New Phase of Cycle-Sharing in Paris

新システム参入で活気づく、パリの「自転車シェアリング」

「ヴェリブ」というパリ市の自転車シェアリングについて、一度は耳にしたことがある人も多いだろう。パリ市主導のこの移動手段システムが、今年で10周年を迎えた。記念すべき節目の年、この秋には新興の黒船ならぬ“アップルグリーン”の自転車がじわじわと浸透中。パリのシェアサイクル事情に変化が起きている。

TEXT BY MARI MATSUBARA

市内の至る所に設けられた貸し自転車スポットから自転車を借りて、目的地までの移動が終われば近くのスポットへ返却するというパリ市主導の「Vélib(ヴェリブ)」が今年7月、10周年を迎えた。年間29ユーロの登録料で、24時間好きな時に自転車を使用でき、最初の30分は無料。年間登録せずとも、ツーリストならデポジット(のちに返金される)とともに、1日1.70ユーロの使用料を払えば、何度でも乗車できるし、こちらも最初の30分は無料だ(次の30分から1ユーロずつ加算される)。現在、市内1,800カ所にステーションが敷設され、4万台分のスポットを完備。自転車約2万台が用意され、登録者は3万人、1日に10万5,000回の使用、つまり1分間に70台余りが利用されているという(Le Figaro, RTLの記事より)。

2007年7月からスタート、すっかり市民に定着したパリ市主導の自転車シェアリング「Vélib(ヴェリブ)」

ステーションを持たない、自転車シェアリングが登場

しかし今年の秋口から、暗いグレーの重くて無骨なヴェリブ以外に、爽やかなアップルグリーン色のスマートな自転車を街中で見かけることが多くなってきた。駐輪スペースに、あるいは街路樹や建物の壁に寄り添うように、はたまた不躾にも歩道の真ん中にその自転車は停められており、日を追うごとにパリの街じゅうに広がっている。

2017年10月9日にパリでのサービスが始まったばかりの「Gobee Bike(ゴービー・バイク)」

この自転車の名前は「Gobee Bike(ゴービー・バイク)」。28歳のフランス人実業家、ラファエル・コーエンと36歳カナダ国籍のクロード・デュシャルムが始めたサービスで、「ヴェリブ」との決定的な違いは、ステーションを持たない“フリー・フローティング”であること。2017年4月にまず香港でスタートし、10月5日にフランス・リール市で、さらに10月9日からパリ市でのサービスが始まった。利用者はまずアプリをダウンロードし、名前やクレジットカードまたはPaypalなどの情報を打ち込み、50ユーロのデポジット金を払う(解約時に返金される)。アプリ上の地図で自分の居場所から最も近くにあるゴービー・バイクを探し、自転車についているQRコードをスマートフォンで読み込めば、自動的にロックが解除される。乗車して最初の30分は0.50ユーロ。あらかじめ入金した5〜20ユーロのプリペイド金から引き落とされるようになっている。ステーションがないから、好きな場所で自転車から降り、手動でロックして停車すればそれで終わり。なんとも拍子抜けするほど簡単だ。おまけにヴェリブより約4kg軽い(ヴェリブは現在22kgもあり、石畳の道を走行するのは結構大変)。パリ参入からわずか2ヶ月あまりだが、現在数百台が稼働、年末には1,000台以上にのぼる見込みだとゴービー・バイクは発表している。

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1/3サドルの後ろ(またはハンドル中央)のQRコードをスマートフォンで読み取って解錠。
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2/3QRコードはここに。使用後は黒いレバーを手で押し下げて施錠。
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3/3ハンドル中央にもQRコードがある。

実は、こうした「フリー・フローティング・サイクル」はゴービー・バイクだけでなく、6社ほどがパリで展開している。黄色い自転車の「Obike(オ・バイク)」、中国資本の「Ofo(オフォ)」なども最近ちらほらと見かける。東部メッス市で先に導入された「Indigo Wheel」も来年頭からパリにやってくるという。

