IN THE FUTURE WE HAVE AVATARS

みんなが当たり前にアバターを使う未来がくる

グリーが誰でも気軽にアバターをまとってライブ配信できるプラットフォーム「REALITY」をスタートした。誰でも気軽に自分の分身を作ることができるようになったいま、私たちは自分のアバターをどのように捉えていけば良いのだろう。女の子の「盛り」を研究する久保友香を聞き手に、グリーでライブエンターテイメント事業を担うWright Flyer Live Entertainmentの荒木英士に話を聞いた。

TEXT BY RIE NOGUCHI
PHOTO BY KAORI NISHIDA

才能の母数が圧倒的に増える

久保友香(以下、久保) 私は女の子の「盛り」や、日本の絵画のディフォルメ表現のことを研究しています。Vtuberは、人間が生まれ持ったビジュアルに縛られずに、いろいろな才能を表現できます。これからの文明はそのように、生まれ持った能力に縛られず、努力で得た能力が評価される方向に行くに違いないと思っています。ヴァーチャルYoutuber(VTuber)はいまはどのように広がっているのでしょうか。

荒木英士(以下、荒木) VTuberのトレンドは狭義と広義で捉えることができます。狭義でとらえると、アニメっぽいキャラクターが話していたりとか、そのキャラクターと会話ができる新しいエンターテインメントのかたちです。

歌が上手くてトークもできるのだけれど、自分のビジュアルは見せたいとは思わないという人がいますよね。そういうビジュアル部分をデジタルが補完することで、才能を生かすことができる。いま活躍している歌手は、歌がうまくてひと通り喋れて、ビジュアルも良いという組み合わせで選ばれている方が多いです。でも、このうちのひとつの条件を外すだけで、潜在母数が100倍、200倍にもなっていく。つまり才能の母数が増えていくわけです。芸能界をデジタル化していくというのが狭義のVTuberです。

(右)荒木英士 2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後、大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、PC向けGREE、モバイル事業、ソーシャルゲーム事業(「踊り子クリノッペ」等)、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年、GREE International, Inc.(米国)の設立に参画。2013年9月に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任。2018年4月にバーチャルYouTuberに特化したライブエンターテインメントを世に広めるべく設立されたWright Flyer Live Entertainmentの代表取締役社長も務める。荒木は、シンギュラリティをもたらす仕事をしてるバーチャル美少女ケモミミDJ 「DJ RIO」としても活動中

久保 なるほど。広義ではどのようになりますか。

荒木 広義だと、まさに「盛り」もそのひとつだと思いますが、自分が他人に見られるシチュエーションや、人とのコミュニケーションするシチュエーションは、つい20年前までは物理的な接触以外はなかったのですが、いまは自分という存在が認識される機会の割合のほとんどがLINE、インスタ、TwitterといったSNSですよね。つまり誰か他の人から認識されたり、コミュニケーションをするときのチャンネルは、デジタルの割合がどんどん増えてきています。TwitterのアイコンをフィルターかかったSNOWの写真にするように、デジタルのフィルターを通った自分が普通になっていく。

久保 そうですね。

荒木 それが完全にアニメ風のCGなのか、極度に盛られた顔なのか、程度の問題でしかない。どこまでがフェイクで、どこまでがリアルなのか、境目がなくなってきているのが現在だと思っています。これからはデジタルを通じた自己表現がどんどん増えていく。そう考えるとVTuberとしてタレントっぽく活動していく人たちは、実は人類全員が今後追っていくトレンドの、本当の先端事例ですよね。いまのVTuberは、ごく一部のニッチなエンタメのカルチャーのコンテンツでしかないですが、これから先はみんながアバターをまとって自分をデジタル表現しながら、社会と関わっていく。そういうもののスタートだと考えています。

久保 例えばInstagramにはフォトリアリスティックなヴァーチャルモデルさんも増えていますが、見た目から受ける印象はVTuberとはかなり違いますよね。今後は同じプラットフォームに入ってきたりする可能性がありますか?

荒木 今後、いろいろな見た目のジャンルの人が、それぞれ棲みわけてくいくのかなと思いますね。アニメテイストの人たちが集まる場所もあれば、超リアルなヴィジュアルの人たちの場所や、欧米カートゥーンっぽい人が集まる場所も出てくるでしょうね。

久保 その辺は面白いですよね。私も過去25年間の、日本の女の子が「盛る」歴史を調べているときに、各時点ではどうしてみんな似たような格好をするんだろうと疑問に持っていて調べてみたら、ビジュアルで同じコミュニティにいるかどうかを見分けていたからだとわかりました。

荒木 コミュニティへの帰属ですよね。旧石器時代から民族ごとに決まったメイクなどがありますが、それと同じですよね。

久保 自分のビジュアルを「1」からクリエイションできるようになり、コミュニティへの帰属を自在にコントロールできるようになるのかなと思うと、生きやすくなると思いますね。

