THE RICE CROP IN THE CITY

都心の屋上を利用した稲作体験。森ビルが取り組む“街育”とは?

さる9月24日、六本木ヒルズ屋上庭園で稲刈りイベントが開催。14回目となる今年は約130名が参加し、実りの秋を謳歌した。東京都心に立つランドマークの屋上で、長年続くユニークな試み。そこには、都市における緑の創出・保全に対する取り組みがあった。

TEXT BY AI SAKAMOTO
PHOTO BY NORIO KIDERA

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今年は青森県産米「青天の霹靂」を栽培

階段を上がって屋上へと足を踏み入れた瞬間、辺りに漂う湿った土と稲の香り。賑やかな声がする方では、子どもたちが水辺に住むカエルを捕まえて遊んでいる——。

ここは、映画館〈TOHOシネマズ〉などが入る、六本木ヒルズけやき坂コンプレックスの屋上庭園。「都心のど真ん中で、日本の農の風景を再現しよう」との思いから、地上約45m、7階建てビルの屋上に水田や畑、ビオトープを設け、さまざまなコミュニティ活動を行っている。

その一つが、今年14回目を迎える稲刈り体験。春の田植え、そして新年1月に行う餅つきと合わせて、同ヒルズ開業以来の恒例行事となっている。9月24日に行われたイベントには、六本木ヒルズに在住・在勤、もしくは近隣に住む家族の中から抽選で130名が参加。通常非公開の屋上庭園で、都心の稲刈りを体験した。

今年栽培されたのは、青森県オリジナル品種のうるち米「青天の霹靂」。同ヒルズでは2006年以来、地方文化を発信する目的から、福井県、熊本県といった各地方とコラボレーションし、毎年異なる地域の米を育てている。イベント当日には、青森県庁に設置された仮想の部署〈青森県庁ごはん部〉のメンバーと青森県産品PRキャラクターの「決め手くん」が登場し、「青天の霹靂」と青森県の魅力を訴求した。

5月の田植えから約120日。猛暑や長雨を乗り越えて、稲が立派に実っている。栽培担当者によると、天候不順よりもスズメによる食害に頭を悩ませたという。これも都心の稲作ならでは?

5月の田植えから約120日。猛暑や長雨を乗り越えて、稲が立派に実っている。栽培担当者によると、天候不順よりもスズメによる食害に頭を悩ませたという。これも都心の稲作ならでは?

栽培体験が食育につながる

長雨続きで水田のぬかるみがひどいため、あいにく田んぼに入っての稲刈りはできなかったが、スタッフが手際よく刈り取っていく様子を間近に眺めて「ああやって刈り取るんだぁ」「すごい! 早い!」と、大人も子どもも大喜び。スタッフに教わりながら刈り取られたばかりの稲を束ね、稲架(はざ)にかける頃には、すっかり満足した表情を見せていた。

春の田植え体験に続けて当選し、稲の生育を実感できたという、4歳の男の子をもつ両親に話を聞くと、「息子は、田植えの時はぬかるみの感覚に慣れずにすぐ田んぼを出てしまったのですが(笑)、今回は稲刈りを楽しんだよう。お米ができるところを直に見ることで、米粒も残さず食べるようになりました。食育という意味でも、いい機会だと思います」と話してくれた。

その横では、青森県からふるまわれたおにぎりを「美味しい」と何度も言いながら、頬張る男の子の姿。また、フィリピン出身の両親とともに訪れた小学生の女の子は「稲穂を触るのは初めてだったけど、肌がかゆくてなって驚いた」と笑う。

身近な自然を通して環境教育

近年、官民問わずさまざまな団体が積極的に取り組む都市緑化。ヒートアイランド現象緩和などの環境改善機能や防災機能の向上、美しい景観形成、レクリエーションの場の提供など、その効果に対する期待は高く、東京都では、1000㎡以上の建築を新築・増改築する場合は、敷地や建物上に一定の基準以上の緑化を義務づけているほどだ。

六本木ヒルズでも、広大な敷地のエリアごとに特色ある緑地づくりを実施。それらを活用した環境体験型プログラム“街育”を開催することで、都市における緑の大切さや、生き物との共存の仕方などについて考えるきっかけを与えている。未来を担う子どもたちへの環境教育。身近な自然を感じることが、その第一歩なのかもしれない。