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坂本龍一 × 隈研吾|木は都市と自然をつなぐ——more trees 10th Anniversary

木造建築の可能性が広がっている。木は燃えやすいのが欠点だが、難燃処理技術が進んだことで建物を支える柱としても、壁などの仕上げにも、これまでより幅広く使えるようになったのだ。その先鞭をつけたのが建築家、隈研吾だった。2017年12月19日に森林保全団体more treesの設立10周年を記念して開かれた『more treesシンポジウム「都市と森をつなぐ」』では隈研吾の基調講演と、more treesの創設者であり、代表を務める坂本龍一との対談が行われた。

TEXT BY Naoko Aono
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

建築家、隈研吾が語る木の利点

more trees設立10周年シンポジウムの基調講演でまず隈は日本における建築と木の関わりについて紹介した。

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1/7梼原 木橋ミュージアム 雲の上のギャラリー(高知県高岡郡梼原町 / 2010)展示場
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2/7梼原 木橋ミュージアム 雲の上のギャラリー 内観(高知県高岡郡梼原町 / 2010)展示場
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3/7GC プロソミュージアム・リサーチセンター (愛知県春日井市 / 2010)博物館 研究所
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4/7GC プロソミュージアム・リサーチセンター 内観(愛知県春日井市 / 2010)博物館 研究所
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5/7スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店(福岡県太宰府市宰府 / 2011)飲食店
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6/7浅草文化観光センター(東京都台東区雷門 / 2013)観光案内所・事務所・展示場・飲食店

「国土の7割が森林と言われる日本では『里山』とともに暮らす文化があります。山を後ろに抱えて、そこから家の材料や燃料を供給してもらう、山自体がインフラになっているのです」

木には物質的にも精神的にもさまざまな利点があると隈は言う。

「ゴリラの研究で知られる京大総長の山極壽一さんは『人は森の中で育ったから、木に近づくと自然と昔のことを思い出して落ち着く』と言っています。また一般に樹齢が60年を超えると二酸化炭素を吸収しにくくなる。老齢の木を切って若い木に植え替えるのは、一見逆説的に聞こえますが、地球環境にとってもプラスなのです」

木は日本の建築でも巧みに使われている。

「日本建築では小径木(しょうけいぼく)といって、直径10センチぐらいの比較的細い木材を使うのが特徴です。透明で軽い空間をつくるのに向いている。また梁の上に垂直の束(つか)と水平の貫(ぬき)を組み合わせて屋根を支える『和小屋』という技術では、梁の下で自由に柱を移動させることができる。西洋の石やレンガの建物よりも増改築が容易な、世界でも類を見ないシステムなのです」

こういった日本建築の木の技術も踏まえ、隈は木の表情や特質を活かした建築を作り出してきた。2000年に完成した〈那珂川町馬頭広重美術館〉では不燃処理・防腐処理を施した杉材を屋根に使って、広重の浮世絵に見られる雨の表現のような繊細な表情を出している。「more treesの森」の第1号がある高知県梼原(ゆすはら)町の〈梼原 木橋ミュージアム〉では木造だった日本三大奇橋の一つ、〈猿橋〉という橋の構造を応用したギャラリーを設計。小さな木材を少しずつずらしながら張り出させるという手法で1本の柱に支えられた大屋根を作った。〈スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店〉では木材に切り込みを入れて4本の木が1点で交わるようにしている。市役所や店舗などがある〈アオーレ長岡〉には杉板をストライプ状に配した部材を壁や天井にとりつけ、温かみのある空間を作り出した。more treesでは三角形の小さな屋根のようなオリジナルプロダクト「つみき」をデザインしている。軽やかでシンプルな形は柔軟な発想力、想像力を伸ばしてくれる。

