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「つながり」が、アイデアを加速する #3 北島 昇|TACO RiCO・TORTA RiCA

アークヒルズを拠点とする会員制オープンアクセス型DIY工房TechShop Tokyo。その運営企業TechShop Japanの代表取締役社長 有坂庄一がホスト役を務める、異業種対談シリーズの第3回。今回のお相手は、同じくアークヒルズにて、タコス&ブリトーの店「TACO RiCO」とメキシカンサンドイッチ店「TORTA RiCA」を経営する北島 昇。ものづくりと飲食、そこに通底する経営理念とは?

TEXT BY MASAYUKI SAWADA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

縁は自治会で育まれた!?

北島 有坂さんとの出会いは、お客さまとしてTACO RiCOに来ていただいたことがきっかけでしたよね。

有坂 はい。TechShop Tokyoの立ち上げのころ、アメリカのTechShopからメキシコ人のスタッフが立ち上げ支援で来てくれたのですが、彼が毎日、それも日に何度もTACO RiCOさんに通うものだから、そのうち僕らもTechShop Tokyoのお客さんも、通うようになったんですよね。

北島 そうでした。彼とは飲みにも行きました(笑)。

有坂 いやでも確かに、タコスって毎日食べても飽きないですよね。野菜がいっぱい入っていてヘルシーだし、ソースの辛さがやみつきになる。それを教えてくれた(メキシコ人スタッフの)Melには、立ち上げ支援も含めて感謝です。

北島 ありがとうございます。TACO RiCOは食材をメキシコから仕入れているので、本場の味を知っている方にも納得していただけると思います。メキシコ大使館やアメリカ大使館でパーティがあるときは、ケータリングのお声掛けをいただくのですが、とても誇りに思います。

有坂 大使館のお墨付きなんですね。そのTACO RiCO以外だと、頻繁に開催されるアークヒルズの自治会に出席しているうちに、自然と親しくなりましたよね。

北島 自治会は、地元の方々、テナント、森ビルの人たちが参加して親睦を深める場になっているわけですが、森ビルがすごいのは、「街づくりって、こういう地道な活動の積み重ねなんだな」という部分を、背中で見せてくれることだと思います。自治会では、森ビルの役員の方と昔からこのエリアに住んでいる方とテナントのアルバイトの方が楽しく喋ったりしていますからね。あと、秋には大きなお祭りもありますし。

有坂 昨年は、氷川神社のすごく珍しいお神輿が出ましたよね。ワーカーの人たちは知らないかもしれませんが、我々テナントの立場から言うと、ヒルズはオフィスやテナントといった商業施設にもかかわらず、自治体の運営が一般的な街や商店街のように執り行われていると思います。

北島 絆を大事にしていますよね。

TACO RiCOのオープンにあたっては、試食会を30回ほど開きました。森ビルの方にも何度も来ていただきましたね(北島)

アメリカ留学で見つけた自分の進むべき方向

有坂 そんなこんなで北島さんと顔見知りになって1年ほど経ちますが、その間、TACO RiCOのメニューをリニューアルするにあたってアメリカ中のタコスを食べて歩いた話とか、TORTA RiCAを立ち上げるプロセスなどは折に触れて聞いているのですが、TACO RiCO以前、北島さんがなにをやっていらっしゃったのかまったく知らないので、この機会に、北島さんの過去をいろいろ聞いてみたいと思ったんです。

北島 生い立ちから話すなら、飲みながら朝までやりたいところですが(笑)、ひとつ言えるのは、昔から考えることが好きで、それがいまにつながっているのは間違いないと思います。

有坂 考えること?

北島 たとえば「自分はなにをするために生まれてきたのか」とか、「愛情ってなんなの」とか、そういうことを昔から延々と考えていました。あと、昔から人にすごく興味がありましたね。人を見ていると、「この人はどこから来て、なにをやって、将来どうなっていくんだろうな」ということを、ついつい考えてしまうんです。

有坂 では、大学では哲学とか心理学を学ばれたんですか?

