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いち社員が企業公式VTuberに。いそら真実さん、社員VTuberってどんな仕事?

2018年夏、決算説明会にVTuber「いそら真実」が登場して話題なったグリー。今度はいそら真実が会社案内をする動画を配信。いったいグリーで何が起きているのか。いそら真実に話を聞いた。

TEXT BY TAKUYA WADA
PHOTO BY KAORI NISHIDA

いま、爆破的に増えるバーチャルYouTuber(VTuber)。NHKのスポーツ番組でのVTuberのリポーター起用やVTuberが多数出演した「NHKバーチャルのど自慢」など、徐々にその存在が浸透しつつあります。その数は約9000人を超えたとされ、「個人勢」からVTuber事務所に所属するVTuber、企業の広報を担当するVTuberまで、そのかたちはさまざま。

バーチャルライブ配信コミュニティアプリ「REALITY」を運営するグリーの子会社Wright Flyer Live Entertainment(以下、WFLE)の公式VTuber「いそら真実」(まなみ)さんも、その中のひとり。しかし他の多くのVTuberと異なるのは、同社の社員でありながら公式VTuberも務めていること。企業VTuberって一体どんなもの? いそら真実さんに、実際に聞いてきました。

──まずは基本的なことから。VTuber・いそら真実としてYouTubeで広報活動などをされていると伺いました。上の動画はグリーの会社案内ですよね。具体的にはどんな活動になるんでしょうか?

いそら真実(以下、いそら) 私は実際にWFLEの社員として働いているんですが、そこで運営している「REALITY」というバーチャルライブ配信コミュニティアプリの公式広報キャラクターとしての業務がメインです。「REALITY」では簡単に3Dのアバターを作って配信したりコミュニケーションが取れるのですが、そのサービスを広めるために自社番組に出演したり、SNSで発信するなどの広報活動を行っています

──社員というのは設定ではなく、本当に社員ということですよね?

いそら そうです(笑)。仕事の9割以上はいわゆるVTuber活動ではない業務になりますね。たまに番組に出たりtwitterを更新したり。無理のない範囲でやってます。そういった意味で、本業がVTuberのかたとは違うかもしれませんね。

──WFLEの社員だったいそらさんが、VTuberになったきっかけは何なのでしょうか?

いそら いち社員として真面目に仕事をしていたら、荒木(荒木英士:同社代表)から「REALITYの公式VTuberほしいよね。キャラデザどれがいい?」と言われて、「あれ、私がやること決まってる?」みたいな(笑)。でも意外とスッと受け入れられました。

──急に「VTuberになる」のは大変だったのでは?

いそら あくまでも主観ですが、正直あまり大変ではなくて。キャラクターのモデルを作るデザイナーさんだったり、生配信する際の制作スタッフの方が圧倒的に大変そうです。生配信するときも、気合を入れて化粧をしなくても常にかわいいコンディションを保った自分がそこにいて、見てくださってる方々とおしゃべりできるのが純粋に楽しい。という感覚が強いです。家でREALITYを利用してスマホだけで配信するときは部屋が仮に片付いてなくても関係ないので、むしろ生身で配信するより楽かもしれません。とはいえ、VTuberとして決算説明を行ったのはさすがに緊張しました。

──あまり「仕事としてのVTuber」と「プライベート」の境界線なく活動されているんですね。

いそら そうですね。あまりオンオフの感覚はありません。いそら真実のTwitterでもルールは特に決められていないので、好きなようにやらせてもらっています。「今度〇〇という発表があるからツイートしてね」みたいなことは広報活動の一環としてツイートしますけど、「酔っ払った」とか「ラーメン食べた」といった日常的なこととか(笑)。仕事をやっているというよりは「いそら真実」としての日々を発信している感覚なので、境目はあまりないかもしれません。

「REALITY」だとスマホとネットがあればできるので、ふと思い立ったときに会社の会議室でも配信します。配信中に会議室を利用しようとする社員が入ってくることもあるのでそんなときは慌てて「会議室使う人来たのでまた~」と言って配信終了させたりもします(笑)。

──企業VTuberが自由にやれているのは珍しいですよね。

いそら そうかもしれませんね。ただ、最低限のマナーを守ることが前提ではあると思います。そこについては、荒木も「彼女には一定の倫理観があるだろう」って思ってもらえていたうえでのアサインだとは思いますし。恐らくですが(笑)。「REALITY」は「なりたい自分で生きていく」を掲げているので、企業の広報がメインのVTuberという役割があったとしても、型にはめすぎたり、抑圧することを良しとはしませんでした。

──VTuberは「VTuberとしての人格」が割と求められることもあると思いますが、いそらさんはいち個人としてのいそら真実、という感覚なんですね。VTuberを演じているという感じもしません。

