⽇本でも⼈気の「アフタヌーンティー」。豪華な3段のティースタンドや季節ごとに変わるケーキはおいしくてSNS映えも抜群だ。しかし、この⼈気は⼀瞬の流⾏で終わるのだろうか。本場イギリスで、毎年最も優れたティールームに与えられる「トップ・ティー・プレイス(U.K.’s Top Tea Place 2008)」を受賞し、現在は⿇布⼗番「Juri’s Tea Room」のオーナーシェフである宮脇樹⾥さんに、本当のアフタヌーンティーの楽しみ⽅について聞いた。
Edit Jun Ishida
Photo Aya Kawachi
Text Miho Matsuda
イギリス菓子の魅力は、豊かな歴史とエピソードの面白さにあった
宮脇樹⾥さんのイギリス暮らしは、16歳のとき、⽗親の宮脇巖さんの転勤に伴い、⺟親と家族3⼈で渡英したことから始まった。スコットランドの⼤学を卒業後、ル・コルドン・ブルーのロンドン校で料理とお菓⼦のグランド・ディプロマを取得。NYに赴任していた巖さんがロンドンに戻ると、オックスフォード近郊で⽇本⼈対象のゲストハウスを営む。やがて美しい⾃然と歴史的な景観のコッツウォルズに魅せられ、家族でティーハウスを始めた。
「フランス料理を学び、ザ・レインズボロウでアフタヌーンティーを担当したこともあり、始めた当初は、きらびやかなお菓⼦をたくさん並べていました。でも、コッツウォルズで求められていたのはそうではなかった。そこで、2、3年かけて伝統的なイギリス菓⼦を学んでいきました」
苦戦したのは、イギリス菓⼦のおいしさを理解すること。それを打破するヒントは、イギリスの豊かな歴史にあった。
「イギリスには、でんぷん質でどっしりとしたという意味の“starchy(ストーチー)”という⾔葉があります。その粉っぽい焼き菓⼦や重いクリーム、デザートの総称にもなっているプディングは、私の原体験にはない味だったので、初めは全くおいしいと思えなかったんです。そこで、ファーマーズマーケットでおばあさんのお菓⼦を研究したり、エリザベス・デイヴィッドやエリザ・アクトンの古い料理書を読み込むうち、お菓⼦の背景に豊かな歴史があることに気がついたんです。ショートブレッドとガレットブルトンヌ、ブレッド&バタープディングとディプロマットなどイギリスとフランスの関係や、お菓⼦が⽣まれた逸話を知るうちに、イギリス菓⼦を⼼から理解できるようになりました」
紅茶の本場・イギリスでも、実は街のティールームではティーバッグを使⽤するお店も多いのだとか。しかし、⾃宅でも飲める紅茶をせっかくお店で楽しむのだからと、茶葉を厳選し、バーレイ社の茶器で提供することにした。
アフタヌーンティーを通して伝えたいのは「ちゃんと休むこと」
2008年、UKティーカウンシルが、その年⼀番優れたティールームに与える「UK’s Top Tea Place 2008」を、英国⼈以外の外国⼈として初めて受賞。それから2013年まで、毎年⼗数軒しか選ばれないトップクラスのティールームに名を連ねた。2017年に⽇本に帰国し、⽇本橋三越本店のティールームでブランドオーナーを務めた。そして、2022年3⽉、オーナーパティシエとして⿇布⼗番に「JURI’S TEA ROOM」をオープン。ここで樹⾥さんが伝えたいのは、⾷べ⽅などのお作法ではなく、アフタヌーンティーの本当の意味だ。
「2013年、⺟が急逝しました。⻑い海外暮らしの中で、毎⽇を楽しむことを教えてくれて、⼀緒にお店を切り盛りしてきた⺟を失い、ストレスで⾔葉が出なくなってしまうほど落ち込みました。お店を休み、忙しかった⽣活を⾒直して、ゆっくりと体調を戻していきました。ある時、何も考えずにゆったりアフタヌーンティーの時間を過ごしたことがあったんです。その時、⼈間にとって、こういう時間は必要なものだと実感しました。アフタヌーンティーは貴族社会から⽣まれた⾷⽂化なので、細かいマナーはありますが、それは他⼈を不快にさせない程度に守ればいい。それよりゆっくり休むこと、暮らしを楽しむイギリスの⽂化をお伝えしたいと思っています」
13、4項⽬ある「UK’s Top Tea Place」の条件には「オーナーの顔が⾒えること」がある。
「ホテルの美しいアフタヌーンティーも楽しいのですが、イギリス式のティールームならではの雰囲気を⽇本にもお伝えしたいと思っています。気軽に私たちに会いに来てくれるようなお店になるように、いろんな試みもしていこうと思っています」
サービスを担当する巖さんは、コッツウォルズを含むハートオブイングランドの英国公認ブルーバッジガイドの資格を取得している。樹⾥さんがつくる絶品のスコーンや、本格的なイギリス菓⼦を味わいながら、そのお菓⼦の歴史やイギリスの暮らしのことを⼆⼈に尋ねてみてほしい。⽇本で暮らす私たちにも応⽤できる、暮らしのヒントがあるはずだ。
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