workshop at home

Q:「普通」って何だろう? あなたは普通? 普通じゃない?……でも、どうしてそう思ったの?——丸山俊一(プロデューサー/東京藝術大学客員教授)【おうちでワークショップ】04

NHKで「ネコメンタリー猫も、杓子も。」「地球タクシー」「欲望の資本主義」などちょっと変わった、不思議な番組を手がけ、大学では世の中の仕組みや人の心のありようを考え続ける、丸山俊一さんによるワークショップは、「普通」をめぐって。自宅で過ごす子どもたちのために、さまざまな分野の専門家が研究や活動、考え方のおもしろさを伝えてくれるシリーズ企画【おうちでワークショップ】の第4回。

workshop by Shunichi Maruyama
illustration (top) by fancomi

丸山俊一 さんからの質問です ——

あなたは普通ですか? 「そう」?「そうじゃない」?……でも、どうしてそう思ったの?

「うーん…どっちかニャ?」

こんなこと、急に聞かれても困るよね?

実は僕もすぐには答えられない難問です。そもそも「普通」ってナンだ? だけど、日常的には、けっこう普通に多くの人が使っているよね? あ、今、気がついた? 普通に「普通」って言っちゃった。

言葉遊びをしているわけではないけれど、まあそういう使い方はよくするし、「多くの場合に当てはまる」という意味に使う「普通」はさておいて、「ぼくは/わたしはどこにでもいる普通の子なんです」……、という使い方はなんとなくさびしい気がしないだろうか? かといって、「普通じゃありません!」って答えるのも、少し無理があるから……、ごめん、質問自体に無理があったのかな。こんなことを思いついたぼくがいけないのかもしれないね。

だけど、せっかくなら、ちょっとこの機会に考えてみてほしい。「多く」の人にあてはまることを「普通」と考えるとすれば、その「多さ」は、何かと比べて数えられているはずだね。そしてそれは、必ずある視点から数えられている。つまりそこには基準があるということだ。その基準は誰が決めるんだろう……?

あ……、こんなことをみんなが言いだしたら、面倒くさい子だ、普通はそんなこと言わないよ、と言われて、「普通」じゃない子ということになるのかな?

こうして僕自身もみんなといっしょに考えてきて少しずつわかってきたのは、実は面倒くさくなることを避けるために、「普通」は使われることもあるらしい、ということだ。

話を戻そう。

「普通」を数の多い、少ないで決めるからにはその計測の基準があるのでは?ということだったね。基準がある、ということは、実はそこに価値観というものがある、ということだ。だから、ある場所で普通であることが、別の場所じゃ普通じゃないこともいろいろあるはずだ、というわけだ。

それなのに、けっこう多くの人たちが「だいたい普通はこうするよね」という言葉、よく使うんじゃないだろうか? 先生にも「普通は、こうするものだ」って叱られたこともあるんじゃないのかな?

だから、ひとつだけおぼえておいてほしい。

「普通」を使って主張する人にも、実は絶対的な基準があるわけじゃない。だから、無理に「普通」に合わせることもないんだ、ということを。そして、「普通」でも「普通じゃない」でも、どう言われたとしても、いつも決める基準は、君自身にあるんだ、ということを。

「普通なんて、ニャい!」

profile

丸山俊一|Shunichi Maruyama
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/東京藝術大学客員教授。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」など〈欲望〉をキーワードに現代社会を読み解く異色ドキュメントを次々に企画開発。過去に「爆笑問題のニッポンの教養」、現在も「「ネコメンタリー猫も、杓子も。」地球タクシー」など様々な教養番組をプロデュースし続ける。著書 / 共著に『14歳からの資本主義』『結論は出さなくていい』『欲望の資本主義1~3』『AI以後』『マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学するⅠ Ⅱ』他多数。東京藝術大学、早稲田大学などでも社会哲学を講じ教壇に立つ。猫好きの遊歩人(photo by Akiko Arai)