いそら そうだと思います。自分自身といそら真実とが同一人格で活動していて、キャラ設定も特にないんです。「私そのまま」というか。WFLEに勤めている社員で、好きな食べ物はとんこつラーメンだというような細部まで同じです。

──VTuberの「中の人」問題は、結構タブー的な側面もありますよね。そこまでオープンなのは珍しいというか。

いそら VTuberに関しては様々な考えのかたがいますよね。私に関してはWFLEのいち社員であることをオープンにしていますし、荒木は代表でもあるので人としての顔も表に出しながら一方でVTuber「DJ RIO」として活動しています。そこにグラデーションがあっていいと思いますし、タブーかというと必ずしもそうではないのかなと思います。

社内でも「私」といそら真実の垣根がなくなってきたというか。「いそまなさん判子押してください」って言われるぐらい浸透してるので(笑)。

ある日突然、社員VTuberになったいそら真実さん。とんこつラーメン好き

現在進行形でふくらむVTuber市場 企業VTuberの可能性

──Mirrativ、SHOWROOM Vなど、VTuberの配信プラットフォームはいま数多くあると思うのですが、REALITYはどのような点が異なるのでしょうか?

いそら 設計思想でしょうか。「REALITY」はユーザーが「なりたい自分で生きていく」ことを実現するために、アバターの拡張性やコミュニケーションをいかに楽しく行えるか、というところにより重きを置いています。

ユーザーひとりひとりがなりたい自分の像を表現して、コミュニティを作っていってほしいです。そういった思想が配信の手軽さ、アバターのカスタム性の高さ、愛着が持てるような動きなどに反映されていると思います。

──誰でもVTuberになれるプラットフォームは2Dが多いと思うんですが、「REALITY」が3Dなのは、どんな意図があるんでしょうか?

いそら ユーザー(いまの自分)とVTuber(なりたい自分)の垣根をよりシームレスにしたいという点があります。2Dよりもリッチに表現できることで、アバターと自分をより一体化できる部分があると思います。

──なるほど。いそらさんも、本人のパーソナリティとこのかわいい外見のアバターが合わさってはじめてひとりのVTuberという感じですよね。

いそら そうですね。将来絶対に3Dアバターで生活してコミュニケーションする世界が来ると思っています。『レディー・プレイヤー1』みたいな世界がやって来たときに、3Dのアセットがあるとそのままシームレスに移行できる。いまの技術の進化のスピードを考慮するとそう遠くない未来にそういう世界が実現すると思って、私たちもライブエンターテインメント事業を進めています。

「REALITY」はすぐにビジュアルを作ることができる。作ったキャラクターはスマートフォンのインカメラでユーザーの顔の向きや表情をトレースする。いざ、「REALITY」を起動!

美少女キャラになりきり思わずにやける筆者

──企業VTuberとしての活動を通して、業界全体に感じることはありますか?

いそら VTuberやアバターを通していままでにないアプローチで魅力を発信できるのではと思っています。見た目という意味ではキャラクターとしてのカスタマイズ性は高く物理的な制約も受けないので遠隔で様々な場所に顔を出せるというのもそうですし、企業という人格よりも一個人としてより身近に感じやすい存在を持って魅力を発信できるのは大きなメリットだと思います。

──会社の決算説明なんてまさにそうですよね。

いそら 実はあれ、いそら真実として初めての公の場だったんですよ(笑)。「投資家の方とかいるし大丈夫なのかな…?」と思っていたんですけど、すごく場が和んだそうです。

──カタい雰囲気の場にVTuberをはさむことで。

いそら はい。当時はVTuberってYouTubeで活動しているという限定的なイメージがある気がしていて、VTuber活躍の幅を広げるという意味でも拡張性を持たせられたのではと思いますし、企業VTuberという存在が認知してもらうきっかけに少しでもなっていれば良いなと思います。

人格というか人が感じられることでより親しみを持って貰えるというのは間違いなくあると思うので、企業としてVTuberを活用するという場合はそういった部分にフォーカスして上手く活用できるといいのではと思います。

──企業同士も手を取りやすいという側面もありますよね。

いそら そうですね。個人的な感覚ではありますが、VTuber同士だと比較的企業間コラボの垣根がそれほど高くないと思っています。例えば、同じVR業界で活動されているclusterさんという企業の公式VTuber・くらすたーちゃんに「REALITY」で配信される番組の女子会企画に出てもらって共演したり。企業という人格と一個人という人格の中間にあるというか。人と人との結びつきも感じられる優しくて温かい世界だなと思います。

──これから企業がVTuberを取り入れていくことも増えていくと思うのですが、逆に、企業VTuberだからこその難しさもあると思います。企業VTuberとして活動するなかで、気を付けていることはありますか?

