何かを想う時、わたしたちの頭の中には、その“何か”に紐づいた存在や匂い、音、情景、触り心地などの記憶が立ち現れます。それは、おなじ瞬間におなじ空間にいたとしても、ひとりひとりそれぞれに異なっています。
それでは実際、わたしは、日々の体験をどの感覚で受け取り、どんな風に感じているのでしょうか。この人は、あの人は、どんな世界を見ているのでしょう?
ここでは、さまざまな方と一緒に世界の見え方を探求し、自分以外の世界を感じられる場をつくりたいと思います。子どもがおままごとの中で、もうひとつの世界を立ち上げていくような気軽さと夢中さで、誰かの意識に飛び込んで遊ぶ、今まで知らなかった色彩をみつける、相手を重さで感じてみる——。
頭も身体もやわらかく、いつもとべつの方法で世界と交わる、ここ「感覚の遊び場」で、一緒に遊んでみませんか。
PLANNING BY NATSUMI WADA
TEXT BY KON ITO
MAKING BY YUYUYU CULB
ファンタジーと聞いて、あなたは何を想像しますか? 小説や映画? 魔法やユニコーン? 例えば幼い頃、多くの人が夢中になったごっこ遊びもファンタジーだと思いませんか。戦いごっこの中で誰かが剣を抜けば、みんなも剣を抜き始める。それまで“腰に剣を据えている設定”だなんて誰も知らなかったはずなのに、突然生まれた剣はすぐさま世界に溶け込み、なくてはならないものへ。そうしてどんどん次の技や防御のレパートリーが生まれていく…。
ファンタジー、そう、非現実世界。そこは想像の限り自由な世界。緻密に計画して作り上げる壮大な物語もあれば、ごっこ遊びのように誰かと一緒にその場で作り上げていく世界もある。ファンタジーってきっと大人にとっても楽しい遊び場になると思うのだけど、一体どうやって遊べばいいのでしょう?
「やさしくあそぶともだちによる実験研究室」として活動するゆゆゆ倶楽部は、それぞれの分野で活躍するクリエイターの集まりです。アートディレクターの鈴木友唯さんの声かけをきっかけに今年1月から活動を開始しました。
「部活ですらなくて同好会。もしくは図画工作。仕事はクライアントありきだけど、ここでは『かわいいの作ろう』が全て。現場でどんどん意見を言って、その場で変化しながら作っていく。大人になると図画工作できる場所ってないから」(ゆゆゆ倶楽部Model 山田由梨)
ゆゆゆ倶楽部が作る「かわいい」世界。それは彼女たちの個人的な趣味嗜好と重なってはいるけれど、そのどれともちょっと違うようです。誰かのアイデアに飛び込んで、その中で遊んでいるうちに“世界が強く”なっていく。連載「感覚の遊び場」ファンタジー編第2回は、ゆゆゆ倶楽部の制作を追いかけ、ファンタジーの中で遊ぶヒントを探しました。
「(ゆゆゆを始めた理由について)日々の刺激が足りないというか。仕事ではかわいさだけでなく見やすさとかも意識しなくちゃいけない。そういうことを考えずに『かわいい!』だけで作品を作りたかった」——Art Direction 鈴木友唯
「ゆゆゆの作品を作る上で『かわいいし、きもい』というのがみんなの共通項にあるから、そのバランスは取ろうとしている。かわいいのにちょっと気持ち悪いとその違和感が際立つのかな。そこに生まれる気持ちよさを考えているかも。きもいけど気持ちいい、心地いいけどきもいもの」——Music,Styling 金光佑実
「ゆいちゃんが作るセットの不思議配置は、『なんでこれの隣にこれがあるの?』みたいな裏切りの気持ちよさがあって好き」——Model 山田由梨
(ファンタジーを作ることは憧れに近づくことでもある?という質問に対して)「ファンタジーと憧れは違うと思う。ファンタジーは憧れほど理想のものではない」——Model 山田由梨
「自分の中にぼんやりとゆゆゆのみんなの『好き』の像があって、その『好き』が集まっていく感覚。ロマンっていうほどカッコよくない、趣味嗜好。(ゆゆゆの)『好き』を当てにいっている。当たるとうれしい」——Art Direction 鈴木友唯
「みんなそれぞれやりたいように過ごすのが理想。心地よくアイディアを出し合ってそれが自然に融合する感じがいい」——Model 山田由梨
「ゆゆゆの作品はほんとに感覚で作ってる。撮影中「こうかな?」と思っていても実際に映像をもらうと「こっちじゃないわ、こっちか」って、そういう感覚がすっと出てくる」——Music,Styling 金光佑実
「動きの参考になるものを金光に渡して音楽を作ってもらって、そこに絵を当てはめていく。組む(=映像を組む)のがやりにくそうだな、とか難しそうだなと思っていても、金光から音楽がきた瞬間、『ああ、こうしよう』って。相互作用でできていく」——Art Direction 鈴木友唯
「映像と音楽が重なってあがってきたとき一番うっとりする。想像できそうでできない音楽があがってくるからおもしろい」——Cinematographer 斎藤美帆
「受け手と伝え手の間にファンタジーが成立するためには共有意識がいる。共有しようという意志が必要だし、伝え手は受け手の感覚を想像する」——Model 山田由梨
