French chef meets Torioka
『鳥おか』黒崎法行×『グランド ハイアット 東京』副総料理長 ダヴィッド ブラン——焼き鳥の名店へ、フランス料理の名シェフが“お墨付き訪問”
六本木ヒルズ ウエストウォーク5階に、待望の焼き鳥店が満を持してオープン。今や世界中から予約が入るという、焼き鳥の名店『鳥しき』から暖簾分けした『鳥おか』である。この期待の新店舗の味を確かめてもらうために、『グランド ハイアット 東京』副総料理長のダヴィッド ブラン氏をお連れした。フランス料理の名シェフは『鳥おか』をどう評したのか。両者の邂逅の様子を記していく。
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY TAKUYA SUZUKI
「日本の焼き鳥はとても好きです。鶏肉だけで、いろんな食感が楽しめますよね。ひとつの食材だけを専門的に扱うレストランがあるとは、20年前に来日して初めて知りました」
これは『鳥おか』店主・黒崎法行氏と対峙して、『グランド ハイアット 東京』副総料理長のダヴィッド ブラン氏が開口一番に口にした言葉だ。続いてブラン氏は、店内の印象をこう語る。
「とてもシンプルですね。席に座ると、もう店主しか見えない。インテリアが何も邪魔をしない」(ブラン)
「うちは、食事も内装も、同じ気持ちです。食事に集中していただくために、それこそBGMもありません。提供メニューも、鶏肉と野菜だけ。シメのご飯も本当にシンプルで、ガス火で土鍋炊きしたものをそのまま提供しています。米農家が手塩にかけて育てた味を、そのまま味わっていただきたくて」(黒崎)
焼き場を囲むようにコの字型に設えられたカウンターは、まるで桟敷席のようだ。このカウンター席のほか、個室もふたつ。もちろんオススメはこちらの18席である。焼き場を任された腕利き職人の手捌きを目の当たりにすることも、『鳥おか』を訪れる楽しみだ。
『鳥おか』は、おまかせコース(ひとり¥7,300)のみ。かしわ、皮、砂肝、ハツ、レバー、手羽先、つくねをベースに、先付、野菜串、シメの白飯がセットとなり、まるでコース仕立てのごとく、ひと串ずつ提供される。
「僕らが最終的に行き着いたのは、11品の串をお出しする内容でした。女性に食べていただいたり、たくさん食べる男性にも試してもらって、満足感はどうか、ボリューム的に足りているかも確かめて。もしも足りなければ、あと数本、アラカルトで追加してもらうと。味的には、クライマックスに向かってどんどんダイナミックになっていきます」(黒崎)
説明を加えながらも、手を休めることのない黒崎氏。串を表に出し、塩を振り、手早く焼き台に載せていく。するとブラン氏からこんな質問が飛び出した。
「冷蔵庫から串を出して、そのまま焼き台に載せるのですか? 常温に戻さない?」(ブラン)
「常温で置かないのは、形が崩れるからです。冷蔵庫から出して5分、10分も経つと、肉が重力でダレてしまいます。すると焼き鳥のフォルムが変わってしまうんです。逆に、レバーは常温に戻してからでないと内側が冷たくて美味しくないです」(黒崎)
黒崎氏の仕事の内容に、ブラン氏は興味深々。聞けば、フランス料理も炭を使うと言うが、その上にグリル台を載せるので、直火で肉を焼くことはしない。だから炭の扱いが異なるそうだ。
「もうすぐ、焼き上がります」(黒崎)
「それは目で見て分かるものなのですか?」(ブラン)
「練習で何回も味見して、この焼き加減なら大丈夫という頃合いを感覚で覚えるんです。それと、肉を軽く鉄芯に叩いた時の跳ね返りでも、どれくらい火が入っているのかが分かります」(黒崎)
「わぁ、すごいですね!」(ブラン)
この日の一本目は正肉。「調味料は七味と山椒。最初はそのまま召し上がってください」と、黒崎氏に促され、正肉を口にしたブラン氏の最初の感想は、「完璧です。なんて素晴らしい食感!」。絶妙な火入れにより、肉のポテンシャルを最大限に引き出しているからこそ、抜群の弾力とジューシーさに溢れている。まろやかなタレをまとい、同時に肉の柔らかさも手伝って、「口に入れてから飲み込むまでに、ひっかかりがどこにもない」という。