しかし問題も少なからず起き始めている。ゴービー・バイクのサイトでは、駐輪場(道路脇にある二輪車駐輪用の鉄柵)など通行の邪魔にならない場所に停車するよう求めており、私有地などに停めた場合はアラームが鳴ると書いてある。が、実際にはこれは守られていない(フランス人がこんな決まりを守るわけがない)。筆者がこの2ヶ月あまりで遭遇したゴービー・バイクは、歩道の真ん中などに、かなり無法に停車されていた。

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1/6シャンゼリゼ通りの脇、公共パーキングの入り口付近にポツンと。
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2/6明らかに路肩の車に迷惑な停車のしかただろう。
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3/6こちらは正しいお手本。鉄柵の駐輪スペースに停車。14区にて。
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4/6真っ赤な壁とのコントラストが綺麗だが、狭い歩道がより狭く……。
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5/6人気のマレ地区で、いきなり歩道に乗り捨てられたパターン。
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6/69区で、個人の住居の扉の真ん前に大胆に停車。

先にこうしたシステムを導入した中国・北京での実情を、TV《フランス2》のニュース番組「20 heures」が伝えていたが、それによると供給過剰の自転車数百台が歩道の大半を占領し、さらには山積みにされて崩れ落ち、歩行者を危険に晒しているとか。基本的にCO2削減、大気汚染解消のために自動車を減らし、自転車利用推進の姿勢をとるパリ市も、11月16日にフリー・フローティング・システムを提供する各社の責任者と面会し、マナー順守を徹底させるよう指導したというが、同業者の無闇な市場参入・乱立を防ぐためにも、そのうちこれらの業態に対してさらなる課税措置が取られるだろうと報道している。

ヴェリブに電動アシスト車誕生。ナビ、施錠も可能に

さて、10周年の「ヴェリブ」も黙ってはいない。様々な改良が行われる予定だ。まず2018年1月1日から、全台数の30%が電動アシスト自転車にモデルチェンジする。正直、重くてゴツすぎるヴェリブでは、ちょっとした坂道を上がるのさえ大変だった。パリの土地はセーヌ川に向かって低くなっているので、筆者も行きはヴェリブで快適に目的地までたどり着き、帰りはバスかメトロに乗ることが多かったのだが、これでモンマルトルの急勾配もスイスイと上がれるようになるだろうか。さらに、ソーラーパネルを装備した「V-BOX」を全車に設置。利用者のスマートフォンと連携させ、目的地までの道のりや所要時間がわかるようになる。スマートフォンを置く台もハンドルの中央部分に設けられているから、画面を見ながらの走行も可能だ。さらに画期的なのが、「V-BOX」搭載によって電子施錠が可能になったこと。以前は、目的地のステーションに自転車を返そうにも、空きがないと他のステーションを探し回らなくてはならず、これがヴェリブの不便な点であった。が、今後は仮にステーションが満車でも、停車中のヴェリブとヴェリブの間に突っ込んで、隣の自転車に内臓チェーンを引っ掛けて施錠すればOKとなった。さらに現状の重量22kgから20kgへと若干スリムになり、乗り回しが少しはラクになるだろう(電動アシスト車は約25kgだが)。

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1/62018年1月1日からモデル・リニューアルされる「ヴェリブ」。ブルーは電動アシスト車。©Alain Longeaud / MIEUX
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2/6ハンドル中央にV-BOXが搭載され、利用者のスマートフォンと情報を共有する。©Alain Longeaud / MIEUX
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3/6スマートフォンを置ける台が付いている。画面で道のりを確かめながら走行OK。©Alain Longeaud / MIEUX
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4/6ハンドルから引っ張り出すワイヤーで電子施錠できるように。以前は途中下車して完全に施錠することはできなかった。©Alain Longeaud / MIEUX
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5/6今年10月に行われた新型ヴェリブのお披露目には、イダルゴ市長(左)も参加。一層便利になるヴェリブをアピールした。©Joséphine Brueder/Marie de Paris
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6/6電動アシスト車やV−BOX導入により、スポットも徐々に新しいタイプへ取り替えられる予定。©Joséphine Brueder/Marie de Paris