「自分が出演しているときに、演技に没頭できる瞬間はすごく稀。もっと職人的になっている気がする。角度とか、声の低さ、高さ、求めているトーンとか。そこに寄せていくのは、気持ちじゃなくて技術という部分が大きい。いろんなセクションのそういう『技術』や『計算』が積み重なって『ファンタジー』が生み出されているのはおもしろいなと思う」——Model 山田由梨
「1回目の撮影の時は、作りたい絵を完全に決めてたけど、制作を重ねてみんなの質感がわかってきてからはすごい仲良くなったし、制作の自由度が高くなっている。より“頭を使わない”と思った」——Art Direction 鈴木友唯
「相乗効果が生まれるのっていい仕事だなと思う」——Hair, Make くれあきえ
「ゆゆゆの制作にはどうなるかわからなさがあって。ゆりちゃんの表情とか照明によって思ってもみないようなものが生まれたときに『あ、こんなふうになった…うっとり…』って、脳汁が出ている気がする」——Art Direction 鈴木友唯
「スナップは一瞬。シャッターを押して、撮れたという感覚があるとうっとりする。スタジオでは、ライトを組み立てて、ゆりちゃんが入って、みんなで「いいね!」っていう形が生まれたときうっとりする」 ——Cinematographer 斎藤美帆
「何度でもやり直せるところがメイクの良さだと思っている。何も考えずにやっては直し、やっては直すというような感覚でできていくことが多い。顔のパーツに合わせて、決めてからやるというより、実験しながら」——Hair, Make くれあきえ
「作っている最中は普段よりもテンションが高い気がします。元気になる。シャキッとするというか。いろいろなパターンがあるけど、一緒に作る人との人間関係はすごく大きい。チームの雰囲気がいいとあがりもよくなる感覚がある」——Hair, Make くれあきえ
「ゆゆゆは誰かのためにお金をもらってやる『仕事』ではなくて、それぞれのためにやるからいいんだと思う」——Model 山田由梨
「『遊び』が生まれるのは安心感があるとき。それがあるから、脳みそであれこれ考えている時には届かない感覚にいけている気がする」——Music,Styling 金光佑実
「園庭でいつも一人で遊ぶ私を心配して「友達ができないんじゃないか」って母親が先生に相談したら、『あの子はそういう子なんです。それでいい、一人遊びが得意なんです』とか言われてた」——Music,Styling 金光佑実
「小さい頃、目を閉じるとふぁんふぁんと光が見えて、それをずっと見て楽しんでいた。同じ形がないし、変化していくから、ずーっと目を閉じて。『青が見れたらラッキー』『何かの形に見えたらラッキー』って思ってた」——Cinematographer 斎藤美帆
「小さい頃は、よく女の子の絵を描いて塗り絵をしたり、一円玉を並べて絵を作ったりしてた。作るのが好きで、できあがるものにはこだわりはなかったと思う。お母さんの化粧品を使って、自分の顔やお母さん、おばあちゃんの顔を塗ったり。化粧品を触っている、素材を使っている、ものに触っていることが楽しい。その過程をすごい楽しんでいたような気がする」——Hair, Make くれあきえ
「ファンタジーって既存にないもの、非現実、空想とかそういうものだと思うんですけど、わたしにとってメイクそのものがファンタジーな気がする」——Hair, Make くれあきえ
編集後記
きらきらと笑いの絶えない現場でした。モデルの髪型について、誰かが「下ろすとセレブ娘、アップにすると宇宙人」と感想を言えば、「宇宙人いいじゃん」「銀とか使って、スペイシーな感じは?」「スペイシー」「そしたらピアスないほうがいいね」なんて具合に他のメンバーからも意見が出てきて、どんどん設定が決まっていく。イメージとスキルを総動員して立ち上げた世界は次第に丈夫なものとなり、それゆえにまたイメージが溢れ出す。昼食のハンバーガーを食べているときでさえ、あれしよう、これしよう、かわいい! と楽しそうに話し合っている姿がとても印象的でした。
みんなで集まって遊ぶことができる公園のような場としてのファンタジー。ゆゆゆ倶楽部のようにメンバーがそれぞれスキルを持っていなくても、そこで遊ぶこと自体は誰にでも開かれています。すでにある”ここ”ではない世界が心に与える喜びや潤いについて思いを馳せつつ、わたしだったら誰とどんなファンタジーで遊ぶかを考えて、一人わくわくしてしまいました。
Playing Game 3-2
「ファンタジーの中で遊ぼう」
人と人の間に生まれていくファンタジー。さて、今度はあなたが身近な人とファンタジーで遊んでみませんか。たとえば、一文ずつ交互に物語を書いてみるのもよし。一筆ずつ回しながら一つの絵を描くもよし。言葉と絵を組み合わせて、まだどこにもいないキャラクターや設定を作って遊ぶのも楽しそう。想像力の限り強く濃くなっていくその世界は、わたしとあなたの最高の遊び場になってくれるでしょう。
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