PREDICTIONS 6

Q:資本主義は永久に続くと思いますか? ——気鋭の専門家6人に聞きました

昨秋(2019年)11月19日(火)20日(水)にアカデミーヒルズで開催された「Innovative City Forum 2019」のKeynote Sessionで会場アンケートを行ったところ、64%の聴衆が今後「資本主義に代わる別の経済システムが登場する」と回答。フロアにどよめきが広がりました。そこでICFに登壇した専門家6名の方々に声をかけ、同じ質問に対する回答を寄せてもらいました。

Illustration by yunosuke

ICF2019の会場で聞きました——
Q:資本主義は永久に続くか、別の経済システムが登場するか?

※「Innovative City Forum 2019」キーノートセッションにおける会場アンケートの結果より

❶ 新たな資本を活用しつつ「資本主義」は更新されていく——尾原和啓さん

執筆・IT批評家。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタート。14職目となる現職は、シンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡ぐカタリスト。著書に『アフターデジタル』『モチベーション革命』など。

——あなたの活動についておしえてください。

テクノロジーが人間らしさを引き出し自己実現を加速すると信じて、3年後の当たり前になる未来を取材し言語化して伝え繋げることを生業にしています。最近は、中国などのオフラインが存在しない社会『アフターデジタル』、技術がSDGsなど持続的社会をいよいよ実現する『ディープテック』などを出版。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

「資本主義は永久に続く」

——その理由をおしえてください。

資本主義は続きます。ただ、金融資本主義以外の信用から時間・家の空いている部屋・スキルまで、すべての資本が活用できるようになることで金融資本主義のチカラが相対的に弱まるだけです。自分の代わりに道具を使ったり、自分が動かなくても資本が動くようにすることで、本来できる力の何倍ものレバレッジを実現できたことが人の躍進の源泉です。この金融資本のレバレッジの凄さに人が振り回されたのがこの15年でしたが、ネットによって人の信用・時間などあらゆるものが小分けにつながるようになることで、金融以外の資本活用が急速に台頭し、その中で「資本主義」は更新されていくでしょう。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

だれかに「ありがとう」といっていただける時です。資本主義と並んで大事なのは市場主義です。今までの市場主義はお金の受け渡しでしたが、ネットによって小さな善意が集まることで自分の冒険を支えてもらえる時代になりました(実際、私もオンラインサロンや書籍の読者に冒険を支えられています)。自分が本当に好きで無尽蔵に時間を費やせること、つまり、自分にとっては「有ることが易い」ことが、誰かにとっては「有ることが難しい」ことがあります。これまではそれらが結びつき合いにくかったのですが、ネットによってつながっていくことで、自然と「有り難う(ありがとう)」という言葉をかけていただき、ある時は私が興味を持ちそうな次の冒険の場所を教えてくれる智の報酬をいただけたり、私の冒険は楽しいよと信用の報酬をいただけたり、尾原のイベントをサポートするよと時間の報酬をいただけたり、サロンや本などお金の報酬をいただけたりするようになりました。「ありがとう」が様々な資本にめぐることで生きていける時代に感謝しています。

❷ 消費から、循環や人間関係をベースとした経済圏へ——樋口亜希さん

株式会社Selan代表取締役。日本、アメリカ、中国、韓国で幼少期と大学時代を過ごす。北京大学国際関係学部を卒業後、リクルートを経て現職。2017年、世界経済フォーラムのGlobal Shapersに選出。18 年ダボス会議参加。

——あなたの活動についておしえてください。

5歳以上の子ども向けに、バイリンガル講師による「お迎え」×「自宅英語学習」の「お迎えシスター」、そして世界で「生きる」力をつける21世紀型Weekendスクール「21世紀教育dot.school」のグローバル教育事業を展開しています。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

