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「つながり」が、アイデアを加速する #6 打越俊明|ミラーボーラーズ家元

アークヒルズを拠点とする会員制オープンアクセス型DIY工房TechShop Tokyo。その運営企業TechShop Japanの代表取締役社長・有坂庄一がホスト役を務める、異業種対談シリーズの第6回。今回のお相手は、ミラーボールの光を使った空間演出を得意とするインスタレーションアート集団『ミラーボーラーズ』の家元・打越俊明さん。現在、アークヒルズのアーク・カラヤン広場を彩るクリスマスツリーの制作秘話から、スタート!

TEXT BY MASAYUKI SAWADA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

アラベスク模様のパネルは、すべてTechShop Tokyoのレーザーカッターで制作。「普段は工房で作り、現場まで運び、そこで組み立てるわけですが、今回は広場の目の前にあるTechShop Tokyoで多くのパーツを作ることができたので、非常に効率的でした!」(打越)

手練れ同士は通じるものがある

有坂 打越さんと出会うきっかけは、アーク・カラヤン広場のクリスマスツリーでした。今年でもう3年目になりますでしょうか。

打越 3年目ですね。

有坂 ミラーボールというのは、やっぱり昔のディスコティックのイメージがあるじゃないですか。それを使ってクリエーションしていることにびっくりしたのと、お寺とかを会場にして、ものすごくスタイリッシュなインスタレーションをしているから、すごいことを考える人が世の中にはいるものだなと思っていたら、うち(TechShop Tokyo)に来られて。

でも打越さん強面だから(笑)、最初はしゃべりかけづらいなと思っていたけれど、実際にお話させていただくと面白い方だということがわかり……。

打越 いつも、くだらないことばかり話していますよね(笑)。

有坂 ですね。それで改めてお訊きしたいのですが、そもそも打越さんは、なぜTechShop Tokyoに来られたのでしょうか?

打越 実は正直言うと、最初にアークヒルズのクリスマスツリーを手がけた時、いまTechShop Tokyoがあるこのフロアは何もなかったんですよ。真っ暗で、僕ら的には光がすごくよかったんです。でも翌年はTechShop Tokyoが入居して、広場を煌々と照らしている(笑)。参ったなと思う半面、TechShop Tokyoがどういう場所なのかは知っていたから、レーザーカッターをやってみたくて入会したんです。入ってみたら、何とも気さくな人たちばかりで。

しかも、みなさん手練れで、すごい人がたくさんいるから、ここは面白いなと思って、こちらから「何かコラボレーションしませんか?」って話しかけたんですよね。たくさんの人のエネルギーが入るほうがよっぽど面白いし、ここで作って目の前の現場に持っていける状態が、すごくいいなと思ったんです。

今までは職人さんとやり合わなきゃいけなかったのが、ここだと思ったことが全部自分たちで形にできちゃうのがすごいですよ。

有坂 手練れ同士はやっぱり通じるものがあるんですか?

打越 何をやっている人なのかとか、そういうことはめったに聞かないんですけど、何かの拍子にそんな話になると、もう完全異業種なんですよ。でも、狙っているところは何となく近いというか、面白いと感じるものが共通な人が多くて。そういう異業種の人たちと一緒にできる機会なんてそうそうないし、これはチャンスだなと。

有坂 ここに来ている人たちはみんな、見ているものとか持っている技術とか知識が違いますね。

打越 だから今年のツリーは、ここで作ったパーツがかなり使われています。ずっとここにいましたから。

有坂 うちにはレーザーカッターが5台あるのですが、打越さんが制作するものはそのうち1台しかない大型のレーザーカッターじゃないとダメなんですよね。なので、その稼働率が異常に高かった。

打越 すみません。けっこうわがまま言いましたね(笑)。

有坂 ちなみに、どのぐらいがTechShop Tokyoで作ったものなんですか?