パリ市のアンヌ・イダルゴ市長は2014年の就任以来、市の環境改善に躍起になっており、その一番の矛先が自動車に向けられている。昨年から、製造20年以上の自動車は平日8時から20時の間はパリ市内通行禁止。ディーゼル規制もそろそろ始まる。それより前、セーヌ両河岸の自動車専用道路を廃止して、市民の散歩道にしてしまった。この措置でパリの車の渋滞は慢性化したが、イダルゴは改革の手を休めない。自動車を追い出す代わりに、自転車の通行を推奨しており、今年の秋にはパリの東西を貫くリボリ通り2車線のうち、1車線を自転車専用ゾーンにする工事を始め、来年あたり、バスティーユ広場からコンコルド広場まで約5㎞の大動脈はバス専用道を除きたった1車線になってしまう! これまたすでに大渋滞をもたらし始めている。しかし2020年までに、自転車専用道路を全長700㎞から1,400㎞ に拡張し、通勤手段の5%に過ぎない自転車利用を15%に増やすなどの指針が、1億5000万ユーロの予算とともに2005年の市議会ですでに可決。2024年五輪開催も決まり、イダルゴの有言実行はさらに加速している。

リボリ通りの2車線のうち1車線を自転車専用ゾーンにする工事は2018年3月まで続く。バス6路線が走る幹線道路なだけに慢性的な渋滞は必至。©Henri Garat/Mairie de Paris

こうした行き過ぎた(?)市の方針に、反論の声も聞こえている。まず大気汚染改善を目指したはずの行政措置が、実際にはそれほど功を奏さず、汚染数値にほとんど変化がなかったことが最近の統計で発表された(渋滞の慢性化で、CO2が局所的に溜まってしまう)。イライラがつのるドライバーと、ほぼ100%車道か自転車道を走るサイクリストの小競り合いは今後ますます増えるかもしれない。

また、市民はそもそも自転車を活発に利用できる人ばかりではない。お年寄りや子供の送り迎えをする親、体の不自由な人にとっては自家用車が生命線である場合もある。気候的にも寒冷期の長いパリで、雨の日も風の日も元気に自転車で通勤できる層は限られているのではないか。(RERパリ近郊鉄道やメトロなどの公共交通機関はストによる運休や遅れが多く、不潔でスリも多く…とこれはまた別の機会に。)

「ゴービー・バイク」にしても、今でこそ目を引くアップルグリーンの車体が話題を振りまいているが、そのうちサドル盗難に悩まされることだろう(パリで路駐の自転車はサドルやハンドルや車輪を盗まれ破損の憂き目にあう可能性大)。場合によってはQRコードをぶっ壊して、車体を塗り替えて乗り回す輩も当然出てくるはず。問題は尽きないだろう。

東京都でも実は、地域限定(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・江東区・渋谷区)の自転車シェアリングの広域実験が始まっており、8月末の段階で貸し出しポートは333か所、4,210台を提供しているという。フランス人に比べればマナーもよく、モラルの高い日本人の国民性を生かして、ぜひ、パリの自転車シェアリングの実情を参考に、良い点だけを真似てもらいたい(ちなみにパリ20区の面積は東京23区の約6分の1、世田谷区・目黒区・杉並区を合わせた面積とほぼ同じ)。

松原麻理|Mari Matsubara
アシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)で雑誌編集に携わったのち2009年よりパリ在住。アート、建築、デザイン、パリガイド、インタビューなどの分野で取材執筆。「&Premium」で毎月パリ連載を担当するほか「Casa BRUTUS」「婦人画報」「Precious」などに寄稿。