HOW FAR WILL YOU GO?

見たことがないものを見せるのがアート。だから、「ここまでやる」

東京ミッドタウンにある「21_21 DESIGN SIGHT」で開催されている「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(〜10/1)。実現可能と不可能のギリギリの狭間のプロジェクトが主に記録映像やプランや模型で示され、一部実作品が展示されている(この展覧会自体が壮大なわけではないけれど)。「そこまでやるか」とも言えるし、「ここまでやってこそアート」と示してくれる壮大プロジェクト見本市のような展覧会である。現代アートの猛者たち8ユニット(5個人、3チーム)の驚き、呆れ、感動するしかない仕事を見てみよう。

TEXT BY Yoshio Suzuki
Main Photo_Wolfgang Volz © Christo

「クリストが語るプロジェクト、創作過程」(撮影:木奥恵三)

Part ① クリストとジャンヌ=クロード

議事堂も橋も包んでしまえ。谷を塞いで、島を囲ってしまえ。
これはクリストとジャンヌ=クロードのお話。

まずはクリストの登場である。
1935年6月13日ブルガリアのガバロフ生まれ。同年同月同日にモロッコのカサブランカで生まれたフランス人の両親を持つジャンヌ=クロード(2009年急逝)と共に、世界中が注目するような巨大なプロジェクトを成立させてきた。

ベルリンの旧帝国議会議事堂を包んだ「梱包されたライヒスターク」は長年粘り強い交渉を続け、ドイツ議会までをも巻き込み、何度か却下されたものの、とうとう実現に至った。2週間の展示期間に500万人もの人を集め、大成功をおさめた。包むのに使った布とロープなど材料費だけで約7億円かかったという。

ほかにも「ヴァレー・カーテン、コロラド州ライフル、1970-72」、「包まれたポン・ヌフ、パリ、1975-85」、「ゲート、ニューヨーク市セントラル・パーク、1979-2005」など主に布を使い、景観を一変させるという誰にもなし得ない大規模インスタレーションを成し遂げてきた。

本展に展示するのは、ジャンヌ=クロードの生前から構想を練っていたもので、イタリアの小さな湖に布の浮き橋を作る「フローティング・ピアーズ、イタリア・イセオ湖、2013-16」である。その記録を3面のマルチヴィジョンで、本展のために撮り下ろされたインタビュー動画とドキュメンタリーフィルムが編集されたものを中心に、資料写真や図面などを両サイドの画面にタイミングを合わせ取り上げ、上映している。

その映像の中でクリストはこんなことを言っている。
「プロジェクトは動きのある計画で、単なる物体ではありません。完成の時までに育まれた期待は何ものにも代えがたいものです。しかし、実現した時に集まったエネルギー、情熱、体験をずっと保ち続けることはできません。だからこそ、プロジェクトが一時的であるべきだと考えているのです」

さらに、ジャンヌ=クロードについてクリストは、「プロジェクトの行く先にどんな問題がおこるか察知できる素晴らしい感覚を持っていました。とても批評的で、頑固でもありましたね。彼女はいつも自分たちの判断を疑っていましたし、なぜその方法をとる必要があるのか確かめていました」と語っている。

この映像のほか現在進行中の「マスタバ、アラブ首長国連邦のプロジェクト」をドローイングやコラージュ作品、地図やドキュメント写真で紹介している。クリストとジャンヌ=クロードの来し方、そしてこれからを要領よく展望できる展示になっている。

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Part ② 西野 達

展示施設をカプセルホテルにしてしまったアーティスト。
これは西野 達のお話。

シンガポールのランドマークであるマーライオンを取り込んで毎晩限定一組が泊まれる「マーライオンホテル」にしたかと思えば、ニューヨークのセントラル・パークの角にあるコロンブス像を囲ってリビングルーム「ディスカヴァリング コロンブス」を建設した。公共空間をプライベート空間にしてしまう西野 達。

そんなことゼッタイ無理というプロジェクトを時間と少しばかりのコネと粘り強い交渉とちょっと強めの幸運を使って実現してきた。

本展でもやってくれている。以前はレストランだった場所で、現在は21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3としてオープンしたこの安藤忠雄建築のスペースにカプセルホテル(17名分)を作ってしまったのだ。ここは正式の宿泊施設ではないのだが、この体験型作品を体感するべく、不定期で夜間滞在できる観客の募集がされている。