いそら 継続することと、浸透させるために無理のない企画内容、人格設定をすることじゃないかと思います。私は、自分とかけ離れたキャラクター設定だと「演じる」ことにいつか辛くなると思ったんですね。いそら真実はサービスのイメージキャラクターなので、長く続けることを前提に、無理のない設定にしています。

──なるほど!

いそら あとは、VTuber以前の基本的なことですが、悪口を言わない、誰かを深く傷つけてしまったり不快にさせてしまうようなことを言わないことでしょうか。基本的にポジティブなことを中心に発信しています。ただあまりにも良いことばかり綺麗な言葉で発信しすぎてもそこに嘘臭さが出てしまったり、人としての深みというか親近感が感じられなかったりすると思うので、個性も出しつつそのバランスが重要かなと思っています。

WFLEのVTuberスタジオには収録用のたくさんの機材が置かれている

自分を拡張することで生まれる自己肯定感、他者への想像力

──いそらさんから見て、VTuberであることの楽しさはどういうところにありますか?

いそら 新しい自分が1つ増えるという感覚ですね。誰でも家族、同僚、友達の前では、演じてるわけじゃないけど、自分の振る舞いがそれぞれ少しずつ違うと思うんです。Facebook、Twitter、LINEでもまったく同じ投稿をしている人はいないと思っていて。その場所が1つ増えたという感覚です。Twitterのアイコンと同じで、いそら真実は「拡張された自我」という感覚です。

──拡張自我。自分の自我が、洋服やスマホ、いつも使っているものに宿っているようと感じる、といった考えですよね?

いそら そうです。人にいきなり自分の財布をじっくり触られたら、自分が触られたかのような嫌な感覚になるのと近いというか。例えば、社内で技術的な検証をするときにいそら真実のモデルに別のスタッフが入ることがあるのですが、ものすごく心がざわざわするんです(笑)。社内でも、「いそら真実」の単語が出ると、自分が呼ばれているような感覚になる。それくらい同一化している感覚があります。

──いそらさんは、演じているのではなく本当に社員であることをオープンにしているので、その拡張性/同一性を隠さずに活動しているVTuberですよね。

いそら そうですね。それはひとによって変えていいと思います。さっき話したようにグラデーションがあっていいと思うので。

私がVTuberをやってよかったのと思うことのひとつのは、単純にかわいくなると自信つくよね、ということでしょうか。自分を拡張したアバターが褒められると、そのまま自分が褒められる感覚なので自己肯定感が爆上がりします。いままでも「かわいい」と言って頂くことはありましたが、いそら真実として世に出てから1週間でいままで人生の中でいわれてきた「かわいい」の総量を超えました。「すごくかわいい」って、人生で一番褒められる(笑)あとは出会わなかったはずの人たちとの出会い、交流が出来るというのもバーチャルの一つの可能性だなと強く感じています。

──自分を拡張して、変身願望を叶えられる、と。

いそら いまの自分に自信があるなしに関わらず、誰しもがなんらかの変身願望があるのではないかなと思っていたりします。よりかわいい女性になってみたいとか性別を超えてみたいとかまたは人間ではない別の存在になりたいという願望があったり。「バ美肉」(バーチャル美少女受肉またはバーチャル美少女セルフ受肉の略語)のVTuberがブームになっていることからもわかるように、別の存在になってみたいというのは多かれ少なかれ、人としての自然な発想というか願望なのかなと思うことがあります。

──僕もアバターを作ってみたんですが、僕の場合は自分のアバターに女の子を選ぶことにどうしても違和感があって男の子を選んじゃったんですけど、いまセーラー服着たかわいい女の子にしてみたら、ものすごく不思議な感じがします(笑)。

いそら 新しい感覚を味わえますよね。例えば実際にセーラー服を着たいなって何かの拍子に一瞬思っても、買って着るところまでは至らないというか、なかなか難しいじゃないですか。だから簡単にこれで着れて疑似体験できちゃうところに価値があると思います。

──なるほど。なかなか当事者性をもてないものに想像力を持つことができますよね。

いそら そうなんです。ちなみにうちの会社はセクハラ/パワハラに関する研修にVRを使っていて、没入感がすごいので…当事者性が持てると評判になっていました。

そういった側面意外にも、何かつらい過去があって社会生活が上手く送れなかったり…人と対面するのが怖いという人もいると思うのですが、バーチャルな空間でコミュニケーションをとることで、本来の自分を見つめなおせたり、人生が救われましたという人もいて。それはアバターに限らず古くは手紙だったり、電話だったり、最近だとネット上でのコミュニケーションによって救われている人が多くいらっしゃると思うのですが、アバターで活動するということがそこに加わっていく。そんな可能性があるんじゃないか、そう思うんです。

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