ROPPONGI ART COLLEGE 2019

石川善樹×松嶋啓介——対談|食、イノベーション、クリエイティビティ

去る3月21日、アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)にて、1日限りのトークイベント「六本木アートカレッジ〜自分と、アートと、ビジネスと。」が開催された。そのひとつのセッションとして、HILLS LIFE DAILYでもたびたびレポートをお届けしている「AIディナー」を主催する石川善樹(予防医学博士)と松嶋啓介(フレンチシェフ)の対談が行われた。テーマは「食、イノベーション、クリエイティビティ」。いかなる話題が飛び出したのだろうか?

TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

AIディナーとは何か?

石川 まずは僕らが行なっているAIディナーについて話してみたいと思いますが、正直、話してもなかなか伝わらないんですよね。食べていただくのが一番なので……。

松嶋 とにかく言えるのは、作る側はとても大変だということです。なにしろ、「この食材で作ってください」という指令が突然やってきて、それだけなんですから(笑)。

普通レシピというのは、「食材を何個入れて、調味料を何グラム入れて……」ということが記載されています。さらに、「こういうふうにカットしてくれ」とか「こういうふうに火を入れてくれ」とか「こういうふうに盛り付けてくれ」といった工程も示されているわけです。そこまであって初めてレシピなんです。その点、AIディナーの場合は、「食材名」だけなんですよ。

石川 すみません(笑)。世の中には本当にたくさんの食材がありますが、ほとんどの組み合わせがまだ試されていません。というのも、食材がこれだけ世界に流通するようになったのが最近のことだからです。例えばアフリカの地域で食べられている穀物を、みなさんは食べたことがないと思います。

世界にたくさんある食材の新しい組み合わせを考えるのは、人間よりAIの方が得意なんです。そこで、「こういう組み合わせで何かできないでしょうか?」ということを松嶋さんにご提案させていただき、料理にしていただくのがAIディナーというわけです。

松嶋 なので、読み解くのが非常に難しいんです。過去にない組み合わせを提示されるわけなので。「AIが調べたのでおいしいはずです」って来るわけですが、こちらは、どのくらいの量を使おうか、どういう火の入れ方をしようか……といった、非常に技術的なチューニングが求められる。なので、僕はまず食材を生で食べることから始めます。

自分の中で「この食材はこうだな」とインプットして、今後はちょっと火を入れて食べてみて、それからすごく火を入れて食べてみて、「この食材はこういう味がするんだな」と確かめていく作業を食材全部で試してみてから、「どれくらいの量を組み合わせようか」という作業を始めるんです。だから、非常に時間がかかります。

「AIディナー」の困難さを力説する松嶋啓介シェフ。

石川 前回は、出てきた食材のひとつに「蕎麦のはちみつ」というものがありましたよね。そんなものがあるんだと調べてみたら、「はちみつの中でも極めてまずく、料理には向かない」って書いてあったんです(笑)。

松嶋 勘弁してくださいよ(笑)。

石川 世界でもやっている人がまだ誰もいないので、おかげさまでイギリスのBBCが取り上げてくれたりだとか、徐々に世界でも話題になりつつあります。

調味料が変わると料理の国籍が変わる!?

松嶋 僕は普段フランスのニースに住んでいますが、東京のお店は、原宿にある東郷神社の隣にあります。その東郷神社に祀られている東郷平八郎が考えたといわれるレシピが、ひとつあるんです。それは、多くの日本人が「おふくろの味」だと思っている肉じゃがです。

彼はイギリス海軍へ勉強しに行っているとき、ビーフシチューが好きでたくさん食べたそうです。で、日本に帰ってくる船の中で「ビーフシチューが食べたい」とシェフにお願いしたところ、シェフは赤ワインを持ち合わせていなかった。あとデミグラスソースもない。そこで、日本酒と醤油を使ったのが肉じゃがの起源だという説があります。

