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微生物が役立っているモノ・コトを、身のまわりで探してみよう!——伊藤光平(GoSWAB/微生物研究者)【おうちでワークショップ】03

都市における微生物採取を行う学生団体「GoSWAB」を立ち上げた弱冠24歳の研究者、伊藤光平さんによるワークショップは、コロナウィルスが猛威をふるう今だからこそ知っておきたい「微生物講座」です。自宅ですごす子どもたちのために、さまざまな分野の専門家が研究や活動、考え方のおもしろさを伝えてくれるシリーズ企画【おうちでワークショップ】の第3回。

workshop by Kohei Ito
illustration (top) by fancomi

序章|微生物との出会い

はじめまして、僕は伊藤光平(いとうこうへい)といいます。去年まで大学で微生物の研究をしていました。今回は微生物の面白さや、人とのかかわりについて知ってほしいなと思い、この記事を書いています。現在(4/29)、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)という微生物が全世界に広がり、多くの悲しい出来事が起きています。病気の原因になったりなど、悪いイメージを持たれがちな微生物ですが、人間を悩ませている様々な環境問題を解決するための能力を持っていたり、僕たち人間の健康を支えてくれています。

僕は高校1年生のときに微生物の研究と出会いました。僕の地元、山形県鶴岡市には大きな生物学の研究所(慶應義塾大学先端生命科学研究所)があります。そこでは大学院生や大学の先生に教えてもらいながら、高校生でも研究ができます。僕はアトピーと微生物の関係性について研究していました。もっと微生物の研究がしたかったから大学に進学して、どんどん研究に没頭していきました。

今思えば7年間、毎日微生物のことを考えて研究できてすごく幸せな毎日でした。おうちでも微生物の面白さに触れる機会はたくさんあるので、大変な時期ですが楽しく微生物について知ってもらえればなと思います。

第1章|微生物ってなんだろう

とっても小さい微生物

目には見えないような小さな生物のことを微生物といい、細菌や菌類、ウイルスなど多くの仲間がいます。それぞれ丸いものや棒状のものなど様々な形をしています。
 

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1/3二球菌、グラム陰性、髄膜炎菌、細菌のCG画像 Photo by CDC on Unsplash
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2/3 樽型のクロストリジウムパーフリンジェンス細菌のクラスター(小集団)のCG画像 Photo by CDC on Unsplash
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3/3ロタ ウィルス粒子のCG画像 Photo by CDC on Unsplash

微生物の大きさはほとんど1ミリメートル以下です。大きいものだとみかんなどに生えるアオカビなど菌類、次に納豆菌などの細菌、一番小さい微生物の仲間はインフルエンザウイルスなどのウイルスです。これらの微生物たちは私たちの目では直接見えないくらい小さいのですが、顕微鏡などを使うと見ることができます。

微生物はいろんな場所で生活している

微生物は地球上の空気中、川、海、土、動植物やヒトの体など、ありとあらゆる場所にいます。微生物の仲間には、とても熱い温泉やとても寒い南極など、人間が生活できない場所で生きているものもいます。また川の水をコップ一杯とると、そのなかには数百万の微生物がいるといわれています。

微生物が地球を支えている

地球上にはたくさんの生物がお互い影響しあっていて複雑な関係性があり、これを「生態系」といいます。もちろん微生物もこの生態系の重要なメンバーです。微生物のお仕事は地球上でのいろんなゴミの分解です。動植物のウンチや死がいなどは微生物が分解してくれています。地球がウンチだらけにならないのは微生物のおかげなんですね。さらに微生物によって分解され,栄養分が土に戻ることで植物が育って、植物を食べる動物も育ちます。このように生態系のメンバーである微生物に地球上のたくさんの生き物がお世話になっています。他にも汚れた水や土をきれいにしたり食品を作ったりと、微生物は人間社会でも大活躍しています。

作図=伊藤光平(画像はUnsplashより引用)

微生物は人体の中でも生活している

僕たちの体の中(皮ふ、腸、口)にもたくさんの微生物がいます。人の体には38兆個もの微生物がいます(ちなみに人の細胞の数は37兆個くらい)。

腸内細菌は僕たちの腸管に何百種類もいるんですが、普段の食事などで個人ごとに持っている腸内細菌の種類や量が異なります。腸内細菌は大きく分けると、人にとって良い働きをする「善玉菌」と悪い働きをする「悪玉菌」、どちらでもない「日和見菌」がの3種類がいます。善玉菌はビタミンを作ってくれたり、悪玉菌が増え過ぎたりするのを防いでくれたりと腸内細菌のバランスを整えてくれます。

