KOTORI KAWASHIMA

人気写真家・川島小鳥の魅力を“多面的”に感じられる、貴重な機会!

私家版写真集『道』を発表したばかりの人気写真家・川島小鳥の写真展が、現在、都内3カ所で同時開催中だ。会場ごとに展示テーマが異なる今回の試みは、ひとりの写真家の作家性を多面的に感じる意味でも、会場を移動して見るという身体性の側面でも、興味深い「写真体験」になることだろう。あっという間に終わってしまう東京ならではの写真展、ぜひお見逃しなく!

TEXT BY TOMONARI COTANI

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木村伊兵衛、土門拳、森山大道、荒木経惟、篠山紀信、HIROMIX、ホンマタカシ……。1930年代以降、日本のカルチャーシーンは、時代のアスペクトを特徴的に切り取る優れた写真家を、継続的に輩出してきた。2010年代に入り、その系譜に名を連ねた幾人かの写真家の中でも、頭ひとつ抜け出しているのが川島小鳥だろう。

そんな川島に以前、写真をはじめたきっかけを尋ねたことがある。彼の答えはこうだった。

「実は、映画を撮る練習だと思ってカメラを手にしたのが最初なんです。大学に入ったら映画を作ろうと考えていて、とりあえずファインダーをのぞいてシャッターを切る、ということならひとりでもできるなと思って(笑)、高校時代に写真を撮り始めました。

学校はエスカレーター式だったので、高校3年生の時に、大学の映画サークルを見学しにいったんです。でも、すごく上下関係が厳しそうな、体育会的な雰囲気だったので……。あと、一回友だちと8ミリで映画を撮ってみようということになったのですが、全然上手く行かなかったんです。人との共同作業というか、いろいろなことを伝えたり共有することができなくて。

なんのスキルもなかったこともありますが、すごく挫折したのと同時に、『あっ、もしかしてぼくって、ストーリーには興味がないんだ』っていうことに気がついたんです。映像そのものが好きなんだって。そんなこともあり、自分にはひとりで撮れる写真の方が向いているなっていう結論にいたったんです」

学生時代から4年間にわたって一人の女性を撮り続けた処女作『BABY BABY』、川島の名を一躍世間に知らしめることとなった『未来ちゃん』、3年間に30回ほど台湾へ赴いた記録である『明星』。ある意味エスノグラフィー的とも言える手法で、一定期間被写体やテーマと深く向き合い、シャッターを切っていく川島のスタイルや作家性は、高校時代にアタマをもたげはじめた「映像への渇望」を、さまざまに変奏していくことによって培われていったのかもしれない。

そんな川島の最新作である『道』は、俳優・太賀の日々変化してゆく表情を、約1年間にわたって写し撮った私家版写真集だ。本書の刊行に合わせ、現在、都内3会場で、それぞれ異なるテーマでの写真展が開催されている。

写真家も被写体も変わらないが、テーマや展示作品や展示空間、もっと言えば会場の場所や周辺の環境などが異なることで、「作品体験」がどう変わっていくのか。そんな、できるようでなかなかできない体験をするには、またとない機会となることだろう。ちなみに、会場のひとつであるSTUDIO STAFF ONLYの窓の外には、まだほとんど更地状態の国立競技場建設予定地が広がっている。写真、都市、時代……。さまざまなコンテクストを、自分なりに幾重にも重ねて楽しんでみるのもいいかもしれない。

3つの会場のうちのひとつ、STUDIO STAFF ONLYの展示風景。

「オレンジ」
会期 7月4〜17日 会場 UTRECHT(渋谷区神宮前5-36-6 ケーリーマンション2C) 時間 12:00〜20::00 ※月休(月曜日が祝日の場合は翌日休)

「ふたつの夏」
会期 7月6〜30日 会場 void(杉並区阿佐谷北1-28-8 芙蓉コーポ102) 時間 12:00〜21:00 ※月火休

「東京の夜」
会期 7月7〜30日 会場 STUDIO STAFF ONLY(渋谷区神宮前2-3-1 長崎ビル4F) 時間 15:00〜19:00 ※月-木休

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川島小鳥 | Kotori Kawashima
東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業。沼田元氣に師事。2006年に『BABY BABY』で第10回新風舎・平間至写真賞大賞を受賞。10年に出版された『未来ちゃん』は、9万部を超えるヒットを記録、第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞。15年の『明星』にて第40回木村伊兵衛賞受賞。最新作である私家版写真集『道』(写真)は各展示会場にて発売中。