SUMMERTIME BY JOSH SPERLING

色が歌い、形が踊る。ジョシュ・スパーリングに視覚を奪われる——ペロタン東京(〜8/10)

豊かな表情あふれるスカルプチャー・ペインティングをひっさげて、ジョシュ・スパーリングがやってきた。日本では初の個展。彼の作品を美術史的に読み解いていくことも可能だし、戦後アメリカの建築や工業製品、オブジェ、アニメーションと重ね合わせ、ファインアートに昇華した作品として出会うのもいい。

TEXT BY Yoshio Suzuki
Photo by Guillaume Ziccarelli
Courtesy of the artist and Perrotin

ギャラリー、ペロタン東京は一番大きいメインの壁の向かい側はガラス張りになっている。そのメリットはギャラリーの中に入らなくてもこの部屋に展示中の作品が見られること。そして(それ以上のメリットだと思うが)大型作品ならばギャラリーの外から十分な距離をとって(引いて)一望にできるということだ。

ジョシュ・スパーリング|Josh Sperling 1984年生まれ。ニューヨーク出身で現在も活動拠点はニューヨーク。家具製作の仕事などを経て、アーティストに。シェイプド・キャンバスを支持体とした、遊び心溢れる色鮮やかなスカルプチャー・ペインティングで知られる。Photo by Kei Okano

現在、ジョシュ・スパーリングの展覧会「Summertime」が開催中だが、作品《Summertime A, B, C, D, E》を見たとき、このギャラリーで良かったと思ったものだ。それほどダイナミックなインスタレーション展示である。波打ちくねる形をしたカラフルな半立体オブジェは一見まちまちに作られたように見えて、その実は考えつくされ、整然と並べられている。その几帳面な繊細さと、しかしこれだけの大きな壁を埋め尽くすダイナミックさを持ち合わせている。

アーティスト側もこのギャラリーの特徴を知り、この“ガラスの箱”をショウケース、あるいはジオラマとか、標本箱のようにとらえ、この多様に曲がりくねったオブジェの配置と色を決めたようである。

《Summertime ABCDE》, 2019 キャンバスにアクリル サイズ可変 Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.

そんな感じで圧倒される一方、美術史的にもいろいろと考える。ジョシュ・スパーリングがアメリカ人アーティストであるということから、彼とは50歳近く年齢の違うフランク・ステラ(1936- )の作品を思い浮かべる。ステラの初期のミニマルアート作品からの影響はあるのだろうか。さらに1980年代以降、ガラッと作風の変わるあの半立体の作品はどうなのだろうかと。

フランク・ステラ以外でも、抽象表現主義、ポップアート、あるいはミニマルアートの系譜のどこかに配置できるアーティストなのだろうか。そしてそういう美術史的な系譜を持ちつつ、どう現代アートに昇華しているのだろうか。

さらに、彼の作品からすぐに連想するのは1980年代前半、エットーレ・ソットサス率いるメンフィスの仕事である。デザインにおけるポストモダンの一派であるメンフィスの色彩感覚や作品の表面に施された模様に相通じるものが見えたからだ。

アーティスト本人から話を聞く機会があった。そのやりとりを綴っていこう。まずは展示全体の構成である。2つの展示室をどのように使い分けているのだろうか。

「こちらの一つの面が全部ガラスの大きな部屋。これらの作品は“単色の断片”と呼んでいて、一つのキャンバスが一色で塗られているシリーズです。もう一つの奥の部屋にはその単色のシリーズを複合させたシリーズを展示しています。制作プロセスでは、まずこのモノクロームのものから始めるんですね。そこからそれをいくつか組み合わせて、複雑な構造に発展させていったものにするんです。このように必ずしも明確にきっちり2つに分けるという今回のようなパターンをどの展覧会でも採用しているわけではないけれども、このモノクロームのスクイグル(くねくね)シリーズとそれを合わせたコンポジット(複合)シリーズを合わせて展示しています」

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1/2《Summertime D》, 2019 キャンバスにアクリル絵の具 (19の構成要素) 242.2 x 237.9 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.
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2/2《Summertime C》, 2019 キャンバスにアクリル絵の具 (17の構成要素) 244.3 x 218.1 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.