何が言いたいかというと、「調味料が変わると、国籍が変わる」ということなんです。ビーフシチューの主材料は、肉、玉ねぎ、人参、にんにく、じゃがいもです。そこに赤ワインやデミグラスソースを入れて煮ると、ビーフシチューになるわけです。

一方で肉じゃがですが、主材料は変わりません。違うのは赤ワインの変わりに日本酒、デミグラスソースの変わりに醤油、という調味料なんです。

フランスには『ラルース』という料理大事典があって、例えばマルセイユ風、ニース風、ボルドー風……といった○○風がたくさん載っています。そうした料理の定義を作るときもまったく一緒で、ハーブやスパイスが変わってくるだけで○○風になっていくんです。

そこから「フレーバーネットワーク」(編註:石川が、ラヴ・ヴァーシュニー< IBMでシェフワトソンを開発した人物。現在はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校>、風間正弘<データサイエンティスト>、出雲翔<デザイナー>と共同開発したAIエンジン)という発想にたどり着いたと思うんです。

石川 そのフレーバーネットワークを使った記念すべき最初のAI料理として、すき焼きをフレンチ風にしてみたんですよね。「みりんの代わりにカルバドス(りんご酒)を使う」だとか、AIも学習している様子が伺えたのですが、作ってみたらメチャクチャまずかった(笑)。

初期の試行錯誤を振り返る石川善樹。

松嶋 まずいというか味がなくて、最悪でしたね(笑)。

石川 スタートがそこだったので、この1年間、相当試行錯誤してきました。

松嶋 そうですね。そもそも、舌で感じられる味覚は甘い、塩っぱい、酸っぱい、苦い、それから旨味があります。日頃から、おいしいものに出会ったときに「うまい!」って言うこともあるので、日本人の多くはこの旨味のことを誤解していると思います。一方海外でも、「UMAMI」という言葉が浸透しているかというと、まったくしていません。舌で感じられる基本の味として旨味が認められたのは、つい最近、2000年代になってからの話です。ですからアメリカ人は、旨味をまだキチンと理解できていません。

その理解できていない人がAIのベースを作ったわけですからね。つまり、そもそもすき焼きに入っている旨味の成分を理解していないまま、「この食材がいいよ」と出してきたわけです。僕が最初に作ったフレンチ風すき焼きは、旨味が決定的に抜けていたんです。

石川 そうでしたね。

松嶋 なので石川さんが、ヴァーシュニーさんに旨味のことをしつこく説明したら、なんとなくわかってくれた。それにつれてAIも学習し、新しいバージョンの「フレンチ風すき焼き」のレシピが出てきたんです。食べてみたところ、「ん? 成長しているな」と。「こんな料理があってもいいかな」というレベルになってきていたんです。

旨味という知識を与えたらそれなりのものが出てきたので、学習のさせ方によっては可能性があるんだなと思いましたし、実際、回を重ねるごとにどんどん成長していると感じています。

世界のレシピは3パターンに分けられる!?

石川 AIディナーでは、同じ料理をAIのレシピと松嶋さんのレシピで作り、どっちがAIでどっちが松嶋さんかを食べ比べてもらっているわけですが、もはやわからないこともありますよね。

僕ら研究者というのは分析するのが大好きなので、レシピを分析してみていろいろわかったことがあるんです。例えば、世界中の料理を大きく分類すると3パターンに分かれるということを発見しました。ひとつはヨーロッパやアメリカに代表される「香りを重視する料理圏」。2つめは東アジアのように「旨味重視の料理圏」。あとはインドに代表される「スパイス重視の料理圏」です。

レシピの基本になっているメカニズムは、どうも、「香りなのか旨味なのかスパイスなのか」の3つに分かれるようだということがわかったんです。

例えば、どういう食材同士が組み合わさっているのかというときに、ヨーロッパは、似た香り同士を組み合わせているわけです。最近フランスでは牛肉とコーヒーの組み合わせが生まれているようですが、なぜ成立するかというと、牛肉に含まれている風味化合物(香り成分)が、コーヒーのそれと似ているからなんです。基本的にヨーロッパは乾燥しているので、香り重視になりやすいのだと思います。

