Le GRAND CLOSET de PARIGOT
クリエーターの美意識を詰め込んだ〈ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ〉——空間デザインに込められたそれぞれの想い|その1
麻布台ヒルズに出店するにあたり、どの店も、その空間デザインに並々ならぬ工夫と知恵と希望を注ぎ込んでいます。そんな中から、ブランドのコンセプトを見事にインテリアに落とし込んだショップを紹介していきます。
TEXT BY YOSHINAO YAMADA
PHOTO BY KOZO TAKAYAMA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Geoff McFetridge
映画やドラマに登場する部屋のように広々としたクローゼット。その存在に憧れたことがある人も少なくないだろう。広島・尾道を拠点にもつセレクトショップ〈パリゴ〉が麻布台ヒルズ タワープラザ 2階に構える〈ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ〉は、まさにその夢を形にした空間だ。
デザインコンセプトは「世界で一番大きなウォークイン クローゼット」
足を踏み入れただけでわくわくするショップのコンセプトは「エイジレスにファッションを愉しむパワークローゼット」だという。洋服好きの膨大なコレクションを詰め込んだような空間のデザインはWonderwall®️の片山正通さんによるもの。〈ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ〉を運営する〈アクセ〉の代表取締役社長、髙垣孝久さんは、メゾンから新進気鋭のブランドまでを幅広く揃えるラインアップは魅力であるとともに伝え方が課題でもあったとも振り返る。悩むなかで片山さんに依頼し、「世界で一番大きなウォークイン クローゼット」をデザインコンセプトとする魅力的な空間の提案を受けたという。
黒くツヤのあるフレームに象られたエントランスは、パリの街並みにある老舗を思わせる佇まい。ハウスマークも照明を仕込まず、さりげなく空間に馴染ませる。回転式のガラス扉が開かれたエントランスからシンメトリーな美しい空間が広がり、その内部に洋服はもちろん、靴、バッグ、アクセサリーを無数にちりばめる。エントランスの両サイドにリストアップされた他は店内にブランド名を打ち出さず、さりげなくハイエンドの洋服が並ぶ風景は服好きの心を刺激する。
「居心地の良さとともに美意識の高さも感じていただける空間になったと感じています。私たち〈アクセ〉は来年で創業100周年を迎えますが、これからはより普遍的な美しさを形にしていきたい。何十年経っても変わらぬ良さをもつ店が作れたのではないでしょうか」
コンセプトとともに〈ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ〉の名も片山さんとロゴデザインを担当した徳尾隆昌さんが考案したものだという。片山さんが活躍を始めた当初からそのデザインがすごく好きだったことから、今回はなんとしても実現したいとの思いがあったと髙垣さんは振り返る。
インテリアデザイナー、片山正通さんの美意識が随所に
クローゼットのモールディングから中央の照明まで、ソファや試着室の家具を除いてすべてがオリジナル。ガラスとアクリルを組み合わせたトランク型シェルフを店内中央に二つ置き、ここにも商品が並ぶ。壁面には可動式ミラーを設置し、スタイリングを確認したいときはその場までスタッフが鏡を移動する。バンブーシルクの絨毯は密度が高く、靴で歩いていてもしっかりと毛並みが立ち上がっている。
正面右手にはもう一つの小さなクローゼットが。これはビルの避難用経路を確保するために欠かせない空間で、その両端と突き当たりの壁に鍵付きのガラス壁を設けてディスプレイを行う。メインの空間はブランドをあえて混在させるのに対し、こちらはテーマを明確にできるためにブランドを絞るなどの展開を行う。
「初期段階から完全な模型ができており、それは完成した店と遜色がありません。とはいえ実際の空間はもちろん模型をさらに上回るもの。照明や音響などの要素も実際の空間に入って、その効果に驚きました。クローゼットの細かな棚まで実に美しく光が回っています」
髙垣さんは意識しにくい部分も含めて細やかにデザインされた空間に感動したと振り返る。音楽プロデュースは松浦俊夫さん、音響システムの選定とチューニングはレコーディングエンジニアのzAkさんが手掛けている。設備にもこだわり、スピーカーや空調はどこにあるのかわからないよう丁寧に収められている。音楽は昼夜に合わせて全9時間の楽曲が選曲され、2カ月ごとに変わる。店内にいると心地よく音と触れることができる。店内でどの商品を見てもすべてにきれいな光があたり、商品を手に取る自分の影も商品に映らずにストレスなく買い物を楽しめる。「それは感性の高い人々に語りかける場だから。その積み重ねで通い続けたくなる店を目指しています」と髙垣さん。
「細かいところまでこだわった店です。だからこそ私たちも一点一点丁寧に接客を重ね、素敵なゲストをより素敵にして差し上げられるような店にしたい。それが店づくりのスタートラインから掲げ続けている思い。東京にはさまざまなものがありますが、やはりここでまだ見ぬ自分を発見できるような期待値を超える価値の提供を心がけていきたいですね」
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