Q: What does LIVING mean to you?

Q:杉本博司さんにとっての「リビングルーム」とは?—— MY LIVING is #1

ライフスタイルが多様化する中で、私たちの居住スタイルもいま大きく変わろうとしています。そこで今号より「住まい」「生き方」「暮らし」を表す「リビング」をめぐって、各界の著名人にお話を伺うシリーズがスタート。第1回は2005年に森美術館で個展を開催するなど、世界的に活躍する現代美術家の杉本博司さんを訪ねました。

TEXT BY Mari Matsubara
PHOTO BY Yasutomo Yebisu
Edit by Kazumi Yamamoto

そこはいわゆる“居間”や“くつろぎの空間”の概念をはるかに超えていた。14畳に床の間2畳を加えた畳敷きのスペースに、写真では見えないが反対側には屋久杉の余材を乱張りにした板の間が続く大空間。窓際は一段下がって、瓦敷きの露地になっている。ゲストはここで草履を履いて露地に降り、一枚ガラスの引き戸を開けてベランダへと出る。垣根と植栽に縁取られた延べ段や飛び石を進んでつくばいを使う、つまりここは茶室と茶庭を意識した構成にもなっているのだ。築52年のマンションの1室を自身でリノベーションし、外と内の境界が曖昧なこの空間を、杉本は<うちはそと>と名付けた。

「昔から“せめて畳の上で死にたい”と言うじゃないですか。私もそう。だから畳は私の居住空間にとって必要です。でも正座は苦痛だし、現代の生活様式にどうしたら畳を取り入れられるか? そこで、正座した時の目線とさほど変わらないようにローテーブルとスツールの高さを計算し、それに合わせて床の間の位置も少し上へ上げました。戦後に進駐軍が日本家屋を接収し、土足で踏み込んで畳の上にじかにテーブルや椅子を置いたのを連想して、“進駐軍接収スタイル”と私は呼んでいるのですが(笑)」

樹齢1,000年超のカナダ産米ヒバの分厚い一枚板を2枚並べたテーブルは、奥の1枚に炉が仕込まれており、釜をかけて立礼式の茶を楽しめる。テーブルの脚を支えるのは杉本建築の代表的素材の一つである光学ガラス柱だ。

「海外に長くいると、人の家に招かれることが多いのです。すると返礼としてこちらもお招きしなきゃならない。そういうことができる場所であるということが、まず私の住まいに求める第一条件です。畳や床の間、露地のある空間でのもてなしは、外国のゲストには特に喜んでも
らえます。なおかつ自分のアーティストとしての活動の打ち合わせにも対応出来る場所であってほしい。最近は写真から古美術、建築、古典芸能のプロデュース、さらに今秋にはパリ・オペラ座公演の演出を控え、活動分野がどんどん広がっているので、ここでダンスや演奏のリハーサルもしますし、個人的に先生を招いて謡や仕舞のお稽古もします。古美術や建築関係の蔵書はすぐ隣室から取ってこられますしね」

この部屋にはおよそ“まったりと無為にくつろぐ”といった気配が見当たらないが……。

「朝早く6時くらいに目覚めて、この部屋でひとりで考えごとをします。誰にも邪魔されず、頭脳をクリスタルクリアに働かせて仕事の構想を練る。こうした時間を持つことはアーティストとして必須です。昼間はひたすら雑用に追われ、夜は会食が入ったりしますから」

「あなたにとってリビングとは?」との問いかけに対し、返ってきた謎めいた答えは「死んで いない こと」。つまり仕事の打ち合わせも客人のもてなしも、道楽の温習も孤独な黙考も、とにかく生きている時間のすべてが“リビング”なのだというメッセージか。「やりたいことがありすぎて死んでいるヒマがない」との名言を放った杉本の、生を充実させる時間すべてに対応するのがこの空間なのだろう。

「昔の木造家屋は経年変化で味がつき、長く住み継いでいくものでした。その良さをマンションの中で改装しながら求めていきたいのです」 

高層化しハイスペックを極める首都東京の、リビングのひとつの理想形がここにある。

Q: 杉本博司さんにとってのリビングとは?
A:

杉本博司|Hiroshi Sugimoto 1948年東京生まれ。74年よりニューヨークを拠点に写真を媒介とした現代美術家としてスタート。2008年に建築設計事務所〈新素材研究所〉を、09年〈公益財団法人小田原文化財団〉を設立。17年には自身の古美術と石材蒐集、建築の知見を結集させた〈江之浦測候所〉を建設。その他舞台の脚本・演出、造園、執筆と活動は多彩。

あたらしい発想と暮らす東京


www.moriliving.com

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