一方、東アジアはジトッとしているので、香りがあまり立ちません。だから、蕎麦を食べるときはわざわざすすって香りを出しますよね。では東アジアの特徴はというと、異なる旨味同士を組み合わせているんです。例えば昆布とかつお節は典型的です。植物性の旨味と動物性の旨味の組み合わせですよね。

インドは、カレーがわかりやすいと思いますが、スパイスを組み合わせています。このスパイスは難しくてまだ全然できていないのですが、現状、「香りと旨味を両立したような料理とはどんなものか」ということで開発を続けているのがAIディナーなんです。このAIディナーの傑作といえるのが、「ラタトゥイユの紅茶風味」です。

松嶋 あれはおいしかったですね。僕だったら絶対に出てこない発想です。何しろラタトゥイユは僕の得意料理でもあるので、「頼むから、ラタトゥイユにアールグレイの粉を入れて香りを移すなんて変なことをやらせないでくれ!」と思ったわけです。

自分でやりたくなかったから、スタッフにやってもらいました。で、「シェフ、できました! 味見をしてください」というのでいやいや食べたら、「あれ、結構いけるね」と。あれは、自分でもビックリしましたね。その時、「AI、ちゃんと学習しているな」と思いました。少し感動しましたね。

石川 あれはまさに世界初のレシピでしたし、唯一、ほかの機会でも作ってくれましたよね。

松嶋 はい。正直、AIディナーをやると弊害があるんです。僕が作ったものが「おいしくなかった」と言われるわけですから(笑)。そういうリスクを背負ったまま作るのはいろいろ大変なので、なるべくほかではやりたくないなと思うのですが、ただ、ラタトゥイユの紅茶風味は、どこで作っても「これならありですね」とみなさんおっしゃっていただけるんです。

というわけで、今まで20品くらい作っていますが、今の所アタリはひとつですね。

旨味の組み合わせと塩の問題

石川 以前、松嶋さんに教えていただいて「なるほど!」と思ったのが、パリと南仏のレストランの違いです。パリのレストランはそもそも一見さんが多いから、ワーッとびっくりさせないといけない。そうすると、味の演出も変わったものになっていく。一方、ニースはバカンスで訪れる地で、リピーターが多い。刺激を求めているのではなく、ホッとしに来ていると。

松嶋さんは、普段ニースで、リピーターに向けて料理を作っているわけですよね。人がホッとする料理のポイントって何でしょうか?

松嶋 僕は福岡出身なのですが、郷土料理は東京で食べてもホッとします。「自分のルーツである場所の料理を食べるとホッとする」、という点をもっと掘り下げてみると、自分の地元で取れる保存食を使っている、ということになります。九州の場合はかつお節であったりいりこであったりするわけですが、そうした九州らしい出汁の利いた料理を食べると、ホッとするわけです。

要するに旨味に触れると、人ってリラックスできるようになっているので、旨味をどう使って料理をしていくかを、今は特に考えています。

ニース料理で非常に有名な料理といえば、世界で一番のサラダと言ってもいい「ニース風サラダ」だと思います。ニース風サラダの中には、アンチョビとツナという2つの保存食が入っています。この動物性の保存食の中には、イノシン酸という旨味が入っています。なので、このイノシン酸を上手に使ってどう味をつくるかが、ひとつ重要になってきます。

ニース風サラダには、ほかにネギやにんにく、オリーブオイル、トマトなどが入ってきます。それらの旨味成分はグルタミン酸です。要するにニース風サラダの中には、イノシン酸とグルタミン酸の組み合わせが入っているわけです。このイノシン酸とグルタミン酸の組み合わせというと、日本人が大好きな昆布だしとかつおだしの組み合わせと同じです。

