マークス〉の店舗もある麻布台ヒルズについてうかがいます。ライフスタイルという観点では、衣食住をトータルに提案する街といえますが、麻布台ヒルズについてどのように感じましたか?
SH 「MARK’STYLE」の出店がきっかけで、麻布台ヒルズを知るようになりました。初めてここに来たとき、その素晴らしさに本当に感動しました。広場があり、緑が多く、公園やアート、素敵なホテル、おいしいお蕎麦屋さんもある。これまでにない複合施設だと思います。美容院にも感激しました。フランスのサロンよりもはるかに快適で、夢心地でシャンプーをしてもらいました。街全体の雰囲気もとても好きです。もし日本で暮らすなら、この街に住みたいです。
人の声や車のクラクションなど、雑音の多いパリに比べて、ここは本当に静か。フルーツや野菜が美しく並ぶマーケットも気に入っています。あまりに美しいので食品サンプルかと思いました。パリの老舗百貨店〈Le Bon Marché〉を思わせるような、美しいお店です。メンズウェアのデザイナーをしている35歳の息子も、シックで上品な麻布台ヒルズと周辺をとても気に入ったようでした。店舗数が多すぎず、厳選されていると感じます。ここではゆったりと時間を過ごせます。美容院で知り合った方にレジデンスへ招いていただき、お部屋を訪ねたことがあるのですが、本当に素敵でした。
ソフィー・アジアグ

Sophie Haggiag|パリ生まれ。ファッションブランドを経営する家族のもと、幼い頃からファッションやテキスタイルに親しんで育つ。19歳でアズディン・アライアのアトリエに入り、クラフツマンシップや素材への審美眼を磨く。1995年、二人の息子の名前を冠した〈ポール & ジョー〉を設立。パリらしいエレガンスに自由な感性と遊び心を融合させた世界観で、ビューティやアイウェア、ホームウェアなどへデザインの幅を広げ、独自のクリエイティビティを発揮し続けている。
Q. 新たな気づきや共感を得ることができましたか?






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