Chocolate, not just sweet but bitter

甘いだけじゃないのが 大人のためのチョコレート

この時期、自然と目に入ってくる数々のチョコレート。気になるのは、どんな基準で選ぶのが正解なのかだ。美味しさ、ブランド、パティシエの知名度、パッケージのデザインなど、さまざまな観点が思い浮かぶが、成熟した大人なら、チョコレートの健康効果や、チョコレートを取り巻くサステナブルな取り組みを意識し、“美味しくてためになるチョコレート”をチョイスするのはいかがだろう。バレンタインシーズンも手伝って街なかにさまざまなチョコレートが出回る今、どんなチョコレートが身体や地球、社会にもやさしいのかナビゲートする。

PHOTO BY OSAMI WATANABE
TEXT BY MIO AMARI
EDIT BY KANA ENDO

ハイカカオチョコレートが体に良いと聞くけれど?

近年、健康にいい食材として「ハイカカオチョコレート」が話題になっている。具体的にどのようなチョコレートのことを指すか、ご存じだろうか。

日本チョコレート・ココア協会の三谷昭彦さんによれば、一般的にはカカオ分70%以上のチョコレートをハイカカオチョコレートとして指すことが多いとのこと。「チョコレートはカカオマスの含有率によってホワイトチョコレート(0%)、ミルクチョコレート(約40~60%)、ダークチョコレート(約70%以上)の3つに分類できますが、健康効果が高いと言われるカカオマスが高配合されたチョコレートはダークチョコレートにあたります」(三谷さん)。ホワイトチョコレートやミルクチョコレートと比べて砂糖やミルクなどの量が少ない分、主原料であるカカオ特有の味わいが強くて甘さが控えめ、という特徴を持っている。

ル・ショコラ・アラン・デュカスが展開するタブレットチョコレート。カカオの配合率や産地、ナッツのトッピングなど様々なタイプがラインナップする。

では、食することで、どのような健康効果を期待できるのだろうか。「チョコレートには、カカオポリフェノール、カカオプロテイン、テオブロミンが豊富に含まれます。カカオポリフェノールは活性酸素の働きを抑える抗酸化作用を持つので、アンチエイジング効果を期待できます。また、カカオプロテインは腸内環境を改善。テオブロミンは自律神経に作用し、リラックス効果をもたらします。その効果をより高めるなら、砂糖や添加物がなるべく入っていないチョコレートを選ぶのがいいでしょう」(三谷さん)

では、いくらでも食べていいかというと、もちろんそういうわけではない。「カカオポリフェノールは、早く吸収されるため、抗酸化作用が比較的早く発揮される一方、長時間持続できないため、健康効果を期待するのであれば、一度にたくさん食べるのではなく、一日の中で何度かに分けて食べること、また、それを毎日続けることがお薦めです」(三谷さん)。 厚生労働省・農林水産省「食事バランスガイド」によれば、1日に摂取する菓子・嗜好食品のカロリーの目安は200kcal程度なので、1日5ー10g程度を、何度かに分けて間食すると良いだろう。

Bean to BarやFarm to Barでチョコレートもサステナブルに

ここ数年、チョコレートにまつわるキーワードとして「Bean to Bar(=カカオ豆の買い付けからチョコレートバーを作るまでを製造者が一貫して手がけるスタイル)」や「Farm to Bar(=カカオ豆を独自の農園で育てるところからすべての工程を製造者が一貫して手がけるスタイル)」が定着しつつあるが、このスタイルに則って作られたチョコレートを選ぶことは、サステナブルな社会の実現にも繋がる。

コートジボワールやガーナなど、多くのカカオの生産国には、貧困や児童労働の問題が存在し、Bean to BarやFarm to Barを実践するメーカーには、カカオ農家や地域のコミュニティとのつながりを重要視し、農家が置かれている状況や、カカオの生育環境について理解しようとするところが多い。かつて筆者がベトナム・ホーチミンの郊外にあるカカオ農家を取材したところ、その農園主は「彼ら(=Bean to Barを行うメーカー)は市場よりも高い価格で仕入れてくれる。カカオ豆が育つテロワールを大切にしてくれる」と話してくれた。

カカオ農家が抱える問題を私たちが直接解決するのは難しい。しかし、人権や環境に配慮して作られたサステナブルなチョコレートを選ぶことで、間接的にチョコレートの生産に関わる人々をサポートすることもできるのだ。