日本人にも馴染みの深い旨味成分の組み合わせが、ニース風サラダにも入っているわけです。おそらく人間というのは、最終的には、動物性と植物性の旨味の組み合わせが入っている料理を食べるとホッとするし、そういうものを食べると嬉しいんだなと最近思っていて、そういう料理を作るように心がけています。

石川 なるほど。あと、松嶋さんはよく塩の話もしますよね。

松嶋 そう。ニース風サラダでいうと、アンチョビとツナには塩分が入っていますし、オリーブもたいてい塩漬けになっていますが、それ以外は一切塩をかけません。

僕が初めてニースへ行ってニース風サラダを食べたとき、「味が薄いな、適当に作ったな」と思ったんです。だから、自分で少し塩を足しました。でもそれはおそらく、僕が若かったからです。

今、自分がニース風サラダを作るときは塩を一切かけませんし、自分で食べるときも塩を一切かけません。ニース風サラダというのは、いろいろな食材が入っていて、「トマトと玉ねぎを食べよう」とか、今度は「卵とネギを食べてみよう」とか、一口ずつ、無意識にいろいろな味を探しているんです。それを、日本語では口内調味といいます。

日本人はお茶碗を片手に、無意識の中に意識を持って、食卓に並ぶいろいろなおかずを、「これとこれを組み合わせたらおいしかったな」と学習しながら、一口一口食べているわけです。そういう料理を作ってあげることが、もしかすると、味覚を無意識に働かせる食生活ではないかと思っています。

石川 旨味の組み合わせ、それから塩分を使わない。それが、最終的に人が安らぐ料理ではないかと松嶋さんは考え、料理をしているわけですね。

松嶋 みなさん、塩が大好きですよね。塩がないと味がないということで塩をかけますよね。でも、塩がかかるとすべての料理が塩味になってしまいます。脳は、塩味が大好きなんです。

石川 サラリーの語源(編註:ローマ時代に役人や兵士に貨幣として支給された「塩」を意味するラテン語「サラリウム(salarium)」に由来)ですからね。あっ、サラリーマンって塩漬け男ってことですかね(笑)。

松嶋 確かに(笑)。でも、塩が一度舌の上に乗ると、酸味や苦味や旨味といったほかの味覚を感じづらくなってしまうんです。要するに、味覚のセンスが悪くなるわけです。センスが悪いということは、つまり世の中の変化をキャッチアップできないということでもあります。極端に言うなら、サラリーマンに開発担当をさせて、何か新しい事業を考えてくれといっても考えられないわけです。常に、給料をもらうことを考えているわけですから。

味覚が悪い、いろいろなことに対する意識が低い、気づかない状態になっている、という連鎖を普段の食生活から改善していくと、いろいろなことに気づけるようになっていくはずです。

単に塩を抜くだけだと、もちろんおいしくありません。だから、塩の代わりにたっぷりの出汁で何かを煮てみるとか、そこにお酢やスパイスやハーブを入れてみる、という料理を食べてみてください。そうしたら、知らない間によく噛むようになります。なぜかというと、味を探そうとするからです。味を探す努力をするようになると、いろいろなものに気づけるようになります。

それって仕事と一緒だと思います。お金ではなく「自分がやりたいことがあるんだ」と言っている人達って、いろいろなことに気がつけますし、いろいろなことに興味を持てる。そういったことを食生活から取り入れる。そういうことをやっていると、勝手に脳が働きはじめます。

塩分の取り過ぎが、現代人の「感覚の退行」をもたらしているのではないかと考える松嶋。

石川 塩分と糖分が多く含まれているものを、現代の人類は食べすぎていますよね。それをおいしいと思っているから、現代人は現代病になってしまうわけですし。

松嶋 塩・砂糖・油が現代人の病気を作っていますし、そういったものをレストランで出すのはどうなんだろうと、悩んでいるのは確かです。

元々レストランというのは、レストレといって、回復をさせる場所なんです。レストランの始まりはパリだとされています。遠くからパリを目指してやってきた人たちは、疲れているわけです。彼らにスープを出して癒やしてあげる、旅の疲れを取ってあげることがレストランのそもそもの役割だったと言われています。

