ME AND JUMP

AR三兄弟・川田十夢の「俺とジャンプと拡張現実」#3 -2000年代、進化する最強雑誌の現在-

1990年代が思春期にあたる開発者・川田十夢(AR三兄弟・長男)にとって、2000年代の「ジャンプ作品」はいかなる意味をもっていたのか。「創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.3 -2000年代、進化する最強雑誌の現在-」(六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー)の開催に合わせて寄稿された、珠玉の「私的ジャンプ論」最終回!

TEXT BY TOM KAWADA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

1980年代90年代と順調に発行部数を伸ばして無双状態だった我らが「週刊少年ジャンプ」であったが、2000年代に突入すると『DRAGON BALL』『SLAM DUNK』などの人気作品が軒並み連載終了。いったん失速したかのように見えたものの、2002年8月に「週刊少年マガジン」を抜いて再び少年漫画誌の王者に返り咲いた。

漫画業界に限らず、出版業界全体の発行部数が落ち込んでいるなか、現在も180万部台をゆるやかに保ち続けている。時代のニーズにいち早く対応、「少年ジャンプ+」のアプリダウンロード数は現在1000万を超えており、いまも多くの読者に読まれている。1999年から開催されているジャンプフェスタも盛況を続けているという。あのフジロックが始まったのも1999年からであるし、少年誌の王者たる貫禄は、その地位に胡座をかくこともなく、何事にも先行してタイトル通りジャンプを続けるフロンティア精神に起因しているのだと、大人になって改めて思う。

76年生まれの僕は現在、少年というよりは中年に近い年齢に差し掛かっている。よって、現役で「週刊少年ジャンプ」の連載を追えるほどの瞬発力を持ち合わせてない。折角の機会である。これから3522字ほどのボリュームで、スルーしてしまっていた『ボボボーボ・ボーボボ』『魔人探偵脳噛ネウロ』など気になっていた2000年代以降のジャンプ漫画タイトルを一読し、そして前回から予告していた荒木飛呂彦先生との直接対話について触れることで、全3回にわたる「週刊少年ジャンプ」に関する連載を締めくくりたい。

『ボボボーボ・ボーボボ』に見え隠れする、大胆な設定とタイムスパンの短いリアリズム

ほぼほぼ20年のブランクを埋めるには、どんなタイトルから読み始めればいいか。まずはそのタイトルから気になっていた『ボボボーボ・ボーボボ』を手に取った。時は西暦300X年、人類を丸坊主にするべく結成した毛狩り隊から、人類の髪の毛の自由と平和を守る為、鼻毛真拳の使い手であるボボボーボ・ボーボボが立ち上がる。ざっくり言うとそんな設定の不条理ギャグバトル漫画である。高校生の頃、開設されたばかりだったイグノーベル賞に『鼻毛グラフから読み解く各国の空気汚染状況について』という論文を出そうと思ったものの、どっちかというと知的な方向へ進んでゆきたい今後の人生を省みて結局応募しなかったナイーブな僕としては、安易に受け止めがたい初期設定である。鼻毛=ボーボーという安易なタイトルも、花粉症でデリケートな鼻腔にまとわりつく。とはいうものの、どのギャグ漫画で笑えるかというのは年代をくっきり分けるリトマス試験紙的なところがある。若い世代にも引き続きウケてゆきたい。初期設定で挫けるわけにはいかない。とりあえず、ページを読み進めた。

読み進めるうちにわかったことがある。作中のリアリティがしっかりしている。

例えば、迫り来る敵に応戦すべく繰り出したボーボボ(ボボボーボ・ボーボボの略称)の鼻毛真拳に万国旗が飾ってある。いろんな国の国旗に紛れてレレレのおじさんのようなフォルムのいたずら書きがヒラヒラと紛れている。これを見て「……ふざけやがって」敵は初めて憤慨する。鼻毛に万国旗を飾るまでは許容範囲なのである。怒っている本人は、股間にアヒルの頭のようなものを装着している。果たしてどっちがふざけているのか。コマを追うごとに、リアリティが交錯する。物語は非常なまでに冷静にページを重ねてゆき、アヒルの頭のようなものにも「お前はただの下ネタだ」という作者サイドの現実を突きつける。凄まじい不条理と人間味。恐るべしボーボボ。そして、この丁寧かつスピーディーに展開するリアリティの叙事詩を、いちギャグ漫画として通過した新世代も末恐ろしい。