打越 フィルムをカットしたのは98%ぐらいここですね。

「TechShop Tokyoには、いろいろな技術やアイデアを持った人たちが集まっているので、話をしているだけでインスパイアされますし、当然作品にも影響や変化が出ますね」(打越)

天からのお告げでミラーボールと出会う

有坂 打越さんはミラーボーラーの家元を名乗っていますが、代表との違いはなんですか?

打越 ミラーボーラーという団体は、僕が「ミラーボールってイケているんじゃないか?」と思ったことがきっかけとなって始まったんです。ただ、僕は経営方面があまり得意ではないので……。ミラーボーラーズ株式会社という法人なので、その運営をする代表がいて、僕は作品づくりやデザインを担当する先駆者として、家元と名乗っています。

有坂 僕、ミラーボールを始めるにあたって神のお告げがあったという打越さんの話が好きで。あれが転機なわけですよね。

打越 めちゃめちゃ転機ですね。30歳だった2000年の2月29日に、夢を見たんですよ。何の夢を見たのかははっきりと覚えていないんだけれど、起きたときに地球の美しさというか、生きていることの素晴らしさにどうしようもなく感動しちゃって、涙が止まらなくなったんです。それまでは、そんなこと一切思ったこともないし、泣くことなんてなかったんですよね。わりと利己的だったし、自分の力量でやっていると思っていたタイプだったんです。

有坂 面白いですよね。

打越 何だかよく分からないんですけど、自分は生かされているんだなってことにすごく感動したんです。当時はグラフィックの仕事をしていて、ミュージシャンのCDジャケットとかをデザインしていたんですが、「人の作品を作っている場合じゃない、自分自身の何かを作らなきゃいけない」と思い立って、そこからわりとすぐにミラーボールと出会ったんです。その時、「1個もきれいだけど、2個あるともっときれいなんじゃないかな」って思ったんですよ。要は1個のミラーボールに何千個というミラーが付いているので、それが2個になって乱反射を起こしたらどうなるんだろうか、それこそ100個とか200個とかになったら、いったいどうなるんだろうかと。

コンピューターでだいたいのことがシミュレーションできてしまう状況がイヤで、何か予期できないことがしたいなと思ったことが、ミラーボールを使った作品づくりの背景にありました。

有坂 夢で見た地球が、同じ球体のミラーボールにつながったとか、そう言う関係性はあるんですかね?

打越 わからないですね。関係あったのかな。自分でも衝撃的すぎる体験だったから、しばらくのあいだはけっこう大変でした(笑)。友人に話したら、「ものを本気で作っていくとたまにそういうことがあるみたいよ」と言うので、それで開き直ってやってみると、自分でも想像のつかないアイデアが湧いてきて、これは絶対にいけるだろうって。今もそうなんですけど、「ここにオブジェを作ってください」と言われて現場に行った瞬間、頭の中でビジョンとしてぱっと完成した形が組み上がっちゃうんですよね。頭で考えるというより、何か感じるというほうが強いのかな。

「アークヒルズクリスマス 2017 ~Light of mine~」は12月25日まで。広場や滝前だけではなく、コリドーにもミラーボーラーズ×TechShop Tokyoの作品が展示されているので、ぜひ散策を!

世界平和に貢献したいと思ってやっている

有坂 昨年、「バーニングマン」(註:毎年ネバダ州のブラックロック砂漠で約1週間にわたって行われる大規模な野外イベント。電気、上下水道、ガス、電話といった生活基盤は整備されておらず、生存に関しては、すべて自己責任で準備をすることになる)に行ったそうですね。どうでした?

