FLEX PARK AS A COMMUNITY
FOR THE FUTURE

「空飛ぶクルマ」から生まれる、未来のためのコミュニティ

2021年12月、虎ノ門のイノベーションセンターCIC Tokyoに「FLEX Park Tokyo」なる施設が誕生した。空飛ぶクルマと空飛ぶホウキのような乗り物が置かれたこの施設は、五感没入型のコンテンツを通じて新たな未来を考える場を提供しているという。この空飛ぶクルマは果たしてどこへ向かおうとしているのか? 国内外の先端的なテクノロジーやアート、カルチャーに精通する西村真里子が、同施設を運営するDream On代表の中村翼の元を訪ねた。

TEXT BY Shunta Ishigami
PHOTO BY Shintaro Yoshimatsu

五感のコミュニケーションを広げる

西村 FLEX Park Tokyo(以下、FLEX Park)は2種類のエアモビリティのVRコンテンツを提供されていますよね。ひとつはプロペラがついた小型自動車型のもので、もうひとつが空飛ぶホウキ型のもの。ダイソンの掃除機のように空気を取り込んで推進力に活かすようなデザインが面白いです。

中村 前者は比較的近い未来を想定しリアリティを高めていて、後者は100年後の未来を想定しています。体験としてはホウキ型の方が頭を使わずに楽しめるもので、エンタメ性が増したものになっています。

西村 面白いですね!ラスベガスで開催されるテクノロジー見本市「CES」 のようなイベントに出展したら海外でもかなり話題になりそうです。実際に体験された方からはどんなフィードバックがありましたか?

中村 体験する前後でコミュニケーションの密度がかなり変わりますね。こういうモビリティが欲しいと言ってワクワクされる方も多いですし、こういうモビリティが一般化した世界で自分がどんなふうに暮らしているのか想像を広げていく方もいらっしゃいます。30分のレクチャーを聞くよりも3分のVRコンテンツを体験する方が圧倒的に強い力をもっていて、視座が大きく変わるんだなと。

取材時はDream On代表の中村翼(写真左)がFLEX Park内を案内した。

西村 いいですね。そもそもFLEX Parkは空飛ぶクルマのVRコンテンツのように五感のコミュニケーションを広げていくためにつくられたものだと伺いました。

中村 そうなんです。Dream Onの前身となる団体(有志団体CARTIVATOR)で空飛ぶクルマの開発に携わっていた頃から、未来について共通のイメージをもって他の人と議論をすることが難しいなと感じていて。さらに講演などを行っていても、未来の話に興味はあるけど何をすればいいかわからずモヤモヤされている方も多く、VRなどを活用して五感で体験できる場をつくることで、未来のイメージ合わせや、そこに向かうマインドセットを変えられるのではないかと考えていました。団体としても、ものづくりが出来る機会や場所はさることながら、仕事や家庭とは関係なくやりたいことを何でも語れるような場所をメンバーが求めていることに気づかされました。

西村 プログラムをつくっていくなかで中村さんご自身にも五感を刺激されるような体験があったのでしょうか?

中村 空飛ぶクルマの開発を始めたときに新しいモビリティのアイデアを100個近く挙げたのですが、どれも何となく想像はできるけど体験として理解できないからモヤモヤしていました。そこで一度パラグライダーやハンググライダーに乗ってみたら、言葉にならない感動が生まれて、空飛ぶクルマをつくるモチベーションが湧いてきたんです。その体験がなければ「空飛ぶクルマって面白いけど実現できるの?」みたいな議論に終始していたかもしれませんが、五感の体験によって一気にイメージと想像力が広がりました。

「空飛ぶクルマ」につけられたプロペラはこのモビリティのためにつくられたカーボン製の特注品だ。

未来を構想するためのマインドセット

西村 中村さんたちは新しいモビリティを考えているようでありながら、モビリティそのものというよりコミュニケーションについて考えているのが面白いですよね。

中村 ただ新しいモビリティをつくるだけでは意味がないので、100年後の人間は言語を介さずにコミュニケーションしているとか、人が減って江戸時代のように低い建物が集まった風景が広がっているのではないかなど、未来のシナリオもつくるようにしています。VR体験を経てシナリオに共感いただくことも多く、活発なコミュニケーションが生まれますね。

西村 中村さんはどうやって未来の生活について想像されているんでしょうか?