あらかじめ、申込み、応募者多数の場合は抽選。当選した観客は当日21時半までに集合し、トークイベントのある場合はそれに参加し、シャワーを使ったり、観客同士で雑談をしたりし、23時半には消灯、退出は翌朝5時以降でそれまでは外出禁止という決まりだ。

「カプセルホテル 21」という作品名だが、カプセルではまったくなく、それぞれブースになっており片側は外庭の見えるガラス、片側はドアのない入口なだけ。どちらを頭にしても足にして、横になってもいいのだが神経質な人は眠れないかもしれない(まあ、もともと宿泊スペースの提供が目的ではない)。しかも建物の屋根の傾斜を利用しているので、ブースは1段のものから3段のものまである。木材や建築足場用の単管で組み立てられているので安全性には問題はないが、壁は発泡スチロールだし、ベッドマットはただのウレタンだ。

こう書くと、ケチをつけて文句ばっかり言っているように聞こえるかもしれないが、実はそれもアーティスト西野の目論見への(真っ当な?)反応なのである。彼はこう語る。
「美しいフォルムを持った清楚な建築の中に、その真逆の性格を持つインスタレーションを試みようと思っています。『単管という解体されることを前提とした材料での建築物』、『居心地が悪く醜いベッド』、『暴力的で安価な素材のホテル』等、この作品には日常生活に存在するものとは違った『別の視点』が投げ込まれています」

当惑や不満を露呈すればするほど、どうやら作者の策にハマってしまっているということらしい。実は筆者はラグジュアリーな「マーライオンホテル」をはじめ、西野が作ったいくつかのホテルに宿泊したり、宿泊はできないが「ディスカヴァリング コロンブス」の快適なリビングルームを経験したことがあるのだが、それに比べると今回のこれは西野の別の境地の作品である。

それでも普段はギャラリーとして使っているスペース(しかも安藤建築!)で一晩を過ごしたことは貴重な経験になるだろう。今後、別の展覧会でこの場所に来るたびに、ああ、ここにベッドがあって眠ったんだと思えるし。

Part ③ まだまだいます! ここまでやっちゃうアーティストたち

誰も考えないことを真剣に実現させようと企む人たちがいる。
ここまでやっちゃう様々なアーティストたちのお話。

石上純也「Church of the Valley」© junya.ishigami+associates

石上純也「Church of the Valley」(撮影:木奥恵三)

石上純也
石上純也は1974年、神奈川県出身。東京藝術大学大学院で建築専攻修士課程を修了、妹島和世建築設計事務所を経て、2004年に独立。建築家であり、現代美術領域に活動の範囲を広げ、双方のジャンルに刺激を与えてきた。2008年ヴェネツィア・ビエンナーレ第11回国際建築展日本館代表。2010年ヴェネツィア・ビエンナーレ第12回国際建築展金獅子賞(企画展示部門)。東京都現代美術館の吹き抜けに重さ1トンもある巨大な「四角い風船」を浮かせて、観客の度肝を抜いたこともある。

本展での展示は、中国山東省の渓谷で進行中の、幅1.35m×高さ45mの教会「Church of the Valley」のプロジェクト模型を通して、壮大なスケールを表現しようとしているがやはり、完成予想図と模型だけなのは残念。高さは無理でも人が歩く一部分だけでも実寸模型を作ってほしかった。

ヌーメン/フォー・ユース「テープ・トウキョウ 02」(撮影:木奥恵三)

ヌーメン/フォー・ユース
「テープ・トウキョウ 02」を展示しているヌーメン/フォー・ユースは舞台美術、インダストリアルデザイン、インスタレーションと、テープやネットなどの素材を使い様々な活動をしている。透明テープといういわば線(一次元)が二次元の面になり、それが曲面を描き、体積を持ち、テープの層が重なり、強度を持った空間を作り、そこに人を誘う。それはまるで蜘蛛の巣のように作られ、完成したものは蟻の巣のようでもある。同時に2名までが中に入ることができる。

淺井裕介「土の旅」(撮影:筆者)

淺井裕介「土の旅」(撮影:木奥恵三)