続く砂肝にも、驚きの表情を見せたブラン氏。
「こういう食感は初めてです。フランス料理で、砂肝はコンフィにするのです。塩漬けにした後、油に漬けながらでゆっくりと火を入れます。ですので、こういったコリコリとした歯応えは新鮮です」(ブラン)
「鶏肉を作っている生産者さんが、与えるエサにとてもこだわっていて。砂肝は特に、与えるエサが良いものでないと、臭みが出るんです。でもこの砂肝はまったく臭みがないと思います」(黒崎)
『鳥おか』では、伊達鶏だけを使用。この鶏は、生産者との信頼関係ができて、初めて仕入れることが出来るものだ。飼育環境の整備に多くのエネルギーを注がなければいけないので、生産高を増やすことのできない貴重な鶏である。大きさ、肉質、食感共にバランスが良く、レバーや内蔵の串も含めて全体的にさっぱりとしていて、食べ疲れしない。
「肉刺しはどなたがやられているのですか?」(ブラン)
「担当を決めて、全員でやります。例えば自分は、ハツとレバーだけとか。内臓は、作業の間も肉質がどんどん変化していくので、肉より大変なんです」(黒崎)
「誰かがカットして、誰かが刺すという分担はしないのですか?」(ブラン)
「最初から最後まで、ひとりでやります。毎日、同じことの繰り返しです」(黒崎)
串を打つ(※肉をカットして、串に刺すこと)のに、通常3年。店主・黒崎氏でさえ、『鳥しき』での修業時代に親方に毎日教えてもらって、丸1年かかったそうだ。
「串に肉を刺すことぐらい、簡単だろうと僕も最初は思っていたんです。ところが全然出来ない。親方から『駄目、やり直し』と言われ続けるんです。一番最初はたった1本のOKをもらうのに、4時間かかりました。でも、その意味が焼く側に回って良く分かるんです。串を打てるまでに3年。その後、炭の扱いができるまで1年はかかります。そして、炭がちゃんと組めるようになったら、初めて串を焼けるんです」(黒崎)
焼き鳥とは、シンプルであるがゆえに嘘がつけない。だからこそ奥深いのだ。正確な仕事を重ねたその先に、『鳥おか』が行き着いた味がある。
「このレバー、まるでフォアグラみたい! 色もとても綺麗ですね」(ブラン)
「ありがとうございます」(黒崎)
「鶏のレバーは一般的にスジがあるものですが、全くないのが驚きです」(ブラン)
「スジを処理するのは大変なんで、一般的には処理をしないで打つ店が多いと思います。ただ、それでは歯触りが悪く、臭みも出ます。ウチはただ下処理に手を抜かず、愚直にやっているだけなんです」(黒崎)
それを聞いて、納得するブラン氏。やはり評判の味を支えるのは、職人の仕事量と、それを日々積み重ねていく情熱である。安直な秘義など存在しないのだ。
「このレバーも、あと10秒20秒、焼き台から上げるのが遅れると、臭くなります。レバーは火を入れ過ぎると焦げた部分の臭みが出ます。ですから、ここまでは大丈夫、ここからは駄目、ということが感覚で分かるように、練習で何度も何度も同じものを焼くんです」(黒崎)
さて、この日、7本の串を試食したブラン氏の感想は「こんなに美味しい焼き鳥を提供するお店は初めてです」。串が提供される順番も気に入ったそうで、「次の串がどんどん楽しみになり、さらにクライマックスの手羽先とレバーが本当に素晴らしい。レバーのレア寄りのギリギリの焼き方が、私にとっては初めてでした」と大絶賛だ。
「私が一番好きな料理のスタイルはシンプルであることです。食材を生かすことが大切だと思っています。その意味でも、濃いソースを使わず、素材の味わいを引き出すことに徹した『鳥おか』のスタイルが気に入りました」(ブラン)
焼き鳥とは、日本が生み出した独特の食文化だ。中でも『グランド ハイアット 東京』副総料理長からのお墨付きを得た『鳥おか』は、六本木ヒルズという大人向けプレミアムスポットで、ひと際輝いていく存在になりそうだ。
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