石川 レストランに行くと最初にシャンパンを飲む人が多いですが、シャンパンって砂糖がたっぷり入っていますよね。砂糖まみれの飲み物で乾杯させてる場合じゃないと(笑)。

松嶋 なので僕の店では、ノンドサージュといって、砂糖の入っていないシャンパンを出すようにしています。ノンドサージュのシャンパンは、メゾンがこだわり抜いて、自然のことを理解しないとできません。

石川 確かに砂糖なしのシャンパンを飲むと、ほっとする感じがしますよね。味わい深いというか。

蒸し鶏とローストチキン

石川 松嶋さんとの付き合いはもう何年にもなりますが、お話を聞いていて、松嶋さんご自身も進化されているんだなと思いました。

例えば、最初のころ、塩の使い方をよく教えていただきました。フランスと日本の違いとして、フランス人は味を足していくけれど、日本人は味を引き出す。そういう違いがあるんだと。野菜を炒めるときに、炒めた後に塩を足すと、塩味の野菜炒めになります。でも、同じ量の塩を野菜を炒める前に降ると、野菜の旨味や甘みが引き出されて、全然塩味がしない。同じ塩と野菜だけれど、調理のどのステップで塩を加えるかで味が全然変わるんだよ、ということをお会いしてすぐのころに教えていただきました。

松嶋 塩やスパイスもそうですが、火もそうなんです。例えば鳥を蒸したら、余計な油が落ちるわけです。肉が柔らかく仕上がって、その繊細さを食べます。一方でヨーロッパは、蒸すのではなくローストします。そうすると焼味が付きます。そこに塩も足します。なので、濃い味と塩分が口に入ってきますし、しかも身がギュッと締まっています。

石川 いろいろなものの発想の根幹に、違いがあるんですね。

松嶋 僕らはこういう気候風土の中で暮らしているので、知らないうちに「そういうことが大切なんだ」ということを、自然から学んでいるのが日本人ではないかと思います。

石川 ただでさえ湿気が多いから、口の中にはシンプルなものを入れようっていう。

松嶋 洋服もそうですよね。日本のものは、内側は触感を考えてすごくシンプルにできています。一方でヨーロッパは、見てもらいたいし認めてもらいたいので、いろいろ飾っている洋服が多い。それくらい違いますよね。

次回のAIディナーのテーマは「ファストフード」!?

石川 料理の話を入り口に、歴史や文化まで語ってくださる松嶋さんですが、松嶋さんはフランス政府から、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを授与されています。ミシュランの星を取っているシェフは多いと思いますが、芸術文化勲章を受賞した日本人シェフはいません。料理がアートとして認められているということですよね。なぜ、松嶋さんの料理や活動がフランスで認められたのでしょうか?

松嶋 努力した、というものヘンですが、フランス人になろうと思ったんです。日本人ということで日本風なものをいっぱい使ったりするのは、卑怯だと思ったんです。そうではなく、「フランス人と同じように振る舞い、フランス人がどう考えているか」を、ものごとを考える上での自分のひとつの拠り所にしようと思ったんです。

それで何をしたかというと、フランス人の友達をたくさん作るようにしました。具体的には、生産者です。地元の生産者の食材を使うことを、非常に大切にしました。あとは、四季を大切にしようと考えました。季節のことを読み取ろうと努力をしましたし、1年間を通じてどういうふうに季節が移ろっているのか、ニースに住んだ1、2年目はすごく考えました。

それを考えるだけではなくて行動に移そうということで、市場へ行くわけです。すると今度は市場の人とも仲良くなって、どんどんニースの気候風土がわかってくるわけです。

その上で料理に取り組むわけですが、そこで日本人が出てくるわけです。繊細に味を作ろうとか、余計なものを削ぎ落とそうとか。そうした自分のフィルターは、やっぱり日本人なんです。フランスの食材やフランスに元々あった伝統料理を、日本人というフィルターを通したら、余計なものが取れたんです。極力シンプルな料理を作ってお店で出していたら、評価された、というわけです。

