What does LIVING mean to you?

Q:トニー・チーさんにとっての「リビングルーム」とは?—— MY LIVING is #3

「リビング」と聞いて何を思い浮かべますか?リビングルーム、暮らしの場、憩う空間、思考する場……。それらのほかに「リビング」には“生きている”という意味もあります。世界的に活躍するインテリア・デザイナーのトニー・チーさんにとって「リビング」とはどんな空間なのでしょうか? ニューヨークを拠点に活動しているトニーさんが、台北にある住まいを案内しつつ、「リビング」に求める深い思いを語ってくれました。

photo by Satoshi Nagare
text by Naoko Aono
edit by Kazumi Yamamoto

インテリア・デザイナーのトニー・チーは3年半ほど前、故郷の台北に念願の家を手に入れた。集合住宅の1階にあるその家の外には緑が広がっている。雨音しか聞こえない静けさも高密度都市、台北とは思えない。

「どうしても庭のある家に住みたくて、苦労して探しました。台北の中でも中心の大通りから少し離れているので、とても静かなのも気に入っています。ここは誰にもじゃまされることのない、私のためだけの場所です。親しい人しか呼ばないし、写真を発表したこともありません」

トニー・チーはラグジュアリーホテル「アンダーズ東京」などの空間デザインを手がけている。それらのモダンでアーティスティックな空間を知る人は、この家のつつましやかな佇まいに驚くかもしれない。普段はニューヨークを拠点とする彼にとってここは、「山にハイキングに行ったとき、心からくつろげる場所のようなもの」だともいう。鴨長明が隠棲した方丈を思わせる。ここに彼は、こだわりぬいたものだけを置いている。座っているのはミース・ファン・デル・ローエの椅子。ガラスのテーブルと手前の大きなソファは彼自身のデザインだ。その他に各国で購入したものや、友人のアーティストの作品がしっくりとおさまっている。『陰影礼讃』ではないが、照明は抑えめだ。素材も慎重に選ばれている。

「時に応じて変化する素材が好きなんです。この家の床やドアも最初は明るすぎると思ったけれど、古色がついていい味になってきた。庭にはツタを植えて、白い壁を覆うようにしています。日本ではこういった美が珍重されているように思います。長い年月を経た寺の木の色や、苔むした石にはとくに惹かれますね」

日本の家に招かれるたびに、豊かな時間と空間が層になっていることを実感するそうだ。

「日本のリビングは、あらかじめ決められた目的や機能に縛られることがない。そこでは、座る、食べる、友だちとしゃべる、寝る、瞑想する、と生活のすべての行為が行われます。そんなプライベートな場に招かれるというのは特別なこと。そこからコミュニティの意識が育っていきます」

彼は現在、2021年完成予定の「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」全体の空間デザインを手がけている。台北の家が愛するもので構成されているように、虎ノ門では住む人がそれぞれに心地よい場を作れるような、柔軟なしつらえを心がけているという。

「私は日本で静かな動作や、あらゆるものに敬意を払うことを学びました。『リビング』は人生そのものであり、思いを分かち合う場だと思っています。異なる文化や世代、時代感覚を統合し、価値観をシェアできるニュートラルな空間を目指しているのはそのためです。人はともすれば狭い視野に陥りがちですが、本来はクリエイティブで想像力と柔軟性のある存在です。私のリビングがその手助けになればうれしい」

その背景にあるのはこんな思いだ。

  Having a voice of mission – “ME”
  Having a voice of people – “YOU”
  Having a voice of land – “GOD*”(*Nature)

 “mission”(使命)とは彼自身の声、“people”(人)は人々、“land”(土地)は神の声だ。聞くことのできない声をすくいあげ、形にする。この台北の家で彼は日々、そんな思索を巡らせている。

Q: トニー・チーさんにとってのリビングとは?
A: 「使命の声をもつこと – 自分自身
    人々の声をもつこと – あなた
    土地の声をもつこと – 神」

トニー・チー
台北出身。1984年にニューヨークで「tonychi」を設立。アラン・デュカスらスターシェフによるレストランやラグジュアリー・ホテルのインテリアを手がける。日本では「アンダーズ 東京」、「オーク・ドア」(グランド ハイアット 東京)などがある。2021年にオープンする「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」では初めて住宅のインテリアを一棟担当する。

あたらしい発想と暮らす東京


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