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連載感覚の遊び場

Sensory Playground: Game 2-2

Wear Your Imagination

イメージを着る——モデル・イシヅカユウ氏 フォト&インタビュー

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何かを想う時、わたしたちの頭の中には、その“何か”に紐づいた存在や匂い、音、情景、触り心地などの記憶が立ち現れます。それは、おなじ瞬間におなじ空間にいたとしても、ひとりひとりそれぞれに異なっています。

それでは実際、わたしは、日々の体験をどの感覚で受け取り、どんな風に感じているのでしょうか。この人は、あの人は、どんな世界を見ているのでしょう?

ここでは、さまざまな方と一緒に世界の見え方を探求し、自分以外の世界を感じられる場をつくりたいと思います。子どもがおままごとの中で、もうひとつの世界を立ち上げていくような気軽さと夢中さで、誰かの意識に飛び込んで遊ぶ、今まで知らなかった色彩をみつける、相手を重さで感じてみる——。

頭も身体もやわらかく、いつもとべつの方法で世界と交わる、ここ「感覚の遊び場」で、一緒に遊んでみませんか。

PLANNING BY NATSUMI WADA
Image Direction by Narumi Okamura
Hair & Make by Moe
Photo by Yui Sakai
TEXT BY KON ITO
GRAPHIC BY MOMOKO NEGISHI

あの服を着たい、この部屋に住みたい、ああなりたい、こうなりたい……。あなたがなりたい姿を夢見るとき、頭のなかにはどんなあなたが浮かんでいるのでしょうか。もっと美しく? もっと強く? もっと優雅に? それとも、もっと自然体? むしろ人間ではない存在? 現実よりすこし自由なイメージの世界のあなたは、どんなふうに過ごしていますか? そしてそれは、現実のあなたの選択や行動にどんなふうに関わっていますか?

ファッションモデルのイシヅカユウさんは、モデルを「着る人」と表現します。それは服だけでなく、その服やブランド、撮影のテーマに込められたイメージやフィロソフィーを着るということ。形のないイメージを具体化し、自分の身体で「着る」とは、一体どんなことなのでしょうか。

連載「感覚の遊び場」イメージ編、第2回は、イシヅカさんが自身のなりたいイメージを着てゆく様子を追いかけます。今回、イシヅカさんには、イシヅカさんが幼い頃から焦がれる魚「キイロハギ」など、4種類の海洋生物(キイロハギ、リュウグウノツカイ、スケーリーフット、カツオノエボシ)のイメージをまとってもらいました。イメージの着方やイメージの力についてお訊きしたインタビューと合わせて、お楽しみください。

イシヅカユウ|Yu Ishizuka
ファッションモデル。ファッションショー、スチール、ムービーなど、さまざまな分野で個性的な顔立ちと身のこなしを武器に活動中。また、体が男性として生れながら女性のアイデンティティを持っているMtFでもあることから、最近ではテレビやラジオなどで意見や体験を発信するなど、活躍の場を広げている。

 

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1/2リュウグウノツカイ
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2/2リュウグウノツカイ
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1/2スケーリーフット
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2/2スケーリーフット
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1/2キイロハギ
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2/2キイロハギ
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1/2カツオノエボシ
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2/2カツオノエボシ

イメージに「気持ち」から入っていく

——なりたいイメージをお訊きしたとき、「魚になりたい」と答えてくれましたね。

なりたいものがありすぎて、すごく迷ったんです。でもやっぱり、ひとつの最終目標として、海洋生物になりたいという気持ちがあって。わたし、幼い頃から魚が好きで、魚になりたかったんです。覚えている限りの最初の記憶も魚の絵を描いているところで。あるとき、80年代のファッションショーの映像を見ていたら、グレイス・ジョーンズさんやパット・クリーブランドなど背の高いモデルさんの間を縫うように、山口小夜子さんがひらひらと歩いてきて、目を奪われました。魚がサンゴの間を行ったり来たりする自由さ、美しさと重なる部分があったんですよね。わたしにとって魚になることに一番近いのが、モデルだったんです。

 

——どんなふうに憧れの海洋生物たちのイメージを着ていったのでしょうか。

最初は「気持ち」から入るタイプです。例えば、スケーリーフットは、他の生き物が生きられないようなところ(※)に、鎧のような格好をして生息しています。過酷な環境から自身を守るための硬さを持っている。こういう硬さになるのはどんな気持ちのときだろう、と自分に置き換えて考えてみると、「怯える」が近いように感じられて、その気持ちを増幅させていきました。

※熱水噴出孔(注:地球の内部で熱せられた水が海底からわき出ている場所)に生息。

——気持ちを増幅させるってどんな感じですか? 連想ゲームのようにぶわーっと広げていくような?