『魔人探偵脳噛ネウロ』の周到さと省略、説明無用だからこそ沁みる現代の感情の物語

ボーボボによって更新されたリアリティは、澤井啓夫先生の元アシスタントだった松井優征先生によって、また違った趣向で継承されることになる。その漫画のタイトルは『魔人探偵脳噛ネウロ』で、のちに『暗殺教室』を描くことになる作者によるもの。物語は、謎を食糧とする魔人・脳噛ネウロが、謎を求めて地上を訪れるところから始まる。

一方でヒロインである桂木弥子は、父親を亡くしたばかり。とてもじゃないが、既存の少年漫画のテンションで物語を進める気持ちにならない。その点、ネウロは人間界のカタルシスに興味がない。淡々と事件を解決しては、謎を貪り食う。人間界で目立つことはできないので、弥子を名探偵に仕立て上げる。本来、物語の見せ場であるはずの謎解きの場面の一切を、省略してしまっている。そこで何を見せるのか。父親の事件を解決したあと、無表情だった弥子は、母親と事件の話をして少しだけ泣く。本能的に謎へ向かうネウロを観察して、謎が解けることによってのみ享受することができる味の存在に気がつく。謎と味覚をつなぐことで、人間味を察知する味蕾(みらい)の存在を明らかにしている。見事な構成である。ボーボボが不条理の中に人間味を隠していたように、ネウロでは謎に内包される甘味を示唆している。そこに、現代ならではのストーリーテリングの醍醐味を感じ取ることができる。

『ジョジョの奇妙な冒険』が2000年代以降に拡張したもの、そして直接対話

『ジョジョ』の2000年代は、第6部の『ストーンオーシャン』から始まる。女性が主人公となる初めてのシリーズ。記憶をディスク化して奪われてしまうと、記憶を無くしてしまう。この設定も、2000年代初頭ならではのリアリティがある。特筆すべきはこのシリーズの宿敵、エンリコ・プッチ神父の能力である。時を操るDIOよりも壮大なテーマとは何か。作者の荒木飛呂彦は重力にたどり着く。時間も距離も速度も、重力を司る者には敵わない。このあと、第7部『スティール・ボール・ラン』で神の存在について扱うことになるのだが、ちょうどこのシリーズの連載が終了する前夜に、荒木飛呂彦先生と初めて会話する機会を得た。

時は2011年、AR三兄弟がはじめてNHKで冠番組を持つというタイミング。誰と会いたいか?とプロデューサーO氏に聞かれて、真っ先に挙げたのが荒木飛呂彦先生のお名前だった。まだ駆け出しの時期、まさか会えるとは思っていない。ダメ元だったにも関わらず、意外にもあっさりとお会いできることになった。夢のようだった。ジョジョの奇妙な物語はなぜおもしろいのか、どこに影響を受けて拡張現実を扱うようになったのか、スタンドを僕が拡張したらどうなるのか、など。具体的な企画書とAR三兄弟の持ちネタを携えて、荒木飛呂彦先生の事務所にお邪魔した。

影響を受けた人物から「つまらない」と言われてまで表現を続けられるほど、僕はタフではない。一世一代のプレゼンテーションだった。当時のネタといえば、鳩のマーカーから鳩が飛び出してきたり、可視化されたやまびこが時間差で返ってきたり。今から考えると初歩的な拡張現実に過ぎなかったが、荒木先生は「おもしろい!」と、興味を持ってくれた。

にこやかに始まった対談、僕がネタを見せるたびに荒木先生は少しずつ真顔になっていった。そして堰を切ったようにこう言った。「あのさ、僕たちミステリー作家というのは、時代ごとに生まれる制約から物語を考えるわけ。これだけいろんなことができてしまうと、困るよ。明らかに営業妨害だ」

