HOW TO MAKE URBAN BIOTOPE

都市こそ生物進化のフロンティア!?——進化生態学者・岸由二に聞く、未来の生物多様性都市

オランダの進化生物学者、メノ・スヒルトハウゼンは著書『都市で進化する生物たち: “ダーウィン”が街にやってくる』で、世界中から集めた豊富な実例を積み重ねながら持論を展開している。すなわち「都市こそが生物進化のフロンティアである」と。本当にそうなのだろうか? 都市と自然は共存できるのだろうか? この本の訳者の一人である岸 由二氏に話を聞いた。

TEXT BY MARI MATSUBARA

——『都市で進化する生物たち』の内容を要約すると、どんなことが書かれているのでしょう?

 この本の原題は「Darwin Comes to Town(ダーウィンが街にやってくる)」です。ご存じの通り1859年に『種の起源』を書いたダーウィンによる進化論が、街にやってくるというのです。進化論とは祖先生物が木のように枝分かれしながら変化・適応していくものだと捉えています。種は進化の途中で分化したり、変化したり、絶滅したりしますが、それは環境に適応したものが生き残る結果である、つまり「自然選択」という仮説を立てています。

メノ・スヒルトハウゼン『都市で進化する生物たち: “ダーウィン”が街にやってくる』(岸由二・小宮繁 訳/草思社)

もちろん、ダーウィンの時代から百数十年を経て、遺伝学が進歩したおかげで様々なメカニズムが解明され、ダーウィンの言説はもっと洗練されたかたちに書き換えられていますが。ともかく、進化というと、何千何万年もの長い時間をかけてゆっくり進むものだと大方の人は捉えているのではないでしょうか? それは違うとスヒルトハウゼンは言っています。生物の進化は今、都市の中においてものすごいスピードで起きている、都市は進化のるつぼだ、というのがこの本の主張です。

都市化が進めば、住む場所を失われて絶滅する生物はいるでしょう。しかし、都市だからこそ生き残り、増えていく種もいます。人間がふつう見向きもしなかった種類の生物が、都市の中で劇的な進化を遂げていると。そうした主張を、ロンドンの地下鉄で発見されるチカイエカや、シンガポールのイエガラスなど、豊富なエビデンスをもとに考察しているのがこの本。つまり、生物の進化は今、文明の基地である都会のど真ん中でも起きていると言っているのです。

——都市化と自然保護は常に相容れない、対抗するものとして捉えられがちですが、そうではないということですね?

 都会で生きる生物の種は入れ替わっていくけれど、多様性自体はそれほど低下しないだろうと彼は考えています。地球の何千万、何億年もの歴史の中で隕石が落ちたり、火山が爆発したり、気候変動が起きたり、生物の進化を決定づける様々なことがあったけれど、人類が短い期間に爆発的に増え、文明を築いたということもその要因の一つに過ぎない。私たちも生物の一種ならば、人口増加も自然現象の一つだというわけです。スヒルトハウゼンの意見すべてに賛成するのはむずかしいのですが、今、都市が進化のるつぼであり、それはとっても面白くて、希望があるという彼の意見には私も同意しています。

——こういう言説は日本であまり聞いたことがありませんでした。

 日本のお役所は「自然を元の状態に戻さないとダメ」という考えに固執し、逃れることができません。在来種だけを尊び、外来種は排除し、手付かずの自然を残そうという。その考え方では都市と自然は対立するばかりです。都市を滅ぼさないと自然は守れない、生物多様性は保てないということになってしまう。私はそうは思いません。都市をうまく設計すれば、自然と共存し、生態系を守れると思っています。

——具体的にはどうすればいいとお考えですか?

 都心に緑がまったくない、というのは間違いだと思います。小さな緑をつなげるようにすればいい。今、ビルを建てるには東京都の条例により、ある程度の緑地を作ることが義務づけられています。だからビルの屋上には少なからず緑がある。一つ一つのビルの小さな緑をつなげ、明治神宮の森や新宿御苑の鬱蒼とした緑とつながるような生態系を作ればいい。森にある木と同じような木をそれぞれの屋上に植え、池を作れば、トンボや蝶や鳥たちがそれらを行き来し、大きな生態系のネットワークができるのではないでしょうか。

——屋上に庭園を作る場合、どんな木を植えて、どんなビオトープにすればいいでしょう?