なんだか善玉菌を増やすといいことがありそうですよね。2つの方法で善玉菌をかんたんに増やすことが知られていて、1つ目はヨーグルトなどを食べてビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を腸に送り込む方法です。2つ目は善玉菌のエサであるオリゴ糖や食物繊維が多く含まれる食品を食べて、腸内にいる善玉菌を増やす方法です。普段の食事がお腹の中のお友達、腸内細菌にとって嬉しいか考えるのも面白いかもしれません。
 

● もっと知りたければ「見てみよう&読んでみよう!」

塚本久美子(文)吉田奈央子(絵)『いいことおしえてあげる~びせいぶつのひみつ~』

左巻健男『図解 身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』

アン・マデン「微生物の世界へようこそ—自宅にも、そしてあなたの顔にも」(TED2017)

ロブ・ナイト「微生物がどのようにして私達を作っているのか」(TED2014)

びせいぶつってなに?

細菌の大きさ

第2章|僕たちの家に住む小さな同居人たち

人は室内で多くの時間を過ごしている

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界中に拡大する今、多くの人が自宅で1日を過ごしていると思います。人は普段から1日のうち9割もの時間を家や公共機関(学校、鉄道駅、空港、病院)など、いろんな室内で過ごしています。

そんな多くの時間を過ごす室内、意外にもいろんな有害物質で汚れていたりします。みなさんが感じやすいものとして、温度、湿度、におい、ホコリなどがあるかなと思います。それ以外にも、CO2濃度、花粉、化学塗料、ペットのフケなど多くの物質が室内には存在しています。もちろん多くの微生物も僕たちと一緒に生活しています。

室内の微生物を調べるとわかること

室内にいる微生物が僕たちの健康に影響を与えているかもしれないということがわかってきています。僕は大学時代、室内にいる微生物のDNA(人も持っている生き物の設計図みたいな物質)を調べていました。このDNAを調べたら室内にどのような種類の微生物がいるかがわかったりします。2015年にニューヨークの地下鉄にあるDNAを調査した研究では、駅から取れたDNAのうち半分くらいが何の生き物のDNAなのかわからなかったようです。僕は「僕たちが住んでいる都市にこんなにわからない生き物がいるのか!」と驚きました。そこから日本の都市に生活している微生物も知りたくなって、たくさんの人たちに協力して、日本の都市のいろんな場所(学校、公園、家など)から微生物を集めてDNAを調べました。そこには、人に住んでいる微生物と自然環境にいる微生物が合わさってできた生態系が広がっていました。

人の腸内細菌はそのバランスが崩れてしまうと病気になったり肥満になってしまうことがわかっています。僕は腸内細菌と同じように室内の微生物もバランスがとても大切で、そのバランスが崩れてしまうと、室内にいる僕たちの健康にも影響しそうだなと思っています。

Photo by Hugh Han on Unsplash

● もっと知りたければ「見てみよう&読んでみよう!」

ジェシカ・グリーン「微生物を正しく取り除くために」(TEDGlobal2011)

ジェシカ・グリーン「私たちを取り巻く細菌と住環境のデザイン」(TED2013)

クリストファー・メイソン「スマートシティを司る“2番目の脳”」(ICF2015)

第3章|家の中にいる彼らを見つけに行こう

ここまで読んでくれたら、微生物について少し詳しくなれたはずです。僕たちの体の中や家の中などあらゆる場所に微生物がいることもわかりました。では,家の中にいる微生物を探しに行きましょう。冷蔵庫に微生物の入った食品、微生物が作った食品はないかな? お風呂に黒ずみ(カビ)はないかな? 家の中で微生物がいそうな場所、微生物が役立っているモノを探してみよう。

Photo by Erik Mclean on Unsplash

profile

伊藤光平|Kohei Ito
1996年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部2年の時、都市の微生物を調査するプロジェクト(MetaSUB)に触発され学生主体のプロジェクト「GoSWAB」を設立。2018年Forbes Japan誌で「世界を変える30歳未満の30人」に選出される。大学卒業後、ベンチャー企業や医療機関から微生物ゲノム分析を請け負うなど、微生物研究者として活躍中(Photo by Manami Takahashi)