木が作り出す日本の都市と建築の表情

基調講演のあとに行われた坂本龍一との対談では、木を使った建築についてさらに掘り下げた話が展開された。

「鉄筋コンクリートだと失敗したら取り返しがつかないけれど、木造は手直しがきくから精神的に楽なんです。伊勢神宮も全く同じものを建て直しているわけではなくて、屋根の角度や飾りが少しずつ変わっていたりする。そのときどきで大工が一番いいと思ったものに変更しているんです」(隈)

坂本龍一|Ryuichi Sakamoto  音楽家・more trees代表/1952年、東京都生まれ。3歳からピアノを、11歳から作曲を学ぶ。東京芸術大学大学院修士課程修了。2017年3月、8年ぶりのアルバム『async』をリリース。直後にニューヨークで行われたパフォーマンスの模様を収めたライブムービー『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK: async』が18年1月27日より全国公開。

「変化を許容する余地があるでしょうね。ヨーロッパでは石造りの建物のように不変の論理性を求めるような気がします。例えば『段取り』という言葉は能からきているのですが、能の演者は本番前に演出を厳密に決めるわけではないんです。いくつかの『段』にわかれた筋書きのうち、『今日はこの段をやろう』ということぐらいしか決めません。建物でも芸能でも適当な決め方でうまくまとめることができる、ふところの深い世界観があるのでしょう」(坂本)

この変化を許容する「ゆるさ」が日本の都市の複雑な景観を生む、と隈は指摘する。

「ヨーロッパでは幾何学的な秩序に従って柱を立てますが、日本では細い柱をランダムに立てて屋根を載せるという作り方ができる。日本ほど“適当さ”を洗練させた国はないと思います」(隈)

心地よいノイズを生み出す木

複雑さ、多様さは「ノイズ」から生まれるとも二人は言う。

隈 研吾|Kengo Kuma  建築家・東京大学教授/1954年、横浜生まれ。1979年、東京大学大学院建築学専攻修了。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授を経て、2009年より東京大学教授。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞、2010年「根津美術館」で毎日芸術賞、その他、国内外からの受賞多数。

「今工事が進んでいる〈新国立競技場〉では日本全国の木を使っているのですが、同じ杉でも地域によって色や木目の入り方が全然違うんです。節があったり、違う木目のものが並ぶことでノイズが生まれる。こういったノイズがあるほうが生物は安心するんです」(隈)

「私たちは視覚的にも聴覚的にもノイズを必要としているし、私たちの周りはノイズだらけですね。母の胎内は外界の音もよく聞こえてけっこううるさいらしいですし、北極圏で海中にマイクを入れたら、空中では静かでも海の中ではどーん、がーんといった音が鳴り響いていた」(坂本)

こんな多彩なノイズを生み出す木という素材について隈はさらなる可能性を感じている。

「これまでも木によって自分の領域が広がってくるのを感じていました。木は単なる素材ではなく、国や世界とつながるきっかけになり得る。その回路をより深く追求していきたいと思っています」(隈)

「木はいろいろな形や匂いによって直接自然とつながることができる、素晴らしいインターフェイスですね」(坂本)

自然と都市、人と人とをつなぐ幅広い可能性を持つ木。日本人にとっては昔から馴染みがある素材ゆえに「私たちは木について何でも知っている」と思いがちだけれど、まだまだ知られざるパワーを秘めていることを実感したシンポジウムだった。

一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)とは?
音楽家・坂本龍一の呼びかけによって2007年7月に設立された森林保全団体。国内11カ所、海外2カ所に「more treesの森」を展開し、地域の方々と協働で森づくりを推進している。また国産材を活用した商品やサービスの企画・開発、セミナーやイベントを通じた森の情報や魅力の発信など、「都市と森をつなぐ」をキーワードに「森と人がずっとともに生きる社会」を目指し、さまざまな取り組みを行っている。

アークヒルズで、木とあそぼう 森をかんがえよう!
毎年ゴールデンウィークにはアークヒルズで「木とあそぼう 森をかんがえよう with more trees」と題し、森ビルと協働で子どもから大人まで、あそびながら国産の木に触れたり、森を感じることができる木育イベントを開催している。