「別の経済システムが登場する」

——その理由をおしえてください。

資金を必要としている人に、きちんと富が届く社会が作れるのではと考えています。クラウドファンディングはそのひとつの例だと思います。夢やパッションに対してお金が集まる仕組みは、今後も増えていくでしょう。ある程度の経済発展が実現され、基本的人権が守られ、教養が高くなるに連れて、人のベクトルは自己から他者へと向かっていきます。今までの世界では実現できなかったことが、新たな仕組みの登場により、実現できるようになってきました。シェアリングエコノミーの普及も、近代資本主義的な発想とは領域の違う思想だと考えます。消費を前提とした経済から、循環や人間関係をベースとした経済圏の形成は、新たな価値を生み出し、すでにミレニアル世代の生き方に大きく反映しています。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

「感動」を作れたとき、「感動」したとき。人々の心を動かすものを作り、自分も心動かされる存在でいたいと思っています。

❸ 人類の欲望と資本主義は相性が良く、乖離不能なのでは?——長谷川 愛さん

アーティスト / デザイナー。バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクションなどの手法によって、テクノロジーと人がかかわる問題にコンセプトを置いた作品が多い。2017年より東京大学特任研究員。

——あなたの活動についておしえてください。

テクノロジーと人間の関係、よりよい関係とは何か、それはどのように作り得るのか知りたいと思っています。アート、デザイン、SF、文化などからそれらを研究して、アウトプットは大体現在から未来に重要だと思われる技術とともに提案をしています。多くの人と議論と熟考をしつつ未来をつくれると嬉しいなと思っています。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

「資本主義は永久に続く」

——その理由をおしえてください。

残念ながら、人類の欲望と資本主義は相性が良く、乖離不能な気がして、永久では無いけれども、これからしばらく続くのではないか、と思います。とはいえ、そのシステムばかりでは難しいのも事実、それ以外のシステムが徐々に発生し、支脈として存在し、いつかはメインストリームに変化するのを期待しています。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

美味しいものを食べているとき。自分の枠を壊してくれるような、自分を自由にしてくれる素敵な作品をみたとき。植物を育てたり、愛でるとき。魚を釣って多くの人と一緒に食べるとき。ダイビングなど、海中で素敵生物と出会ったとき。日光を浴びたり、森にいったときに無条件に本能的に幸福を感じる時があって、そういう時は野性に戻った瞬間なのではないのか?と自分の野性部分を担う脳について考えます。

❹ 資本主義も量子論的な世界へと拡張していく——豊田啓介さん

建築家 / ノイズ パートナー / グルーオン パートナー。東大工学部建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。2007年よりnoizを共同主宰。EXPO OSAKA/KANSAI 2025招致会場計画アドバイザー。

——あなたの活動についておしえてください。

建築設計や都市デザイン。特にコンピューテーショナルデザインやそれに伴う新しいデザインおよび生産、情報とモノの複合的な流通システム。次世代型のスマートシティとしてのコモングラウンド実装。それらを経た先に新たに生じる建築や都市のデザイン。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

「別の経済システムが登場する」

——その理由をおしえてください。

資本主義の定義をどう設定するか次第ではあるが、仮に現行の経済システムをベースとしたものと考えた場合、さまざまな価値構造や定義、物質や情報の移動や編集における流動性や離散性、階層間の遷移が圧倒的に多様かつ多重になる世界では、現行のような固定的かつ閉鎖的なシステムでは早晩機能しなくなるのは確実。物理学が古典力学系から量子力学系へと拡張したのと同様に、資本主義も量子論的な世界へと拡張していくはず。ただし、相応の規模以上の統計的な挙動を基礎にする、その時代や領域において得られる技術の範疇で相応に自律的な需要と供給に委ねるという大きな概念自体の延長線上にはあるものであると考える(量子論の世界でも日常的なマクロな世界では今でも古典力学が有用性を保つように)。結果として、枠組みと道具立て、技術の変化に応じて現在の資本主義とは大きく異なるシステムにはならざるを得ないが、そのためには政治システムや法律、都市基盤や流通なども同様に変化することが前提となる。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

自分なりに情報収集や分析の蓄積により考えた結果およびビジョンが、相応かつ一定の領域(その大小が問題ではない)の人々に理解・共有されかつ新しい価値として流通するとき。さらにはそれが時間を越えてより長期にわたって残るとき。それがその領域の考え方や実際の行動自体をポジティブに変化させるとき。そこに具体的な形を与えられたとき。

