BIRD WATCHING IN URBAN OASIS

都心で豊かな自然体験!? ヒルズではじめる野鳥観察の楽しみ方

森ビルが手がける“街”を舞台に、次世代の都市のあり方を親子で学ぶ体験学習プログラム「ヒルズ街育プロジェクト」。その春のプログラムが「環境とみどり」をテーマに開催。さる5月12日には、バードウォッチング体験ツアーが行われ、多くの子どもたちの笑い声に包まれた。

TEXT BY AI SAKAMOTO
PHOTO BY KENYA ABE

アークヒルズで見つかったオナガの巣。ビニールなど人工物もうまく利用している。

さえずりが頼りの初夏の野鳥観察

初夏の爽やかな好天に恵まれた5月12日の午前中。「虎ノ門でバードウォッチング体験ツアー」のスタート地点である愛宕グリーンヒルズの緑地には、15組37名の親子が集まっている。ここから虎ノ門ヒルズまでの700mほどの道のりをゆっくりと歩きながら、そして時には立ち止まりながらバードウォッチング。最後は虎ノ門ヒルズのオーバル広場で、野鳥の子育てにまつわるクラフト作りをするという内容だ。

「本来バードウォッチングに最適なのは、木が葉を落として鳥を見つけやすくなる冬。その一方、繁殖期を迎える4月〜6月には、メスに対するオスの求愛行動である“さえずり”が聞けるんですよ」とはガイド役を務める森ビル環境推進室の峰崎善次さん。目と耳を研ぎ澄まして、いざバードウォッチングへ。

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1/6まずは双眼鏡を扱う練習から。遠くの木にかけられた鳥の写真をズームしてみる。
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2/6六本木ヒルズに生息・飛来する鳥について説明しているのは、ガイド役の景山強さん。
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3/6青松寺の境内に広がる芝青松の杜。都心のオアシスにふさわしい豊かな緑をたたえている。
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4/6交通量の多い道路沿いに広がる小さな緑地も、立派にエコロジカルネットワークを形成。
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5/6虎ノ門ヒルズのオーバル広場で多彩な鳴き声を披露してくれたヒヨドリを観察する母子。
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6/6ツアーの最後は、メジロの親子のペーパークラフト作り。子どもたちも真剣だ。

都心の生物多様性を肌で感じる

都心に野鳥なんて……とつい思いがちだが、意外や意外、2つのヒルズの豊かな緑の中はもちろん、ビルの谷間の小さな空き地にも鳥は出現。気がついていないだけで、想像以上に多くの種類が都会のど真ん中で暮らしているのだ。

この日、観察できたのはシジュウカラ、ヒヨドリ、ツバメ、スズメ、キジバト、ハシブトガラスの6種。「今回は出会えませんでしたが、メジロやオナガ、コゲラなども生息しているんですよ」と峰崎さんは話す。

小学校に配布されたチラシを見て参加したという女の子に話を聞くと、「これまで見たことのないシジュウカラやヒヨドリが観察できてよかった」と満足げに一言。「オナガが巣の材料にビニールひもを使っているのが面白かった。適応力がスゴイ!」と大人顔負けの回答をする男の子も。そんな中、もっとも多く聞かれたのは「思ったより、いろいろな鳥がいたのに驚いた」という感想。その実現には都市に作り出された緑地の存在が欠かせない。

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1/4メジロ 鮮やかな黄緑色の体色と、目の白い縁取りが印象的なメジロ。「江戸時代には、その鳴き声の美しさや回数を競わせる“鳴き合わせ”も行われていたんですよ」(峰崎さん)。虎ノ門ヒルズでは、これまでに3つの巣が見つかっている。写真提供:森ビル株式会社
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2/4ヒヨドリ 冬にやってくる漂鳥だったが、環境に順応し一年中とどまる留鳥となったヒヨドリ。ヒーヨヒーヨという鳴き声がその名の由来とされるが、実際はいろいろな声を持つ。「毛利庭園や仙石山森タワーの水場では水遊びする姿を見ることも」(峰崎さん)。写真提供:森ビル株式会社
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3/4シジュウカラ スズメほどの大きさのシジュウカラは、ネクタイのような胸の縦線と黒いクチバシが特徴。峰崎さんによると、「1羽のシジュウカラが食べる虫の量を毛虫に換算すると、1日に250匹以上、1年間で約10万匹になると言われています」という。写真提供:森ビル株式会社
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4/4キジバト キジバトの別名はヤマバト。かつては山地で暮らしていたが、現在は都市部にも多く生息。街中でよく見られるドバトと違い、背中と翼のウロコ模様が特徴だ。「繁殖期に、ツガイで仲よく羽づくろいし合っている様子がかわいいんです」(峰崎さん)。写真提供:森ビル株式会社