北島 実は工学部でした。難しい数学が得意だったんです。でも、全然肌に合わなくて(笑)。経済学部に転部したかったのですが、大学からはダメだと言われました。なのでイベントを企画するサークルを自分たちで作ったりしてモチベーションも保ちながら、なんとか卒業したんです。卒業後は建設会社に入り、いい現場をやらせていただいたのですが、「将来この会社の社長になったとして、自分はおもしろがれるかな」と考えたとき、自分の居場所はここじゃないなと悟ってしまい……。じゃあどうしようかとなったとき、漠然と、自分でマーケットを作っていくようなことがしたいと思ったんです。それで、会社を辞めてしばらくアメリカを旅行した後、正式に留学しました。

有坂 確か留学先はサンフランシスコでしたよね。アメリカに行って一番変わったのは、どういった部分ですか?

北島 日本にいるときは、いかに自分が偏見に満ちていたかということに改めて気づかされました。なにしろアメリカでは、すぐにいろいろな人と友達になれますからね。それに、コミュニケーションやリーダーシップが学問になっていることにも驚きました。それもあって人に対する興味がどんどん増していき、将来自分はテックとは真逆の方向、要は「人の絆」とか「思い出」とか、そういう方向でやってみるべきなんじゃないかという方向性が見えてきました。

有坂 帰国後、まずなにをされたんですか?

北島 小さなアイスクリーム屋さんを経験したあと、友人を介して澤田貴司さん(現ファミリーマート社長)と知り合い、一緒に「コールド・ストーン・クリーマリー」というアメリカのアイスクリームブランドを日本でローンチさせることになったんです。澤田さんには、とにかく鍛えていただきました。最初に会って話をしたとき、「ビジネスってなんだ」と聞かれ、「ラブです!」と答えたら気持ち悪がられましたが(笑)、おもしろがってもくれ、拾ってくれたんです。プロジェクトリーダーを任されたのですが、日本誘致が決まったときに「ぜひ社長にしてください」と言ったら、「お前はまだ金の匂いがしないからダメだ」と断られました(笑)。

澤田さんのマーケティングセンスがすごいなと思ったのは、国内1号店を、11月の寒い時期にオープンさせたことです。ぼくは春にオープンしましょうと言ったのですが、「冬に売れないアイス屋なんて、やる価値がない」と。結局、3時間待ちの行列が1年くらい続く大ヒットにつながりました。ちなみに1号店は六本木ヒルズだったのですが、そのご縁が結局、TACO RiCOのアークヒルズ出店につながりました。

コールド・ストーン・クリーマリーは、ただアイスを売るのではなく、体験を売るブランドでした。思い出に残るおいしさとか元気が伝わるようなオペレーションを設計したり、人を集めてトレーニングしたり、自分が思い描いていたことと共感する部分も多かったんです。

有坂 ビジネスは成功を収め、しかも、思い描いていた環境に身を置けたわけですよね。どうしてそこから独立されようと思ったんですか?

北島 多くの失敗を含め、いろいろ経験をさせていただき、自分自身の人生のミッションを考えたときに、事業を通じて、「思い出」を提供することが自分の使命であり、それを生業にしようと強く思いました。自分の会社名であるHapitaは、「ハッピー体験」という大好きな言葉に由来しています。それともうひとつ、「ハピネスを提供したらお金をもらえる」というのが理想的だと思っていて、それをアメリカのクリエイターに相談したら、「ハピタリズム(ハッピー+キャピタリズム〈=資本主義〉)」と表現してくれて。じゃあ、自分はどんなハッピーを提供できるかと考えたとき、サンフランシスコ時代に毎日食べていたタコスの感動を、みなさんにも提供したいと思ったんです。