中村 2つのアプローチがあって、ひとつは自分たちの内発的な動機から想像します。たとえ「何の意味があるの?」と問われてもこういう未来を実現したいと強く信じられる、ピュアな思いから生まれる未来像を大切にしているんです。もうひとつは、人口動態のようなデータやファクトを元にしたアプローチも採っています。たとえば100年後の東京は人口も減っていてリモートワークも進んでいるのでオフィスビルの形状はこう変わるだろうとか、そうしたら人々のライフスタイルもこう変わるとか、ロジックに基づいて未来を想像することも重要ですね。個人のパッションだけでいきなりホウキ型のモビリティをつくってみるなんて普通のビジネスではありえないかもしれませんが、われわれのチームにはさまざまなジャンルのメンバーがいて、すぐに3Dモデルをつくったり自宅の3Dプリンタでパーツを出力したりプロトタイピングできるようになっていて。実際につくってみることでこういう未来もありえるかもとさらに想像力を広げられるんです。

西村真里子は20回以上に渡って虎ノ門で自身がホストを務めるイベント「テック&パーティー!」を実施してきた。

西村 内発的な動機は大切ですよね。未来は与えられるものではなく自分でつくるものですし、わたし自身としても一人ひとりがクリエイティブな発想をもって未来を考えられる世界をつくりたいです。わたしは2018年から虎ノ門で「テック&パーティー!」というイベントを開いていて、テクノロジーやアート、サイエンスなどさまざまなジャンルのゲストを招いているのですが、主体的に未来をつくろうとされている方の話を聞ける場をつくることで人々のマインドセットを変えていきたいと思っています。

中村 いろいろなジャンルの方のお話を聞けるのは刺激も多そうですね。他方で、100年後など遠い未来を考えることはビジネスとの距離が生まれやすいのも事実です。われわれとしても単に「面白いね」と言われる未来像を描くだけではなくて、スポンサーの企業さまをはじめ10〜100年先の世界に向けて投資できる方々と一緒に未来をつくっていきながら社会実装にもつなげていきたいなと。

FLEX Parkで実物に触れることで、ふたりの会話はより活発なものとなった。

コミュニティは目的ではなく手段

西村 わたしはワークショップやセミナーの企画に携わることも多いのですが、マインドセットを変えたいと思っている方々は着実に増えている気がします。今回こうして中村さんとお話できたことで生まれるシナジーもありますし、さまざまな方が出会う場所をつくることでコラボレーションの機会を増やしていきたくて。FLEX Parkはスタートアップが集まるCIC Tokyoに入居していますが、ビジネスのコミュニティとのつながりも増えていますか?

中村 そうですね。起業家の方々のピッチを見られる機会が多く、自分の知らなかった課題に気付かされて刺激を受けますし、CIC Tokyoの方がつないでくださることもあり、企業を超えたコミュニケーションも多いです。日本人的な遠慮から解放されて人と話せる空気があって、自然発生的にコミュニケーションが増えていくというか。FLEX Parkにふらっと立ち寄ってくださる方もたくさんいらっしゃいますし、コミュニケーションを重ねていくなかでいくつかの企業の方々とコンテンツをつくったこともあります。コミュニティをつくることを目的にするのではなく、お互いにもっている知恵や情報を共有しながら一緒に未来を目指す仲間を増やそうとすることが大事なんだと感じます。