角度を付けて削りだした大きな合板にキャンバスを貼ったものに着色している。以前は家具制作の仕事もしていた彼らしく、工芸的にもたいへん完成度が高く作られている。

「自分自身もアートとデザインのどちらともの側面を意識しています。以前、木材を扱った仕事をしていたことから、技術だけをとりあげても、デザインとアートのクロスオーヴァーな仕事だということはすごくある。もともとは画家になりたかったということと、今つくっている作品はキャンバスも使っているということから、自分なりのやり方で、デザイン仕事だったり、立体作品だったりというのをバランスよく折衷させていることで作品作りが行われているんです」

アップルやナイキの例をあげるまでもなく、21世紀に入ってこちら側のアメリカンデザインの勢いは目覚ましいので、そのことについて聞いてみると、そのようなデザインの人気や勢いは認めるものの、実はそれほど興味がなく、むしろ、ミッドセンチュリー的なデザインの方に傾倒しているそうだ。「グーギーってわかりますか」と問われた。

あまり耳慣れない言葉だ。第二次大戦後のアメリカ、クルマ社会で目立つためのコーヒーショップ建築がそれらしい。たとえば建物の軒先が反り返って跳ね上がっている。大きなガラスを多用し、内部が見える建築になっている。建物よりも看板が目立っていたりする。これはフランク・ロイド・ライトのもとで働いていたジョン・ラトナーという建築家が1949年にロサンジェルスに設計したコーヒーショップ「グーギーズ」が起源とされることから、その名になっている。この時代に建てられたモーテルやマクドナルドもその流れを引いてるし、いわゆるアトミック・エイジともやや重なる気がする。

往年のアニメーション、『宇宙家族ジェットソン』に出てくるような色、建物や乗り物のシェイプ。あの世界観をグーギーといってもいい。

「主にインスタグラムでそういうデザインや気になる画像があったら保存していて、自分にとってのアーカイヴみたいになっているんです。作品を制作するとき、デザイン画を描くことから始めるんですけど、そのインスタグラムのアーカイヴの画像を見たりしながら進めていくこともあります。もちろんそのままコピーすることって、まず無いんですけど、形の重なり具合とか、組み合わせなど気になるものがあったら見ていってという感じです」

奥の部屋の形の組み合わせの作品はなにか具象的な形態にも見える。小さな2つの丸がまるで人か動物の目のようでもあり、ということは顔なのかなと。そしてよくよく見ていくと、円、四角形、三角形など色は違うものの、どの作品でも構成要素は同じである。しかもタイトルが面白い。人名が含まれているのでやはり、これは人の顔なのかなと。たとえば、Peeping Tom(のぞき嗜好のある男性)、Debbie Downer(悪いニュースや否定的な感情を集める人)、Smart Alec(うぬぼれの強い人、利口ぶる人)。

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1/5《Debbie Downer》, 2019 キャンバス、パネルにアクリル絵の具 85.5 x 92.5 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.
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2/5《Chatty Kathy》, 2019 キャンバス、パネルにアクリル絵の具 83 x 102 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.
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3/5《Peeping Tom》, 2019 キャンバス、パネルにアクリル絵の具 83.8 x 106 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.
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4/5《Lazy Susan》, 2019 キャンバス、パネルにアクリル絵の具 102.9 x 86.4 cm Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.
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5/5Photographer: Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.

「Summertime」シリーズにしても、人名が入っているシリーズにしても、綿密に設計されて作られ、慎重に組み合わされている。色の鮮やかさ、ダイナミックな作り。一方で、仕上げの繊細さで工芸価値が高い。

今年の10月にはパリのギャラリー・ペロタンで個展の予定があり、そこでは白と黒だけで作品を構成するという。空間の雰囲気はガラリとかわりそうだが、それもかなりカッコいい展示になりそうだ。今後は彼の名前を「要チェックアーティスト」として気にしていきたい。

ジョシュ・スパーリング「Summertime」
会場 ペロタン東京 期間 8月10日まで
Photographer: Kei Okano. Courtesy of the artist and Perrotin.

profile

鈴木芳雄|Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。明治学院大学非常勤講師。雑誌ブルータス元・副編集長(フクヘン)。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。