ヒルズの緑地を生態系ネットワークの拠点に

森ビルが目指す理想の街づくりに、「Vertical Garden City(立体緑園都市)」と呼ばれる概念がある。小さなビルや住宅などが建ち並ぶ土地を大きく一つにまとめ、高層化&地下化した新しい建物に建て直す(建築面積を最小限に抑える)ことにより、地上に豊かな空地を創出。地表や屋上を緑化することで都市に自然を育み、ヒートアイランド現象などの緩和にも貢献する。また、職・住・遊・学といったさまざまな都市機能を集積することで、人々が豊かな都市生活を送れるようになるだけでなく、エネルギー効率を高め、地球環境への負荷を抑えることもできる。

1986年のアークヒルズの完成以来、森ビルでは「都市と自然の共生」をテーマに大規模緑化を推進。90年に1.15haだったヒルズ全体の緑地面積は、2017年には約8倍の9.19ha(東京ドーム約2個分)に増えている。

そうして生み出された緑地は、エコロジカルネットワーク(生態系ネットワーク)の形成に貢献。エコロジカルネットワークとは、地域に点在する野生生物の生息拠点を小規模な緑地や街路樹などでつなぐことを意味し、これにより生物が移動しやすく、暮らしやすい環境が生まれるという。皇居や芝公園などの大規模な緑地に囲まれた5つのヒルズは、生き物が行き交う際の中継地や生息拠点として期待されているのだ。

実際、ヒルズの緑地ではいくつかの鳥の営巣(巣作り)も確認。これまでに、仙石山森タワーではヒヨドリやキジバト、虎ノ門ヒルズではメジロ、アークヒルズではオナガの巣が見つかっている。これは、鳥が巣作りを行えるだけの環境がそれらの緑地に整っていることを意味する。子育てができるだけの充実したエサ場があり、外敵から身を隠すことのできる安全な場所ということだ。

「例えば、2012年に開業した仙石山森タワーには、東京在来の生き物が生息しやすいよう、在来種の樹木や草木を積極的に植栽。生き物のすみかや餌場となる枯れ木を設置するなど、生物多様性の保全と回復に向けた緑地を作っています。おかげさまで、開業10か月後には、日本でもっとも小さいキツツキであるコゲラの生息が観測されました」(峰崎さん)という。

季節に応じた工夫で野鳥を観察する

繁殖期の終盤となるこれからは、さえずりを頼りに鳥を探すのが近道だが、比較的見つけやすいのは、高い木の上にとどまって大きな声で鳴くことの多いヒヨドリ。子育て期間中でもあるので、巣立ったばかりの、クチバシのまだ黄色いスズメの幼鳥を見ることができるかもしれない。

峰崎さんによると、都心でバードウォッチングするなら晩秋がオススメとか。「熟れた柿をついばみに、メジロやヒヨドリ、スズメなどがやってくるので、探す手間が省けるんです(笑)。桜の花の蜜を吸うために、これらの鳥が集まってくる春もいいかもしれませんね。ポイントは、鳥の動きがよく見えるよう目線を木の高さと同じにすること。歩道橋などに登ると見えやすいですよ」

ちなみに、ヒルズで柿の木があるのは六本木ヒルズの毛利庭園。桜はアークヒルズの桜坂やスペイン坂、六本木ヒルズの六本木さくら坂や毛利庭園がよく知られている。

今では、1000種以上の植物が育ち30種以上の鳥が生息するヒルズの緑地。まずは、ここから都心のバードウォッチングを始めてみよう。

5月12日〜19日にはアークヒルズで、ヒルズいきものDaysが開催された。いきものテントでは鳥の巣の展示のほか、アークヒルズ内のドングリや葉っぱなどの植物を使ったクラフト作り体験も実施された。