虎ノ門やCICのビジネスコミュニティと触れることで自身も大きな刺激を得ていると中村は語る。

西村 コミュニティの重要性について語られるシーンが増えてきましたが、コミュニティを数値評価しようと関わる人の数を増やして囲い込もうとすると活動が過激化してしまう恐れもありますし、変にコミュニティを意識しすぎる必要はないですよね。囲い込んで離れないようにするのではなく、公園のようにいつでも来ていい場所をつくっていくことが大事だと思います。ワークショップやイベントには数ではなく、価値を理解してくれる人に来てもらいたいですし、わたし自身としても、ワークショップやイベントに必ず来てくれと言いたいわけではないですし、開かれた姿勢をとっている方が活動としてもサステナブルになりますから。

中村 CIC Tokyoも、いわゆる「オフィスビル」よりも開かれた場所だと思うんです。ビジネスだけではなくアカデミアやクリエイティブの方がいらっしゃることも多いですし、ファミリーデーが設けられていて入居者のご家族がいらっしゃることもある。ぼくが子どもの頃はオフィス街に行く機会ってほとんどありませんでしたが、小さい子がCIC Tokyoのような場所に来ると刺激を受けるし自分の未来について考えてもらうきっかけにもなりますよね。

西村 入居されている企業も増えていますし、どんどん虎ノ門に人が集まってきている気がします。面白いのは、ビジネスパーソンのなかでもクリエイティブマインドをもった方が増えていること。ビジネスとクリエイティブやアートを切り分けるのではなく、自分自身で何かをつくろうとするやんちゃなビジネスパーソンが多いというか。そんな人が集まる場所ってこれまでほかになかったのかもしれませんね。

西村が乗る「空飛ぶホウキ」は、前後に動くことでVR体験の没入感をさらに高めている。

一人ひとりが自分の未来を考えるために

西村 中村さんは今後どのように活動を広げていかれるんですか?

中村 Dream Onとしては、世界中のあらゆる人々が自分の夢に向かって動きたくて仕方ないと思えるような社会をつくりたいと考えています。一人ひとりが自分の将来を思い描きながら“今”に熱中できる社会ですね。そのためにやらなければいけないことはたくさんありますが、まずはFLEX Parkをきっかけとして活動を広げていきたいです。CICも東京だけでなく世界中に拠点をもっていますし、各国の人が変わるきっかけをつくれたらな、と。

西村 あくまでも未来を考えたりマインドセットを変えたりするきっかけとして、FLEX Parkや空飛ぶクルマがあるわけですね。

Dream Onのメンバーに3Dプリンタを所有するメンバーがいたことですぐ空飛ぶホウキのプロトタイピングも進んだという。

中村 どんどん「空飛ぶクルマの団体」から脱皮していくかもしれません。新しいモビリティそのものを考えるだけではなくて、それがどう使われてどう生活や社会を変えていくのかという未来の生活像を考えなければ、社会の役に立っていきませんから。われわれも単に空飛ぶクルマだけをつくりたいわけではなくて、メンバーそれぞれがやりたいことをもっているので、さまざまなアイデアを形にしながらコミュニケーションの場を増やしていきたいです。

西村 いいですね。個人のパッションを活かしながら、手を動かせる場所をつくっていくというか。

中村 FLEX ParkもVRコンテンツを体験して「ああ楽しかった」と思ってもらうだけではダメだと思っています。体験はあくまでも入り口ですから。まずはVRのように五感を刺激するコンテンツを体験することで未来に対する想像を広げ、自分が興味をもつ領域やこうなりたいと感じる未来像を構想する。さらにはその未来像をビジュアライズし、多くの人が「つくる」側へ回っていけるようにする。FLEX Parkはこうした3つのステップを提供していきたいんです。たとえ本人に専門的なスキルがなかったとしてもDream Onにはさまざまなメンバーやご支援してくださる企業さまがいますし、プロトタイピングするためのツールももっています。実際に形にすることでさらにコミュニケーションや想像力は活性化するでしょう。ただ突飛な未来を構想するのではなく、プロトタイピングを重ね多くの業界の方々とつながっていくことで未来の解像度も高まっていくはずですし、自分の未来に対してワクワクできる人も増えていくと思うんです。

Meet up @ TORANOMON HILLS


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