荒木 ファッションもジャンルごとにコミュニティがあるように、アバターの見た目で「君、僕の仲間だね」とわかるようになっていきそうですよね。

久保 そうなったら面白いですよね。

荒木 よく想像しているのが、いわゆるVRっぽい世界で、渋谷を歩いていたら、ZEPETOの顔の人のグループとすれ違ったりや、アニメテイストの人とすれ違ったり、ケモミミばかりの集団とすれ違ったりする。すれ違いながら、「君、あそこのコミュニティの人なのね」という感覚になるという。

久保友香 1978年、東京都生まれ。2000年、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。2006年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員などを歴任。専門はメディア環境学。著書に『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版)。

複数の人格を使い分ける

荒木 いまSNSでは複数アカウントが普通ですよね。学校のクラスでの自分、特定のアイドルを追っかけている自分。そうやってアカウントを使い分けているのは、アバターを分けてるのと同じです。

久保 そうですよね。みなさんナチュラルにやっているので、そういう使い分けがどんどん増えていくわけですよね。

荒木 僕はアバターで人格を使い分けることはしていませんが、2年前に「SNSはこんなにたくさんあって、みんなどうしてるんだろ」と思い立ち、SNSの使い分けを始めたんです。Facebookではこういうキャラ、Instagramではこういうキャラ。自分のどの側面を見せるかっていうのを、切り分けています。どれも本当の自分なんですけどね。

───荒木さんはVTuber「DJ RIO」としての活動もされています。「DJ RIO」は美少女だけれど、「声」や「人格」は荒木さんのままですよね。

荒木 変えていないですね。アバターに影響はされてきてますけどね笑

久保 「盛り」に夢中な女の子たちも、別人になりすぎることは避けていて、みなさんそうならないギリギリのところのせめぎ合いをやっています。

荒木 どこまで行っても、自分が出てしまうとは思いますね。ビジュアルは完全にCGで、声も完全ボイスチェンジャーで、男なのに女の子になっている人もたくさんいますが、コミュニケーションで話し方などで個性は出ますよね。

久保 それは面白いですね。以前、能面師さんにお話を伺ったことがあって、彼らはとにかく室町時代に作られた本面を忠実に再現することを目指していて、絶対に個性を出してはいけない。それなのに老練な方でも、どうしても個性が出てしまうと悩んでいました。

荒木 そうですか。自分のパーソナリティは、絶対に出てしまうと思いますね。

「DJ RIO」として対談に臨む荒木

これからのVTuber

───いまグリーは、「REALITY」というプラットフォームを作るなど、VTuberに特化したライブエンターテインメント事業に力を入れています。今後の展望はどのようなものですか。

荒木 これから数年をかけて、アバターで自己表現をしたり、アバターで人とコミュニケーションをするのが当たり前の世界になっていくと思います。そのときにみんなが使っているプラットフォームにしていきたいですね。それこそLINEやInstagram、Facebookというような、誰もがそれを使ってコミュニケーションをしている状態にしていきたいです。

──競合も出てくると思いますが、グリーの強みはなんでしょうか。

荒木 そうですね。グリーではゲーム開発をしているし、SNSも運営しているので、そういうスキルセットや、優秀な人材がたくさんいるのが強みですね。あとは会社としての「やめない」というところも大きいです。これまでもいろいろな企業が参入しましたが、結構撤退しています。「ちょっとやってみる」くらいだと長期間続けられませんが、僕らはこの未来が来ると信じてやっているので、とにかく続ける。

久保 いまはグリーらしくゲーム実況や音楽などのコンテンツが多いですが、今後、エンターテインメントの枠を超えていくこともありますか? もっと日常使いの機能が増えるなど。

荒木 まさにコミュニケーションは日常ですよね。僕たちは、まずはエンターテインメントの切り口がいいと思っていますが、広がってきたら、コミュニケーションの領域は”日常”なのでそこまで広げていきたいですね。

久保 日常がややエンターテインメント的になっていくかもしれないですもんね。

荒木 そうですね。でも、みんながみんな、ステージ上で活躍するエンターテイナーである必要はないんですよ。アバターを通じてのコミュニケーションや自己表現で、少しでも多くの人がその人なりの「なりたい自分」になって生きていけるような社会が作れればと思っています。

久保 音楽は上手だけれど、顔は見せたくないから、その才能がいままでは世に出ていなかった人たちが、いまVTuberとして活躍を始めている。一人ひとりの何か得意なものが開花していけば、日本、また世界の文化レベルは絶対に上がっていきますよね。

荒木 そう思いますよ。

久保 今後の広がりが楽しみですよね。