打越 なかなかやばかったです。日本ではやっぱり奇祭といった形で伝わっていますけど、向こうではもうちょっとスピリチュアルなお祭りって感じですね。

有坂 ああいうスピリチュアルなやつって、今の日本だと難しいですよね。そういうのはよくないという人が必ずいて。一方でイノベーションとか言っているわりに、もう一方でそういうところはできないみたいな。だからすごく今、ちぐはぐな感じがして、やっぱりバカばっかりなところから生まれるものがあったりするじゃないですか。

打越 ありますね。

有坂 クリエイティブってわりとそういうフリーダムの中からしか生まれなくて、いろいろな規制からは決して生まれてこないですよね。

打越 本当にそう。バーニングマンを見ていると、衝動がダイレクトに作品制作につながっている感じがあって、日本は衝動を起こすまでのハードルが多すぎるのかなという気がします。

有坂 ハードルが多いとパッションもなくなりますよね。

打越 結局、閃かないというのは、頭でばかり考えているから、範囲が狭いんだと思います。逆に、感じるのって自由だから、そっちの部分を大切にしていったほうがいろいろな世界は広がっていくと思う。

有坂 最近、アーティスティックなアプローチで社会課題を解決するというケースが少し増えているじゃないですか。アートみたいなことを個人個人が作ったり、発信することが簡単になってきて、そういう中で企業とかも試行錯誤しながら取り入れようとしています。実は今、世界でいちばんデザイナーを抱えているのがIBMだったりしますが、アートの視点で企業がもっとこうすればいいんじゃないかって思うことはありますか?

打越 何だろう。正直、僕は自分でアートをやっているとは思ってないんですよ。誰でも分かりやすくて、言葉の障害もなく、宗教も関係なく、赤ちゃんから老人まで喜べるものが作りたいと思っているんですよね。僕がこれをやっている目的は、言うならば世界平和への貢献なんです。世界平和を僕がやりたいというわけじゃなくて、世界平和の柱の1本の支えにでもなれたらいいなと思っていて、そういう活動を最終目標としているんですけれど、もし企業にお願いできるのであれば、世界をよりよくするために動いているものに対して「もうちょっと理解とサポートをしてちょうだいよ」という感じでしょうか。

有坂 なるほど。もっと言うと、企業側も世界をよくしていこうという姿勢をもっと見せた方がいいということでもあるんですかね。

打越 そうですね。やっぱり世界がよりよくなっていったほうがいいですよね。数字ばっかりに追われる世界ではなく、そういう気持ちを育てるということをもう少し本気で一緒に取り組めるといいですね。

有坂 何か義務的にやっているところは多くても、本気でやっているところって少ないですよね。

打越 そう思います。本腰を入れてやってもらえると、日本も世界も変わっていくんじゃないかな。ちょっとスピリチュアルっぽく聞こえちゃうかもしれないですけど、やっぱりいろいろな人のエネルギーが入ると変わっていくんですよね。いつも思うのが、出来上がったときはちょっと粗いんですよ。若干粗さがあるんだけど、いざ展示が始まって、「きれい」とか「すごい」という言葉が発せられると、どんどん見え方が変わってくる気がします。何かの波長があるのかなと思うぐらいです。

有坂 見え方が変わってくるんですか。

打越 変わりますね。今回もワークショップをやってライトが足されたときには、完全に自分の手を離れたなと思ったんですよね。もう独り歩きし始めているというか。それっていろいろなエネルギーが入っているからなんじゃないのかなって。

有坂 生き物なんですね。

打越 生き物です。というか、生き物でありたいと思っています。

profile

打越俊明|Toshiaki Uchikoshi
ミラーボーラーズ家元。1969年東京都生まれ。10代の終わりに渡英し、帰国後音楽制作事務所に就職。その後フリーランスのグラフィックデザイナーとなり、忌野清志郎、Chara、UA、黒夢、井上陽水、Thee Michelle Gun Elephantなど多数のCDジャケットを手がける。2000年、突然天啓を受け、ミラーボールを使った作品づくりを開始。紆余曲折を経ながら、家元として、愛と調和の作品を作り続けている。

profile

有坂庄一|Shoichi Arisaka
TechShop Japan代表取締役社長。1998年富士通に入社。長らくマーケティング部門に在籍し、2015年10月より現職。サンフランシスコにて本場TechShopのノウハウを学ぶ。