WORLD OF GHIBLI IN CHINA

スタジオジブリ中国初進出! 展覧会「吉卜力的世界」はいかに実現したか?

スタジオジブリの中国初進出となる展覧会「吉卜力的世界|World of GHIBLI in China」が、7月1日〜10月7日まで森ビルグループが運営する中国・上海環球金融中心(上海ワールドフィナンシャルセンター)にて開催されて大きな話題に。そこで展覧会の実現に携わった3人のキーパーソン〜星野康二 スタジオジブリ 代表取締役会長、橋田 真 スタジオジブリ イベントプロデューサー、矢部俊男 森ビル メディア企画部部長に話を聞きました。

Edit & Text by Ai Sakamoto

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1/44階の「龙猫上映30周年纪念 – 吉卜力的的艺术世界(『となりのトトロ』上映30周年記念─ジブリのアートの世界)」のフォトスポットでは自由に撮影できる。
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2/4「天空之城 – 吉卜力的的飞行梦想(天空の城─ジブリの飛行夢想)」ではスタジオジブリ作品に登場する空飛ぶ機械の解説も。
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3/494階に展示された飛空挺の制作過程。精巧な骨組みが複雑な形状を実現。内部照明により幻想的な雰囲気に。
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4/4不燃加工とエイジングを施した紙を手作業で骨組みに貼り付けていく

矢部俊男 上海環球金融中心(上海ワールドフィナンシャルセンター)の4階と94階で展覧会「吉卜力的世界(World of GHIBLI in China)」が開催されましました。

星野康二 来場者は上海の人が多いですね。予想以上に、若い人も来場しているそうです。

橋田 真 開始以来、動員数が伸びているとか。

矢部 4階の「龙猫上映30周年纪念 – 吉卜力的的艺术世界(『となりのトトロ』上映30周年記念─ジブリのアートの世界)」はフォトスポットを、94階の「天空之城 – 吉卜力的的飞行梦想(天空の城─ジブリの飛行夢想)」はすべての展示を撮影可能にしているので、SNSによる情報拡散の影響が大きいでしょうね。中には、94階の展示風景を撮ったショートムービーを投稿している人もいました。

星野 今回の展示は、2つとも上海での開催に向けて作ったオリジナル。スタジオジブリにとって、初の中国大陸進出でもあります。

飛空艇の稼働スイッチを入れる星野会長ら。会場にはトトロの姿も。

矢部 中国で展覧会を開くことになったキッカケはあるんですか?

橋田 そもそもは、2010年に開催された上海国際博覧会の日本産業館に小さなショップを出店したのがキッカケです。その際お手伝いしてくれた上海新創華文化発展有限公司(SCLA)の代表・孫剣さんがずっと「中国でスタジオジブリを正式に紹介する活動をしたい」とラブコールを送ってくれていたのですが、なかなか実現には至らなかった。それがここ数年、インバウンドの増加に伴い三鷹の森ジブリ美術館を訪れる中国の人が急増。1年ほど前から中国での活動を視野に入れ、橋田に現地視察してもらうなどして検討を重ねてきました。

橋田 初上陸の場を上海、それも森ビルのグループ会社が運営する上海環球金融中を会場に選んだのにはさまざまな理由がありますが、2016年に六本木ヒルズで開催した展覧会「ジブリの大博覧会」で一緒に仕事をした矢部さん、そして森ビルだからこそ安心して任せられるという思いが強かったのも事実です。

矢部 『天空の城ラピュタ』の世界観を六本木ヒルズで再現するというのが僕の長年の夢だったので、あの時はうれしかったですね(笑)。映画のオープニングに2秒だけ出てくる飛空艇を作り、スタジオジブリが好んで描く「飛行機械」と森ビルならではの「建築」という2つをテーマにした展示を行った。今回、94階の展示は飛空艇の容積を2.6倍にするなど、さらにパワーアップ! ぜひ見てほしいと思います。