 日本の雑木林はクヌギとコナラが多いのですが、これは炭と薪をとるために人間が植林した人工林です。人工的に植えただけなので、放置するとそのうちほかの樹種に置き換わってゆく。それならそのまま、鳥が糞をすることで運ばれてくる種から芽生え、成長するままに森を作り直したらいいのではないでしょうか? 桑の木、エノキ、ムクノキなどがどんどん生えますよ。おいしい実がなるので鳥がやってきますし、タマムシやオオムラサキ、ゴマダラチョウなどといった美しい昆虫がたくさん育って素晴らしい森になりますよ。そういうネットワークを、近隣のビルと連携しながら森ビルが先導役となって築けば、都市の生態系保護に寄与できるかもしれません。ビルの屋上も一つの生態系なのです。

——ビルの足元の緑地化については、どう考えればいいでしょうか?

 私がずっとライフワークとしているのが「多自然流域都市再生」という考え方で、川の流域単位で防災と自然保護の両方に対処しようというものです。流域とは、雨が降った時に雨水を川に変える地形のことを指します。ある一定の流域(分水界)にたまった雨水は、特定の川に流れ込むようになっているのです。流域をベースにした環境保全活動を、私はかれこれ四十年近く、東京・町田市と神奈川県を流れる鶴見川流域で行っています。たとえば流域内に5,000もの溜め池を作ることで、以前はたびたび氾濫していた鶴見川が、最近ではほとんど水害を出さなくなりました。同時に源流保水の森の保全や、在来種の植物の移植活動などに、地元の住民や企業と一緒に取り組んでいます。

この考え方を都心に当てはめた場合、渋谷川流域で実行できるはずです。江戸時代に、関東山地から玉川上水を通って皇居まで水を引く水路が作られました。その用水路から分岐した流れが新宿御苑に来て、そこから渋谷川となって渋谷区内を流れ、港区に入って古川と呼ばれ東京湾にそそいでいます。古川の最初の支流が赤羽川です。その赤羽川の源流の部分が、現在六本木ヒルズが立っている場所なのです。ところどころ暗渠となっていたり、高速道路の下に隠れていたり、川を目で見ることは非常に少ないと思いますが。

赤羽川の流れ(ブルーに色付けした部分)。六本木ヒルズの毛利庭園を源流とし、環状3号線から麻布十番大通りを通って古川に合流する。

東京都建設局「渋谷川・古川流域概要図」より。★印(編集部追記)の位置が六本木ヒルズ。

この渋谷川の流域で、防災計画とセットにしながら生物多様性の豊かな生態系を育み、都市を再生していくことができると私は考えています。都会と自然の共存を目指すと言いますが、「自然は素敵だ、癒される、美しい」と悠長に言っている場合ではないのです。自然と共存するということは、ときに猛威をふるう風水害と一緒に生きるということ。治水・防災にも努力するということも含むんですね。生死に関わる防災の課題と、自然保護を結びつけて考えて、都市の自然を育てなおす。そういうことを渋谷川、赤羽川の流域で考えられると思うのです。まずは、象徴的な自然ネットワークづくりを、ビル群から始めていい。

——確かに、ここ最近はゲリラ豪雨などで大量の雨水が地下道に流れこむなど、都心でも被害が起きていますね。渋谷駅の再開発では、地下に雨水用の巨大な貯留施設ができたと聞きます。

鶴見川の川辺のビオトープで今、保護されているノカンゾウ。渋谷川・赤羽川の流域にも生き延びているかも?

 高層ビルは巨大なタンクに雨水を溜めておいて、その水を利用して足元の庭に、川や湿原を作ったらどうですか? 川は、赤羽川や渋谷川の水系のミニチュアがいいですね。ビルの屋上やビル周辺のスペースは決して自然と対立するものではなく、うまく工夫すれば、足元の生態系を支える水と緑のネットワークの拠点となるポテンシャルがあります。渋谷川の流域には元財閥系のお屋敷などがたくさん残っていますから、その庭の植生や池などで生き延びてきた生きものたちを参考にして、希少な生物などを、ビルの周りの水辺や緑のビオトープで育て、励まし、域外保全したらどうでしょうか。六本木のビル街に、エノキや桑が生いしげり、小鳥たちが集い、雨水を集めた小川にはメダカが棲み、各所に生き延びていた蝶やトンボがにぎやかに飛び交う。桑の木からとった実でジャムを作って地元の名物にするのもいい。どうでしょう、未来の都市の生物多様性世界が見えてきませんか?
 

岸 由二|Yuji Kishi
1947年生まれ。慶應義塾大学名誉教授。生態学専攻。鶴見川流域や神奈川県三浦市小網代の谷で「流域思考」の都市再生・環境保全の推進活動にあたる。著書に『「流域地図」の作り方 川から地球を考える』『奇跡の自然の守り方』(いずれも、ちくまプリマー新書)など。共訳書にリチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(紀伊国屋書店)、エマ・マリス『「自然」という幻想』(草思社)ほか。鶴見川流域ネットワーキング代表理事。