血のように、全身に巡らす感じ。血が酸素を運ぶような感覚と同じです。自分の気持ちをそうやって対象に寄り添えていくと、動きは自然と伴ってくるので、その感じを大事にしています。

 

リュウグウノツカイは、大きくて神秘的なイメージがあったのですが、今回の衣装がすごく重くて。着たときの身体のままならなさに、「リュウグウノツカイも、このくらい身体が重いんじゃないか」という気づきがあったんです。リュウグウノツカイが浜辺に打ち上げられたときも、こんな感覚なんじゃないかなって。衣装がいい意味で想定外で、重さの実感が表現につながりました。

 

キイロハギは、サンゴの間を軽やかに、ひらひらと泳いでいくような明るいイメージがあります。もともと海に入るのが好きなのですが、その楽しい気持ちが増幅されたような感覚がありました。

——打ち合わせのとき、なんとなくキイロハギは5歳くらいの少女のイメージを持っていたのですが、撮影を見ていたら、個人的に16、17歳ぐらいの少女が見えてきて、不思議な気持ちになりました。

あ、わかります。コケティッシュな部分もあった。捕まりそうで捕まらないようなイメージを持っていたので、ちょっとこましゃくれた娘の感じもあったかもしれないですね。

 

最後のカツオノエボシはメイクも毒々しくて、ちょっとギャルっぽくなかったですか? あくまでわたしの中のギャル像ですが、ギャルってかわいいものが好きで、でも社会から傷つけられることもあって、自分の毒を持たざるを得ないというようなイメージがある。すごくきれいな見た目なのに猛毒をもっているカツオノエボシと、相通じるような気がしました。カツオノエボシだって、身を守る必要がなければ毒は必要なかったはず。そんなふうに考えて、気持ちを寄り添えていきました。

 

イメージやフィロソフィーを着るということ

——気持ちを寄り添えると、動きが伴ってくるってすごくおもしろいなと思って。イシヅカさんがその感覚を掴んだのはモデルの仕事を始めてからですか?

どうなんだろう。でも、小さい頃からごっこ遊びが好きだったんです。それこそ魚ごっことか。実家が薬局だったんですが、柱や棚をサンゴや海藻の間に見立ててひとりで遊んでいました。釣りも好きだったので、自分が魚になって、父親に釣られてみたり……(笑)。小学校高学年から、中学の頃は、チャーリーズ・エンジェル(※)になりたくて。屋根から屋根へぴょんぴょん飛び移る練習をしていました。

※映画『チャーリーズ・エンジェル』に登場する女性探偵

 

 

——たしかに、幼い頃のごっこ遊びの中では、イメージに合わせた仕草や行動を自然と選ぶことができたような気がします。

なにかになるのはすごく楽しかったですね。

——なにかになる楽しさ、ってどういう感覚でしょう。うれしい感じとか、痺れる感じとか。

うーん、じわじわくるときも、わーっと押し寄せるときもあるんですけれど、普段の自分が持っている感情とはちがう感情になるんですよね。でもその感情になれるという時点で、本当は自分が持ち得る感情でもあると思うんです。実は「あった」というか。自分を拡張していく楽しさがあります。

 

 

——イシヅカさんにとって、モデルは「着る人」という話、とても印象的でした。

ただ服を着るんじゃなくて、そこにあるすべての背景を着ているような気持ちがあります。ブランドや服に込められたイメージ、フィロソフィーや、撮影テーマのイメージを着る。これまでの人生でインプットしたものが自分の引き出しに蓄積されていて、それを引き出して表現に昇華することがモデルの仕事だと思っています。

 

イメージに近づいていくこと

——イメージという形のないものが、最終的に表情やポージングを引き出していくことがすごくおもしろいと思ったのですが、それって職業としてだけでなく、ふつうに生きていてもあるような気がして。もちろんモデルさんみたいに、たくさんのイメージを次々と着替えていくことはできなくても、なりたいイメージをもつことが、自分自身に影響するとか。

あると思います。自分がモデルをしている中で、「誰でもなんでも着られる」と、すごく思うようになりました。昔は自分には似合わないと思っていた服もありましたが、モデルの仕事をしていたら、否が応でも衣装は着ざるを得ないので、自分なりの似合わせ方をしなくてはいけない。似合う・似合わないは、そうやって自分で決めていいと思うんです。もちろん、仕事でなければ自分の好き嫌いで取捨選択できるわけですよね。似合いそうだから着るみたいなことって必要ないと思います。自分が本当に「着たいもの」を突き詰めて考えていれば、なにを着たって、似合う。似合っていくんです。