日本には、まだまだ努力が美徳という価値観が残っていると思うのですが、努力を努力と思わずにやれている状態って、結構ハッピーだなと。ただ、周囲はそれを「努力」と見なし、努力をいいことだとしたいという風潮が残っていますよね。それが少しずつでも変わればいいと思っています(有坂)

有坂 ハッピー体験でいうと、我々は、TechShop Tokyoというくらいなのでテックなわけですが、やっていてすごく思うのは、「なにかをつくることってコミュニケーションなんだな」ということなんです。なにかを作るということは自分の表現なので、まず、自分とのコミュニケーションをすごくするわけです。そして作ったら人に見せたくなるし、見てもらったらフィードバックが欲しくなる。

アメリカのTechShopからは、「会員が500人を超えると、和気あいあいのコミュニティができるよ」と言われたのですが、「それってアメリカ人だからでしょ?」って思っていたんです。でも、日本でも500人を超えたあたりでコミュニティが形成されました。社交的とか、口の上手い下手ではなく、実はモノがあるということが、コミュニケーションを円滑にするんだなということに、しばらくしてから気がつきました。

その名の通り、テックを売りにしているように思われがちですが、その対局にあるアナログなコミュニケーションこそが僕たちの価値であり、北島さん的に言えば、それこそが僕たちが提供できるハッピー体験なのかもしれません。

「どれだけ失敗できるか」が会社の強み

有坂 僕は、経営って要素が3つあると思っているんです。ひとつめはメッセージというかビジョン。2つめは人を動かすこと。そして3つめは実際に打つ策。これが当たらないことにはお金になりませんからね。今日お話していて、北島さんはこの3つがしっかりしていらっしゃると感じました。

北島さんの場合、ビジョンはMake people happyですよね。僕が北島さんのことを好きな理由はそこなのだと思います。次に人の動かし方は、お店に行けばわかります。忙しいお昼時でも必ず笑顔で迎えてくれるのを見て、北島イズムが浸透していることを感じます。そして策でいうと、先日TORTA RiCAで新しいチキンのメニューを出されましたよね。オープンして1カ月で新しいメニューを開発するってすごいなと、感嘆です。打つ手が早いなと。おそらく、なにかしら課題を見つけて、それを解決することに長けていらっしゃるんだなと推察しました。

北島 自分の経営を改めて考えてみると、感覚的なものと数字、そのどちらも見ていることが特徴といえば特徴かもしれません。事業とかプロジェクトを始めるときって、感覚というか、思い描いたこと以上のことはできないんです。でも、その感覚がズレているときがあります。それを手助けしてくれるのは数字なんです。数字ばっかり言う人はうさんくさいのですが、とはいえ、数字が一番の事実であることには変わりません。「今日は売れているな」と思っても、数字をみるとそうでもなかったり、「全然売れてないなぁ」と思っても結構結果が出ていたり。数字って唯一の事実なので、感覚を言葉や絵にしていくことにプラスして、数字を見ながら行ったり来たりして手を打つことは、非常に重要だと思います。

TORTA RiCAのケースでは、オープンしてみたものの、お客さんにコンセプトだったりメッセージが伝わっていないことが数字を見てわかったので、じゃあ、わかりやすいメニューを出してみようということで手を打ちました。仮説が間違っていることがわかったら、すぐに修正しないといけません。

有坂 とはいえ、失敗は決して悪いことばかりではないですよね。TechShop Tokyoでは頻繁にワークショップやセミナーを開催するのですが、空振り率はわりと高い(笑)。「これはおもしろいだろうな」と思って企画して、お客さんが集まりませんみたいなこともままあります。

でも、失敗するほどデータは貯まっていくので、いっぱいやってデータをためた方が、後々強いと僕は考えています。

北島 ぼくもそう思いますね。やっぱり、経験しないとなかなか成功しません。どれだけ失敗できるかというのも、会社の強みですよね。もちろん、致命的なエラーをしてはいけません。僕の場合でいえば、会社が倒産してしまうような失敗はね。でも、小さなやけどはしないと勝負には勝てない。そこは、経営者の感覚として大事な部分だと思います。ちなみに、TechShop Tokyoで最近一番当たった企画はなんですか?

