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Interview 4

CREATE A NEW RECIPE WITH AI

世界中の食を学習した AI が人知を超えたレシピを提案する——Food Galaxy

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AIが世界中の食材を学習してつくりあげていく食の世界地図「Food Galaxy」。そのビッグデータから、人間には予想もできないレシピを提案する試みが現在進行中。その現状と課題について、データサイエンティストとデザイナーのふたりにうかがいます。

Photo by Koutarou Washizaki
text by Rie Noguchi

左がクリエイターの出雲翔さん。専門は、機械学習、統計解析、データビジュアライゼーションなど。おすすめAIレシピは「生ハムイチゴ」。右がデータサイエンティストの風間正弘さん。専門は、機械学習、推薦システムなど。おすすめAIレシピは「コーヒービール」。ともに予防医学研究者の石川善樹さんが研究所長を務める株式会社ハビテックに所属。

──出雲さんと風間さんがFood Galaxyの開発を始めたきっかけから教えてください。

出雲 Food Galaxyは「機械は創造できるのか」という問いから出発し、創造のひとつとして「AIはシェフのためのレシピを作れるか」というテーマが生まれました。実際にFoodGalaxyが考えたレシピをみんなで食べてみる「AIディナー」というイベントも催されています。これはまだ見ぬ料理の可能性を探る実験のようなもので、予防医学者の石川善樹さんと一緒にテーマを考え、Food Galaxyが提案した無茶ぶりのような食材の組み合わせを、フレンチシェフの松嶋啓介さんの手で見事な料理に仕上げてもらうという取り組みです。

Food Galaxy 
予防医学研究者・石川善樹が率いるハビテックが開発したAI。世界中の数十万のレシピを学習させ、そのビッグデータをもとに、人間の想像を超えたレシピ(食材の組み合わせや調理方法)をAIが提案してくれる。食材が3D空間にマッピングされた「食の世界地図」。

風間 Food Galaxyには、世界中の数十万というレシピを学習させています。ですので、日本料理をフレンチ風にアレンジしたいときはそのビッグデータをもとに計算し、「この食材を別の食材に変えてみよう」という具合に、相性の良い食材を提案してくれます。これには「ベクトル化」という数学的な手法を用いていて、三次元空間のなかで「食材」をひとつの点とし、JapaneseやItalianなど「食のスタイル」ごとにマッピングしています。

出雲 例えば、Food Galaxyで日本を見ると、アメリカが正反対の位置にあることがわかります。以前、AIディナーで「日本の寿司をアメリカのハンバーガーに変える」というテーマに挑んだのですが、日本の寿司から出発して、少しずつ食材を変えながら韓国料理→ロシア料理→フランス料理と世界を横断しつつ、徐々にアメリカのハンバーガーへと近づけていきました。

──まさに食の世界地図ですね。実際に食材はどのように変化しましたか?

風間 各国で「日本の食材であるわさびと同じ役割を果たすものは何か」と解析してみたところ、韓国ではコチュジャンに変わり、フランスでは西洋わさびのソースになりました。こうして食材を変換しながら国を超えていき、最終的にハンバーガーになりました。

──基準は「美味しさ」になるのでしょうか?

風間 そうですね。例えば食材に含まれる風味化合物(香り)は、同じような風味化合物を持つ食材同士が組み合わされると相性が良いとされます。これは「フード・ペアリング理論」というもので、食べ合わせの良さを科学的に検証したものです。それをもとに食材同士の関係をビジュアル化したのが「フレーバーネットワーク」です。風味化合物のほかにも、グルタミン酸とイノシン酸を組み合わせると旨味が8倍になる、というような「旨味」をベースにした相性も計算しています。あとは、みりんと醤油のようなよく組み合わせられる食材同士の相性の良さ、という観点からも計算しています。

──レシピというと、手順や調理方法の提案もしてくれるのでしょうか?

風間 手順まではまだ計算できないのですが、Food Galaxyは日々進化の途上にありまして(笑)。イスラム料理を取り上げた先日のAIディナーでは、「マンティ」という餃子のような“包み料理”を作ることになり、初めて調理方法を計算してみたんです。包み料理の調理方法は、茹でる、焼く、揚げる、蒸すの4種類になりますが、Food Galaxyが出した食材は「りんご」と「あんこ」、調理方法は「焼く」でした。松嶋さんはこれをもとに「焼きりんごマンティ」を作ってくれたのですが、とても美味しかったです!

食のイベント「AIディナー」は東京・神宮前の「KEISUKE MATSUSHIMA」で開催されている。未知の料理との出合いが魅力のひとつだが、石川善樹さんと松嶋啓介さんとの軽妙なかけあいも楽しい。

AIディナーでは、松嶋シェフが使用した食材にまつわるエピソードを聞くのも楽しみのひとつだ。

──具体的な計算方法は?

出雲 Food Galaxyでは「斬新度」と「クオリティ」というパラメーターを設定しています。斬新度を上げれば上げるほど、見たこともないような料理はできるけれど、クオリティの担保はできません(笑)。斬新度を低くすると、クオリティは担保されますが、既存のレシピと同じようなレシピが出てきます。ちなみに斬新度をMAXにすると、とんでもない料理が出てきます(笑)。

──ちなみに「斬新度の高いレシピ」とは?

出雲 今年(2019年)の1月にテレビ番組で「斬新なお雑煮を作る」というお題をいただき、Food Galaxyの斬新度を上げて出てきたのは、納豆とチーズとナツメグを入れたお雑煮です。

──計算上では美味しいわけですね?

出雲 これがすごく美味しかったんですよ! これらの食材は普段から私たちのすぐ身近にあるものの、絶対に考えない、思いつきもしない組み合わせですよね。Food Galaxy は私たちに新しい料理を作るきっかけを与えてくれるんですね。

──未来の食卓では人間ではなくロボットが料理をすることになると思いますか?

風間 可能性としてはあります。ただ、人間の感覚機能は極めて優秀で、ちょっとした火加減や手の動かし方などはなかなかロボットで再現することはできません。それが再現できるようになれば可能性としてはありますが、いつできるのか……という問題は大きいですね。

出雲 シェフとしての松嶋さんの役割が何かを考えてみると、単にオペレーターのような決まったプロセスを遂行するだけではないことは明らか。AIディナーでも、松嶋さんは僕たちが思っている以上に食材の意味やその国の背景を解釈して、ストーリーに乗せて料理を作られています。AIがそこまでの解釈をできるかといえばまだ難しい。「料理という体験を作る」のがシェフの役割だとすれば、まだまだロボットにシェフの代わりはできないと思いますね。

──今後、挑戦してみたいことはありますか?

風間 食と同様に、今度は「世界の言葉」のマッピングをしてみたいです。世界にはその国独自の文化を表すような、翻訳できない類の言葉がありますよね。自分の知らない言葉を知ることで世界が広がるのではないかと思います。

出雲 例えば、日本には「侘び寂び」という言葉がありますが、海外では馴染みがありません。でもこの言葉を知っていれば、「質素で儚いもの」を前にその本質にある美しさを感じ取ることができるかもしれない。「言葉を知ること」はものの見方を変えてくれること。ぜひ世界中の翻訳できていない言葉を探してみたいですね。


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