フランス芸術文化勲章シュヴァリエは、ミッテラン元大統領の甥っ子である、文化通信大臣のフレデリック・ミッテランさんに勲章をいただいたのですが、その時フレデリックさんに言われたのは、「あなたは、フランス料理を一歩進化させてくれました」ということでした。しかも、「あなたの自国の文化であり価値観のフィルターを通して、私たちの食文化を進化させてくれたことが、この賞に値するので差し上げます」と言われました。

石川 その「進化」というのは、奇抜なものを出すというよりも、地元の伝統的な料理や、今は誰も出していないような古い料理を復活させたり……ということだったんですよね。

松嶋 そうです。とにかく、メンドクサイと言われることをやりました。メンドクサイって言われるものって、日々の生活の中にたくさんあると思います。だけれど、今あるテクノロジーを使ってそのメンドクサイをやってみると、短縮できることっていっぱいありますし、メンドクサイことをやってみることで、本質に気づけることってあるんです。

石川 そんな松嶋さんに、またしても腕を振るっていただく次回のAIディナーを、4月22日に開催いたします。最後に、次回のテーマを決めましょうか。

次回の「AIディナー」は4月22日(月)、東京・原宿にある「KEISUKE MATSUSHIMA」にて開催予定!

松嶋 ファストフードはどうですか? ファストフードっぽいものをまだAIでやったことはないですよね。

石川 フレンチフライとかですか?

松嶋 そうそう。あとはハンバーガーとか。ファストフードは、今後世界的にもっと増えていくと思うんです。お寿司もファストフードといえばファストフードです。なので、世界のファストフードをAIが考えたらどうなるか。

石川 おもしろいですね!

松嶋 間違いなくそういう時代になろうとしていますし、既にそうなっているところもあります。それを食い止めないと、もっと病気が増えていくと思います。

石川 カリフォルニアロールってあるじゃないですか。アメリカ人が解釈したお寿司ですけれど。この前サンフランシスコに行ったら、カリフォルニアクロワッサンというものがあって、クロワッサンの中に巻き寿司が入っているんです(笑)。で、醤油を付けて食べるという。食べて見たのですが、クロワッサンと寿司の味がして、特にマリアージュしていませんでした(笑)。別居中みたいな(笑)。

松嶋 あはは(笑)。

石川 アメリカってそういう国だなって思いました。おいしいかどうかはさておき、何かおもしろいこととか新しいことを考えたら、どんどんやってみるという。我ら日本人はクオリティを大事にしますからね。

松嶋 そうですね。カリフォルニアクロワッサンの話を聞いたら、AIでファストフードをやるのは止めた方がいいかもしれませんね。

石川 あはは(笑)。でも、21世紀のおいしくてヘルシーなファストフードというのは、世界的に重要なテーマかもしれませんね。ぜひ、トライしてみましょう!

六本木アートカレッジ 1DAYイベント「自分と、アートと、ビジネスと。」

※ イベントは終了しましたが、「六本木アートカレッジ」のHPでは各レクチャーのレポートなど関連情報を公開していく予定です。

profile

松嶋啓介 | Keisuke Matsushima
1977年福岡県生まれ。シェフ/レストラン経営者。料理学校卒業後、東京のレストランに勤務後、料理修業のため渡仏。フランス各地での修行を経て、2002年、ニースにレストラン「Kei’s Passion」開店。06年、ミシュランガイドで一ツ星を獲得。同年、増床改装し、店名を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改める。09年、原宿に「Restaurant-I」(現「KEISUKE MATSUSHIMA」)をオープン。

profile

石川善樹|Yoshiki Ishikawa
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。近著に『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント)、『ノーリバウンド・ダイエット』(法研社)など。

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