森ビルが長らく続けてきたプロジェクトに、東京の1/1000の模型製作がある。一般には非公開ながら、人づてに噂を聞きつけ、世界中から見学にやってくる人が後を絶たない。3月中旬、ポートランドの建築家がその「秘宝」と対面した——。
TEXT BY Megumi Yamashita
PHOTO BY Manami Takahashi
「東京」はサンゴ礁のように拡大を続ける有機体だ
ユニクロの新オフィス〈ユニクロシティ東京〉のデザインを手掛けた〈アライド・ワークス・アーキテクチャー〉を率いるブラッド・クロエフィル。「東京に来たら、ぜひ見学してみたかった」というのが、森ビルが所蔵する都市模型だ。一般には原則非公開だが、その都市模型は、六本木ヒルズ森タワーのオフィスフロア内に展示されている。スケールは1/1000。17メートル × 21メートルに及ぶ東京の中心部をミニチュアで再現した壮大なジオラマだ。展示室の窓の外には実際の東京の風景が広がり、その対比も一興だ。
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この模型は2001年ごろから森ビルの開発が集中する港区周辺に始まり、以来、少しずつ更新されてきたものだ。マンハッタンと上海の一部の模型もあり、「東京とニューヨークをこうして比較できるとは! グーグルアースやストリートビューで見るのとも違う、あたかも本当に上空から都市を見下ろしているようなジオラマは驚愕的」と、ニューヨークにもオフィスを構えるクロエフィルは興奮を隠さない。エンパイアステート・ビルだけの模型もあり、それを都庁の隣に置いて見るなど、より具体的な比較もできるようになっている。
各模型はスタイロフォームを建物の形に熱線カッターでカットし、それに写真を貼り付けるという方法で作られている。20階建以上のビルやランドマーク、敷地の広い物件には実際に撮り下ろした写真を使用。その他はファサードや屋根、看板など、これまで使ってきたストック画像の中から一番近いものが使われている。コンビニなど店のサインまで、極小サイズでも細部にまでこだわった模型が、リアル感ある都市模型を作り上げているのだ。
南は羽田空港、東は葛西臨海公園あたりまで。東京湾の埋め立て地の多さにも気付かされる。「東京がまるでサンゴ礁のように拡大を続ける有機体に見える」とクロエフィル。模型は半年に一度リニューアルされ、半年の間に竣工するものが新たに加えられるそうだ。そんななか、新たな東京のランドマークとして開発が進む虎ノ門エリア、オリンピック用に建設される新国立競技場、2027年に完成予定の渋谷の再開発物件は、既に完成予想のものが加えられている。
こうして都市全体を他都市と比較して鳥瞰すると、都市の構造や緑地の割合など、いろいろなことが具体的に見えてくる。街づくりの上でも非常に役立つ資料になることは明らかだ。「世界でも稀に見る貴重なプロジェクトであり、森ビルの持つ秘宝」(クロエフィル)だろう。過去にはオリンピック招致のプレゼンテーションに使用されたり、六本木ヒルズの10周年の際には「TOKYO CITY SYMPHONY」というプロジェクションマッピングにも活用されてきた。
「一つずつ手作業で作られ、常に更新されている。もはやアートインスタレーションだね」とクロエフィルも言うように、この都市模型の魅力は、やはり、人の手で一つずつ作られてきたことにある。膨大な時間が費やされたことが見る者の心に響くのだろう。が、忘れるなかれ。その模型の元になっている建物や橋や道路などの実物も、人の手によって造られてきたものなのだ。
ブラッド・クロエフィル|BRAD CLOEPFILオレゴン州ポートラントを拠点にする「アライド・ワークス・アーキテクチャー」主宰。代表作に〈シアトル美術館〉 〈ミシガン大美術館〉 〈カナダ国立ミュージックセンター〉など。ユニクロの新オフィス〈ユニクロシティ東京〉が完成したばかり。
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