淺井裕介
土と水を使い、動物や植物を描く「泥絵」で知られる淺井裕介は1981年東京都出身のアーティスト。近年の活発な活動が目覚ましい。東京都現代美術館、彫刻の森美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館のほか、瀬戸内国際芸術祭や北アルプス国際芸術祭などでも彼の作品を見ることができたし、海外にも活動の範囲を広げている。本展で公開されているのは過去の作品を再構成し、描き足したもの。これまで各地で採取した土に加え東京ミッドタウン内の土も採取し描いた。

ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ(撮影:木奥恵三)

ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ「福島での開催の様子」(2015年)

ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ
「東日本大震災復興への一助として、被災地に音楽を届けたい」。スイスの伝統ある音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」芸術総監督ミヒャエル・ヘフリガーは、震災翌日の2011年3月12日、梶本眞秀(KAJIMOTO代表取締役社長)へ安否を尋ねる電話をした。これがきっかけとなり、世界的建築家の磯崎新と英国人彫刻家のアニッシュ・カプーアとのコラボレーションにより、「アーク・ノヴァ」(ラテン語で『新しい方舟』)と名付けられた高さ18m、幅30m、奥行36mの移動式コンサートホール(収容人数494名)が生まれた。壮大かつ分野を跨いだプロジェクトが、東北の復興と人々へと広がる喜びを願っている。

この写真を見たとき、筆者は2011年パリのグランパレで見たアニッシュ・カプーアの「リヴァイアサン」を連想した。それはあのグランパレの大きな建物の内側いっぱいいっぱいに膨らまされたゴムの風船でその中に何百人もの人が入れる構造物だった。この「アーク・ノヴァ」はアニッシュ・カプーアの作品の中ではその系譜に入るものだ。

本展では素材のサンプル、構造の図面、組み立てる際の映像、コンサートの様子などの展示だが、9月19日(火)から10月4日(水)まで東京ミッドタウンの芝生広場に出現し、コンサートや映画の上映会が開催される予定だという。詳しくは東京ミッドタウンのウェブサイトに後日発表される。

ダニ・カラヴァン「大都市軸」(1980 年-現在) © Lionel Pages

ダニ・カラヴァン
「私は作品を置く場所を探すタイプのアーティストではない。私の作品はすべて、特定の場所のために依頼されて制作しているからだ。場所との関係性が最も重要だ。私のプロジェクトのすべてにおいて、場所が出発点となる」——これはイスラエル出身の彫刻家ダニ・カラヴァンの言葉だ。

なるほど、たとえば鹿児島の霧島アートの森にある彼の作品を見ると、その場所ならではの標高差、景観を利用したその場にしかあり得ない体感する作品になっている。本展では、長さ3kmの「大都市軸」(フランス)と、「ネゲヴ記念碑」(イスラエル)の2つのプロジェクトのスケッチ、写真などのドキュメントを展示し、綿密なプロセスを見せてくれている。

ジョルジュ・ルース「トウキョウ 2017」© Georges Rousse

ジョルジュ・ルース「トウキョウ 2017」を別の角度から見た図その1(撮影:筆者)

ジョルジュ・ルース 「トウキョウ 2017」を別の角度から見た図その2(撮影:筆者)

ジョルジュ・ルース
板が無造作に組み合わされ、なにやら制作進行中の作品のようだと思いながら、その脇を通り抜け、振り向き、ある1点からそれを眺めると、そこには完全な円が見える。作者によれば円は禅における円相に通じてもいるらしい。ジョルジュ・ルースの作品「トウキョウ 2017」だ。緻密な計算や制作現場の高度なチームワークによって実現される。

さて、どの作品、プロジェクトをとっても「それを見るためだけに、たとえ外国であってもわざわざ駆けつける価値のある作品」ばかりで、その貴重な記録やプランを集積させた展覧会である。関係者の話によると「悲しいくらいの低予算」でできている展覧会なのだそうだが、それぞれの本作品の規模の大きさ、そしてそれをカタログのように一気に見せようという心意気はまさに「そこまでやるか」である。

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企画展『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展
会場 21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン内) 会期 〜10月1日(日) 休館日 火曜日 開館時間 10:00〜19:00(入場は18:30まで)*9/30(土)は六本木アートナイトに合わせ、特別に24:00まで開館延長(入場は23:30まで) 入場料 一般1,100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料

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鈴木芳雄|YOSHIO SUZUKI
編集者/美術ジャーナリスト。明治学院大学非常勤講師。雑誌ブルータス元・副編集長(フクヘン)。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。

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