無粋なこと、言っちゃったかな……。真顔から一変、険しい表情になった。現場に緊張が走る。それも束の間、「そうか。電話のトリックが携帯電話になって新しくなったように、拡張現実を使ったトリックを編み出せばいいのか!」

すぐに天使のようないつもの表情に戻った。対談は1時間30分ほどで終了。荒木先生は最後に「つまらなかったら、すぐつまらないって伝えて早々に対談を切り上げようと思っていた」と、岸辺露伴のような意地悪な表情で伝えてくれた。終始、本音で付き合って頂いたのだと思う。本音で、僕が考えたネタを、これから開発しようと思っている拡張現実を、おもしろいと言ってくれた。かつて「週刊少年ジャンプ」を読んで勇気をもらったように、活動の根拠となる自信を手にすることができた。この対談のあと、新シリーズとして始まった第8部『ジョジョリオン』では、拡張現実的な演出が随所に見られる。その中には、あのときに話してくれた新しいトリックも含まれている。読者冥利に尽きる。僕は拡張現実という名のスタンドで、作者に存在と感謝を伝えることができたのだった。

少年に夢を与え続ける雑誌であれ

人生で一度だけ、懸賞というものに応募したことがある。「週刊少年ジャンプ」の人気コーナー、ファミコン神拳でドラゴンクエストⅣをプレゼントしてくれるというもの。ちょうど、中学校で誰とも話さないという戦術をとっていた時期。透明人間になったかのような、実態のない毎日。川田十夢という親が授けてくれた名前に完全に負けていた。円形脱毛症に陥るほど精神的に参っていたこの時期、懸賞に当たって発売日前のドラクエⅣが家に届いた。これは大きかった。人生に確率変動が起きた。当たり前のことだが、ハガキを出さなければ当選はしない。そこに名前が書いてなかったり、宛先を間違えたりしてしまったら、当たるものも当たらない。そんな基本的なことを、「週刊少年ジャンプ」はとっくに教えてくれていたのに、すっかり忘れていた。この連載を期に思い出すことができた。

読者アンケートは、作者と同時に読者にも緊張感を与える。影響は世代を越えて、虚と実を往来する。「週刊少年ジャンプ」には、どうか熱狂的な読者を生み出し続けて欲しい。奇妙な味の存在を明らかにして、リアリティを更新し続けて欲しい。まだ存在が明らかになっていない新しい個性を、肯定し続けて欲しい。そして、熱狂の向こう側でいつか作者と直接対話できるような夢の余白を残しておいて欲しい。そろそろ初老に差し掛かる、かつての少年読者からのお願いィィィィー。

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創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.3 -2000年代、進化する最強雑誌の現在-
「週刊少年ジャンプ」の創刊から現在までの歴史を振り返る展覧会を3回にわけて開催。VOL.3では、『ONE PIECE』『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』『DEATH NOTE』『バクマン。』『HUNTER×HUNTER』『黒子のバスケ』『ハイキュー!!』『斉木楠雄のΨ難』などが登場。時代を代表する名作の貴重な原画の数々と会場限定の映像シアターは必見です 期間 〜9月30日(日) 会場 森アーツセンターギャラリー 時間 10:00~20:00(※最終入館は30分前まで) 料金 一般/学生 ¥2,000、高校生/中学生 ¥1,500、4歳~小学生800円

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川田十夢|Tom Kawada
1976年生まれの開発者。公私ともに長男。2009年からAR三兄弟として独立。荒木飛呂彦先生と2度共演。WIREDとTVBros.で連載を持っていた時期もあったが、どちらもいったん終了。どちらもやがて復活。9月29日30日に開催されるINNOVATON WORLD FESTAでは、同じ76世代のゴッチ率いるアジアン・カンフー・ジェネレーションを拡張。好きな超人はブロッケンジュニア、好きなスタンドはムーディー・ブルース、好きな軍人はルドル・フォン・シュトロハイム。