 

 

——こうなりたい、こうありたいみたいな憧れって、人間が持ちうるイメージの中でも、強い力を持っているように感じます。イシヅカさんはご自身の憧れにどんなふうに向き合っていますか。

わたしにとって、憧れと好きって同じなのですが、今すごく好きなものって、もともと嫌悪感を抱いていたり、怖いって思っていたりするものが多いんです。例えば、都市伝説。昔は怖くて苦手だったんですが、怖いもの見たさで見ているうちに、自分の血肉になった感覚がある。今はすごく好きなんですよ。都市伝説側の気持ちというか、怖がられる側の気持ちに共感できたりする。素直な憧れはもちろん、ちょっと怖いな、やだなという気持ちがあっても、自分から近づいていきます。

 

 

——嫉妬や嫌悪感のあるものに自分から近づいていくって、結構体力のいることではないですか?

無理やり嫌悪感をならそうとすると、逆にこじれちゃったりすると思うんですけど、多分タイミングがあると思います。あるとき、ふと「ちょっと怖いけど、もうちょっと見てみよう」って瞬間が来るんですよ。そのときに、変に気負わず、向き合ってみようとすることが大事なのかなって。風がひょっと入ってきたときに、頑なにならずに受け入れてみる。そうやって好きになって、自分の血肉になったり、引き出しが増えていくのって素敵なことだと思うんです。

 

編集後記

なにかのイメージをまとうとき、あらたな自分に出会うこと。自分とちがうものに近づいていったはずなのに、そこにも自分がいる。自覚している自分はほんの一部で、本当はもっと広範囲に自分の可能性があるのだと思うと、なんだか未来からすこしいい匂いがしてくるようです。
また、なりたいイメージを育て続けることで、イメージは頭の中をとびだして、わたしの血肉にもなりうる。まだ見ぬ“よりいい自分”と出会うために、自分の憧れや気になることと、真剣に、そしてやわらかに向き合っていきたいと思いました。

 

Playing Game 2-2

「イメージの試着」

人生何十年。自分の憧れをゆっくり育てつつ、たまには全く別のイメージに着替えてみるのもいいかも。慈悲深い王様、威勢のいい魚屋さん、クレオパトラ、一休さん、忠犬ハチ公……。この人なら、こんなときどうする? こんなときなんて言う? いつもとちがう口調、表情、仕草がすいすい引き出せたなら、それは“あなたが選ぶこともできるあなた”なのかもしれません。

連載Sensory Playground|感覚の遊び場

世界の捉え方を知り、広げる、感覚の遊び場。人はどんなことを感じ、どう世界を立ち上げているのでしょうか。じぶんのことをより知ったり、じぶん以外の感覚に驚いたり。様々な人へのインタビューや制作を通して、つくりながら、遊びながら、その人の世界に飛び込んでみる連載企画です。

Planning
和田夏実|Natsumi Wada

インタープリター / クリエーティブリサーチャー。1993年生まれ。ろう者の両親のもと、手話を第一言語として育つ。視覚身体言語の研究、様々な身体性の方々との協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。2016年手話通訳士資格取得。

Image Direction
岡村成美|Narumi Okamura

LOUD AIR / Designer。1992年、神奈川県綾瀬市出身。杉野服飾大学卒業。2018年、LOUD AIR(ラウドエアー)設立。

Hair & Make
武本 萌|Moe Takemoto

ヘアメイク。1993年生まれ。バンタンデザイン研究所卒業後、アシスタントを経て現在フリーランスのヘアメイクとして活動。

Photo
酒井優衣|Yui Sakai

フォトグラファー。1996年生まれ。主にポートレートやファッション写真などを中心に活動。

Writing
伊藤紺|Kon Ito

ライター / コピーライター / 歌人。1993年生まれ。2014年よりライター活動、2016年より作家活動を開始。同年独立。2019年歌集『肌に流れる透明な気持ち』を刊行。

Graphic
根岸桃子|Momoko Negishi

グラフィックデザイナー / アートディレクター。1996年生まれ。東京都出身。2018年多摩美術大学卒業。グラフィック、パッケージなどのデザイン、プロジェクトの企画を手掛ける。

NEXTSensory Playground: Game 1-1

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