星野 同じ建物の中で、内容の異なるジブリ展示2つを同時開催するのは橋田の案。

橋田 上海環球金融中心でやるなら、ジブリ主体の企画に加えて、森ビルと四つに組んだ展示もしたいと思ったんです。それなら、矢部さん=飛空艇しかないだろうと(笑)。

矢部 マニア向けの94階に対して、4階は初級編とも言うべき展示になっていますね。

橋田 トトロや宮崎駿といった名前はわかるけど、スタジオジブリ自体を知っている人は中国ではまだまだ少ないんです。だから、まずはナウシカからマーニーまで全部作っているのがスタジオジブリという会社なんだということがわかる展示にしました。最初は「ジブリの大博覧会」をやるつもりだったんですが、主催者であるSCLAから、中国人には理解が難しい展示だと言われました。ジブリ30年間のノベルティをはじめとするグッズをヴィレッジヴァンガード風に構成した展示は、確かに初心者にはわかりづらい。ちなみに、ヴィレッジヴァンガード風にしよう!と言い出したのは、プロデューサーの鈴木敏夫ですけどね(笑)。

星野 企画の段階からSCLAと相談して進め、日本から持ち込むことはしなかったのも功を奏したのかもしれません。ポスターのキービジュアルも中国サイドから出たものですからね。

矢部 文化や仕事の進め方などに関する日中の違いに加えて、スタジオジブリが求めるクオリティの高さに、SCLAは戸惑ったでしょうね。

星野 版元としてのスタジオジブリは大変厳しいですから……。

橋田 SCLAからはよく「マニュアルが欲しい」と言われたのですが、それが難しい。重要なのは、宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫、あるいは色で言うと保田道世という色彩設計担当から脈々と続く感覚的な部分。色にしても、マゼンダやシアンを何%ではなく、「もうちょっと明るく」とか「もう少し青みを強く」といった具合に、皮膚感覚で理解するしかないんです。

星野 その苦労の甲斐あって、2会場ともよい展示ができあがったと思います。開始以来、反応もよく、批判的な意見はほとんどないとか。

矢部 孫さんがネガティブな意見を探したけど、見つからなかったと言ってました(笑)。

橋田 僕は正直、初日を迎えた時、「やっとできた」「よかった」という安堵の気持ちでいっぱいでした。同じく苦労した森ビルのスタッフも嬉しそうだったし、矢部さんは満面の笑顔だし。今回の展覧会は森ビルだからこそ実現し得たと言っても過言ではないでしょうね。

※ 初出:プリント版「HILLS LIFE」2018年9月1日号


右) 星野康二|Kouji Hoshino スタジオジブリ 代表取締役会長。1999年、三鷹の森ジブリ美術館設立のため、スタジオジブリ入社。運営、広報、展示などの業務を歴任した後、2002年からは展覧会やイベントのプロデュースに専従。
左) 橋田 真|Makoto Hashida スタジオジブリ イベントプロデューサー。1999年、三鷹の森ジブリ美術館設立のため、スタジオジブリ入社。運営、広報、展示などの業務を歴任した後、2002年からは展覧会やイベントのプロデュースに専従。
中) 矢部俊男|Toshio Yabe 森ビル メディア企画部部長。情報発信からイベントの企画まで、さまざまなアイデアを持って都市開発事業に携わる。94階の展示では、展示企画プロデューサーとして、豚のガイド役になって登場。

profile

龙猫上映30周年纪念 – 吉卜力的的艺术世界(『となりのトトロ』上映30周年記念─ジブリのアートの世界)
名場面を描いたアート約300点を作品ごとに展示。フォトスポットにはトトロをはじめ、1/2スケールの草壁家やネコバスも出現した(上海環球金融中心4F / ※会期終了)

profile

天空之城 – 吉卜力的的飞行梦想(天空の城─ジブリの飛行夢想)
全長8mの飛空艇を高層階に展示。ジブリ作品、空、飛行機の関係をユニークな視点から解説する(上海環球金融中心94F / ※会期終了)