the SDGs in our life

フードとバラで考える、これからのエシカルな暮らし

新型コロナウィルス感染拡大によって、これまでの私たちの暮らしや、地球環境について考える機会が増えました。そこで、フードから社会課題の解決を探る「imperfect」の浦野正義さんと、ケニアのバラを扱う「アフリカローズ」の萩生田愛さんに、現在の地球環境や経済のことなど、社会が抱える問題に対して日々の暮らしの中からできる事は何かを伺いました。

TEXT BY masumi sasaki
PHOTO BY aya kawachi
EDIT BY MIHO MATSUDA

支援ではなく共存。
自然な循環で社会課題に取り組む

萩生田 「アフリカローズ&フラワーズ」では、アフリカのケニアからバラを輸入し販売しています。先進国からの援助・支援という形ではなく、ビジネスとして対等な関係で雇用機会を作り、一緒に成長していきたいと考えています。アフリカローズと提携しているケニアのバラ農園では、現在約2,000人が働いています。ケニアのバラ農園で働くのは、シングルマザーを中心に女性が8割なんです。ただ、社会の課題解決のためにとか、かわいそうだから助けるのではなく、美しく魅力的なバラによって自分が幸せな気持ちになる、あるいは贈った相手に喜んでもらいたいという思いで、バラを買うことが需要と供給の循環へと繋がっていく。そんな自然な流れでアピールできたらと思っています。

色とりどりに咲き誇る「アフリカローズ」のブーケと、ブラジルの女性たちを支援するimperfectのコーヒー。

浦野 我々がご提供しているブレンドコーヒーの豆は、「カフェデラス(Cafe Delas)」という、ブラジルの女性主体の農園をサポートするプロジェクトを通じて生産されたものなんです。ブラジルの女性は、労働時間が男性に比して長いにもかかわらず収入が低いという不平等な環境におかれています。萩生田さんもおっしゃるように、かわいそうだから助けるのではなく、必要な教育を受ける機会を提供することが、この問題の解決につながると考えています。女性農家たちが学びを通じてアウトプットを向上し、それに見合った対価が得られ、お客様も美味しいコーヒーを楽しめる。結果として、ジェンダー平等の世界の実現にもつながる、という良いうサイクルを生み出したいと思っています。

私たちは、今、この「平等」を含め、「環境」「教育」という3つのプロジェクトに取り組んでいます。お客様が店頭で購入した際に投票チップをお渡しして、店内に掲示していプロジェクトの中から賛同するものを1つ選んで投票いただいております。これはお客様にカジュアルに社会課題に関心を持っていただくために作った仕組みです。2019年7月のオープン時から2020年3月末で第1期の投票を締め切り、約25,000人の方にご投票いただきました。そこで一番票を集めた「カカオの実を守るシェードツリー(日陰樹)の苗木を20,000本送る」というプロジェクトを、コートジボワールで実行する予定です。この木々によってカカオの実の品質が向上することに加え、木自体が成長し森林保全、生態系の維持にもつながっていきます。ここがポイントなのですが、シェードツリーを送ることは単なる支援ではなく、カカオの品質向上と持続性的な生産に寄与していますので、長期的かつ間接的かもしれませんが、お客様にもメリットとして返ってくるはずです。このような活動が、弊社のミッションである、実業を通じて社会課題を解決し、食のよいサイクルを作ることになると考えています。

「imperfect」でもらえる投票チップ。現在、第2期プロジェクトの投票期間中。

企業と連携し、活動の輪と間口を広げる

浦野 先月の6月20日、21日の2日間、明治さんとコラボレーションしたキャンペーンを行いました。我々の活動に賛同いただき、明治さんの商品と我々のコーヒーをセット販売し、その売り上げの全額を、20,000本のシェードツリーの苗木に追加して送る活動に充てるというものです。コロナの影響もあり、そもそも店舗にお客様が来てくださるのかという不安もありましたが、約1,000人のお客様がこの企画にご参加くださいました。このキャンペーンは「消費という投資 私たちにできること」と銘打ち、店頭で「私は、世界や社会がよりよくなるための消費を心掛けます」と宣言したら、特別価格で販売する、という少し面倒なお願いをお客様にさせていただいたのですが、予想を上回るお客様にご購入いただくことが出来ました。皆さまの意識も、少しずつ変わってきたのではないかと実感しています。

