あなたにとっての「リビング」とは? 世界中のクリエイターに聞くこの連載。今回はパリのギャラリスト、エマニュエル・ペロタン氏のリビングを訪ねました。世界中を飛び回っているため、1年のうち半分しか過ごせないからこその思いが詰まった空間でした。
photo by Mana Kikuta
text by Motoko Tani
edit by Kazumi Yamamoto
ここはギャラリーの一部なのか? そんな錯覚を覚えるほど、コンテンポラリーアートにあふれた空間に暮らすのは、東京・六本木を含め、世界6都市に画廊を持つギャラリストのエマニュエル・ペロタンだ。高さ約5メートルの天井を活かして、パオラ・ピヴィの作品である青い羽根をまとった巨大なホッキョクグマが、地上から中2階に向かって飛び移ろうとしている演出は、世界中から訪れるゲストを驚かす。また、マウリツィオ・カテラン、ヘルナン・バス、Mr.、エルムグリーン&ドラッグセットなど、所属作家の作品が至るところに配されており、「コンテンポラリーアートと住居は、このように調和できる」と手本を見せているかのようだ。特注で設えた木製の書棚の手前のスケルトン階段を上がると、より親密でくつろいだ雰囲気の第2のリビングが広がる。
7年前から住んでいるパリ市内の住まいは、歴史的建造物に指定される17世紀の元貴族の邸宅だ。300㎡に及ぶ邸宅には、パートナーのロレナ・ヴェルガニと子供達とで暮らしている。石造りの重厚な外観とは対照的に、リビングにはウラジミール・ケイガン、ポール・エヴァンスといったアメリカ人デザイナーによるミッドセンチュリーの家具を揃える。「世界の多くのコレクターがフランス家具や現代的な内装にしているので、フランス人である私がパリでアメリカのヴィンテージを置いたら面白いと思ったのです。ただ、最近ヴィンテージ家具を選ぶ顧客も増えてきたので、暫くしたらコンテンポラリーに変えるかもしれない」と常に周りと同一でいたくないと思わせる一面も覗かせた。また、改装時にこだわったのは床。イタリアから職人を呼び寄せ、赤、白、黒の天然大理石をホワイトグレーのセメントで固めて仕上げたテラゾー(人造大理石)は、白い壁と馴染んでモダンな印象を与える。ちなみに、この空間で最も好きな場所は、縦長の大きな窓の前にあるフランク・ロイド・ライトの肘掛け椅子。ここに座ると、リビング全体を一望できるからだそうだ。
自ら中流階級出身というペロタンが幼少時代に過ごしたリビングは、とりわけアートが飾られていた訳ではなく、食事をしたり、テレビを囲んで語る家族団欒の場所だった。「父は顧客から贈られた中国製のランプをとても大事にしていた。今考えると、それほど価値のあるものとは思えないが、私は父が宝物のように大切にしていたランプを壊さないよう気をつけていた」と懐かしそうに回想する。自身が父親となり、様々なアートを飾るようになった今、唯一ルールにしていることは、あまりにも繊細な作品はリビングに置かないこと。例えば、村上隆の作品「MAX & SHIMON」は、子供が無邪気に触れないよう、玄関ホールに展示している。
アートフェアなどで海外出張が多いペロタンが、自宅で過ごせる期間は1年のうち半分もない。あなたにとってリビングとは? という問いには「HUB(ハブ)」という回答が。「ギャラリストとしての活動が如実に現れる空間なので、ゆっくり時間を過ごすというより、家族とともに友人が交わる唯一の場所」。世界中から人が集まり、行き交い、新しいネットワークが生まれる中核でもあるのだろう。
Q: あなたにとってのリビングとは?
あたらしい発想と暮らす東京
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