❺ 知的好奇心の生産と消費に基づいた新しい経済システムが登場する——藤島皓介さん

宇宙生物学者 / 合成生物学者。東京工業大学地球生命研究所(ELSI)および慶応大学大学院政策・メディア研究科にて特任准教授を兼任。生命の起源と進化、土星衛星エンセラダス生命探査、火星での生存圏など研究テーマは多岐にわたる。。

——あなたの活動についておしえてください。

私は現在、宇宙生物学と呼ばれる研究分野で、生命の起源と進化について研究を行なっています。生命がどこでどのように誕生したのか? 我々以外に生命はいるのか? また我々はこれからどのように進化していくのか? これらの大きな問いに対して学術的に切り込んでいます。最近では人類の行く末に興味を持っています。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

「別の経済システムが登場する」

——その理由をおしえてください。

私は経済の専門家ではないのですが、時代の変化とともに人間の価値観や欲求が変化し続けるのであれば、一つの経済システムが恒久的に存続するのは不可能だと考えます。ちょっと想像力を飛躍させて「ダイソン球」のような超高効率太陽光発電を実現した遠い未来社会では、人類の「生産力」がすべて自動化されたロボティクスやAIで補完される日が来るでしょう。そうなった世界では「生きる」ために必要な生産活動が不要になるため、人間の活動が知的生産へ完全移行していくのではないでしょうか? つまり知的好奇心の生産と消費に基づいた新しい経済システムが登場すると考えます。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

自分が知らなかった“新しい情報”に触れた時です。それは時に文献であり、自然の景色であり、人との出会いであり、アートであり、家族の成長でもあります。これまで自分が培ってきた感情や常識が揺さぶられるような知的興奮、感動体験を味わうことが幸福です。私が宇宙生物学者としての道を選んだ理由もそこにあります。「生命の起源」という究極の命題に日々チャレンジすることを仕事にできて、これ以上幸せな事はありません。

❻ 不平等をなくすべく、今のシステムは取って代わるか規制される必要がある——エイミー・カールさん

アーティスト / デザイナー / フューチャリスト。人間の身体や身体機能の拡張を、テクノロジーを通して表現するバイオアーティスト。アートを制作する過程で医療と心身医学に貢献することを目標に活動を続けている。サンフランシスコ在住。

——あなたの活動についておしえてください。

新しい技術やバイオテクノロジーが、人間の物質的、情緒的、精神的、および倫理的な側面に及ぼす影響について考察する作品を制作しています。人間の治癒や能力の向上のために、善意からの行為であっても、自然を操作することで、意図とは反対の結果が生じることもあるからです。現在、森美術館で開催中の「未来と芸術展」で、心臓をテーマにした2作品と解剖学にもとづいた衣服の作品3点の合計5作品を展示しています。

——資本主義は永久に続くと思いますか。別の経済システムが登場するでしょうか?

※回答せず

——その理由をおしえてください。

これはかなり広義な質問で、場合によると思います。未来がどうなるか明言はできませんが、社会と人類のために慎重な検証が必要だということは、間違いありません。私自身の研究に引き寄せて考えると、資本主義の問題はその不平等性にあります。例えば、バイオテクノロジー、バイオニクス、身体拡張、交換部位や移植用臓器によって人間の身体が治ったり、能力が高まったりしたとします。でも資本主義のシステムにおいて、その恩恵を得られるのは富裕層で、一部の金持ちがスーパーヒューマンになる可能性もあります。すでにそれに近いことがアメリカでは起きていて、経済的に恵まれた人達だけが、質のよい医療にアクセスできるという状況があります。よりよい社会、誰もが生きやすい世界のために、正しい判断のもと今のシステムは取って代わるか規制される必要があると思っています。今のままでは、貧富の差は広がる一方です。

——あなたが「幸福」を感じるのはどんな時ですか?

とても深い質問です。大きな話で言うと、世の中にポジティブな影響をもたらしていると感じる時や、より前向きな未来のビジョンを持てた時、その目標に向かって前進している時に幸せだと感じます。何かをやり遂げたという対外的なモノと、感情という内的なモノが両方必要です。

※初出=プリント版 2020年1月1日号



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