萩生田 明治さんのような大手企業が社会課題への取り組みに参加いただくことで、より多くの方々にもアピールできますよね。

浦野 そうですね。実は、明治さんも自然の生態系の維持と農業・林業の両立を目指し、環境に配慮した「アグロフォレストリー農法」で栽培したカカオを使用した「アグロフォレストリーチョコレート」という商品を、約10年間継続して製造・販売されています。明治さんが長年取り組んでこられたこのサステナブルなチョコレートと、我々の女性支援を通して作られたコーヒーをお求めやすいセットとして販売させていただきました。

萩生田 これまで企業は環境を考えた活動をしていても、それがお客様にとっての購買理由にはなりませんでした。でも、アフターコロナの世界においては、十分に価値がありますよね。

浦野 我々も「Do well by doing good. 」という理念のもと、「いいことをして世界と社会をよくしていこう、食のよいサイクルを作っていこう」と考えていますが、大きな企業様ともコラボレーションすることで活動の輪を一層広げていきたいと考えています。

ウェルフード マーケット&カフェ「imperfect」の浦野正義社長。

コロナ禍で行き場を失った
バラを救い、笑顔のステイホームに

萩生田 コロナ禍の影響で、卒業式やイベントが相次いでキャンセルになり、1,000本ぐらいのバラが行き場を失ってしまいました。そんな時、スタッフから、卒業式がキャンセルになってしまった学生さんに一輪ずつプレゼントしたらどうか、という意見が上がり、それをSNSでアナウンスしたらどんどん拡散され、全て卒業生たちに贈ることができました。他にも、「ローズバンク」という企画をクラウドファンディングで立ち上げました。30,000円分のバラを買ったら、10,000円分は自分のもとに、残りの20,000円分は、医療従事者やエッセンシャル・ワーカーの方へ寄付するというもので、約800本分のバラの寄付が集まりました。

「アフリカローズ & フラワーズ」の萩生田愛代表。

また、コロンビアやエクアドルなど南米のバラが数十万本破棄されたというニュースを見て、この期に及んで、ケニア産にこだわっている場合ではないと、破棄されてしまうバラを仕入れ、ステイホーム期間中にバラと一緒に過ごしていただく「STAY HOME WITH ROSES」というキャンペーンを実施しました。そんな中、ケニア便が止まってしまったので、「ワールドローズ」として、南米のバラも仕入れることにしたり。外出自粛によって塞ぎ込んでしまいがちですが、みんなと一緒にプロジェクトを行いながら、エンパワーする期間になりました。

浦野 「アフリカローズ」という名前にこだわりをお持ちだったと思うのですが、そこをスパッと「ワールドローズ」へとシフトする柔軟さは素晴らしいと思いました。バラを通じて生産者もお客様も幸せにするという信念はブレてらっしゃらないですし、その柔軟かつ素早い決断が、その後のケニア便のフライトキャンセルなどのトラブルへの対応を可能にしたのですね。

「消費の選択」は
世界へ繋がるアクションの第一歩

浦野 自宅で過ごす時間が増え、自分の食べるものにより関心を持った方も多いのではないかと思います。自分の消費という選択が誰かに影響を与え、重要な意味を持つということに気付き、「世界とのつながり」について考える機会になったのではないでしょうか。弊社では「Your choice makes the world better」というメッセージを店内に掲げてます。これは「皆様の選択が世界をよくする」という意味ですが、楽しい、美味しいというだけではなく、購入される商品がどのように世界とつながっているかに想いを馳せていただけると嬉しいです。

「imperfect」の店内に掲げられたメッセージ「Your choice makes the world better」。

萩生田 社会貢献というとすごく大きなことのような印象を抱きますが、消費者一人一人が力を持っています。毎日の買い物は投資です。デザインや価格だけでなく、もう少し広い視野で、自分が多少なりとも影響力を持っているという意識で選択することが大事ですよね。今日、着ているワンピースもオーガニックコットンからできていて、ピアスも「Rエシカル」というブランドのフェアトレードのものです。

浦野 「消費」という毎日の選択を少しだけ見直し、お手間かもしれませんが、少しだけ考えていただく。社会的・環境的価値の高い取り組みを通じて生産されている商品を、欲しいと思うお客様が増えれば、そのような取組がより推進され、サステナブルが日常になっていくのではと考えています。

萩生田 まさに、1人の100歩より、100人の1歩ですね。