六本木ヒルズ内にある「ル・ショコラ・アラン・デュカス 六本木」にも、カカオ豆の産地にこだわって作られたチョコレートが数多く並ぶ。写真は右から南米・ベネズエラの小さな村、チュアオで収穫された希少なカカオ豆を75%使用したハイカカオチョコレート「クリュ デクセプション 75% ベネズエラ – チュアオ」2,592円。焦がしたキャラメルのような香りが特徴。中央は、ホンジュラスの希少なカカオ豆、トリニタリオ種の「マヤンレッド」に由来する品種を使った「オリジン ノワール 75% ホンジュラス トリニタリオ マヤンレッド」1,782円。左は、厳選されたペルー産のカカオ豆を75%使用した「トラディション ノワール ペルー ノン・コンシェ」1,998円。ノンコンシェとはコンチングというチョコレートを滑らかにするための撹拌の工程をしないで製造しているので、ザクザクとした食感も楽しめる。

右はカカオ75%のハイカカオチョコレートの上にキャラメリゼしたアーモンド、ピスタチオ、イチジクやオレンジのドライフルーツをあしらったカラフルなタブレット「マンディアン ノワール 75% アーモンド/イチジク/オレンジコンフィ」2,592円。左は同じくキャラメリゼしたヘーゼルナッツをたっぷりのせた「マンディアン ノワール 75% ヘーゼルナッツ・キャラメリゼ」2,592円。

アラン・デュカスのショコラ作りとは?

ここでひとつ、注目したいチョコレート専門店がある。それはフレンチの巨匠、アラン・デュカスが手がける「ル・ショコラ・アラン・デュカス」だ。

アラン・デュカスのファンの間では知られたことだが、彼は修業時代にレストランと掛け持ちでパリのパティシエのもとでも働き、ショコラの作り手になるか、料理人になるか悩んだ末、料理の世界に専念することを決意した、というエピソードを持っている。それゆえ「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の工房を設立するにあたっての志は高く、「ショコラの原点に立ち返る」ことをテーマに掲げ、手間隙を惜しまない伝統製法、職人の技による緻密でクリエイティブな作業を大切にしている。そして、料理と同様、食材の本質を探求する情熱に動かされ、カカオ豆を世界中から厳選。カカオ豆を焙煎するところから手がけるのだ。それも、“産地の数だけ個性や味がある。それを生かそう”という考えに基づき、ショコラのとろみやなめらかさを出す“コンチング”の回数や、火入れの時間を調整する、というこだわりよう。タブレットには、カカオ配合率100%、75%、45%のラインナップに加え、産地や製法もさまざま。ル・ショコラ・アラン・デュカスでは、カカオ豆からチョコレートができるまでの全工程において、“顔が見えるチョコレートづくり”が実践されているのだ。

「オリジン ノワール 100% ペルー – トリニタリオ」1,782円。ペルー産のカカオ豆を100%使用。砂糖が加えられていないので、繊細で力強いカカオ豆の風味をそのまま味わうことができる。

右はマダガスカル産カカオ豆を45%使用し、クラシックなバランスで仕立てられた「オリジン オ・レ 45% マダガスカル – トリニタリオ」。左はジャワ産カカオ豆を45%使用した「オリジン オ・レ 45% ジャワ – トリニタリオ」。スモーキーな香りが特徴。

チョコレートは子どものおやつから大人の嗜好品へ

時代は変化し加えてコロナ禍ということもあり、ここ数年は自分や家族のためにじっくり吟味してチョコレートを選ぶという人も増えた。だからこそ、健康効果を期待でき、誰かの役に立つチョコレートを選びたい。そんなチョコレートは、ほろ苦くも自分や世界の未来を優しい甘さで包んでくれるかもしれない。

バレンタイン限定の「コフレ・カレ・デギュスタシオン オリジン3種類詰め合わせ(24枚)」2,700円。3種類の産地(マダガスカル75%、ペルー75%、ジャワ45%)を試せる。

ル・ショコラ・アラン・デュカス 六本木

LE CHOCOLAT ALAIN DUCASSE ROPPONGI

場所 六本木ヒルズ 六本木けやき坂通り1F/3F 営業時間 ブティック11:00〜21:00 / ル・サロン 11:00〜21:00(LO フード一部 20:00 ドリンク20:30) 電話 03-5775-1185