有坂 「意識の低いプレゼンワークショップ —『パリピのセルフブランディングのリッチ化』」というやつでして、まあ、わけわかりませんよね。ギャルで電子工作をやる〈ギャル電〉という子たちが主催するワークショップだったのですが、即満員になりましたし、閲覧数もすごかったんです。それまではわりとまじめな企画が多かったので、こういうちょっとふざけた感じがいいのかなと。

北島 では、一番外した企画は?

有坂 ちょっと言えないです(笑)。ちなみに一度、中高生向けのセミナーを企画したのですが、全然集まらなかったことがありました。なぜかと思って調べてみたら、中間テストの前の週だったんです。これこそ、失敗しないと気づかなかったことだと思います。

TORTA RiCAのトレイ。中央のロゴは、TechShop Tokyoのレーザーカッターで彫刻した。

経営に不可欠なのは、感覚と数字

有坂 この対談ではいつも、「アイデアをどうかたちにしているか」をお訊きしているのですが、北島さん流のアイデアをかたちにする方法があれば、教えていただけますか?

北島 「言葉にすること」ですかね。事業計画を作るとき、こういうことをやりたいと2〜3行にまとめたら、その後、ToDoを100個書き出すんです。資金、場所、人、商品、マーケティング……といった具合に。意外と100項目のQ&Aを作るのって難しいのですが、そこでやるべきことを客観視できるし、妄想とはいえ自分の無意識が反映されているから、後からそのリストを見て気がつくこともあるんです。

有坂 先程の「感覚と数字」と通じるお話ですね。確かに、そのどちらも経営には不可欠だと思います。あとはパッションですかね。ビジョンを実現するには人を巻き込まなければいけないし、人を巻き込むにはパッションが不可欠ですからね。

北島 タコスって、実は6000年の歴史があるんですよ。それを縁もゆかりも無い日本に根付かせようと、真剣にやっている。そういうビジョンとパッションがあると、メキシコ人やアメリカ人をはじめ、いろいろな人たちが力を貸してくれるんですよね。

有坂 そういう思いでいると、出会いやすいというか。なにげなく過ごしていると出会わない、というか気づかないので、そこはすごく重要な分かれ道ですよね。

北島 商品がいいことは大事ですが、それだけではノットイナフ。風を吹かせなければいけません。クリエイターの方が教えてくれましたが、風を吹かせなければ、マジョリティーの人は動かないんです。僕らの場合だと、世の中に対して「メキシカンって、おいしくてヘルシーだ」という風を作っていかないといけない。それには、影響力のある方とのご縁、そして知って頂くことは非常に重要です。まだ、ご縁はないですが、サッカーの本田圭佑選手がメキシコのチームに移籍したので、そうした方面からも、メキシコに注目が集まればいいなと思っています。

有坂 風が吹くといえば、2018年4月にスタートするNHKの朝の連続ドラマのテーマが「ものづくり」なのだそうです。3Dプリンターとかを使って、マスプロダクトでは生み出せないものを、ひとりメーカーとしてがんばっている女性が主人公なのだとか。ということで、来年は僕らにも風が吹きそうなので(笑)、それまでがんばらないとと思っています。

profile

北島 昇|Noboru Kitajima
Hapita Corporation代表取締役。東北大学工学部卒業後、建設会社、不動産会社に勤務後、サンフランシスコへ留学。タコスのおいしさに触れ、毎日のように通う。帰国後、コールド・ストーン・クリーマリーの日本誘致に尽力後、コンサルティング会社を経て独立。2014年より現職。

profile

有坂庄一|Shoichi Arisaka
TechShop Japan代表取締役社長。1998年富士通に入社。長らくマーケティング部門に在籍し、2015年10月より現職。サンフランシスコにて本場TechShopのノウハウを学ぶ。